56 告白アフター(Ⅱ)
「明日からが真の勝負ですわよ」
「明日から?」
そう、明日からだ。
今回の告白は失敗したが、意味がなかった訳じゃない。
いや、むしろ必要な失敗だったとも言える。
「遠野花鈴が告白を断ったのは、オタクくんの存在を恋愛対象として見ていなかったのが原因だと思いますの」
「つまり、眼中になかったんですね」
「ぐふっ」
「が、眼中に、眼中にな、い? 僕、結構頑張ってた方だと思うんだけどなぁ」
「間違った努力重ねてたのね」
「かはっ!」
「宮古くーん!?」
思わず吐血したような声を出して崩れ落ちる杖助くん。
いやまぁ、恋愛に関しては結果至上主義と言うか、結果が伴わないなら意味がないのが恋愛というか。
いくら時間をかけてステ磨きしても一回選択肢ミスっただけで全部オジャンになるのが乙女ゲームというか。
申し訳ないけど、ソコは案外シビアなのだ。
「けれど、今回の告白でオタクくんが好意を抱いていると言うことが遠野花鈴に伝わった。これはつまり、遠野花鈴側は否応なくオタクくんの存在が
だからこそ、杖助くんはここからスタートなのだ。
眼中になかった、恋愛対象じゃなかった存在が、今日恋愛対象としてランクアップを果たしたのだから。
「ここから攻撃に転じるのよ、宮古杖助。そうすれば遠野花鈴を堕とせるかもしれないわ」
「そ、そうなんですかね」
顔を上げた杖助くんの表情は、言葉とは裏腹に希望の色が差してるーーように見える。
実際は夕焼けの赤で、顔色なんて分からないんだけど。
「宮古くん、私も応援するわ。一緒に頑張ろう!」
「ここまで来たら、アヤたちも協力を惜しまないっす!」
杖助くんの両脇から月乃さんとアヤメちゃんが声を掛ける。
そして私たち三人の声援を受けて、彼はようやく立ち上がる。
「が、頑張ってみます」
▽▲▽
「ーーと言うことが今日あったのよ」
その日の夜。
最早日課と化した、屋敷での作戦会議。
いや、会議というかもう報告会なんだけど。
なんかもうひと仕事終えた達成感とお風呂上がりの倦怠感で完成リラックスモードの私は、ちょっとソファーに溶けかかっていた。
「杖助くんも頑張ったけど、私もよくやった方だと自慢しますわ」
ふひー、と緩く長く息を吐きながらグデっと背もたれにもたれかかる。
私の報告を聞いたフブキは、顎に手を当ててフムと頷く。
「確かに今回はお嬢様完璧でしたね、らしくなく」
「うーん、不敬だけど今日はゆーるーすー」
フブキは小さく「ありがとうございます」と呟いて言葉を続ける。
「しかし考えましたね。宮古杖助と滝沢月乃が恋愛相談をするという密接な関係を持続させることで、ふたりの間に恋愛感情が生まれる可能性もありますし」
ーーん?
「更に宮古杖助がこれからも遠野花鈴に頻繁にアタックを続けるのなら、それ自体が彼女に対する妨害工作となりえます」
ーーんんん?
「考え得る限り、最適な結果ですね。見事です、お嬢様」
「マ、マァネ!」
ーー私そこまで考えてないよ!?