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31 いつの間にか始まっていました(Ⅲ)

 ▽▲▽


 あの練習試合から日曜を挟んで月曜日。

 (わたくし)とアヤメちゃんは、ちょっと剣道部が心配で少し早起きをして早朝に登校をした。

 すると正門を抜けた所で掛け声が聞こえてきた。


「せきれー、ふぁい、おー!」


「「おー!」」


 一瞬陸上部とかかと思ったが、それにしては声が野太い。

 それである可能性を思いつく。

 咄嗟にアヤメちゃんの手を引いて、私たちは校舎の物影に隠れて、彼らの姿を確認することにした。


「どうしたんです?」


「しっ!」


 取り敢えず黙れとアヤメちゃんに指示を出して、様子を伺う。

 すると校門の内側を横切るようにして三人の男子生徒が走ってきた。

 ジャージ姿で走り込みをする三人の正体は、勿論モブ彦モブ雄、そして剣将くんである。


「どうやら、無事に剣道部の問題は解決できたみたいですね」


「そうね、よかったわ」


 以前の練習メニューには走り込みはなかったはずだから、改めてメニューを再構成したのだろう。

 それは、剣将くんだけじゃなくモブたちも部活に対しての気持ちが前向きになったことを表している気がした。

 自分たちよりン弱い剣将くんが一番頑張っているのだから、自分たちも頑張ろうと発起してくれたのかもしれない。


「どちらにしよ、これで約束は終わり! もう手伝いに行かなくて良さそうですね」


「そうね、ちょっと寂しい気はするけど」


 普代剣将くんと月乃さんというふたりの推しに会いにいく口実がなくなってしまったのだから。

 特にない最後の方は何故か色んな偶然が重なって行けなかったりしたから殊更。

 ーー確証はないけど、アレは絶対遠野花鈴のせいだ。

 絶対そうだ。


 それはそうと、そんな話をしていたら新しい人影が近づいてきた。

 噂をすればなんとやら、その正体は月乃さんだった。

 何故か彼女もこの時間に登校してきたらしい。

 早速、走り込み中の剣道部一行とばったりと出会った。

 すると。


「「っはよーございますツキノの姉御!!!!」」


 ーーと離れて様子を見ている私たちにもハッキリわかる声量でモブたちが月乃さん相手に挨拶をした。

 腰を90度曲げた、完璧な礼も込みで。


「ユキちゃん様、アレは何っすかね?」


 そのある種異様な光景を見て若干引き気味でアヤメちゃんは言う。


「実はあの後、モブふたりに『フブキは私の手下だけど、私に命令したのは剣道部臨時マネの滝沢月乃と言う人。フブキですらあの方には敵わない、裏社会の首領(どん)』みたいなこと吹き込んだのよね」


「なんで!?」


「いや、アヤメちゃんが言ったでしょ『月乃さんに解決させよう』って。こう言えば、そういうことに辻褄が合うかと思って」


 これで、手柄は全部月乃さんのモノになったはずだ!

 ーーなったはずだよね?

 負債を押し付けただけにはなってないよね?

 校門前でそんな三人と少し話した後、彼女はこちらに向かって歩いてきた。

 取り敢えず、顔を合わせれば話をするくらいには月乃さんと剣将くんの仲は進展しているっぽい。

 これはこれで、今回頑張った甲斐があったと思えた。


「おはようございますわ、月乃さん」


 校舎に入った月乃さんに対し、私は朝の挨拶をする。

 今回の一件で、多分私と彼女の仲も少しは良くなったのでは?

 そう思って、気軽に挨拶をしてみた。

 ーーしかし。


「ーーお、おはよう紫波さん!? じゃ、じゃあね!!」


 声を裏返らせて、何故か足早に去っていく月乃さん。

 その後ろ姿を茫然と眺めて、私はこう思った。


「ーーあれ?」


 なんか、嫌われた?


 ▽▲▽


 ど、どうしよう(わたし)


 あ、あの時。

 飛んできた竹刀から庇ってもらった、助けてくれたあの日から!

 なんか、紫波さんのことを考えると胸が痛い。

 心臓の鼓動が激しくなって、顔が熱くなる。

 なんで、なにが起こってるの?

 紫波さんのこと、もしかして好きになっちゃったの?


 でも私たち、女の子同士なのに!?












 百合(つきの)TS(かりん)悪役令嬢(ゆきかぜ)

 ……… To Be Continued.

次から第二章!

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