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ポケクリクリア耐久・1

 夜18時。金曜日の夜だというのにかなりの視聴者が待機場に集まっていた。花金とかもあって金曜日の夜、しかも食事をしていてもおかしくはない時間なのに視聴者が4000人も集まっている。

 いくら3人で同時に国民的RPGの最新作のゲームをやるからってこの視聴数は驚きだ。俺の普段の配信でこんなに人は集まらないぞ。

 霜月さんも水瀬さんも配信の準備はできたと言っていたし、夜ご飯もハンバーガーだけど食べたらしい。2人は朝まで続けるつもりらしくて色々と準備は完了しているようだ。

 俺もさっきコンビニでカツサンドを買ってきて温めて食べた。コンビニでは珍しい手作り弁当をやっているスタイルで、普通のお弁当よりは値が張るが断然美味しいのでそこのコンビニに行くといつも手作り弁当を買ってしまう。

 良いよね、コンビニキッチン。


「僕の枠では配信始めたよ」


「こっちもOK!エリーは?」


「音載せた。うん、声も載ってるね」


「というわけで皆さんこんばんは。FORによるポケットクリーチャー最新作のクリア耐久配信へようこそ。FORのR担当、絹田狸々です。そして」


「FORのO担当、霜月エリサです。ポケクリ久しぶりなので楽しみにしてました。そして?」


「FORのF担当!水瀬夏希です!もうホントに、最新作を待ってた!これを配信するためにVtuberになったと言っても過言!」


「過言なんだ」


 水瀬さんのやる気と声がすごく高くなっている。彼女はアニメも見ていてリメイク作品も合わせれば全作品をやっているそうなので、本当に楽しみにしていたんだろう。

 過言って言ったから思わず突っ込んでしまった。この3人だと全員ボケになれるのが恐ろしい。

 俺と霜月さんはポケクリのゲームをやるのは久々なので出たんだ、という感想だった。外伝でもない作品なので新しいクリーチャーもたくさんいるということで、それが楽しみらしい。


「さて、今回の企画の趣旨を話していくよ。今回はクリア耐久の名前の通り、ゲームクリアを3人で目指すものとなります。ポケクリの伝統で殿堂入りがクリアと同じなので殿堂入りをしたらクリアとします。タイムアタックではなく、あくまでクリアすることが目的なので寄り道も全然します。そもそも今作はオープンワールド形式なのでどの順番で廻るのかも好きにして良いということで、多分ゲーム側が想定している正規ルートからは逸れる可能性が高いことをあらかじめご了承ください」


 他にもやっている先輩たちに所感を聞いたが、かなり自由度が高いらしいので順路から逸れることが多いらしい。一応順路のような指示もあるらしいのだけれども、その順路も3つくらい示されるのでどれを選ぶかはプレイヤーの自由だとか。

 そのため、攻略サイトを見なければ順路なんて選べないのだとか。その攻略サイトも今なら序盤の道筋も書かれているらしいが、中盤以降はデータが更新されていなくて全くダメらしい。

 最新作ともなればそんなものだろう。攻略サイトを見てしまったらつまらないから見るつもりもない。


「3人で並走しますが、ある程度時間経ったりしたら3人で集まって通信対戦をしたりポケクリ交換をする予定です。名前を入力して主人公を動かせるようになったら各々の配信に戻る形ですね」


「私は今日からエリーの家に泊り込みだからエリーの配信にちょくちょく顔を出すかも!私が配信部屋を借りて、エリーがリビングで配信してるから飲み物取りに行ったりして遭遇すると思う」


「遭遇って。ご飯とかお風呂とかで呼びにいくと思うからあたしも夏希の配信には顔を出すかも。それと、ちゃんと睡眠時間を確保するようにマネージャーに言われてるのでしっかりと寝ますからね」


『それをエリーが言うのか』

『昼夜逆転してるの、エリーですよね……?』

『たまにリリの朝配信よりも長く深夜配信してるくせに、説得力ないぞ』


「今回の企画は大人として!夏希の世話を仰せつかったので!6時間睡眠厳守させます!」


 コメント欄で多分霜月さんが言うな、みたいなことを言われたんだろう。俺のコメント欄でも同じようなコメントが流れてる。霜月さんの長時間配信はエクリプスでも名物になってるからな。

 1つの配信でいくつも切り抜きができるからと切り抜き師からしても好評らしい。実際ゲームの腕が良いから見てて爽快なんだよな。

 コメントを残したりしないけど、朝起きたら見たりしている。どのゲームもそつなくこなしているし、地頭が良いから詰まることも少なくてサクサク進むのが高評価のポイントのようだ。


「はい。今霜月さんからありましたけど、身体を壊さないように食事も睡眠もしっかり摂りますので。でも今日からGWはクリアするまでポケクリしかしません。クリア耐久はそういう意味ですので、クリアするまで徹夜でずっとやるわけじゃありません。そこは勘違いしないように」


「本当は何徹でもしようと思ってたんだけど、事務所とかお母さんとかに怒られたのでこのルールになりました……。大人って酷いんだ」


「徹夜なんてしたって何も良いことないよ。次の日のパフォーマンスは落ちるし、何を考えてるんだかわからなくなるし、歩いていて気を失ったら車に轢かれるよ?」


「そうそう。それに夏希はGWが終わったら水曜日から普通に学校があるんでしょ?授業全部爆睡するなんてダメだからね」


「う〜……。パパママが厳しいので大人しく従います。私が一番最初にクリアしてみせるんだから!」


 社会人経験のある霜月さんが深夜バイトをしまくっていた俺と一緒に水瀬さんを宥める。というか注意する。徹夜なんてやったって良いこと全くないんだから。

 霜月さんも納期が迫っていた時はかなりのデスマーチだったらしくて徹夜を何回もしたらしい。最近はそういう愚痴を吐き出しているので良い傾向だと思う。何もかも抱え込むのは良くない。

 それと水瀬さん。誰と誰がパパとママだ。炎上するから辞めてほしい。

 兄姉ならまだしも、夫婦は直接的すぎるだろう。


「趣旨は以上かな。ということで始めていきます。2人とも、押すよ?」


「良いよー」


「じゃあ、せーの」


 ゲームを始めるを押す。オープニングが映り、BGMと一緒に3Dで表現されたクリーチャーたちが舞台となる街で走り回っている。

 2Dの頃と、3D黎明期の頃のポケクリしか知らないからその映像の綺麗さに驚いてしまった。


「へえ〜。今のポケクリってこんな感じなんだ。映像綺麗だ」


「凄いすごーい!今のピンクの子めっちゃ可愛い!足ちっちゃーい!」


「モデリングすっご。これで何百匹といるんでしょ?モデリング班とかアート班大変そう……」


 それぞれの視点で感想を言いつつ、クリーチャーたちが飛んだり跳ねたりしている映像を見ながらデカデカと『ポケットクリーチャー グレープ』とタイトルが表示されていた。2人の画面では『ポケットクリーチャー オレンジ』と表示されていることだろう。

 水瀬さんはその映像が凄かったのか、それだけで拍手している。タイトル画面でボタンを押したら次の画面に映る。

 ゲームの説明としてポケクリの研究をしている博士がここはどんな世界かという話と、主人公の名前と容姿を決めることになった。


「え?容姿って決められるの?昔のって男の子か女の子しか選べなくなかった?」


「リリちゃん、前作から主人公のビジュアルは弄れるようになったんだよ。だからリリちゃんも『ウルプロ』みたいに容姿作ってね」


「まさかここでもアバター作成をすることになるなんて……」


 これは想定外だった。肌の色を茶色にして髪の色も茶色にしつつ、メッシュのように一部だけ白くする。目を真ん丸にするけど、これどれだけバリエーションがあるんだ。カラーの種類とかも凄くある。

 ここ、本筋じゃないはずなのに。自分のキャラを作れるなら作らないと後悔しそうで力を入れてしまう。配信者に染まってきたなあ。

 及第点に辿り着いたとして、ゲームを始める。2人の方がだいぶ早かったというか、妥協がしやすかったというか。割と人型だから造形は難しくなかったんだろう。


「え、説明なし⁉︎もう動けるんだけど!」


「引っ越しのシーンとかもないね。旅立とうって言われたらすぐ始まるんだ」


「自分のパソコン調べたら傷薬もらえるんだっけ?」


「あれ?ボールじゃなかったっけ?」


「リリちゃんとエリー、それ結構前の作品だけだよ。最近の作品は……」


「あ。本当に傷薬あった」


「ウソ⁉︎」


 ポケクリの基本かと思って自分の部屋にあるパソコンを調べたら傷薬を貰えた。最近のポケクリは違ったんだろうか。

 RPGとかやると自分の部屋に凄い伏線があったりするから念入りに調べたりするよね。最初の街に戻ってラストバトルとかありがちだ。

 ポケクリはそんなことないけど。殿堂入りするためにポケクリリーグというのに挑まないといけなくて、それは最初の街にないことが多い。


 外伝では何回かあったけど、本編と呼ばれる作品ではそういうことはない。かなり大きな施設であることが大きく、それがあるかどうかだ。始まりの街にあるという奇を衒った作品の可能性もあるけど。

 部屋を散策するものの、他はゲームの操作方法とかだけだった。アイテムはなかったので下の階に降りる。降りると主人公の母親がいた。金髪碧眼の女性で主人公とは似ても似つかない。こっちがエディットしたから似ないのはしょうがないんだけど。

 父親似ということにしておこう。


「あ、操作できるようになったから解散する?リリちゃんみたいにくまなく探したり、早くシナリオ進めたいって感じで進歩違うと思うし」


「じゃあ解散しよっか。最初に貰うポケクリも決めてるし、一人で噛み締めたいってこともあるだろうから」


「りょ〜かい。じゃあ夏希、リリくん。また後で」


「大体2時間後目安で!」


 通話アプリで2人がミュートになる。ちょっと操作して、自分だけの配信の音声を載せるようにしてっと。


「というわけでソロ旅に移行します。母親との会話で博士に会いに行くことが示されたので行きましょうか」


『ここら辺は定番だよな』

『博士から最初のポケクリ貰える。しかも旅に出るのは11歳から。でも何で11なんだろ?』

『元にした映画がその歳の子供たちの冒険譚だったからじゃなかった?』


 家の外に出ると街を一望するように映像が切り替わる。小さな丘に囲まれて海にも面している港町のようだ。家とか自然のグラフィックも凝ってる。専門じゃないから知らないけど風の感じとかもしっかり再現していた。

 影とかも細かい。最近のゲームは凄いなあ。

 デフォルメされたゲームとか、昔のゲームをやってばかりだから最新作のグラフィックには驚かされてばかりだ。スマホゲームも結構簡素化された要素は多いし、据え置き機とは仕込めるデータ量が違いすぎるんだろう。


 街を歩いていると、これもシリーズ定番の「科学の力ってやべー!」おじさんがいたり、捕まえられないもののポケクリが飼われていたり、平然と歩いていた。共存した世界だからだろうけど、これって俺たちの世界で言うところの犬猫どころか熊とか猪とかも飼ってるようなものなんだよな。

 しかもよっぽど凶悪な。昔の図鑑説明に比較対象としてインド象とか出てたけど、この世界のインドってどこだよとかツッコミどころがいっぱいだった記憶がある。

 博士の研究所に行くと博士はいつものフィールドワークに行ってしまい留守にしているとか。そこにいたスタッフに博士を探してきてくれと頼まれる。


「ええ……。子供に行かせるなんて」


『昔からあるお使い要素』

『でも主人公ってまだポケクリ1匹も持ってないんだぜ?これでフィールドワークに行った博士を探しに行くとか』

『大人がアポイント守らないとかさあ。社会人としてどうなの?』

『この世界ではよくあることだからセーフ』


 こういう細かいところを突っ込んだらダメなんだろう。昔のゲームからして子供に色々とやらせることが多かった。その昔の伝統を守っているだけと思えば、突っ込むことが野暮なんだろう。

 スタッフにある程度場所を教えてもらって街の外へ。そこでは凶暴なポケクリに襲われて腰を抜かしている博士らしき白髪の男性が。結構なお歳の方だろう。

 襲っている鳥型のポケクリに見覚えがなかった。多分今作からの新しいポケクリなんだろう。


「こんな序盤の街のポケクリに手も足も出ない人が研究界の権威……?」


『メメタア』

『リリ、シッ!』

『これも伝統だから……』

『そんでポケクリの才能がなぜか有り余ってた主人公が助けてなんやかんやあって気に入られるんだよね』

『これ、進○ゼミで見たところだ!』


 いつものことだけど、大人になった今だとおかしくて突っ込んでしまう。こうやって芸人の卵を育成するゲームなのだろうか。

 シナリオに全部ツッコミする配信も面白いかもしれない。昔のゲームだとツッコミがいがありそうだ。

 イベントを進めて博士を助けることにする。博士の持っていた鞄の中に入っているボールから1匹を選んで戦おうという戦闘チュートリアルだ。

 これが御三家と呼ばれる、始まりの3匹だ。俺が選ぶのは炎ポケクリのホドラン。よく火を吹くトカゲのようだ。


『3匹全部選ばせろ』

『1匹なんてケチくさいよな』

『研究のためだっけ?ふざけてるよな。ならタマゴいっぱい産ませて一気にくれよ』

『これのために図鑑埋めには確定で友達が必須という。最近だとランダム通信でかなり融通利くようになったけど』


「皆も不満爆発だ。一応シルエットだけ見て、ホドランを選びますね」


 この3匹は公式サイトで紹介されていたのでビジュアルとかもわかっている。どう進化するのか、ポケクリが持つタイプは複合になるのか。バトル面でもビジュアル面でも気にされている3匹だ。

 選んだポケクリは旅の相棒になる。一番長く一緒に旅をするので愛着が湧かないとゲームが辛くなる。だからビジュアルとか強さで選ぶ人もいるとか。

 で、ホドランをボールから出す。相手はコガラトリンって名前のレベル2。こっちはレベル5。チュートリアルだから負けることはないだろう。

 バトルはコマンド式ターン制バトル。お互いやることを指示して戦わせるのが基本だ。使える技を見ていくと既にタイプ一致の火の粉が使えた。ポケクリのタイプと技のタイプが一致していると威力が1.5倍になるため、できたらこのタイプ一致の技を撃ちたいところ。


「最初からタイプ一致技が使えるのは良いですね。早速火の粉を使っていきましょう」


『最近は親切だよね』

『昔はノーマル技しかなくて醜い殴り合いしかできなかったのに』

『やっぱタイプ一致技って火力高えー!』

『でも一発じゃ倒せないのが絶妙なところ』


 攻撃を喰らってしまうものの、もう一回火の粉を当てて勝利。

 経験値を貰うけど、一回の戦闘じゃレベルが上がらない。戦闘チュートリアルとしては良いんじゃないかと思っていたらまたバトルのBGMが鳴り、もう1匹コガラトリンが現れた。

 え、戦闘続くの?


「連続戦闘⁉︎もしかしてイベントに映ってた4匹と戦闘するの⁉︎こういうのってビジュアル重視で、1匹倒したら退散するんじゃないの⁉︎」


『最新作どうなってんねん』

『そこはゲーム的都合でどうにか。キッズ泣いちゃうよ?』

『ここ俺もプレイしてて驚いたわ』

『4連続戦闘だぞ、リリ』

『チュートリアルが激ムズなんだけど?あの傷薬受け取ってなかったらダメージ食らいすぎて詰むのでは?』

『一応ギリギリ倒せるくらいに調整されてるっぽい』


 困惑しながらも4連続戦闘を終わらせてレベルアップ。連戦は厳しかったけど、レベルアップでHPが上がったためにギリギリ勝てた形だ。余裕を持って勝つなら傷薬を使うのもアリなんだろう。

 チュートリアルが終わり、博士に腕を褒められてそのポケクリはあげると言われる。元々今日貰う予定だったポケクリだったから何言ってるんだ感が凄い。

 一緒に研究所に戻ろうとしたら、赤髪の少年がどこからともなく現れる。そして主人公も博士も離れていたために落としていた鞄を開けて、その中の1つのボールを奪う。これは貰った!と言って走って去っていった。


「ど、泥棒だー⁉︎」


『過去作リスペクトかな?』

『倫理的にどうなのって思われたのか、2代目以降なかったのに』

『ライバル枠が悪役って珍しいよな』

『人の物は奪ってはいけませんってキッズに教育するためのシーンだぞ』

『真似しませんかね……?』


 残りの1匹は無事だったことに安堵した博士はそのまま研究所に帰る。ここは操作せずに研究所へワープした。

 そこでさっきの少年からポケクリを取り戻すことと、ポケクリ図鑑の完成を博士に依頼される。

 しかも貴重なポケクリを奪われたとなると研究仲間に何を言われるかわからないから秘密にしてほしいと頼まれた。


「ええ〜……。ダメな大人の見本だ」


『無能オブ無能』

『こんな上司要らない』

『そんな貴重なポケクリを使えもしないのにフィールドワークに持ち出すな』

『ちゃんと研究所で保管してろよ』


 ゲームのご都合というやつだ。実際このポケクリはゲーム的な意味でも貴重だろう。この子たち以外に使っているブリーダーはいないんだから。

 ここで3つのルートが示されれる。奪われたポケクリを取り戻すためにライバルを追いかけるもの。ポケクリが入ってたボールにGPSが付いていたようで居場所がワールドマップに示される。かなり遠いな。

 次が王道のジム巡り。ジムで戦って認められるとバッジを貰える。それを8個集めるとこの地方のチャンピオンに挑めるというもの。

 3つ目がこの地方で暴れている悪の組織がいるのでそれを叩き潰してほしいということ。ポケクリを利用して悪事をしている団体がいるのもこのシリーズの伝統だ。


「ジム巡りは良いとして、残り2つは子供に頼むことじゃないのでは?」


『ゲームの警察は無能じゃないと主人公の活躍の場がなくなるから』

『主人公はこの世界の救世主だから』

『ある程度の理不尽は受け入れてけ。じゃないと喉と心をやられるぞ』


 子供に勧善懲悪を見せるためなんだろう。大人になるとあれって思うのは歳を取った証拠か、社会に出て擦れてしまったからか。

 悪の組織もお決まりになっているが、今回はどんな理由で敵対してくるのか。時には世界を滅ぼそうとするから子供向けゲームだからって油断できないシナリオを出してくるらしい。昔やったのは自然を大事にとか、過去に戻りたいとかそういう理由だったはず。

 図鑑をもらったのと同時に旅で役立つアイテムを貰う。子供の1人旅は危険だとわかっているからか便利なサポートアイテムをもらった。

 崖を登れたり、水面を歩けたり、滑空できたりするようだ。ただこれはまだ些細な効果のようで、色々な場所を探索するための資格としてバッジが必要なようだ。バッジを集めると探索で使える機能が増えるらしい。


「なるほど。こうやってバッジ集めを促してるんですね」


『昔はポケクリに技を覚えさせてたのを考えると変わったよな』

『秘伝要員が要らないのは手持ち的にだいぶ楽』

『最初から結構できるんだな』


「これ、水を渡れるんですよね?海が近いんだったら行くしかないのでは?」


『リリはまたそうやって天邪鬼なことを……』

『実際できるんじゃね?水タイプが序盤から手に入るのは大きいだろうし、アリ』

『最初のうちは浅瀬しか行けなくて、これ以上は沈むとかってメッセージが出る』


 既にプレイしている人たちからのコメントでやれることとやれないことを教えてくれる。でもこういうことってやってみたくなるよね。

 天邪鬼じゃなくて、配信者のサガと言ってほしい。


「博士からは灯台を目指して、そこから隣町を目指せって言われましたが、まあ守らないよね」


『コウスケルートか』

『あいつも真っ向から別ルート行ったからな』

『リリ、進路は?』


「まずは灯台の逆方向にある高い丘を目指します。そこから滑空で海方面へ行く。遭難したらそれはそれってことで。救済措置くらいあるでしょう」


『まあ、任地堂だからな』

『着水した時点で近くの街に飛ばされるぞ。それでショートカットができた』

『試してる奴いるよなあ』


 ワールドマップにピンを刺す。これでなんとなくの方向がわかって迷ったりしないわけだ。早速順路から外れて歩いていって気になったことを話す。


「なんか天気とか時間帯とかあるみたいなんですけど、もしかしてこれで出現するポケクリが変わったりします?」


『するぞ』

『はい』

『進化の条件になってたりもする』

『嵐じゃないと出ないポケクリが過去にはいた』


「へええ。進化条件とか複雑になってそう。昔のも何で進化するかわからなくて困ったことあったなあ」


『技の回数とか、なつき度とかいう隠しパラメータとか』

『石を使うとか、通信交換とか』

『特殊なアイテムを持たせて交換なんてのもあったな。一応ゲーム内でヒントもあるんだけど』


 進化方法がわからなくて実は進化しないポケクリなんじゃないかと思われたりとか、小さい頃はネットで調べるなんて習慣もなかったから学校内でのコミュニティで情報を得るしかなかった。

 今の子たちって攻略本を買ったりしないんだろうか。昔は完全攻略本を買ってもらった奴はヒーローだったなあ。進化方法とか全部載ってたんだから。

 フィールドでどれだけのことができるかを検証しつつ目的地の丘に着いた。道中で野生のポケクリがいたので捕まえたりしていたのだが、見たことなかったから新ポケカなって呟いたら怒涛の『違うよ』コメントに埋め尽くされた。

 ポケクリは久しぶりなんだからしょうがないじゃないか。


「到着したわけですが、滑空の下る感覚からしてこれだと海に行けませんね。なのでもっと高い場所に行く必要があるかも」


『もっと高いところってなるとそこの山の上?』

『順路の真逆だ』

『ライバルも遠いな』

『クリアする気あるんか?』

『3人の中では一番育ってるからセーフ』

『この辺り順路じゃないせいで敵ブリーダーのレベルとかちょっと高いんだよな。迷った人用に調整されてるんだろうけど』

『ひたすらにこっちには街はないって言うの怪しくね?』


 そう、ワールドマップを見ると割と歩いているのに街が全然ないのがおかしいと思って進んでいる。山が高レベルのダンジョンなのかもしれないし、何かのイベントで立ち寄るための場所なのかもしれない。

 興味があるから行くだけだ。


「山や地形が気になるのもそうなんですけど、始まりの街の近くにあるこの小島。これが気になって。なんかレアアイテムがありそうな予感」


『確かに?ポツンと小島があるな』

『過去作でも小島がダンジョンだったことがあったか』

『レアポケが出る可能性は確かにある。けどレベル足らなかったら捕まえられなくね?』

『ボールも初期の奴しかないからな』

『リリの場合エリーとみなちぇの分合わせて3匹捕まえないといけないし』

『今作から捕まえても経験値が入るようになったの良いよな。これのおかげで捕獲が楽しい』


 ワールドマップを見ながらこれからの指針を話す。野生のポケクリのレベルが高くても捕まえられる可能性はあるし、運任せとかもできる。

 自分から運任せの方法を取るのはどうかとも思うけど、俺だって豪運にあやかりたい。他の人が良い引きとかをしているのを見て正直羨ましいんだから。


 いつかは行くことになるだろうと、山に突撃する。ダメそうだったら撤退すれば良いとして向かうと山の近くに出張のポケクリ回復センターがあった。ここでポケクリを全回復できるので探索もできそうだ。

 隣接するショップでボールと傷薬をしこたま買って山へチャレンジ。やっぱり来るには早かったようで全体的にレベルが高かったがやれないことはなく、うまくタイプの弱点をついたりして突破。

 山頂辺りにいた固定シンボルらしきポケクリも20分の死闘の結果捕まえることができた。パーティーは壊滅状態だ。


「とったどー!」


『それはちょっと趣旨が違くないか?』

『いや、よく捕獲した!この段階でレベル35はすげえよ!』

『まあ、バッジ1個も持ってないから言うこと聞かないんですけどね』

『パワーレベリングがやべえ。こいつ捕まえてかなり経験値貰ってんじゃん』

『成長には強敵を倒す必要があると古事記に書いてあったぞ』

『あった、か?』

『これ系のネタ、たまに本当に書いてあるらしいから侮れないんだよな』


 瀕死になってしまった子をボックスに送って捕まえた子をパーティーに入れる。瀕死を治せるアイテムは拾った奴しかなかったのでそれを使うけど、回復アイテムが底を尽きた。

 お金があってもショップがないから買い物ができない。捕まえたポケクリは預かりボックスに転送できるのにネットショッピングをしてアイテムを届けてもらうことはできないのはどういう事情なのか。

 ゲーム的事情なんだろうな。それだとショップの存在意義がなくなる。

 で、せっかく山頂に来たんだから当初の予定通りに滑空をしてみる。これで海に届かなかったらその時はその時だ。


「こんな序盤からワープが解放されてるのは良いですね。ヤバくなってもすぐ街に戻れるのはありがたい」


『最近の子供は飽き性だから補助がたっぷりなんや』

『マップないと死ぬクソザコゲーマーですぅ』

『実際トラベルポイントが設定されてるとRPGとかマジでありがたい。ないなら空飛べる乗り物くれ』

『今来た。今日色々な配信見てたけど、この山に来てるのリリくらいじゃね?』


「今来た人、いらっしゃい。これから始まりの街の方向にある小島へ滑空しますよ」


『は?』

『なんて?』


 今来た人やちょっと前に来た人が困惑していそうだが、そのままダイブ。

 かなりの標高からの滑空なので結構な距離を飛べそうだ。ボードにグライダーがついて、ボードの上に乗った主人公がサーファーのようにボードを乗りこなしている。

 下に見える景色はグラフィックも相まってめちゃくちゃ綺麗だった。ゲーム機の機能でパシャリとスクリーンショットを撮る。


「めちゃくちゃ綺麗!後で2人にも共有しよっと」


『グラフィック細けえ!人とかちゃんと見えるの凄いな!』

『空とか海とか色合いがヤバイ。雲とか波とかここまで鮮明にする?その分ポケクリやキャラの解像度に充てたら?』

『ポケクリもキャラもめちゃくちゃ拘ってるんだよな。アート集とか出たら買いたいくらいに綺麗だ』

『この人何やってるんです?まだゲーム始めて2時間ですよね?』

『長距離の滑空が解放されるの、5つ目のバッジを手に入れてからだぞ……。やっぱエクリプスのライバーは何やるかわからん』

『母数的な意味でレインボードロップすには勝てないからセーフ』

『何をどう見てセーフと結論付けたのか知りたいわ』


 滑空はかなり上手くいって始まりの街を通り過ぎて海に出た。そして小島も見えてきた。これ、ギリギリ距離足りるな。

 小島に着地できたのでこれまでの頑張りを消さないために速攻でセーブをする。そして案外小さかった島にただ1人だけ人間がいたので多分ブリーダーだろう。この人と戦えるだけの島っぽい。

 後ろ姿なのでわからないけど、モブブリーダーのように特徴があるわけじゃなく、紺色の可愛らしいワンピースを着た少女だった。髪も長いし、多分少女。ニット帽を被って肩からはショルダーポーチを提げている。

 イベントキャラだろうか。


『マジで到達したわ』

『いや、絶対正攻法じゃないって。でもポケクリはいなかったか』

『オープンワールドとはいえこんな小島を重要な場所にはしないだろ』

『ブリーダーがいただけ無駄足じゃなかったんじゃない?』

『なんか見覚えのある格好じゃないか?可愛い美少女な気がする』


「すっごい強そう。負けたら始まりの街に戻って順路に行きますね。というわけで戦ってみよー!」


 過去作だと視線が合ったらバトルになってたけど、オープンワールドシステムになってから話しかけないとバトルにならない。ブリーダーとの戦闘は意図的に避けられるようになったけど、そうしたらレベルが全然上がらなくてジム戦で詰む。

 結局目に付いたブリーダーは全部ボコしてきた。そのおかげでパーティーのレベルは結構高いんじゃないだろうか。

 少女に近付くとなんかイベントが起きたようで、ムービーが始まる。これ、サブイベント的なやつだったか?

 少女が振り向く。黒髪黒目で可愛らしい少女だ。いやでもこれ、すっごい見覚えあるな?


「4作目の女主人公……?」


『やっぱり?めちゃくちゃ似てるよな』

『見覚えあると思ったら、1年前にリメイクと外伝で見たからだ』

『この子、この地方のチャンピオンなの⁉︎』


 元主人公っぽい女の子がチャンピオンを名乗っている件について。

 少女の名前はアンと言うようで4作品目の主人公や去年の外伝ゲームの女主人公のデフォルトネームじゃないっぽい。

 わざわざデザインを寄せてきた理由はなんだろうか。


「え?ここ、アース団のアジトへの入り口なの?」


『なんか悪の組織のアジトを発見した模様』

『これ、イベント何段階吹っ飛ばしてるんだよ⁉︎』

『バッジを聞かれてるけど、0個って確認できるんだ。テキスト細けー』

『バッジ6個以上で突入作戦に加えてあげるとか。来るの早すぎた?』


「ちょっと待って⁉︎バッジ0個って答えたでしょ⁉︎何でチャンピオンとバトルになってるの⁉︎」


『これにはリリも大慌て』

『うーん、バトルジャンキー。勝てたら突入悪戦に加えてくれるんだ』

『あの?初手でレベル68とか出してきましたけど?』


 なんだこの強制イベント⁉︎

 多分バッジ6個持ってたら無条件でアジトに入れてくれたんだろうけど、なんか理不尽なバトルが始まったんだけど⁉︎

 こっちはさっき捕まえたレベル35の子を除くと最高がレベル23なんだけど?勝てるわけないじゃん。

 タイプ相性とか関係なく1匹に蹂躙された。そもそも速度と火力が違いすぎる。レベル差の暴力ってやつだ。そもそもチャンピオンって本来ラスボスじゃないか?何でこんな時期に戦えるの?

 負けたけどイベントは進む。


「あれ?負けたら所持金半分になってポケクリセンターに移動させられるのでは?」


『そういえばそうかも』

『イベントだから?』

『ポケクリで負けイベってあったかなあ?王道RPGだけど、あくまで子供向けだから負けイベントとかって用意してないと思う』

『普通にイベント進むのな』


 実力不足だからバッジを集めるか、私を倒す実力をつけてくるように、と言われる。

 ついでに全部のポケクリをアンは回復してくれた。チャンピオンの器だ。

 この人いたら悪の組織のアジトなんて1人で潰せるのでは?一応大多数を相手するのに手が足りないから強いブリーダーの手を借りたいとのこと。

 そして悪の組織を打倒するメインクエストの六番目に色が付いた。ただ進行しているだけでクリアしたわけじゃないからか灰色で色が付く。

 1つ目が解放されていないのに6番目が開くのか。これ、フラグ管理どうなってるんだ?


「あの、あなたを倒せる実力があるならゲームクリアでは?悪の組織を倒すよりチャンピオンになるために挑戦したいんですけど?」


『それはそうwww』

『レベル68が今回のチャンピオンのラインか。高いな』

『あ、情報が拡散されて視聴者が一気に増えた』

『こーれ、拡散されます』

『まだ発売して20時間だし、フラグなんてまだ全部見付かってないはずなんだが』

『これ、勝つためにチャレンジする奴現れるだろ』

『リリも5個集めたら挑戦しようぜ』


 視聴者数が爆発的に増えている。今どこでも情報を集めているからか、新情報というだけで俺の配信に顔を出している人が増えているんだろう。ディレイ機能を付けているから巻き戻しができるのでそこでチャンピオンに戦える条件を探り始めるんだろう。デバッカーみたいだ。

 アジトへの入り口はアンが防いでいるようで入れないらしい。他にアイテムが落ちていることもなく、ポケクリが出ることもないのでこの小島でやることはもうない。

 海に出ようとしても深くて歩けないというコメントが出てしまう。ワープで帰るしかなさそうだ。

 そんなタイミングで水瀬さんと霜月さんと通話アプリが繋がる。


「ヤッホー、リリちゃん!そっちどう?私ジムバッジ1個手に入れたよ!」


「あたし、ライバルを1回倒したよ。リリくんは進捗どう?」


「……悪の組織のイベントを1個進めたよ」


『嘘じゃないな』

『大進歩なんだよなあ』

『進めたけど、クリアはしてないっていう』

『ちょうど皆別々のルート進めてるのは笑う』


 これ、シナリオの進み方とかフラグ管理とサブイベントとかかなり大変なゲームじゃないだろうか。今回のイベントみたいに期限が決まっているイベントもあるだろうから全部把握するのは大変じゃないだろうか。

 バグとか起きないと良いけど。


「じゃあ1回集まって、バトルしよっか!」


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