63 映画館にて(Ⅱ)
この映画館で紫波雪風を貶める手順は至って簡単。
ポケットの中に潜ませている睡眠薬。
コレを紫波雪風がこれから買うドリンクにさっと混入させる。
上映中にこれを飲んだ紫波雪風は、映画の最中に熟睡。
無論それで映画の内容がわかるわけがなく、このあとはひとりだけ話題に置いてけぼりをくらう。
更にはボクたちの配慮を無駄にしたとして、キノからの好感度も下がる。
取り敢えずのジャブとしては、これ以上はないだろう。
この作戦の際に気をつけるべきは、席取りか。
三人で並んで取るのは確定として、出来れば紫波雪風の隣に座りたい。
さて、ここでどう発言すべきかーー。
「あの、よろしいかしら」
発券機前にて、このタイミングで紫波雪風が言葉を発した。
「
思ってもいないチャンスだ。
都合がいい。
だが、何故なのか。
「何かあるの?」
「いえ、ただそのーー隣に知らない人が座られるのがちょっと怖くて」
キノの質問に、少しバツの悪そうな返答をする紫波雪風。
それを聞いて、成る程とボクは納得した。
前世が男性であった為にわからなかった女性的な理由だった。
そうか、女性的には知らない男性とは怖いモノなのか。
まぁ、隣が男性になるとは限らないが確率的には二分の一か。
今から見るのが女児向けアニメやラブストーリーなら男性率は下がるのだろうけど、原作が推理小説のミステリーモノだ。
男女比が偏りそうな作品ではない。
だからこそ、彼女の考えは納得できる。
ただ、これはキノも気にする問題ではないのか。
その場合は、席を一番端の方に取って隣接する席にボクが座るしかないが。
「あ、そうなの。わかったわ、じゃあ私とリンちゃんが端で紫波さんは真ん中で取るね」
キノの言葉を聞いたボクはすかさず発券機のパネルを操作する。
慣れた手つきで操作し、三人分を発券する。
「何か手慣れてましたわね、映画館にはよく来られるのですか?」
「いや、今日が初めてだけど」
嘘である。
本当は事前に何重もリサーチ済みだ。
結果的に席は、スクリーンを正面に右からキノ、紫波雪風、ボクの順番となった。
ここまでは順調。
さて、それでは次の段階に移るか。
「まだ入場まで時間あるし、飲み物買いに行こうか?」