前へ次へ
48/55

ポケクリクリア耐久・3

 結局、わたしと夏希ちゃんは朝の5時過ぎまで、ライブ配信可能時間ギリギリまで配信していたことになる。起きてからお風呂とご飯にすることにして、まずは睡眠。

 わたしはこういう長時間配信に慣れているから割と大丈夫な方だけど、夏希ちゃんは大丈夫だろうか。楽しそうな声は聞こえてきたから大丈夫だと思うけど。

 そんなことを考えながら寝て、アラームは12時に仕掛けた。そこからお風呂やご飯を食べてもお昼には配信ができる。


 それにしても、リリくんは凄いなあ。変なルートを開拓してバズってたみたいだし。リリくんを見に来た人が導線となってわたしと夏希ちゃんの配信にも顔を出す人が多かった。そのおかげもあって同接数はかなり良い配信だったと思う。

 リリくんは無理せずに早めに休んでいた。朝型の人だからあまり深夜までやるのは辛いんだと思う。

 しっかりと寝て、アラームで起きてお風呂の準備をする。夏希ちゃんが起きる前にお風呂に入っちゃっても良いかもしれない。そう考えているとスマホが振動した。相手は、リリくん?


「おはよう。どうしたの?」


「おはようございます。一応モーニングコールですね。お昼ですけど。寝過ごしたくないって言ってたのでかけました」


「ふふ、ありがとう。そのまま夏希ちゃんも起こしてくれる?」


 律儀だなあ。あと低音ボイスが堪らない。電話越しとはいえすっごく良い声。目も覚めるよ。

 夏希ちゃんの部屋に入ると、布団の中でまだ眠っていた。なのでスマホを夏希ちゃんの耳元に当てる。


「水瀬さん。おはよう」


「ん〜〜〜〜?パパァ?」


「いやほんと、パパは勘弁して……。もう12時半だよ。ポケクリをやる時間がなくなっちゃう」


「ああ、配信!」


 眠気まなこだったのに飛び上がる夏希ちゃん。ガバァ!と起き上がったからまるで漫画のよう、なんて感想を抱いてしまった。

 寝癖とかあるけど、それでも美少女だなんて反則だなあ。これが現役高校生。


「リリちゃん、ありがと!エリーもおはよう!」


「はい、おはよう。もうすぐお風呂できるけど先に入る?ご飯は配達を頼もうかと思ってるけど」


「あ、じゃあ先にもらって良い?頭スッキリさせたい」


 夏希ちゃんがお風呂に入る準備を始めていく。その間にわたしはリリくんへのお礼を言う。


「リリくん。モーニングコールありがとう。それに随分暴れたねえ?進捗には問題ない?」


「大丈夫ですよ。今進めてますけど、バッジは4つ。ライバルも2回倒して悪の組織ルートも1と2を終わらせましたから」


「あれ?だいぶ進んでない?ってことは今配信中?」


「そうですね。9時過ぎに再開してるので。あ、この音声は配信に載ってないから大丈夫ですよ。お昼ご飯の用意してるって言って離席してるので」


 となるともう3時間くらい配信してるのか。このままだとリリくんが一番早くクリアしちゃいそうだな。プレイ時間って意味だと同じくらいのはずなのに、わたしたちは悪の組織ルートがまだあまり進んでいないから。

 悪の組織ルートが3ルートの中で一番相手のレベルが高いんだよね。そのせいでしっかりとレベル上げをするくらいなら他のルートを進めたり、行ったことのないエリアに行って野良のブリーダーと戦ったり新しいポケクリを捕まえて経験値を稼ぐ方が良い。


 あと、悪の組織ルートは序盤の街の方へ戻らなくちゃいけないっていうのもネックだと思う。新エリアに行きたいのにわざわざファストトラベルを使って序盤の方の街に戻って探索、というのが面倒さへの拍車を掛けている。

 そんな場所に配置しちゃったせいで、リリくんのようにゲームを始めて間もないプレイヤーが殴り込みに行っちゃうんだけど。


「配信中なら邪魔しちゃダメだね。また配信で」


「はい。失礼します」


 電話が切れる。

 寝起きから好きな人の声を聞けたこともあって気分良くいろいろな準備をしていたら、お風呂から上がった夏希ちゃんからジト目で見つめられていた。


「エリーって本当にリリちゃんが好きだよね。いや、良いよ?お似合いだと思うし、リリちゃんカッコいいし」


「はっ!もしかして夏希ちゃんもリリくんのこと狙ってるの⁉︎そうだよね、あんなカッコ良かったら高校生の夏希ちゃんが好きになっちゃっても仕方がないよね!大人の色香があるっていうか……!」


「違う違う!流石に同期同士で好きな人奪い合ったりしないよ⁉︎その相手も同期って気まず過ぎるし!……そんなに好き好きオーラ出してたら配信とか事務所で好きって気持ちを抑えるのが大変じゃない?って思っただけで」


 よ、良かったぁ。夏希ちゃんがリリくんを狙ってなくて。そうなったらわたしに勝ち目なんてないもん。

 好きな気持ちを隠すのが大変じゃないか、かあ。


「いや、本当にすっごく大変で。配信で声聞いてるだけでそっちに集中しちゃうし、良いところまた見付けちゃうし。ちょっとした気配りとかが良いなあって思うんだけど、それがわたし限定じゃなくて皆に優しんだよね。べ、別に独占欲があるわけでもないし、皆に優しいのは美点だと思うけど、あんまり女の人に優しくしないで欲しいなあって気持ちもあって……」


「ベタ惚れだ。エリーってリリちゃんが初恋なんだっけ?」


「だ、だって学生の頃も社会人の頃も恋愛なんてしている余裕がなかったし、こんな気持ちになるような相手もいなかったし……。24でこれって、変かなあ?」


「珍しいだろうね。中学か高校で好きな人くらいできそうだけど……。過去が過去だもんなあ」


 夏希ちゃんにも大雑把な過去の話はしている。当時は魔女のせいで恋愛なんて単語も出てこなかったし、専門学校や会社は技術を磨くのに精一杯で暇がなかった。

 そんなこんなでこんなおぼこい成人女性が出来上がってしまったわけで。来年にはアラサーだよ……。


「何歳だから恋愛しちゃダメってことはないんだし、好きにしたら良いんじゃない?でも配信で露骨なことしちゃダメだよ。またリリちゃんとエリーが炎上しちゃうから」


「それは気を付ける……。わたしのせいで炎上させちゃうのは申し訳ないどころじゃないから。でもそれを言ったら夏希ちゃんのパパママ発言も怪しくない?わたしたちのことを指してパパママって言うのは初見の人が見たりしたら勘違いしそう」


「気概的にはパパママだし、お兄ちゃんお姉ちゃんでもあるから。あーあ、2人が本当にあたしの両親だったら良かったのに」


 そういえば、わたしは夏希ちゃんのご両親のことをよく知らない。話してくれないから、そこまで踏み込むべきじゃないと思ったから、聞いたこともなかった。

 今回の件も、社長とマネージャーから言われて泊めることになった。ご両親に挨拶もせずに若い女の子を何日も泊めることになってるけど、何も言わないままで良いのかと漠然と不安はあった。

 その不安が、夏希ちゃんの憂いを帯びた声と表情から次第に大きくなっていく。

 これはきっと、夏希ちゃんのサイン。リリくんも気付いただろう、踏み込まないといけない瞬間だ。


「もしかして、ご両親と上手くいってない?」


「半分外れ。あたし、お父さんって人のこと知らないもん。1回も会ったことないし、お母さんも会わせてくれないし。生きてるのかすら知らない」


「片親家系ってこと?じゃあ夏希ちゃんがGWにこんなに泊まることは心配してるんじゃない?わたしから連絡した方がいい?」


「しなくていいよ。あの人、あたしに興味ないから。今頃彼氏さんと遊んでるんじゃないかな?邪魔がいなくて清々していると思うよ?」


 それは、かなりヘビーな家庭事情じゃないだろうか。

 シングルマザーかつ、関係性も最悪。娘が何をしていても良いなんて、それは親としてどうなんだろう。

 わたしの両親は虐められているわたしを庇ってくれた。家族だけが心の拠り所だった。

 その家族が、信じられなかったら?


「中卒は世間体が悪いからって高校には通わせてもらってるけど、通学定期とかもバイトで稼いでたし。今は収入がいっぱいあるから全然余裕だけどね。あたしとしてはむしろあの家に帰らなくて済むからエリーに感謝してるよ?そこにいるのに話しかけてもこないのって辛いから。だからあたしは話すのが大好き。リスナーもライバーの先輩たちでも、誰かと話せるのって楽しいんだって。あたしVtuberになれて良かったよ。同期が優しい2人で良かった。でも……わがままを言うなら、2人の妹とか、娘だったらもっと楽しかったのかなって。今よりももっと楽しかたんだろうなって……!」


 夏希ちゃんの言葉が続く前にわたしは彼女を抱き締めていた。

 この子には人の温もりが必要だ。

 涙を見せられて、言葉を溢せる相手が必要だ。

 その相手が必要なら、わたしがなる。


「夏希ちゃん、話したいことがあったら何でも話して。辛かったら辛いってちゃんと言って。わたしが酷かった時、そう慰めてくれたでしょ?まだ子供なんだから、こういう時はお姉さんを頼りなさい」


「……怒らない?」


「悪いことしたら叱るけど、よっぽど酷いことをしなければ怒らないよ。同期なんだし、一番歳下なんだからもっとわたしとリリくんを頼って。わたしだけじゃ頼りないかもしれないけど、わたしたちには頼れるスーパーマンのリリくんがついてるんだから!」


「……クスッ。そうだね、リリちゃんもついてるもんね!よーし、じゃあもっとパパとママに甘えちゃおう!」


 この子が笑ってくれるならママと呼ばれることも受け入れよう。ちょっと大きすぎるけど、可愛い女の子には変わりないんだし。

 で、このことはわたしだけで受け止めるのは無理。わたしだって正直、弱い人間だし。

 リリくんには負担をかけちゃうけど、共有しておく必要がある。

 わたしもお風呂をもらって、お昼の配達をネットで頼んだ後にリリくんに電話で詳細を伝える。夏希ちゃんも話してくれて、リリくんは暫定的な対処法を語ってくれた。


「そうしたら3人でご飯に行く回数を増やしましょうか。それと、家庭の事情があるのであれば高校生でも1人暮らしが可能ですよ。親の許可か、今回のケースだと役所の認可が必要でしょうけど、雇用主である社長の印もあればすんなり行くはずです。俺だって高校に通いながら一人暮らしをしていましたから。水瀬さん、社長は家庭環境知ってるの?」


「うん、知ってるよー。配信環境を整えてくれたのも社長だし、お母さんと矢面に立って話してたのも社長だし」


「じゃあ社長ともちょっと話しておくか。このGWでも時間を合わせてご飯に行きましょう。水瀬さん、どこか行きたいところある?」


「あ、回転寿司行ってみたい!本当に回ってるの?行ったことないんだよね。普通のファミレスも行ったことないからその辺も!外食は高いからってコンビニ弁当ばかり食べてたし!」


 毎食コンビニ弁当?それはそれで栄養が偏るし、高いはず。

 そういう育児放棄をしてそうな親がまともに料理を作ってくれるわけがないと思ってたけど、それは事実だったみたい。毎食コンビニ弁当や冷凍食品だったとしても、それを買えるだけの財力はあるってこと。

 だから多分、夏希ちゃんにかけるお金を最小限にしていたんじゃないかな。推測でしかないけど、子供を疎う親は子供に何もしないケースが多い。


「じゃあ明日の夜に回転寿司に行こうか。霜月さんの家の近くに俺が向かいますよ」


「そうしたら〇〇駅が最寄りかな。その辺りで回転寿司を探すよ。リリくんは苦手な回転寿司チェーンってある?」


「いえ、特には。どこのお店でも大丈夫ですよ」


「わかった。じゃあ明日の夜で予約しておくよ」


 急遽だけどそんな予定も立てて、改めて配信の準備をしつつお昼ご飯が届いたのでそれを2人で食べる。メインはコーヒーショップだけど、モーニングや軽食も用意しているお店だったからエッグサンドと照り焼きコッペサンドを半分ずつで食べた。

 食べ終わって片付けをしていた時に夏希ちゃんが爆弾発言を落とす。


「明日はパパとママがデートだぁ」


「ブッ⁉︎わたしとリリくんだけじゃなくて夏希ちゃんもいるでしょ!」


「ウンウン。コブ付きデートだね。これを機にちょくちょくデートを増やしたら?やっぱり好感度を上げるには直接会うことが一番だよ!あたしも恋愛なんてしたことないけど!」


「人のこと言えないじゃない⁉︎そもそも3人でご飯に行くのは何回かあったでしょ!」


「意識の差だよ。デートって思ったらデートなの。カラオケも行っちゃう?」


「ポケクリをGW中にクリアするんでしょ!GWが終わったら暇を見付けて連れてってあげるから!」


「わーい。言質取ったぁ!」


 言質って。

 カラオケに行きたいなら行くのは何も問題ない。それにずっと3人で出掛けるのもどうかと思うし、他の先輩と出掛けてもいいと思う。

 全部を曝け出せなくても、たくさんの人と交流するのは良いことだと思う。それに歌が好きなら先輩たちを誘えば誰かしらは賛同してくれそう。

 企画でカラオケの配信をするんじゃなくて、遊びでカラオケに行くことが大事だと思う。この子はあまり遊んでこなかったんだろうし、色々な場所に連れ出した方がいいかも。

 わたしも灰色の人生であまり遊んでこなかったから、遊び場なんて詳しくないけどね。



 水瀬さんのことには驚いた。何も知らなかったんだなあと思う。初対面からずっと元気が良かったからそういう子かなと思っていたけど、まさかネグレクトを受けているような子だったなんて。

 対処法としては親と距離を置くことだろう。Vtuberとしての収入があれば1人暮らしも問題ないだろう。エクリプスから家賃補助も出るし、俺や霜月さんが生活ができているのだから彼女も親に頼らず生きていけるはずだ。チャンネル登録者も一番多いし。

 配信で二度も長い時間離席したからコメントで心配される。まあ、フォローしておくか。


「すみません。深夜までの配信に慣れていないっぽくて。頭痛止めと栄養ドリンク飲んでて。もう大丈夫になったので配信を再開しますね」


『おん?大丈夫か?』

『そんな即効性ある薬だと眠気こない?』

『夜更かし無理とか子供かよ』

『高校生だって夜更かしはするけど、なんでリリは無理なん?この朝型人間』


 言い訳はこれくらいでいいだろう。

 リスナーに心配をかけたけど、これも必要経費ってやつだ。

 ゲームを再開する。動画サイトは配信画面があまり動かないと違反として処分されるんだけど、どうにかその事態は避けられたようだ。


「もう大丈夫ですよ。まあ、無理そうだったら早めに配信を止める可能性がありますのでご了承ください」


『りょ』

『無理せんといてやー』

『並走企画だからな。リリだけ離脱は許されんだろ』


 離脱する気はサラサラないから安心してほしい。

 というわけでゲームを再開する。次はライバルの進行度の3番目だ。このライバル、かなり性格が悪いようで街の先々で問題を起こしているらしい。2番目の進行の際には他人のポケクリを奪うというかなりの蛮行を働いていた。これ全年齢向けのゲームのはずなのに、こんな犯罪行為をメインキャラがやっていいのかと心配になってしまった。


 ジムもない小さな村に着くと、そこでライバルがいた。そのライバルが大人のブリーダーを倒している姿があった。そこに主人公が近付くとライバルが以前負けたことを腹いせに勝負を仕掛けてきた。かなりの実践をこなしてきたために実力を付けたはずだからと。

 とはいえ。


「レベル30台ですか。余裕ですね」


『リリ、レベリングのおかげでレベル50がいるからな』

『今作のレイド、美味しすぎるんだよな』

『視聴者参加型のレイドやってくれるから、久しぶりにリリとコミュニケーション取れたわ』

『レイド前提の難易度なんじゃないか?あのチャンピオンとか』


 今作にはレイドが実装されていて、最大4人まで参加できるイベントだ。それを倒すと捕まえるイベントが発生するから珍しいポケクリも捕まえられて、かつポケクリの経験値を与えられるアイテムや、捕獲用のボールや回復アイテムなど役に立つアイテムがいっぱいもらえる。

 それを時々リスナーとやっていたレイドでレベリングをしっかりしてある。そのおかげでストーリーは楽に進行できる。あのチャンピオンを除いて。

 まだ御三家のポケクリは最終進化をしておらず、能力値が違いすぎるので簡単に倒せた。


「実力が足りないからもっと実力をつけるためにもっと辻斬りをするって……。嫌でも、この世界だとそこら辺にいるブリーダーと戦うのは普通のことなのでは?」


『それはそう、かも?』

『ポケクリ世界に毒されスギィ』

『戦う意思のない村人を襲うのは犯罪では?』

『そもそも初手がポケクリ盗難だからな。むしろこの世界観だからこそ重罪では?』

『そうなんだよなぁ。実力をつけたいだけならいくらでも手段あるんだよ。だからこそこのライバルが犯罪まがいのことをしてまでポケクリを育てる意味がわからん』


 まだまだゲームの核とでも呼ぶべき真実に辿り着かない。悪の組織のやりたいこともイマイチ掴めず、ライバルもそこまでポケクリに頼る理由も見えてこない。チャンピオンが主人公をずっと試しているのも気になる。

 ここまで結構プレイしてきたけど、気になることもある。


「伝説のポケクリも姿を見せていませんし。過去作だと悪の組織と関わっていることが多かったですけど、今作だと影も形もないですよね?」


『確かに』

『でも伝説のポケクリって物語の後半にならないと出てこなくない?』

『過去作だとほとんどの場合悪の組織が狙ってるんだよな。そんで世界的に問題が発生するのがお約束』

『悪の組織が研究してるんじゃない?』

『ライバルはチャンピオンを目指してるのか?それとも自己顕示力があるだけ?今作謎だらけだな……』


 よくわからないので、考察は後回しだ。ジムバッジの5個目を手に入れるとチャンピオンとのイベントが始まってしまうので後回しにする。その代わりに続けてライバルのイベントを進行させようと思う。

 次は遠いな。近くにジムもなさそうだし、ただの秘境のようだ。雪山っぽい。

 雪山に向かいつつ、目につくブリーダーを倒したり、ポケクリを3匹ずつ捕まえていったり、レイドイベント用の祠を攻略したりしてライバルを探す。


 雪山は難易度が高いようで野生のポケクリも野良のブリーダーが使うポケクリもレベルが40台後半だった。そのためレベル上げも進む。

 けどそれでいい。チャンピオンに勝ちたいからとにかくレベルを上げておきたい。レベル上げをしていく中で通話アプリが繋がる。

 2人が配信を始めたようだ。さっきの電話もあって心配したけど、ご飯も食べられたようだし、配信も始められたようで良かった。


「リリちゃんおはよう!もしかして随分進んじゃってる?」


「おはよう、水瀬さん。霜月さんも。ライバルとジムバッジがちょっと進んだだけでそんなに進んでないよ。リスナーとレイドばっかりやってた」


「リリくんおはよう。そうしたらリリくん、レイドをやらない?わたしたちじゃまだちょっと星3のレイドが難しくて」


「良いですよ。やりましょう」


 オンラインで繋いで、水瀬さんのホームへ向かう。そこで水瀬さんが出現させたレイドに参加する。タイプ相性を考えてパーティーの中の子を選ぶ。レイドはそれぞれのプレイヤーが1匹のポケクリを選んで、最大4人で挑戦できる。今回は3人で挑んだ。


「え、リリちゃんのコークロウ、レベル52⁉︎」


「レベル上げしすぎじゃない⁉︎」


「チャンピオンに勝つためにレベル上げてるから。出てるレイド全部やりましょうよ。霜月さんの分も」


 ストーリーを進めやすくするためと、レアなポケクリを集めるために出現しているレイドは積極的にやるべきだ。星の数が大きければ大きいほど強いポケクリが手に入る。

 リスナーに手伝ってもらったものの、星5も何回かクリアしている。レベルが低いやつをクリアしてそこでもらった経験値アイテムを使って誰かのリスナーを1人集めれば星5もFORでクリアできそうだ。

 レイドバトルを5戦やって、最後の星5はかなりギリギリだったものの勝てたので強いポケクリが手に入った。レイドの後の捕獲は確定でできることと、星5の場合はレベルが50固定なので即戦力だ。


「わあああ!レベル50だ!でもバッジが足りないからバトルで使えないよ!」


「4つ目のバッジを手に入れれば50レベル以下で捕まえたポケクリは言うことを聞くから、そこまで頑張って。そういう意味だとバッジを4つ手に入れればレイドの最高難度で捕まえたポケクリが使えるっていうのはあゲーム側の恩情なのかな?」


「わかった!ありがとう、パパ!」


「せめて兄にしてくれないかな……」


『お?リリ詰め案件か?』

『なーちゃんにパパ呼びされるとか羨ましい』

『夏希ちゃんの配信見るとよくリリのことパパ扱いしてるし。お前のおかげでパパボイスめっちゃ聞けるから感謝しなくもないんだぜ⁉︎』

『コメントのツンデレって誰が嬉しいのん?』


 電話で許可しちゃったからか、遠慮なくパパ呼びをしてくる。それで精神が安定するなら良いけどね。

 俺と霜月さんが一緒のところでパパママと呼ばなきゃ良いだろう。それくらいは彼女も分別が付いているはずだ。

 2人がジムに挑戦するということでポケクリ交換を少しだけして解散。

 俺はライバルのイベントを進めると、そこで伝説のポケクリではないものの、世界的には数が少ない準伝説のポケクリを捕まえようとしているライバルの姿を見る。


「ええ……?準伝説のポケクリが暴れて村が滅んだとか、これ本当に全年齢……?復讐のために捕まえようとするとか、少年の心が歪みすぎてるんですけど?」


『しっかりCERO:Aだな』

『外伝ではよくある話なのでセーフ』

『リリもやったポケクリコロシアムもそんな感じで被害やばかったやろ』


 ライバルがなんとか1匹の所在を見付けて来たのがこの雪山だったらしい。どんな気候であっても吹雪を撒き散らすそのポケクリを倒そうとするものの、準伝説の名前は伊達じゃないのかライバルはやられていた。しかも本人も傷付いてしまったために近くのポケクリセンターへ運ぶことに。


「えー?折角頂上に行ったのに強制移動?」


『あそこ結構遠かったのに』

『しかも回復してもらったらすぐ勝負を挑んでくるとか』

『御三家が入ってたボールが壊されたからなんかずっと出てるんだけど……』


「あ、そうですよね。あのボールにGPSが付いてたんだから、これでもうライバルの足取りを追えないのでは?」


 ライバルのポケクリはレベル40台だったのでまだまだ余裕で倒せた。これでライバルの進行度4はクリアで、またどこかへ行ったライバルを追う進行度5が出たけど居場所がわからない。

 しかもついでにサブミッションとして準伝説ポケクリの3匹の足跡を探せというものまで現れる。ライバルルートを進めないと解放されないとかだろうか。

 足跡を探せと言いつつ、マーカーは表示されない。自力で探せってことだろうか。さっきのライバルの言葉から吹雪を操るのと、火柱を操るのと、雷を操るのがいるらしい。その特徴がある場所を探せってことだろう。


「これ、またあの頂上に行ったらさっきのポケクリいると思いません?」


『行くのはアリ』

『リリに任せる。俺たちは指示厨でもないし』

『まだ情報があまり出てないからどこにいるのかもわからん。まだゲームが発売されて40時間くらいだぞ』

『今作はフラグ設定が丁寧すぎてどこに何が埋まってるのか全然わからん』

『攻略サイトごとで内容も違うし。エアプになりたくないから何も言わないよ』


「じゃあ、行ってみましょうか。何か条件があるのかもしれないですけど」


 というわけでまた雪山に登る。そうしたら本当にさっきの吹雪ポケクリがいた。鹿のような見た目で角が氷でできている凶暴そうな四足歩行のポケクリだ。レベルは60。ギリギリ勝てそうだな。


「捕まえてみましょうか」


『あれえ⁉︎俺も同じようにライバル倒した後に戻ったけどいなかったぞ⁉︎』

『レベル60のポケクリを所持してるとか?』

『星5レイドクリアとかあるか?条件的には厳しいはず。友達に強いブリーダーがいないとこの段階じゃ倒せないだろ』

『いや、レイドはゴリ押しできるから多分いけるはず』

『条件なんだ?』

『まーた考察班がリリの動画に集まってしまう』

『リリがやった特異なことって何よ?』

『色々ありすぎて絞り込めん』

『検証数が足りなすぎて特定には至らない』


 コメントで考察とかも起きていたけど、無事に弱らせて捕獲に成功。

 ライバルをどうすれば良いのかわからなかったことと、悪の組織とジムバッジの取得はチャンピオンとの再戦を意味したので行ったことのない場所を散策することと、見付けたレイドをひたすらしばく行動に移る。ファストトラベルポイントを解放しちゃえば次の移動が楽になるし、無駄な作業じゃないはずだ。

 大陸の隅々まで行ってファストトラベルポイントを解放しつつ見付けた野良のブリーダーをしばいて、目に付いたポケクリをひたすら捕獲して図鑑埋めをしていった。

 リスナーとのレイドも進めたので夜8時にはレベル上げがかなり進んだ。


「じゃあ夜ご飯休憩とお風呂休憩もらいますね。10時半くらいに再開予定です。頭痛もすっかり治ったので、チャンピオンとの再戦をしつつちょこっと進めて、深夜1時くらいを目処に配信を終わって寝ようと思います」


『リリ大丈夫なん?』

『無理はすんなよ』

『5つ目のバッジがオマケなんだが』

『あそこのジムリーダー、可愛くて好きなんだけどなあ』

『おつ〜』

『睡眠は大事だぞ、マジで』


 下手な言い訳を使ってしまったのもあってしっかりと休憩と睡眠時間を貰う。この配信も11時間くらいやってるから耐久配信に相応しい長さでもあるんだけど。

 2人にも一旦休憩に入ることをチャットで伝えてご飯へ。冷凍食品で済ませてしまう予定だ。

 俺のSNSのアカウントにポケクリ攻略のための条件を教えてくれみたいなダイレクトメールが来ている。無視無視。

 一応攻略サイトの公式アカウントから俺のライブ動画の一場面を切り抜いて掲載して良いかという問い合わせがあったのでそれはマネージャーさんに確認を取る。

 変なルートを見付けるのは楽しいけど、こういう対応をしなくちゃいけないのが大変だなぁ。


前へ次へ目次