3期後期組デビュー
1期生後半組が徐々に3Dお披露目配信を続けていた。俺としてはもうほとんど手を離れた案件なので純粋に1リスナーとして楽しませてもらっている。宗馬先輩のお披露目はKP7先輩が後輩男子としては担当なので俺の出番はなし。
一人配信をしたり、宗馬先輩の告知のためにコラボ配信をしたりしたけど、それ以外はほとんど一人で配信をしていた。そして今日は新人である3期後半組のデビュー日なので夜配信は休ませてもらった。こういうデビュー配信の時は配信を避けるように自然と調整している。
今回は2人の女性。チェリー・心さんと但馬火乃香さん。チェリーさんは桜の精霊のようで色白かつ桜色の髪をしたおっとりとした女性だ。樹でできた杖を持っていたり、髪留めとして葉桜と桜の花びらのピンを使っていたりと、桜を全面に押し出している。
但馬さんは鬼とのハーフのようで赤髪を伸ばして額から角を生やした異形の姿。和服で固めて武器としてとても大きな金棒を持っていて、イメージカラーとしては紫の女性だ。それと2人ともスタイルが良いのでそこもファン的には好評だったようだ。
3期生が全員異形となり、テーマ的にも人間じゃない存在として統一されていた。
俺の配信でコメントをしていたので2人ともスパナを付けたし、SNSなどでも差し障りない対応はしてある。無視して炎上、みたいなことにはなっていない。俺的には炎上しそうなことはどちらかというと水瀬さんにパパ呼びされていることの方なので、新人女性2人とちょっと絡んだくらいでは燃えたりしない。
俺も作業をしながら初配信を見守っていた。最初はチェリーさんから。序盤は見た目通りおっとりした緩い会話の速度で自己紹介をしていたのだが、配信から30分ほど経った頃に彼女の箍が緩んだ。
その本性を知らなかったので、俺としても作業用の手が止まってしまった。
「私ぃ〜、どんなジャンルでもちょっとエッチな本が好きでぇ!最近の一般漫画も素晴らしいですよねえ、もうほぼ隠れていないのですから!世の中どんどんエッチになるべきだと思うんですぅ!私ぃ同人誌とか大好きで、商業誌も大好きで基本的にどんなジャンルでもイケます‼︎エクリプスの先輩方のエッチな絵も保存させてもらっていますし、ゲームとかも嗜んでいてぇ!ユメリア先輩にもskbの依頼をしたいと思っております‼︎」
『本性を出したわね』
『特大のヤベー奴やん……』
『てんてえ逃げて!』
『これからコラボしたりする事務所の先輩たちの叡智な絵を集めてるって正気か……?』
『一瞬でキャラ崩壊したんじゃが?おしとやかなポヤポヤお姉さんはどこに?』
これはブランディング的に大丈夫なんだろうか。その後も配信は見守っていたが、なんというか最後まで肌色な話をずっと続けていた。センシティブな話題をし続けてしまうと不適切な配信だったと動画サイト側にBANされてしまう可能性もある。
だからVtuberは切り札みたいな感じで下ネタを使う。エクリプスの女性陣が特にそういう話がダメな人が多いので男子だけの集まりくらいじゃないとそもそも話題に出さない。
それくらいリスクのある話だ。
チェリーさんは出版社を通して好きな作家さんに名前を出すことを許可までもらって好きな作家さんの名前を出していた。そういうやり取りを会社同士でしていたということは事務所公認なんだろうけど、なんというかそこまで許してしまうのは凄い。
次に配信をする唯一の同期である但馬さんへ同情のコメントも多かったが、そのもう1人もまともな訳がなかった。同期の相性を事務所側が考えていないはずがない。
問題児のペアは、問題児だ。
多分この2人と一緒にデビューできるような人が応募者にいなかったから2人でのデビューなんだろう。
但馬さんは鬼らしくお酒が好きという話をして、初っ端から缶チューハイを開けて配信をしていた。「カシュッ!」という音まで配信に乗っていたから間違いないだろう。
そして彼女も、俺たちにとってはまずい発言をした。
「わっち、CP厨で、先輩方の絡みがもうたまらんくて!コウスケさんとドロッセル様のケンカップルも、宗方さんとネムリアママの母息子ップルも、2期後期組と3期前半組の男1女2のやきもきカップルもぜーんぶ大大大好き!あの絶妙の距離感ヤバない⁉︎同じ空気吸えるだけでドンブリご飯8杯は行けるわー!」
『だから先輩方なんだって!但馬もチェリーも!』
『それ、本人たちを前に言うなよ……』
『あかん。コウスケとドロッセルはそういうもんだって思われてるけど、他の6人が燃えるぅ!』
『同士がライバーにもいてくれて嬉しいです!』
『宗方とネムリアはシンプルに炎上から除外されてるの笑う』
『あの2人はなんかそういうのじゃない』
『良い時代になったよな。男女平等に燃えるんだから。昔なんて恋愛ネタだと男子ばっかり燃やされてたのに。あったかいナリぃ……』
『↑炎上で暖取っている奴いて草』
『2期後期組はバカ仲間、3期前半組は兄妹というか家族感がマシマシだから今更恋愛ネタで燃えるとは思わないけどさあ……』
こっちはこっちで身内の恋愛ネタバッチコイ、かあ。オーフェリア先輩は恋バナが好きだからこそ女子に質問をしてもリスナーに餌を与えるだけだったので問題なしとされていたけど、明確に恋愛関係だと見做すのは話が違うと言いたいのだろう。
どれだけいるかわからないけど、ガチ恋勢というのは誰にでもいるのだから。
新人2人とも配信を終わって、ライバー全員のチャットにごめんなさいというメッセージが流れる。
今回の件で俺たちが炎上するかと言われたら微妙だろう。それよりも配信をした2人にお気持ちメッセージがたくさん届きそうだ。
来月には2人とコラボ配信する予定なんだけど。その時には色々と収まってる、だろうか。
明日の朝配信でちょっと触れるとするか。
今日は配信を休んだんだし、チェックするものを終わらせないと。
他社とのコラボ。ある楽曲の最終チェック。だいぶ先の案件について。
チェックすること自体は簡単だったので問題なしで事務所へ返信を送る。
明日の朝の雑談配信のネタも集め終わって、早目に寝ていつも通り朝の6時から配信を始めた。
「おはようございます。エクリプス3期前半組、絹田狸々です。前半組と昨日の夜から付くことになりましたけど、慣れませんね。今まではスパッと言えたんですけど」
『リリおはよー』
『昨日は大丈夫だった?』
『貰い事故だけど、そこまで悪評は出てなかったっぽいのは幸いか』
『FORは今までのアピールが効いてるんだろうな。今更CP厨とか言われても別にって感じ』
『FORのてえてえをそんな安易な言葉で片付けるんじゃねえ!』
『FOR過激派も沸いてます』
おお。アンチコメントみたいなものは特に目に入らない。
もう4ヶ月も配信をしていたらリスナーも理解しているんだろう。
あとは悪意のある切り抜きとか、アンチまとめスレとかが浮上してこなければ大丈夫そうだ。
今日は『ソラソラ』の周回をしつつ雑談配信をしていく。周回クエストをこなしながら雑談をするのもすっかり慣れたものだ。『ソラソラ』も最近新章が配信されたので裏で攻略をしたりしている。配信ガイドラインでメインストーリーは限られた章しか配信できないので、俺は裏でやってしまった。
『リリ、新章クリアした?』
「しましたよ。火山島の冒険も楽しませてもらいました。ネタバレとかは言えないので、僕から言えるのは皆も『ソラソラ』やろう、ですね」
『ストーリーが良いよな』
『戦闘もそこまで難しくないし。上級者向けのクエストは隔離されてるから普通に楽しむ分には課金が必要ないのが良い』
『まあ、ストーリーに泣かされて課金させられるんだけどな!』
なんというか、こんなに良いストーリーを見させてくれてありがとうと思うと課金したくなってしまうのだ。ストーリーで殴ってくるゲームは良作だと思う。イベントとメインストーリーの更新毎に課金をしていたらお金が追いつかない。
新人についてどう思うみたいなコメントもあったために流石に触れる。
「新人の2人にはありのままの自分を出して配信をしてほしいですね。ガチガチに設定を固めて、こうしなくちゃって制限をかけていたらせっかくの個性が潰れちゃうと思うので。守るべきことさえ守ってくれたら何をしても良いと思いますよ。僕の名前を出してくれたら僕に興味を持ってくれる人も増えるかもしれませんし」
『あー、ね。ガチガチになったら口回らんもん』
『もしかして:霜月さん?』
『どいつもこいつも懐が深いぜ。昨日の夜の配信で気にしないって先輩ばっかりだったし』
『人間、どこかおかしくないとやってけないのよ。だからリリも弱点教えろ』
売名行為になるのかもしれないけど、リスクもあるからプラマイはゼロになると思う。だから名前を出してくれとも、出さないでくれとも言わない。
それと、やっぱり鋭いリスナーもいるなあ。霜月さんのようになってほしくないからあんまり自分を消し過ぎないでほしい。いつか絶対ボロが出るんだから。
周回クエストもそこそこに終わらせて、今日の大本命の発表だ。
このために雑談配信にしたんだから。
『ソラソラ』の画面を閉じて自分のホーム絵に変える。その変更の理由がわからないようで困惑するコメントが流れるが、俺はそのまま画像を用意する。
いやあ、流石にこれは自慢したくなる。画面に画像を表示させるのと同時に発表する。画像は色々とバレちゃいけない情報は黒枠で加工済みだ。
「というわけでドン!オリンピックの野球決勝戦のチケット、当たりました!」
『おおおおおおおおお⁉︎』
『おめでとう!』
『決勝とかあちー!』
『日本が残るかわからないけど、決勝が確保できたのは羨ましい!』
『日本の試合を見るなら1次リーグなんだよなあ。当たるかどうかは別問題です』
今回は日本開催のオリンピックだから倍率がヤバかっただろうけどなんとか確保できた。これで現地で萩風さんの活躍を見られる。
そのままオリンピック期間は日本の試合を全部同時視聴する配信を実施することを発表。案件とかはなるべく入れないでもらった。
その時期に案件配信をしたってオリンピックに注目が集まってそんなに良いPRにならないだろうし。
リスナーたちも抽選結果が出たようで当たった人は少なかった。分母の問題でもあるんだろうけど、やっぱりこういうのは運もあるだろう。転売ヤーが早速チケットをフリマアプリに出品しているのを確認した。
以前作成した日本代表チームの観戦試合はオリンピック直前にすることにした。
「あ、もう1つ報告です。レインボードロップスの仔鹿ショームさんと21日にコラボをします。オフコラボでウィザーズ&モンスターズの新弾パック剥きです」
『オーちゃんがもらってた景品が入ってるパック!』
『とうとう他箱コラボか。仔鹿なら、まあ』
『そっか。もうすぐ発売か』
『パック剥くならオフコラボだよなあ』
ゲーム大会の時に知り合った仔鹿さんと一緒にパック剥きをする。向こうの事務所にお邪魔して、相手の配信にゲストとして出る形だ。
どんな新規カードが出るのか、楽しみだ。流石に限定500枚のカードは出ないだろう。