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11 食い違う思惑

 ▽▲▽


「な、なんでここにいるんだ紫波雪風ぇぇええええ!?」


「それはこっちのセリフよ、遠野花鈴ンンんんんん!?」


「いや、息ぴったりかよ。仲良しかよ」


 呆れ声のアヤメちゃん。

 べ、別に息ぴったりとかじゃないし!

 遠野花鈴なんかと仲良くなんてないし!

 私と遠野花鈴がガルルルゥと散歩中に宿敵とエンカウントしたブルドックみたいに互いを牽制し合っていると。


「あ、もしかして雪風さんも臨時マネージャー?」


 遠野花鈴の隣にいた月乃さんが、私にそう声をかけてきた。

 ーーマネージャー? 臨時???


「月乃さん、それってなんnーーむぐっ!」


「ちょ、一旦黙れっ! な、何でもないよキノ」


 突然、遠野花鈴が私の口を両手で塞ぎ文字通り口止めする。

 ーーがぶっ。


「いっ痛ってぇ!? なにするんだ!」


「それを言うなら此方ですわ! いきなり人の口を塞ぐだなんてはしたないですわよ。 お門が知れますわね、遠野花鈴!」


「人の手に噛みつく奴に言われたくないわ! お前、お嬢様だろ一応!」


 私と遠野花鈴。

 やはり相性は最悪。

 いっそのこと、ここで武力をもって雌雄を決する他ないのでは。

 そう思った私は、紫波家一子相伝 (にこれからする予定)の武術・(デス)()()神拳の構えを取る。

 私の構えを見て、対する彼女もまた謎の構えを取り、相対する。

 まさに一触即発!

 次に私たちのどちらかが動いたその時、どちらかが死ぬであろう (きっと)。

 緊迫した空気が、武道館を支配する。

 ーー次の瞬間!


「ーーえ、いや、これどんな状況???」


 今回の事件の中心である剣将くんが、最もなツッコミと共に到着。

 一旦、この諍いは中断(きゅうせん)されたのであった。


 ▽▲▽


「まったく、何しているんですかねアヤが遣えるゴシュジンサマは」


「いやぁ、なんかこう、ノリで?」


 あの後、主人公(あちら)(サイド)の事情も分かり、一時協力して剣将くんーーというか剣道部のサポートをすることになった。

 現在は二手に分かれて掃除中。

 月乃さん、剣将くん、遠野花鈴の三人は武道館で拭き掃除。

 私とアヤメちゃんは、拭き掃除に入る前に掃いて出たゴミを纏めて学院のゴミ捨て場まで運んでいる最中。

 ひとり一個ゴミ箱を抱えながら放課後の廊下を歩いていた。


「まぁ、ユキちゃん様が怒るのもちょっとわかりますけどね」


 歩きながら話していて、アヤメちゃんはそんなことを言い出した。


「せっかくコッチが先に、普代くんと接触して仲良くなろうとしたのに失敗しちゃったんですから」


 ーーん?

 待って、アヤメちゃん何を言っているの?


「え、何のこと?」


「その主人公?である滝沢さんより先に普代くんと仲良くなってしまおう!って感じの作戦だったんですよね?」


 その瞬間。

 思わず私は、持っていたゴミ箱をガタッと落とした。


「どうしたんですユキちゃーー」


「ーー違うよアヤメちゃん」


 驚いて振り返ったアヤメちゃん。

 その両肩をがっしりと掴み、ぐっと顔を寄せる。

 そして私は、何もわかっていない彼女に対し、しっかりと説明する。


「私は別に剣将くんと付き合いたいわけじゃないから乙女ゲームのイケメンキャラと実際に出会えたら付き合いたいって思う娘も世の中にはきっと多いとは思うよけど私はそういうタイプじゃないからだってそうしたら月乃さんどうなるの私が剣将くんと万が一付き合っちゃったら月乃さんが剣将くんと付き合えないじゃないそれって実質略奪愛だよねNTRだよねそれはダメだよねアヤメちゃん私は剣将くんも好きだけど月乃さんも大好きだよ月乃さんにも幸せになってほしいから遠野花鈴を打倒しようって話になってたハズなんだけどなんでアヤメちゃんわかってないかな私は私が好きな人全員幸せになってもらいたいのよわかるかな壁になりたい系のオタクなのよ推しと推しが付き合って幸せになるのは是非見たいのそれなのに私が自分でその可能性をつぶしに行くのは違わないかなわかるよねアヤメちゃんわかってくれるよねアヤメちゃん?」


「ーーご、ごめんなさい。ちゃ、ちゃんとわかりました」


 どうやら悲しい誤解というか食い違いが発生していたみたいなんだけど、無事に解けたみたい。

 よかった、よかった。



 ーーけど、なんでアヤメちゃんちょっと震えてるんだろう?

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