28 再戦の行方(Ⅴ)
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「ーーキノ!?」
遠野花鈴の叫びが聞こえるより一瞬前に、私は動きだしていた。
元々、嫌な予感自体はあった。
目に怪しい光を宿して試合を見つめる遠野花鈴。
急に挙動がおかしくなった相手高の選手。
そう言えば不自然に多かった彼女の荷物。
何をやっているかはわかりませんが、
そう思い付くのに時間はかかりませんでした。
何かわからないけど、何か起こっている。
それならば、
そんな確証はないけど確信はあった。
だから何かが起こった時に、すぐに動けるように身構えていました。
そして、ついにそれが起こります。
相手のがむしゃらで冷静さを欠いた攻撃と、ギリギリでそれを防御するモブ雄。
少し何かを焦っているような遠野花鈴の様子。
強い一撃を決める為、助走をつける為に半歩下がった相手とそれを見て何か喜んだ風の遠野花鈴。
ーー直感的に、何か起こるなら今だと思った。
瞬間、相手の手から竹刀がすり抜ける。
その竹刀は勢いよく飛び、その先には月乃さんが。
私は即座に走り出した。
多分、一言でも何か言ってしまったら間に合わない。
そんなギリギリのタイミング。
遠野花鈴の叫びを背に、座り姿勢から滑るように走り出し、そのまま月乃さんを押し倒すように庇った。
座高が変わったことで、さっきまで月乃さんの頭があっただろう位置を竹刀がしゅっと通り過ぎて壁に当たって跳ね返る。
跳ねた竹刀のカシャンという華奢な音を聞いて、ようやくなんとかなったと、私は内心胸を撫で下ろした。
ここでようやく気がつく。
意図せず押し倒した構図になってしまった月乃さんの顔が近い。
相変わらず綺麗な顔をした月乃さん。
彼女を下にして覆い被さってしまったようなこの状況に、私は今更ながらドギマギしてしまった。
は、早く退かなければ!
そう思ったが、何故か今更少し腰が引けてしまったのか上手く動けない。
何も喋らないままこうしているのは、なんか変に思われないかしら!?
な、何か!
何か喋らなければ!
「ーーせっかくの綺麗な顔に、傷がつかなくて良かったですわね」
ようやく絞り出した言葉は、多分前世でやった別ゲーの主人公のセリフだったか。
そしてワンテンポ遅れて、周囲の人たちが騒ぎ出す。
その喧騒でようやく引けた腰が戻ったのか、すっと彼女の上から退くことが出来た。
月乃さんにかけよる人たちとは逆に彼女から離れて、元の場所に戻った私を見て、アヤメちゃんは心配そうに声をかけてきた。
「ユキちゃん様、顔ぶつけちゃいましたか!?」
「私は大丈夫よ」
「でも、
ーーうるさい、私は大丈夫よ。