44 陰キャゲーマーと悪役令嬢(Ⅱ)
私たちは少し大回りをして、木陰に隠れる杖助くんの真後ろに回り込む。
「すぐに逃げる敵を確実にキルするには、焦る心を抑えて慎重に死角から攻めるのが鉄則なんよ」
と、以前ミオがやたらと画面が暗いゲームをしながら教えてくれていた。
だから彼女のセオリーに則り、こっそり後ろから近づいてーー。
「オタクくーん、ちょーっとこっちに来てくれるかなぁ?」
にっこり笑って、肩に手を掛ける。
何事もふぁーすといんぷれっしょん?が大事だってお兄ちゃんは言っていた。
だからこそ、出来るだけにこやかに優しく声をかける。
しかし、杖助くんは「ひっ!」っと小さな悲鳴をあげると怯えたような瞳をこちらに向けて来た。
あれれー、おかしいぞぉ?
▽▲▽
ーーという訳で空き教室へ連行してきた。
そういえばここ、以前にもモブふたりを連れ込んだ教室だ。
いつもすっからかんで使われてる形跡ないけど、なんの教室なんだろここ?
「うちの学院、歴史だけはそこそこありますからね。少子化で教室が要らなくなっただけじゃないですか?」
「成る程ね、令和の世は世知辛い」
「レイワってなんです?」
あ、間違えた。
『クワトロ・まりあ〜じゅ』は新年号発表前にシナリオ出来てあったらしく、作中の年号は平成のままだった。
その影響か、この世界では今西暦2022年だけど年号は平成のままだったり。
このまま行けば、この世界でいつか発表される新年号は令和じゃなかったりするのかな?
「まぁいいか、気にしないで」
閑話休題。
それはそれとして、今回の議題は杖助くんという新しく捕獲した新キャラだ。
やっと図鑑に新しいページが出来たようなモノ。
次はタスクこなさなきゃ。
鶺鴒学院地方図鑑のコンプは未だ遠い。
「ーーあ、あの?」
目の前で何故か正座待機している杖助くん。
今回に限っては、私は何も言ってない。
自発的な正座。
これは、何かやましいことがあるに違いない。
「さて、君に聞きたいことがある。アソコで、何していましたか?」
「そ、それは」
言い淀み、口籠る杖助くん。
これは、やましいこと確定演出ですわ。
彼が見つめる先にいたのは、間違いなく遠野花鈴。
さては、彼も遠野花鈴に何かしらの恨みがあって、報復の機会を狙っていたのか?
それなら、我々は殆ど同士だ。
仲良くなれそう。
「遠野花鈴。彼女にようがあるんだよね?」
ここで、わざと鎌をかけるように聞く。
さも「お前の考えてることなど、まるっとお見通しだ!」感を出して。
コレに対してボロを出せば、こっからさきの関係は我々有利になるはず。
自分の策士っぷりに惚れ惚れする。
「し、知ってたんですか!?」
遠野花鈴を恨んでることをな!
「私を甘く見ないことね」
「ぼ、僕が遠野さんのこと、好きだってーー」
「ーーは?」