10 悪役令嬢は察しが悪い
▽▲▽
「俺以外、全員ボイコットしてんだわ」
「「ーーえぇ?」」
剣将くんの衝撃カミングアウトに
私たちは同時に同じような声こそ上げはしたものの、理由はたぶん違う。
アヤメちゃんの方は「何いきなり素っ頓狂なこと言ってんだ!?」的な意味合いだろう。
しかし私が困惑したのは、別な理由だ。
--こんなイベント、あったっけ?
剣将くんというか、キャラクター・普代剣将は剣道部所属の仲間思いの熱血漢であり、原作では部内をはじめ多くのキャラクターたちと交流や関係性を持っていた。
必然的に彼が関わるイベント数も他の攻略対象より若干多い。
そのイベントのどれもが、彼の人徳というかコミュ強っぷりが発揮された交友関係が多い故のモノが大半だ。
だからこそ、彼に関するイベントにこんな内容のモノはなかったハズ。
こんな、仲間から捨てられる的なイベントなんて。
「ーーここで会ったのも何かの縁ですし、何があったか教えてくださりませんか?」
迷うことなく、私は彼にそう問いかけた。
これは別に打算はない。
ただ純粋に剣将くんが困っているようだったから。
もしかしたら、原作知識という強力な武器を持つ私なら、彼の悩みを解決できるのではないかと思ったから。
私は、そう聞いたのだ。
「いや、話は結構単純なんだよ」
彼は少しバツが悪そうに、話始めた。
「この前、近くの高校の剣道部と練習試合があってな。その試合で俺たちがボロッボロに負けちまってな」
「ボロボロに」
「完膚なきまでに、ともいう」
腕組みをして、険しい表情で彼はうなずきながら話した。
その敗北の思い出は、彼自身もかなり悔しく思っているんだろうことがその表情からうかがえた。
「それで先輩方が心折れてしまったらしいんだ。以来、誰も部活に来なくなっちまった」
「え、たったそれぐらいのことで?」
アヤメちゃんが、率直な意見を口にする。
「そう思われるのも仕方ねぇけど、先輩方も
そう言って情けない先輩方の肩をもつ剣将くん。
ーーん?
「今、先輩方が初めて試合したっていいました?」
「あぁ、実は剣道部って去年は人数不足で愛好会止まりだったんだよ。で、今年俺が入ってようやく部に昇格。この学院って数年前まで女子高だったから、こういう如何にも男子!って感じの部活少ないんだよ」
剣将くんにそういわれて、確かにそういう設定あったなって私は思い出した。
共学なのに、心なしか男子が少ないように感じたのはそのせいだったか。
「いや、ただ単にちょっとショックがデカかっただけだと思うから、すぐに先輩方も復帰すると思うんだよな。けど、部活で武道館使わせてもらう条件が朝夕の掃除だったから最近手が足りてなくて、練習時間があンま取れねぇンだよ」
そういって剣将くんは、「どうしたものか」と悩まし気に首を傾ける。
ここまで話を聞いて、このイベントの正体に私は気が付いた。
というか、たぶんイベントですらなかった。
確か原作で
これはすなわち、原作で語られていないバックストーリーというか、あのイベントへの前振り的なのなのだろう!
じゃあ、この件に関しては変に心配しなくても先輩方はすぐ戻ってくる。
だって原作では、そうだったハズだから。
「よかったら、先輩方がお戻りになるまでアヤたちが手伝いましょうか」
「あ!?」
「え、ちょっと」
そこで思わぬ言葉がアヤメちゃんから飛び出た。
「ここで知り合ったのも何かの縁ですって。ねぇ、ユキちゃん様?」
私に話を振ったアヤメちゃんは、何故か無意味にウインクを連発している。
この私に、何かを察せと言っているようだ。
ーー何を察せというのだろう?
自分で言うのもなんだが、私は察しの悪さには一家言あるぞ。
前世でも、お兄ちゃんを何度あきれさせたことか。
まぁ、自分で言うのもなんだから言わないけど!
察しが良い振りして、適当にうなずくことにした。
「あー、ありがてぇけどなぁーーいや、ここで親切を断るのも無粋か」
そうして、私たちは剣道部の先輩方が戻るまでの間だけ、剣将くんを手伝うことになった。
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そして放課後。
「たのもー!」
「ユキちゃん様、頼もうは違うと思いますよ」
早速剣将くんを手伝いに武道館へ来た私たち。
しかし、武道館には誰もいなかった。
「早く来すぎたっぽいですね、どーします?」
「どーしよっか、アヤメちゃん」
手持無沙汰であるから、なんか適当な引き出しでも開けて暇つぶししようかな。
中に入ってそんなことを考えていたら、また後ろで戸が引かれる音がした。
今度こそ剣将くんが来たのかなって思い振り向く。
ーーしかし、そこにいたのは。
「な、なんでここにいるんだ紫波雪風ぇぇええええ!?」
「それはこっちのセリフよ、遠野花鈴ンンんんんん!?」
予想外の
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