62 映画館にて(Ⅰ)
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かくして私たちは、モールに併設されている映画館へとやってきた。
この映画館は大手配給会社の配下にある映画館のようで、館内は綺麗にかつ規格的に統一された内観をしていた。
「なんかちょっと高級感ありますわね」
「キミがいう?」
そう思っちゃったんだから仕方ないじゃん。
私が知っている映画館ってのは、前世の頃にちょっと行ったことのある田舎の小さな映画館だけだったから。
「映画館には初めて来たので、ちょっとびっくりしただけですわ」
基本的に映画館なんてこない人種だったんだから。
前世のオタ活やってた時ですら、映画館は全然だ。
推しアニメの劇場版とか、2.5次元のライブビューイングとかもあったけど行けなかったタイプ。
というか、人見知りの中学生女子に一人で映画館はハードル高すぎるのよ。
暗いし閉塞感あるし、何より隣に知らない人が座るのが凄く怖い。
両脇の席も買うってやり方で回避してる大人もいるらしいけど当時の中学生のお小遣いじゃ到底無理。
そんな事情もあり、今世でもあまり映画館は好きになれず来たことはない。
苦手意識っていうのは、案外ずっと残るものらしい。
「そうなんだね。じゃあ、席を取るのも私とリンちゃんがやっておく?」
「ーーい、いえ。何事も経験ですわ」
私はそう言って月乃さんたちと共に、発券機への列に並んだ。
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映画館で映画を見る。
それは初心者向けのデートプランでは非常にオススメ出来るモノだ。
まだ打ち解けきれていない男女が面を突き合わせて長時間行動するのは、案外難しい。
しかし、映画なら暗い室内で横に座る為その必要もなく、会話だって必要ない。
つまり気まずさを感じなくて済む。
さらに、見終わった後は「今見た映画」という共通の話題が手に入り、会話が弾みやすい。
ボクはこの理論を応用することにした。
そもそもボクとキノは兎も角、紫波雪風とボクたちは付き合いの年季が違う。
いきなり三人で行動しても、共通の会話とかがあるとは限らない。
だからこそ、ボクは一回最初に映画を噛ませることでそのハードルを下げようと思ったのだ。
この意図は、多分キノにもちゃんと伝わっている。
彼女はこの日三人が集まることが決まった時から、このことを気にしていた
元に、ここへの移動中もキノは紫波雪風に割と積極的に会話を振っていたし。
ここでボクが彼女の意を汲んだプランを実行に移すことで、より彼女からの信頼を得られるというモノだ。
ーーまぁ、みすみす紫波雪風を助けるつもりもないのだけど。
紫波雪風は知っているのかな。
人間は期待を、親切を、配慮を裏切られた時に、どれだけガッカリするかってのを。