第八十六話 銀滅の魔導師
第三部ラスト!
「虚勢を張るな。貴様の力はわかった。私には及ばない」
フルカスは俺に見下したような視線を向ける。
これまでの手合わせで負ける要素がないと感じたんだろう。
たしかにこれまでの戦いで俺はフルカスにダメージらしいダメージを与えられていない。フルカスも俺にはダメージを与えていないが、フルカスはまだまだ本気じゃないことは明らかだった。
おそらく万が一に備えて、召喚者に抵抗するための力を温存していたんだろう。
だが、本気を出していないのは俺も同じだ。
「そうか……なら試してみろ」
抑えていた魔力を解放する。
リンフィアの妹を怖がらせないために、ここまで本気は出さなかったがもうリンフィアの妹は助けた。もう遠慮はいらない。
「何度も言わせるな。貴様の力など……私、には……」
「どうした? 及ばないならかかってこい」
フルカスも抑えていた力を解放したようだが、せいぜい先ほどの二倍といったところ。
対して俺の力は先ほどの十倍以上。
濃密な魔力が可視化できるほどまで高まっている。
ここまで本気で力を出すのは滅多にない。周りを巻き込まないように戦うのが難しいからだ。
「今回は久々に気を遣う人間が少ないからな……それなりに本気で行かせてもらうぞ?」
「少ないだと!? 下に数千の人間がいるのだぞ!?」
「最近の中じゃ少ないほうだ」
キールやアルバトロの公都に住む人たちに比べたら、数千なんて大した数じゃない。
一応、キールで張ったような治癒結界も使っているが密集しているため範囲も絞って使える。
建物にもそこまで気を遣わなくていいし、戦場の条件としてはまずまずだ。
フルカスはギリッと歯を鳴らすと剣を構えた。
「どれだけ力が大きかろうと! 使えなければ意味はあるまい!」
そう言ってフルカスは高速で俺に接近してくる。
魔導師は接近戦に弱い。そのことを知っているからこその戦法だろうな。
たしかに俺は武器を扱えない。体術も平均以下だ。それはシルバーになっても変わらない。
どれだけ身体能力を強化しても体術のセンスは上がらない。
だが、それなら体術のセンスが必要ない戦い方をすればいいだけだ。
「貰った!!」
フルカスが左から間合いに入ってくる。
俺は体を倒して一瞬で転移する。
場所はフルカスから離れた街の上空。
そこで俺は右手をフルカスに向けて呟く。
≪迸れ、血雷――ブラッディ・ライトニング≫
血のようにどす黒い巨大な雷がフルカスに向かって真っすぐ走る。
フルカスは咄嗟に剣でガードするが、堪えきれずにかなり遠くまで吹き飛ばされた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
フルカスはなんとか血雷を上に弾いて逃れるが、その体は大きな火傷を負っていた。しかし、人間なら動くこともできないほどの火傷だろうに、それが一瞬で治癒した。
バラムとは違って死体を依り代としているせいか、悪魔としての要素が強く出ているらしいな。
「どうだ? 俺の力はだいぶわかってきたか?」
「調子に……乗るな!!」
そう言うとフルカスは数メートルはあろうかという巨大な剣を五本作り出して、俺のほうに飛ばしてきた。
高速で飛来するその大剣たちは、まるで獰猛な鳥だった。
連携を取りながら俺を追い詰めてくる。
空を飛んで躱すが、躱した傍から別の大剣が俺の死角から舞い込んでくる。
そうして大剣とチェイスをしている間にフルカスが俺の下から接近していた。
「これで転移はできまい!!」
「舐めるな」
俺は結界で大剣を囲って動きを止めると、そのまま単調に突っ込んできたフルカスにカウンターで右ストレートを繰り出す。
その右ストレートは巨大な半透明の拳の形をとって、まだ距離があるフルカスを吹き飛ばす。
「ぐおお!!??」
マジックハンドという仮想の手や足を作り出す魔法の発展形だ。
魔法の拳を受けたフルカスは地面に叩きつけられた。
大きくバウンドしたフルカスに対して、俺は蹴り飛ばす動作をする。エルナが見たらセンスがないと言いそうなローキックだが、適当に吹き飛ばすだけならこれで十分だ。
巨大な足が形作られ、フルカスを真横に吹き飛ばした。
「ぐっ! くっ! うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
何度も地面に叩きつけられながら、フルカスは剣で地面を突き刺してなんとか止まろうとする。
しかし、止まった結果、フルカスは更なる攻撃を受ける羽目になった。
≪大地の王よ、不遜なる者を誅せ――アース・クエイク≫
フルカスが着地した大地がどんどん隆起し、やがてそれは巨大な土の槍となってフルカスを襲う。
フルカスは空に逃れようとするが、その槍はフルカスを捉えるまで増え続け、伸びるのをやめない。
「ちっ! 厄介な魔法ばかりを!!」
キリがないと察したのかフルカスは剣に闇を纏わせて思いっきりそれを放つ。
その技で土の槍は粉々に砕けて大地へと還っていく。
「はぁはぁ……」
「随分疲れたようだな? 休むか?」
「くっ……なぜだ? なぜ最初から本気で戦わなかった?」
「本気で戦ったら怖がらせるのでな。お前の召喚者を」
「それだけ……? たったそれだけのために本気を出さなかったのか!?」
フルカスは信じられないと言わんばかりに目を見開く。
まぁそうだろうな。
最高の結果を求めて、俺は動く。そのことを批難する奴らもいる。たった一つの村のためにあえて不利な場所で戦うこともある。たった一人のために戦闘が長引くこともある。
犠牲にすればいいと多くの者がいう。仕方ない犠牲だと。それで多くの犠牲が出たらどうするのかと。
正論なのだろう。
だが、それに従う義理も義務も俺にはない。
「それだけだ。力を持つ者には責任があるという奴らがいる。いい加減な言い分だと思うが、正しい側面もある。手が届くならば助けるべきだ。しかし、悔しいが俺も人間でな。手の届かない者たちは助けられない。だからこそ、手の届く者たちは全力で守ると決めている。たとえ不利になろうと、たとえ愚かと呼ばれようと、それが俺の冒険者としての信条だ」
「理解できんな……強い者が正しい! それが魔界の摂理だ!」
「魔界はそうかもしれんな。だが、ここは地上だ。この世界にはこの世界のルールがある」
「そのルールは強者が決めるものであろうが!!??」
「ああそうだ。そしてこの場の強者は俺だ。つまりここでは――俺がルールだ」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!!!」
俺の言葉にフルカスは激昂しながら先ほど以上の闇を剣に纏わせる。
そしてそれを俺に向かって振りぬいた。
悪魔としてこれ以上、俺の不遜を見逃せないらしい。人間ごときに舐められたとあっては、悪魔のプライドが許さないんだろう。
だが、それは純然たる事実だ。
フルカスの放った闇の斬撃は俺が用意していた結界に受け止められる。
相手の攻撃を吸収する結界だ。
「お前は召喚された時点で移動するべきだった。ここに拠点を構えてほかの悪魔を連れてこようって考えが傲慢だ」
「一番傲慢なのは貴様だろう!!」
「否定はしないな」
フルカスは結界を破ろうとさらに力を込めて、斬撃の威力をあげるがこの結界は並大抵のことじゃ破れない。
俺に準備させた時点で正面突破を諦めるべきだったな。
フルカスは俺を睨むが、俺はそんなの気にしちゃいない。
俺を見るのはフルカスだけじゃない。多くの者が俺を見ている。
SS級冒険者のシルバーを。
「SS級冒険者は……ほかの冒険者とは違う。誰もが〝シルバーなら〟と思う。そう思われる存在でなければいけない。そして今日、未来の皇帝がそんな俺に本気を見せてみろと言った。我を通すのに力を貸せと。ならば見せてやらねばならんだろう。決意への返礼だ」
そう言って俺は吸収した力をすべて魔力に変換し、大魔法の準備に入る。
それを察したのか、フルカスは俺の邪魔をしようとするが、飛び出てきた鎖がフルカスを縛りつける。
「これは……!!??」
「そこでジッとしていろ。この魔法は少し時間がかかる」
これを使うのはいつぶりだろうか。
帝位争いが始まって、暗躍してレオを押し上げることばかりを考えていた。
守るべきモノが多くなって、やるべきことが増えていって、戦いにだけ集中することはなかった。
昔は楽だった。
一人で戦って、強い相手を倒せばそれでいい。単純で明快だった。シルバーとして戦っている時は楽だった。
それでも全部承知でレオを後押しすると決めた。
それが間違いじゃなかったとレオは証明してくれている。成長し、かつて見た理想の皇帝に近づいてくれている。いつかきっとレオは誰もが称賛する皇帝になれる。その可能性を示してくれた。
なら俺も楽ばかりはしてられない。
ここらで一つ。すべての人間に思い出させる必要がある。
シルバーは畏怖すべき存在なのだと。
≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫
銀の仮面を被っているからシルバー。
そんな単純な理由でシルバーと名乗っているわけじゃない。
≪銀星は星海より来たりて・大地を照らし天を慄かせる≫
古代魔法にもいくつか分類が存在する。
その中でもとりわけ強力な魔法。
俺が最も得意とする魔法の分類がある。
その名は銀滅魔法。
俺が古竜を討伐した魔法であり、冒険者として初めて使った魔法であり、シルバーの象徴。
≪其の銀の輝きは神の真理・其の銀の煌きは天の加護≫
冒険者になると決めたとき。俺は手始めに帝国近辺で活動期を迎えた古龍を討伐し、手土産としてギルド本部を訪れた。
冒険者登録もしていない俺だったが、討伐隊の冒険者たちが俺の成果を報告し、俺は例外としてSS級冒険者に任命された。
≪刹那の銀閃・無窮なる銀輝≫
シルバーという名はその時つけられたものだ。ある意味、この名は二つ名に近い。
シルバーの名は伊達じゃないってことだ。
≪銀光よ我が手に宿れ・不遜なる者を滅さんがために――≫
俺の両手の間に強い輝きを放つ銀色の球が現れる。
そこから発せられる超大な力を感じたフルカスは、力を振り絞って呪鎖から逃れて迎撃態勢をとる。
大した奴だ。呪鎖から逃れたところを見ても、二人でS級モンスター扱いだった吸血鬼たちよりも遥かに強いことは間違いない。しかしもう遅い。
銀光はすでに俺の手の中にある。
≪シルヴァリー・レイ≫
銀の球を押しつぶすと俺の周囲に巨大な光球が出現する。
それはフルカスに狙いを定めると銀の光を発射した。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
フルカスはその銀光に対して最大級の攻撃をぶつけ、相殺を試みる。
長い間の均衡の末、フルカスはなんとか相殺に成功する。
「見たか! 貴様の最大の魔法は……」
意気揚々としていたフルカスはすぐに言葉を失う。
俺の背には七つの光球があり、それぞれが下にいるモンスターたちに向かって先ほどの銀光を放っていたからだ。その姿はまるで神が天罰を下しているようにも見えただろう。
シルヴァリー・レイは超広範囲殲滅魔法。俺が敵と認定した者を光球が自動で討ち滅ぼしていく魔法だ。
残念だが、フルカスが相殺したのは拡散した一発に過ぎない。
「馬鹿な……」
あれほどいたモンスターたちがすべて消滅した。
残るはフルカスのみ。
俺は呪鎖を使って再度フルカスを縛り、街の中心に空いた穴の上まで連れてくる。それと同時に七つの光球がすべてフルカスに狙いを定めた。
「貴様は……何者だ……?」
「SS級冒険者のシルバーだ。もしも生きて魔界に戻れたならちゃんと広めておけ。地上にはヤバい奴がいるとな」
「おのれ……!」
「これは俺からのプレゼントだ。わざわざ団体で来てくれているんだ。光も見れずじまいじゃ可哀想だからな」
そう言って俺は右手を上げる。
それを振り下ろせば七つの光球が一斉に銀光を放つ。
フルカスはそれを察して静止の声を出す。
「ま、待てっ!?」
「待たん」
そう言って俺は腕を振り下ろす。
光球がひと際強い輝きを放ち、集束された銀光が発射された。
それはまるで星々の光のように綺麗で、眩しいほどに輝いていた。
一瞬で銀光はフルカスを飲み込むと、穴へと入ってこちらに向かっていたであろうモンスターやら悪魔やらを殲滅する。
少しずつ縮小している穴に合わせて、銀光もどんどん細くなっていく。
そして最後はゆっくりと手を握っていき、拳を作ったところで銀光の照射は終わり、穴も完全に閉じ切った。
シルヴァリー・レイによってモンスターは一掃した。
悪魔たちも消え去った。
黒い球体に閉じ込められていた子供たちも助けた。
戦場にいた騎士や冒険者もできる限り助けた。
上々の結果と言えるだろう。
だから俺はすべての冒険者に宣言した。
「目標となっていたモンスターの討伐を確認した! 南部の異変はこれで終息するだろう! よって! ここにレイドクエスト〝蒼鴎の救援〟の達成を宣言する! 我々の勝利だ!!」
待ってましたとばかりに冒険者たちが歓声をあげる。
それにつられて騎士たちも剣を高々と掲げて勝利の雄たけびをあげている。
やがてすべての者が手を掲げて勝利を祝した。
ここに帝国を揺るがしかねなかった南部の異変は解決された。
やることはまだまだある。後始末も忙しいだろう。
それでも今はこの勝利を喜ぼう。
勝ったということ以上に価値あるモノがあった。
得たモノは大きい。
これでレオは英雄であり、南部には皇帝自らの調査が入る。
「そろそろ反撃の頃合いかもな」
そんなことを呟きながら俺は、帝都の冒険者たちを帰還させるための転移門を作り始めたのだった。
はい! というわけで第三部終わりましたー!
なんとか一か月で終わらせることができましたね笑
またちょっと間隔置いたあとに第四部を始めたいと思いますm(__)m
第四部はより面白く、より物語を動かせるように頑張ります。
これからも応援よろしくお願いします('◇')ゞ
それはそうと作者から読者の方々に大魔法を放たせていただきます(/・ω・)/
スニーカー文庫様より書籍化することが決定いたしました('ω')ノ
イエーイ\(゜ロ\)(/ロ゜)/
いやーこの話の最後にもってこようと決めてたんですよねー。
詳細はおってお知らせることになるかと思います。
ではでは、第四部にてお会いしましょう<m(__)m>
タンバでした