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58 決戦前夜(Ⅰ)

 ーー時は深夜。

 草木も眠る丑三つ時。


「あれ、丑三つ時であってたっけ?」


 自分で自分のモノローグに疑問を感じてしまった(わたくし)は、ぱたりとベッドから起き上がり枕元のスマホを手に取る。

 常夜灯の薄明かりのみが満ちる寝室に、白く青い光が差す。

 目に悪いその光を顔に浴びながら検索をすると、丑三つ時とは大体午前二時頃を示す言葉だということがわかった。

 スマホの画面端を見ると、そこに表示されている四つの数字は綺麗にゼロか重なっていた。


「まだまだ全然じゃない」


 丑三つ時って言うには、二時間ばかり早かったようだ。

 スマホの明かりを消して、画面を伏せて枕元に置き直す。

 そしてボフッと再びベッドに横たわり、柔らかいマッドレスに身体を埋める。

 薄暗くて見えないが、壁にかけられてる時計がチッチッと針を進める音だけがやたらと気になる。

 いい加減眠らなきゃならないのに、()()()ぱっちり。


「ーー眠れないわ」


 前世(むかし)から、遠足の前日は眠れないタイプだった。

 お兄ちゃんもそうだったから、以前はこの体質は遺伝だと思っていたけど、遺伝的繋がりがなくなった今でも()()なのだから実際は違ったのだろう。

 別に緊張しているわけじゃなーーいや、緊張は多分している。

 前世含めて約三十年ちょいの人生の中で、友達と休みの日に遊びに行くなんてイベントは初めてだ。

 これで緊張しない方がおかしい。

 だけど、どうやら自分が思っている以上に緊張しているらしい。

 いつもなら、お風呂入ってホットミルク飲んでベッドに入れば数秒で熟睡しているのに。

 今日は、ベッドに入ってもう三時間くらい経過したのに眠気の気配すらない。

 同じルーティーンが意味をなしていない。


「もういっそ、眠くなるまでの時間を有効活用すべきなのでは?」


 逆転の発想というやつだ。

 思い立ったら即時行動。

 私は布団を蹴飛ばして起き上がると、枕元のスマホの逆側に置いてあるリモコンのスイッチを押して照明を常夜灯から平時の明かりに切り替える。

 瞬時に白い光に照らされた寝室にて、スタスタとクローゼットに向かって歩き出し、それをばっと開く。


「や、やっぱり明日の服装はもう少し夏っぽい、大人っぽいヤツの方が? いやいや、まだ学生だからそれらしい年相応の? それとも悪役令嬢(キャラ)的に無駄にキラキラした感じのがーー???」


 クローゼットの中身をひっぱり出し、アレやこれやと考えてみる。

 一応寝る前に決めたはずだけど、なんだかんだまた心配になってくる。



 ーーそう明日は、滝沢月乃の誕生日。


 宿敵・遠野花鈴も含めた女子三人で遊びに行く日なのだ。

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