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第九十三話 捕獲

子熊はだいたいテッドみたいな感じで想像していただければ(笑)

あと十万ポイント突破しました! 皆さんのおかげです。ありがとうございます('◇')ゞ

明日、頑張れれば二回更新しようかなと思ってます(笑)











 帝都最外層。

 そこにあるガイの道場に俺はフィーネと共に来ていた。


「よう、ガイ」

「おー、アル。それにフィーネ様もよくぞいらっしゃいました! さぁ、中へ!」


 扱いがあまりにも違うので頬を引きつらせつつ、俺は道場の中に入る。

 中には子供たちの姿はなかった。


「今日は休みか?」

「いや、さっきまで子供たちもいたんだが、早めに帰した」

「なんでだ?」

「最近、義賊を名乗って色んな物を配る奴がいる。まぁ別にそれはいいんだが、そいつが配る物目当てで行儀の悪い奴らがウロチョロするようになった。危ないから早めに家へ帰すようにしてるんだ」

「なるほど。ちょうどいい。俺たちはその義賊を探しに来たんだ。なにか手がかりはあるか?」

「知らんなぁ」


 そう言ってガイは視線を逸らす。

 これは何か知ってるな。

 小さくため息を吐き、俺はガイに機密情報を喋る。


「昨日の夜。セバスが悪徳商人どもの不正の証拠を持ち帰り、警邏隊に渡した。奴らはすぐに逮捕されるだろうが、次は義賊の番だ。相手が誰だろうと盗みは盗み。保護しなければ捕まるぞ」

「……捕まえに来たわけじゃないと?」

「俺がそんな正義の人に見えるか?」

「まぁそうは見えんな」


 そう言ってガイは頭をかくと、その場で正座した。

 そしてしばし考え込んだあと、俺の方を見る。


「お前やレオが帝都を離れている間、悪徳商人たちは外層民から色々と巻き上げた。帝位争いで豪商たちが争っている間に、少しでも儲けようと思ったからだ。そんな中、義賊は非合法な手段で奪われた荷物や金を取り戻してくれた。外層民にとっては英雄だ」

「わかってる。無碍に扱う気はない」

「アル様はその方に手伝ってほしいことがあるだけなんです。どうか教えてください。その方はどちらにいらっしゃいますか?」

「……詳しい居場所はわからないが、一つ怪しいところがある」

「どこだ?」

「最近、空き家になった場所だが、ちょいちょい子供たちが飯を持って行ってる」

「なるほど。その空き家に案内してもらえるか?」

「構わんが、今は外層民が義賊の配りを期待してる。注意をそらさないと暴徒になるぞ?」

「それは問題ない」


 そう言って俺はフィーネを見る。するとフィーネは力強くうなずいた。

 理解していないガイがポカンとしているが、俺たちは構わず外に出たのだった。




■■■




「みなさーん! 配給はいっぱいあるので押さないでくださーい!!」


 そう言って大勢の外層民の前に立つのはエプロン姿のフィーネだ。

 フィーネの周りには亜人商会の職員や護衛たち。あとは何人かの騎士。


「外層民の気を引くために配給か。しかも蒼鴎姫直々に」

「そういうつもりで連れてきたわけでもないんだがな」

「ん? そうなのか?」

「単純に埋め合わせだよ。悪徳商人どもが帝都にいる貧困層を騙したり、ときには脅したりして金や荷物を巻き上げてた。分かった以上、埋め合わせは必要だ」

「国が埋め合わせるんじゃなくて、お前たちが埋め合わせするのか?」

「安心しろ。金は亜人商会が出しているし、レオは民に優しいっていう宣伝にもなる。必要経費だ。ちなみに城のほうに相談してもいいが、動くまでには時間がかかる」

「なるほど。どっちにとっても得ってことか」

「そういうこと。俺の懐も痛まんしな」


 そう言って俺とガイは目星をつけていた空き家に向かう。

 少しすると木で作られたボロ家が見えてきた。


「先に俺が入るぞ」

「気をつけろよ。エルナと打ち合える奴だからな。まぁ戦いに来たわけではないけど」


 警戒させないようにここにはガイと俺しか来てない。

 エルナなら不用心だといいそうだが、警戒されては元も子もない。

 それに俺なら大丈夫という自負もある。


「留守みたいだぞ」

「留守?」


 ガイの言葉を聞いて俺は家の中に入った。

 中には確かに生活感があるし、留守という表現は間違っていない。なにせ中には人間はいないのだから。

 しかし、しかしだ。


「……」

「……」


 棚の上にポツンと置かれた子熊のぬいぐるみ。

 茶色の毛並みやつぶらな瞳は確かにぬいぐるみのように見える。

 だが、昨日の今日でそれは無理があるだろ。

 俺は義賊の男に語り掛ける。


「さすがに無理だろ。諦めろ」

「……」

「ほう? あくまでぬいぐるみで通すつもりか?」

「お、おい……アル。大丈夫か? いきなりぬいぐるみに話しかけたりして」


 なぜか俺を心配するガイを睨む。

 この状況を見て、察しないなんて気が利かない奴だ。


「ちょっと黙ってろ」

「え? あ、はい……お喋りがしたいってことね……」


 なんかちょっと違った察し方をされたが、まぁいい。どうせあとでこいつもびっくりすることになる。

 俺は部屋を見渡す。こいつがあくまでぬいぐるみで通すというなら、こっちにも考えがある。


「食事をしようとしてたみたいだな。もったいないから俺が食べてしまおうかなー」


 俺はテーブルに乗っかっているパンを手に取ると、見せつけるようにパンをかじる。

 上質なパンではないが、他人に見せつけながら食べるというのはこれはこれで美味しい。

 なんか子熊の表情が少し変わった気がする。これは怒ってるな。よしよし、この調子だ。


「とりあえず自己紹介と行こうじゃないか。俺はアル。アルノルト・レークス・アードラー。この国の第七皇子だ。昨日はお前を捕まえるために囮をやってた」

「あ、アル……大丈夫か?」

「うるさい、黙ってろ」

「……オーケーだ。自己紹介は大事だもんな」


 ガイは何だか可哀想な人を見る目で俺を見てきた。

 こいつ……。

 思わずガイに食って掛かりそうになるが、今の標的はガイじゃない。

 俺は子熊に視線を戻す。


「お前が相手をしていた悪徳商人はもう捕まった。ある程度、捜査に区切りがつけば今度はお前が捕まる番だ。相手がだれであれ、盗みは犯罪だからな。そこで俺はお前をスカウトしにきた。俺に協力しろ。そうすれば保護してやる」

「あー、なるほど。義賊を前にしたときの予行練習か。悪かった、ちょっと痛い奴だと勘違いしてたぜ」

「黙ってろ。俺はこいつと喋ってるんだ」

「悪かった……うん、本当に、ごめんな……」


 救えない奴みたいな視線を向けてくるガイは無視して、俺は子熊だけを注視する。

 間違いなくこいつが昨日の襲撃犯だ。今の話に興味をもって話を聞いてくれると嬉しいんだが、動きはない。

 喋る熊の亜人なんて聞いたことないし、この姿には何か理由があるんだろう。おそらくそのせいで警戒心が強いんだ。

 どうにかこっちを信用させなきゃか。

 どうすればいい。どうすればこいつの心を開かせることができる?

 必死に思案していると扉が開く。

 すると、フィーネが顔を出した。


「アル様、ガイさん。義賊さんはいましたか?」

「いやぁ、それが留守らしくて」


 そうフィーネとガイが言葉を交わした僅かの間。

 俺が視線を戻したときにはもう棚の上の子熊はいなかった。

 しまった!? フィーネが開けた扉から逃げられる!!

 そう思って俺がフィーネの方を見たとき。

 予想外のことが起きた。


「美しいお嬢さん……ここで出会ったのも何かの運命。お名前をお聞かせいただけますか?」

「まぁ、可愛らしい子熊さんですね。私はフィーネ・フォン・クライネルトと申しますわ」


 ニッコリと笑ってフィーネは受け答えする。

 しかし、その反応は正常ではないだろう。

 正しくは。


「く、熊が喋った!?」

「だから言ったろ。こいつが義賊だ」

「本当だったのか……悪い、レオに相談しようかと思ってた」

「お前は……まぁいい。今はこいつだ」

「あなたのお名前は?」

「オレの名はジークムント・アイスラー。親しい者はジークと呼ぶ、フィーネ嬢もぜひそう呼んでほしい」


 その名乗りを受けて、俺とガイの表情が変わる。

 二人で顔を見合わせる。二人同時にそう感じたということは、おそらく勘違いじゃない。


「同姓同名のS級冒険者がいたな?」

「ああ。大陸全土に数多くいる冒険者の中で、最強の槍使いと評された男の名がジークムントだ」

「ほう? 俺を知ってるってことはお前さんも冒険者か。俺のことを知ってるなら下がってな。俺は今、フィーネ嬢と楽しくおしゃべり中だ」


 そうキリっと決めてジークはフィーネに笑顔で向き直る。

 たしかに聞いたことがある。その突きは神速にして不可避とまで称され、冒険者でありながら対人戦にめっぽう強い武人。

 単純な技巧だけでいえば間違いなく全冒険者の中でも五指に入る強者。

 それと同時にもう一つ噂も聞いている。


「たしかジークムントは大の女好きで、色んな女性にモーションをかけることで有名だった。ただ、半年くらい前からジークムントは音信不通になったはずだし、そもそも人間だったはずだぞ……?」

「それも女好きが絡んでるかもな」


 自然に人間が子熊に変身するわけがない。

 もしもこいつが本人だとしたら、何らかの魔法、もしくは薬で姿を変えたことになる。ただ望んで姿を変えるとは思えないし、たぶん女関係で何かあったんだろうな。

 そんな予想をしつつ、俺はフィーネに抱きつこうとするジークを思いっきり踏みつける。


「ふぐぁ!?」

「おい、女たらし。さっきの質問の答えを聞かせろ」

「なにしやがる小僧!? こんな愛らしい姿の子熊を踏みつけるとか、お前さんには情けがないのか!?」

「元は人間だろうが」

「聞いたか!? フィーネ嬢! こいつがイジメるよ~」


 そう言って泣き真似をしながらまたフィーネに抱きつこうとするが、俺はそんなジークの首に持ってきた首輪をつける。

 うちの爺さんの秘蔵品だ。俺が持ってる鍵を使わないかぎり、外すことはできない。


「なんだこりゃ!? 愛らしい外見が台無しじゃねぇか!? 外せ!!」

「それは魔導具だ。専用の鍵じゃないと外せない。できれば使いたくなかったんだが、仕方ないな」

「はっ! だからどうした! 鎖をつけなかったのが失敗だったな! 逃げてしまえばこっちのもんだぜ!」


 そう言ってジークは外へ逃げ出した。

 子熊なのに二足歩行で全力疾走する姿はなんかシュールだ。

 しかもかなり早く、どんどん遠くへ行ってしまう。


「んで? その魔導具の効果は?」

「すぐにわかる」


 見れば先ほどまで二足歩行していたジークは、いつのまにか四足歩行に切り替わっていた。しかもかなりのっそりと動いている。

 ほかの者から見ればふざけているように見えるが、これがあの首輪の効果だ。鍵を持っている者から離れれば離れるほど体が重たくなっていく。

 しばらく待っていると観念してジークは肩を落として戻ってきた。


「俺たちに協力するか? 捕まるよりマシだろ?」

「はい……させていただきます……」

「でもアル様。人探しを手伝っていただくのに、この首輪をしたままだと不便では? それになんだか可哀想です」

「鍵の所有者の判断で重さを感じる範囲は調整できる。あと、こいつに同情は不要だ。間違いなくろくでなしだぞ」

「なぜ決めつける!? 俺は不幸にもこんな体になったのに、最外層の困った人のために色々と頑張ってたんだぞ!」

「そうか。じゃあ、あれはなんだ?」


 俺は布に隠されている一角を指さす。

 ここに来る前からわかっていたことだ。

 こいつが襲撃した荷物は外層民に配られたりしているが、それなりの金も同時に盗まれている。だが、配られた金はどうも数が合わない。

 俺は布を取っ払う。

 するとその奥には大量の金が隠してあった。


「困った人たちから巻き上げられた金なら、すべて返すのが筋じゃないか?」

「いやぁ……あれですなぁ。正義のヒーローも無償ではちょっと……」


 視線を逸らすジークを見て、俺はため息を吐く。

 そしてガイと共にその金を没収する。

 すると、ジークが俺の足に縋りつく。


「許してくれぇ! その金でこの国の皇女に呪いを解いてくれって依頼するんだぁ! 頼むよ~オレを助けると思って!」

「皇女ってザンドラか?」

「そうそう。緑髪の皇女さんだ。きつそうな顔つきの」

「ならやめとけ。あいつは禁術研究は好きだが、人助けはしない。いいように利用されるか、実験体にされるだけだぞ」

「怖ぇこというなよ……しかし、よく知ってるな? もしかして本当に皇子なのか?」

「ああ、そうだ。さっき自己紹介しただろ?」

「いや、あまりにオーラがないからでまかせかと」


 なぜだろう。

 慣れているのに、こいつに言われると無性に腹が立つな。

 そんなことを思いつつ、俺はジークを抱き上げる。

 お、なかなかに抱き心地がいいな。


「やめろ! 男に抱きあげられる趣味はない!」

「仕方ないだろ。子熊に首輪をつけて歩かせていたら何事かと思われる。しばらくぬいぐるみのフリをしてろ。城でじっくり話を聞いてやる」

「やめろ! あっ! フィーネ嬢! そんな撫で方をされたらぁー!!」

「モフモフですねー」

「おっ! たしかにすげー触り心地だな」

「やめろ! 男が触るな! 可愛い子しか許さん! やめっ!」


 フィーネとガイにモフられたあと、ぐったりしたジークを俺は運ぶ。

 なかなか神がかった触り心地だったし、クリスタやリタにも触らせようと決めながら、俺はジークを馬車に乗せたのだった。

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