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29 再戦の行方(Ⅵ)

 ▽▲▽


「キノ! 大丈夫だった!?」


 飛んだ竹刀がキノに命中しかけた。

 しかし、寸前のところで彼女を助けたのはボクじゃない。

 紫波雪風だ。

 味方であるはずの、ボクじゃない。

 なんで悪役令嬢(あいつ)主人公(キノ)を助けて、親友(ボク)がその危機を作ったんだ。

 この事実にボクは酷く動揺した。

 だからこそ、みんなが動き出したタイミングで一緒に動き、キノに駆け寄ってそう声を掛けた。

 動揺を必死に抑えて、演技して。


「う、うん大丈夫だよ。びっくりしただけ、安心して?」


 少し俯きながら答えた彼女に対して、ボクは何も言えなかった。

 彼女を守る為、彼女の為にやったことが結果的に裏目に出た。

 その事実に、ボクは唇をギュッと噛み締めた。


 ▽▲▽


 そして中堅戦は、結局モブ雄の勝ちとなった。

 正確には、相手の失格でなのだけれど。

 これによって、団体戦は一勝一敗。

 勝負の結末は、最後の大将戦へ。


「おっしゃ行くぜ!」


 気合いの入った様子の剣将くんが、意気揚々と対戦相手と向かい合った。

 ーーで、それを私は白けた顔をしながら眺めていた。


「何故そんな顔してるんですかユキちゃん様? 大将戦ですよ! クライマックスですよ! テンションあがりません?」


 テンション上がっているのか、シュッシュっと腕を交互に繰り出し無駄にシャドーボクシングしだすアヤメちゃん。


「正直、剣将くんが出てきた時点で勝敗は決まりきってるから」


 所謂、「つまらん。奴を戦場に出したら一方的に勝つに決まっている」という奴だ。

 既に結末の見えてる消化試合だ。


「やっぱ普代さんめっちゃ強いんですね」


 ーーん?


「誰が、なんだって?」


「いや、だから普代さん。なんか噂で『剣道部の普代剣将はヤバい』って聞いたから」


 あー、なるほど。

 そういうことか。

 まぁ、確かに普通なら大将戦って一番強い者同士で戦うって認識あるからね。


「アヤメちゃん、じゃあちゃんと見てみてね」


 これから始まる彼の試合を見るように促してみる。


「ソレってどういうーー?」


 ーーアヤメちゃんが、話す為私の方を向いたのは僅か数秒。

 試合前数秒目を離した。

 そして、試合開始の合図を聞いて視線を戻すのに1〜2秒。

 彼女が視線を試合に戻した瞬間、カランとした音が武道館に響いた。


「え!?」


 それは自分の竹刀で相手の竹刀を巻き上げて、それを落とさせるという剣道の技。

 無論、竹刀を落とせば失格なので実質一撃必殺だ。

 ただし、あくまで決まれば。

 普通、そんな事は起こり得ない。

 あるとするなら、両者の実力が天と地ほど離れている時のみ。

 まぁ、結論を単刀直入に話そう。


 たった今、剣将くんは竹刀を巻き上げられて敗北しました。


「剣将くんって、()()()()()()()()のよねぇ」

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