カードゲーム大会・6
水瀬さんとコウスケ先輩の試合だが、かなりの泥仕合となった。先攻のコウスケ先輩が大量展開をしてブルーホーン・ドラゴンの融合体や強いドラゴンを並べた。ブルーホーン・ドラゴンは最初の漫画・アニメのライバルが使っていたエースカードだ。
当時は最強の攻撃力を持っていたカードで、その火力は出されたら苦労するカードだった。そしてウィザード&モンスターズの中でも屈指の人気カードなため、度々新規のカードをもらって強化されている。とはいえ公式大会などで勝てるような環境デッキと呼ばれる強さに入れるかと言われたら割と微妙なラインではある。
今回経験者枠で呼ばれた4人は最強と呼ばれるようなデッキを全員避けている。経験者が強いデッキを使って勝っても当たり前の結果にしかならないからだ。だから配られたストラクチャーデッキは元々強くないものを渡されている。
初心者枠の人たちにはそんな縛りはない。希望通りの、水瀬さん以外は紙でも持っているデッキになるようにストラクチャーデッキは渡されたというし、全員強いデッキだった。
コウスケ先輩はブルーホーン・ドラゴンの10年以上前のデッキを、吹上先輩はスパイラルデッキではなく、15年前の邪神降臨という名前の邪神カードが3枚入っている、しかも全然回せない構築が甘いデッキを渡されたようだ。
吹上先輩の余りある知識でデッキを魔改造。邪神を活かすために必要なカードを引きまくったようだ。一応ストラクチャーデッキの色を残すために配られたデッキの内SPデッキも含めて20枚は残すようにというルールがあった。
吹上先輩のデッキの中に残るマイナーカードは抜くに抜けなかったカードなんだろう。それを活かすようにデッキ構築を考えたのはさすがとしか言いようがない。あんな変態神デッキ、タクティクス以上に運がないと回せない。
しかもあれ、最初の3枚入ってた邪神の数に合わせるように神のカードが3枚入ってるんだよな。そういう意味でも芸術点が高い。さっきの休憩時間にSNSでデッキレシピを公開していたようだが、何でこれで回せるんだと困惑する声が多かったとさっきゴートン先輩が言っていた。
コウスケ先輩のブルーホーン・ドラゴンデッキは盤面を整えても妨害をたくさん構えるのではなく、とてつもなく高い攻撃力で相手を殴るデッキだ。破壊耐性などがあるので殴り負けないカードが多い。
水瀬さんも頑張って盤面を作ったんだけど、攻撃力が圧倒的に足りない。『楽園騎士』はカードの効果で盤面を制圧して何もさせないデッキなので、後攻の時点で割と厳しい。
と思ってたら、逆転のカードを握っていた。
「水瀬さん、ここで『煉獄融合』を発動!それを握ってたのは偉い!」
「ただここで何が出せる?SPデッキは関連カードでいっぱいじゃないのか?」
「汎用の融合カードはいくつかありますが、相手のモンスターを全て取り除けはしないので……。『楽園追放者アダムフィン』ですね。ここからは殴り合いですが、どこまで拮抗できるか」
ここからは大型モンスターを召喚し合っての殴り合い。結果としては超大型を多数召喚したコウスケ先輩が勝利。
決勝は経験者の1期生同士。FORは全員が負けてしまった。
それぞれのインタビューを終わらせて、改めて決勝の2人に意気込みを聞いてみた。
「じゃあまずゴートンさんから。決勝についてお願いします」
「ブルーホーン・ドラゴンのかっこよさを存分に見せつけてやるぜ!オーフェリアには神よりもドラゴンが強いって証明してやる!」
「ブルーホーン・ドラゴンは人気カードだからね。証明よろしく。オーちゃんは?」
「完全・完璧・完勝。それ以外有り得ませんわ。ということで絹田さん、わたくしの手札が完璧であるように祈ってくださる?」
「え?僕のオカルトがいるんですか?」
「ズリーぞ、オーフェリア!リリ、俺のために祈ってくれ!」
「……2人のベストバウトを祈っておきます」
ここでも俺の運のオカルトを引っ張られるとは。この煽り合いのような言い合いは同期としての仲の良さからできるお遊びだろう。
無難にどっちも応援していますと言うことで切り抜けることにした。見ているだけの試合に俺の運は関係ないとは思うんだけど。
決勝が始まる。先攻はオーフェリア先輩。
しかも手札が完璧だったっぽい。
「おお……。『救世神savior』と『邪神ファルカス』が並んでる。しかも『救世神savior』の効果でコウスケの手札は全部デッキに戻されたからドローにかけるしかないが……」
「ブルーホーン・ドラゴンのデッキに1枚初動ってあったっけ?」
「いや……。最近新弾で紙の方だと強化カードで念願の1枚初動が数枚増えたんですよ。ですがアプリの方にはまだ実装されていません」
「ってことは……」
「汎用罠じゃなければ終わりじゃないか?」
コウスケ先輩はドローをするが、何もできなかったのかカードを伏せることなくターンエンド。
吹上先輩のフィールドには攻撃力4000が2体いる。これは決まったか。『救世神savior』が強すぎる。出したら勝ち確のカードなだけはある。
吹上先輩もドローするが、何かする訳でもなくそのままバトルに。
『こんなあっけない決勝ってある?』
『イヤイヤ、『救世神savior』なんてこんなポンポン出ないんだから。これは毎試合確実に出してるオーちゃんがヤバイ』
『実際組んでみて回してるけど、一定数手札が事故る。今回の大会中に事故らなかったオーちゃんの運がぶっ壊れなだけ』
『エクリプス真の豪運ライバーはリリじゃなくオーちゃんだった……?』
『デッキ作成配信も見ると、そう。リリは自分の運はあまり良くないからな』
合計8000の攻撃が通り、宣言通り吹上先輩の完勝。ゴートン先輩が祝福の言葉を伝えつつ、2人を呼び出す。2人のインタビューをして優勝商品を贈呈して、ウィザード&モンスターズの宣伝をして今回の大会は終了となる。
「2人ともお疲れ様〜。じゃあ負けたコウスケ君からインタビューをしようか。何もできなくて負けたけど、やっぱり先攻を取れたら勝ててた?」
「ああ。手札は完璧だった。後攻で捲れる手札じゃなかったぜ……。しかも最後のドローもブルーホーン・ドラゴンだったし」
「それは何もできないね。でも準優勝は凄いことだよ。よく頑張りました」
「次はもっとデュエル運を鍛えてくるぜ!滝に打たれてドローの練習をしてくる!」
「ああ、アニメにそんな描写あったね。でもカードを濡らすなんて言語道断だからやろうと企画した瞬間に拳骨を喰らわすよ?」
「ヒィッ⁉︎ふ、普通にアプリで対戦しまくって腕を磨きます……」
ドロッセル先輩の言葉に恐怖したのか、コウスケ先輩は喉を引き攣らせていた。もしかして拳骨を受けたことがあるんだろうか?同期の女性に頭を殴られるって、どんなやらかしをしたらそうなるんだろう。
「じゃあ優勝のオーちゃん。完璧な指し回しだったね」
「当然ですわ。この大会のために神社で願掛けをしてきましたもの。手札事故を起こしてもカバーできるような構築にしてますので。たとえアニメから弱体化されたカードでも上手く使えば活躍できるのだと示せたのならこれ以上の喜びはありませんわ」
「邪神は、というか神って名の付くカードはほとんど弱くなっちゃってるからね。2人ともありがとうございました。最後に優勝者のオーちゃんに記念品の贈呈があります!」
吹上先輩は既にこの司会席に来ているので直接渡せる。吹上先輩は企画側の人間なので優勝商品を知っている。俺もさっき聞いたけどとんでもないものだ。これを何も知らずに渡されたら相当驚いただろうな。
「ということで優勝商品はこちら!原作者である佐々木先生の描き下ろし『ダーク・マジシャン』のサイン入り25周年記念カードです!めちゃくちゃ光ってるよ!」
「きゃー!佐々木先生の大ファンなんです!サイン入りカードなんて嬉しいですわ!」
『羨ましい!』
『画力半端ねえ……』
『いや、見たことねえデザインだぞ⁉︎描き下ろしって世界に1枚だけのカード⁉︎』
知っていた吹上先輩は初見のような演技をしっかりとしていた。事情を知っている俺からしても十分なリアクションだったと言える。
コメント欄が困惑している。『ダーク・マジシャン』は初代主人公のエースモンスターだ。その新規イラストで25周年の記念レアリティの加工がされていて、更に直筆のサイン入りだ。コレクターなら是が非でも欲しいカードだろう。
もちろん、世界に1枚しか存在しないカードではない。そこはこれから説明する。
「こちらのカードですが、来月末に発売の新弾に合計で500枚だけ封入されるカードになる。今回贈呈されたのはその500枚とは別なので世界に501枚だけ存在するカードになるな」
「もう予約してます。開封配信も予定しています」
「さすが絹田君。というわけで新弾の方をよろしくね」
この宣伝も込みの配信だったわけだ。
『ダーク・マジシャン』は今でも人気だし、原作者の描き下ろしイラストは結構少ないので希少性もかなりある。俺も欲しいカードだ。
大会も終わって次の日の朝。『ウルプロ』の配信をせずに音楽作成の配信をしつつ大会の振り返り雑談をしていた。
「応援してくれた皆さん、ありがとうございました。決勝トーナメントには進みたかったんですけど、2敗は厳しかったですね」
『特殊勝利は盛り上がったからセーフ。唯一だったし』
『アニマルデッキベースっていう縛りならかなり構築力高かったから』
『神を出せたのは面白かったからOK。コンセプトも同期愛に溢れてたし』
『みなちぇとオーちゃんのアーカイブ見たけど、あの手札じゃ勝てねえよ……』
面白ければそれで良しだ。ネタデッキではあったものの勝てもしたし、拮抗した勝負も見せられたからアリだろう。
「それとエクリプス全体での告知です。宗方先輩の3Dお披露目配信が決まりました。この時間には僕も配信をお休みしますのでよろしくお願いします」
『先輩のお披露目は優先やろな』
『俺って言ってよ〜』
『今作成してる曲も誰かが歌ったりするんか?』
『結構曲作ってるけど、発表の機会はないの?』
コメントも読みつつ、もうほとんどできていた曲の仕上げをしていく。
宗方先輩の3D配信の準備もしないといけない。今月はこれが一番の大きなイベントになるかな。