19 馬鹿と主人公補正は使い用(Ⅱ)
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「おーい、キノー!」
夕方。
剣道部のマネージャー業が終わって武道館から出てきたばかりのキノを待ち伏せして、ちょうど今来た風を装って接触する。
声に振り返った彼女は、ボクの姿を見ると、かわいらしく少し頬を膨らませた。
「もう、リンちゃん! なんで今日来なかったの!」
「あーごめん! ちょっと
嘘である。
物理学の源道ケビン先生、濡れ衣を着せて申し訳ない。
そんな風に心の中だけで静かに謝罪をする。
「もー! それならしょうがないけどさ!」
「ごめん! 今度ファストフードかなんか奢るよ」
そんなことを言った途端、彼女の瞳がキラッと光った気がした。
「じゃあさ、今度のお休みの日にどっか遊びに行こうよ! その時のお昼奢って?」
なんか、予想外のお誘いが来たな。
ボクとしては、いつか放課後に寄るくらいのを考えていたんだけれど。
そんなことを考査していたら、彼女の顔が少し曇った。
「ダメ、かな?」
「いや全然! むしろ誘ってくれて嬉しいよ!」
「よかったぁ! なんか最近避けられているような予感がしてて、気のせいでよかった」
反射的にあぁ答えたけど、別に本心じゃない訳でもない。
親友であるキノと遊びに行くことが、嫌なはずがない。
ただ、ボクが自分の前世を自覚して以降、
キノをちゃんとハッピーエンドまで導く為の情報収集を土日にも頑張っていたというのもある。
しかし、一番の理由はボクの中身が男性であったからだ。
キノはボクを女の子として、同性の友人として見てくれているのに、実際の内面は男子高校生だ。
ーーいや、生前で18歳、今世で15歳なのだから精神年齢は実質33歳。
つまり、おっさんだ。
キノが女子高生だと思って接しているボクの正体がおっさん。
ーーこれは、流石にキノが可哀そうだし、ボク自身も申し訳なさが凄い。
罪悪感でつぶれそうだ。
なんか普通に女子高生ムーブかましてることすら、犯罪感がしてくる。
だから、あまり彼女と休日に出かけなくなったのだ。
ーーあっと、いかんいかん。
危うく本題を忘れるところだった。
「キノ、ちょっと頼みがあるんだけど」
ボクはそう言って、バッグから一枚のクリアファイルを取り出す。
その中に挟まっているのは、三枚のプリントだ。
「紫波雪風のクラスの人に頼まれてさ。 彼女、明日提出のプリントを机に忘れたまま帰ったみたいで届けてほしいって」
嘘である。
これは、紫波雪風と同じクラスの知り合いに貸してもらい、さっきコピーした
れっきとした捏造したプリントである。
そしてこれをーー。
「実はまだ源道先生の頼まれ事まだ途中でさ、ボクの代わりに彼女に届けてもらいたいんだ」
あ、ちなみに彼女の家の住所はメールで送っておいた、と付け足す。
紫波雪風の住所は、もうとっくの昔に調べてあったし。
「え、うん。いいけど」
キノはそう言ってプリントの入ったクリアファイルを受け取る。
そして最後に、ボクはキノにこう言い加えた。
「彼女の家ってすごく大きいらしいね。行ったらついでに、