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第九十四話 新たな仲間

というわけで十万ポイント記念で今日は一日二回更新です。

まぁ古参のファンからの声には答えないといけませんからね笑

水無月さんは責任とって楽しむように('ω')




「なかなかいい部屋に住んでるな。さすが皇子ってところか」

「そりゃあどうも。さて、それじゃあ話を聞かせてもらおうか。どうしてそんな姿に?」


 紅茶を用意し始めたフィーネをよそに、俺は核心に迫る質問をした。

 それに対してジークは深刻そうな顔で俯き、そして。


「事の発端は今から半年ほど前のことだ。俺はとある森の奥で女性と出会った」

「なるほど。お前が悪い」

「まだ何も説明してないだろが!?」

「聞かなくても察しが付く! どうせ手を出したんだろ!?」

「まだ出してない! 出す前にこんな姿にされたんだ!」


 悔しそうにジークは机をたたく。

 無念という感情がその姿からはありありと感じられた。

 どんだけ女好きなんだ、こいつ。


「はぁ……で? その女性にやられたのか?」

「違う。その妹だ……」

「そりゃあ姉に悪い虫が近づけば妹としては防衛するだろうさ」

「それも違う! 変な秘薬を飲まされて、この姿にされたとき! 俺もそう思った! だが、妹はこっちのほうが可愛いと思うって言いやがったんだぞ!? そんな理由で俺はこんなキュートな子熊にされちまったんだ!!」


 わんわんとジークは泣き始めるが、キュートとか言ってるからなんだかんだ今の姿も気に入ってるんじゃなかろうか。

 しかし、可愛いと思うって理由で人間を子熊に変えるとはな。なんだ、その妹。


「一体、どこの森に行ったんだ?」

「それは……秘密だ。依頼で行ったからな」


 ジークは視線を逸らす。

 さすがに高ランクの冒険者だけあって、そういうところはしっかりしてるみたいだな。

 個人に入ってくる依頼なんかは、秘密にしてほしいと依頼主に頼まれることがけっこうある。

 S級まで上り詰めただけあって、女たらしでもそこは押さえているか。


「紅茶が入りましたよー」

「おー、フィーネ嬢の紅茶! いただきます!」

「飲めるのか?」

「おう! 食事もできるぜ。変わってるのは姿だけだ」

「ぬいぐるみってわけじゃないんだな」

「ぬいぐるみみたいに見えるだけさ。あちっ! ふーふー」


 紅茶を飲もうとしたジークは顔をしかめ、慌てて紅茶に息を吹きかける。

 俺も飲んでみるが、特別熱いわけじゃない。そこらへんも熊になってるってことか。意外に難儀かもな。


「姿を戻す方法だが、探してみる」

「ん? あてがあるのか?」

「シルバーなら何か知ってるかもしれないからな」

「……シルバーと知り合いなのか!?」


 紅茶に息を吹きかけるのをやめて、ジークが驚いたような表情でこちらを見る。

 知り合いも何も本人なんだがな。

 まぁそれを言うわけにもいかないので、適当に誤魔化す。


「まぁな。なんだかんだシルバーは俺と弟に協力してくれてる。相談するだけ相談してみる。ただ期待するなよ? 秘薬と聞く限り、シルバーの専門外な気がする」

「それでもありがたい! あの仮面の冒険者なら何か知ってるかもしれないからな!」

「じゃあジーク。確認するぞ。俺たちはお前を保護し、シルバーに元の姿に戻れるか連絡を取る。その代わり、お前は俺たちを手伝う。それでいいか?」

「おう! 異論はねぇ。というわけでさっそくこれを外してくれや」


 そう言ってジークは自分の首についている首輪を示す。

 しかし、俺はそれを外す気がなかった。


「駄目だ」

「なんでだよ!?」

「お前が変なことしないように、それはつけていてもらう」

「そんな!? あんまりだ! フィーネ嬢~!」


 そう言ってジークは軽やかにジャンプしてフィーネに抱きつこうとする。フィーネも受け止める体勢を取っていたが、途中でジークは真下に落下した。


「ぐべぇ!!」

「そういうことをしないように首輪が必要なんだよ」

「大丈夫ですか? ジークさん」

「お、おのれ……」


 首輪を一気に重くしたのだ。

 そのせいでジークは床に叩きつけられることになった。

 なんとか顔をあげたジークは俺を睨みつけ、そしてまるで獰猛な肉食獣のように歯を見せた。


「そっちがその気ならやってやる! 鍵よこせぇ!!」


 そう言ってジークは走って俺との距離をつめると、俺の腕にぴったりと張り付いた。

 その姿は熊というよりはコアラだな。


「どうだ! まいったか!」

「何がだよ?」

「……あれ? 重くないの?」

「お前が動けなくなる程度の重さしかかからない。重さは感じるが、元々が軽いからな」


 そう言いながら俺はどんどんジークに重さをかけていく。

 腕に子供がぶら下がっているような感じの重さがのしかかる。そしてジークがズルズルと下へと落ちていく。

 それでも落ちまいと必死にジークは腕に力をいれるが、プルプルと腕が震えているため、そろそろ限界だろうな。


「ちくしょう……これで勝ったと思うなよ! いつかきっと鍵を取り返し、この雪辱を、あべっ!!」


 言ってる最中にジークの腕が俺の腕から離れ、ジークはうつ伏せの状態で床に叩きつけられた。

 それでも何とか起き上がろうとするが、駄目押しでさらに重さを増やす。


「なにか言うことは?」

「ごめんなさい。軽くしてください」

「よろしい」


 そう言ってジークの重さをなくす。

 しかし、ジークはそれを待っていたとばかりにジャンプして俺に向かってくる。


「かかったな!」

「お前がな」

「あーーーー!!?? ぐぎゃ!」


 ジャンプした分、今までよりも高いところから盛大に床に叩きつけられたジークは変な声をあげて動かなくなる。

 しばらくそのままだな。


「手伝ってほしいときは声をかける。それまで大人しくしてろ」

「……はい」


 そんなやり取りをしたあと、俺は書類整理に移り、ジークは床をのっそりと這いつくばって椅子に戻ろうとする。

 途中、フィーネのスカートの中を覗こうとしたので重さを今までの三倍にしたら、さすがに潰れると悲鳴をあげていたが、罰としてそのまま放置することにした。

 子熊になったとはいえ、S級冒険者。かなりの戦力であることは間違いないが、同時に面倒な奴を引き込んでしまったな。

 まぁ使い方を間違えなければいいだけだが。

 そんなことを思いながら、俺はフィーネの淹れた紅茶を飲むのだった。




■■■




「なぁ、坊主。オレは仕事があるからって呼ばれたはずなんだが?」

「ああ、だから仕事を頼んだだろ?」

「クーちゃん! この熊喋るよ!」

「すごい手触り……気持ちいい」

「子守が仕事かよ!!」


 クワっと熊らしくちょっと怖い顔をしてジークが抗議してくる。

 ただリタとクリスタに弄ばれている姿を見れば、怖いとはとても思えない。

 ちょうどリタとクリスタが遊びにきたので、遊び相手にジークをあてがってみた。

 ジークは女なら誰でもいいわけでもないらしく、特に子供は範囲外らしい。そのため、クリスタとリタに触られても面倒そうにするだけだ。面倒そうにするだけで、怒らないあたり子供嫌いではないんだろうな。


「なぁ、お嬢ちゃんたち。オレ、これでも元は人間だからな?」

「おー! リタも熊になりたい!」

「でも今は熊……」

「いや話聞けよ!」


 引っ張られたり、撫でられたり。

 やりたい放題されながらジークは必死に訴えかけるが、二人はまったく聞く素振りを見せない。

 子供だからな。喋る子熊、しかも見た目は愛らしく、手触りがいいと来たら触るに決まってる。


「もう少ししたら仕事が終わる。それまで相手しててくれ」

「仕事ねぇ……お前さん、出涸らし皇子って呼ばれてるんじゃないのか? 無能無気力の駄目皇子って噂らしいじゃねぇか。ちょっ! 同時に引っ張るな! さーけーるー!!」

「噂は間違ってないぞ。ただ最近はやることが多くてな。無気力でもいられなくなったんだよ」

「やれないんじゃなくて、やらなかっただけってか。良い御身分だな、まったく」

「何もしなくても困らないのが皇子だからな。せっかくいい生まれなんだし、存分に甘えさせてもらうよ。そりゃあ」


 言いながら、俺はセバスが持ってきた様々な情報を頭に入れていく。

 大した情報じゃないのがほとんどだが、そういう情報がときに使えるときがくる。

 これからはレベッカの捜索と共にまた影からの勢力争いになる。情報が命となる。

 こういう作業は怠れない。


「弟を皇帝にするために、必死になるとは良い兄貴ぶりだな。おい! 目はやめろ! 目は!」

「別に必死じゃない。適度にやる気だしてるだけさ。ほかの奴らが勝つと処刑されかねんからな」

「逃げ出せばいいじゃねぇか。いくらでも手があるだろうに」

「俺一人なら逃げだすがな」


 そう言って俺はクリスタとリタを見る。

 逃げるとするなら、この子たちも連れていかなきゃ駄目だろう。どんどん勢力は増していき、守るべきものも増えていく。

 もはや逃げるのは非現実的だ。


「なるほど……甘ちゃんだな」

「なんとでも言え」

「まぁ、嫌いじゃないがな。ただ覚えておけ。オレに仕事を任せるならオレはオレのやり方でやらせてもらう。文句は言うんじゃねぇぜ?」


 そうカッコよく決めているが、リタとクリスタに両耳を引っ張られて顔が変な感じで伸びている。

 まったく決まってないのがシュールだ。


「まぁそれは任せる。責任は俺が取るから好きに動け。結果を出せば文句は言わんよ」

「そりゃあいい。好きにやらせてもらう。おい! いい加減に耳はやめろ! せめて手か足にしろ!」

「ただし、女関係の問題は起こすなよ?」

「こんな姿だからな。それはなかなかきついぜ。まぁオレくらいになると惚れる女の一人や二人出てきそうだが、それはオレの罪にはならんだろ」


 両手を引っ張られ、宙に浮いているジークがそんなことのたまう。

 まぁ間違いなく、今のジークに惚れる女はいないだろうな。


「その心配はしてないから安心しろ。さて、終わった。クリスタ、リタ。何して遊ぶ?」

「ジークで遊ぶ……」

「リタは鬼ごっこしたい! ジークが鬼ね!」

「上等だ! 一瞬で終わらせ! おい!? 重くするのは卑怯だぞ!?」

「子供相手だ。手加減しろ」

「とかいってお前さんも逃げてるじゃねぇか!? 姑息だぞ!?」


 重くされて床に張り付いたジークをよそに、俺はクリスタとリタと共に逃げるのだった。

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