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第八十四話 聖炎

実はですね、前回の更新時にちょうど投稿から二か月立ってました('ω')ノ

休憩を挟みつつではありますが、一応三十五万字、第三部終了間際まで来ました。

これも皆さんの応援のおかげです。あと数話で第三部は終わると思いますが、お楽しみいただけるように全力を尽くします。お付き合いいただければ幸いですm(__)m



「雑魚に構うな!」


 先頭を行くリーゼが声をかける。

 その言葉通り、リーゼたちは敵を倒すことよりも先に進むことを優先していた。

 彼らの狙いはただ一つ。

 リンフィアを黒い球体の場所まで連れていくことだったからだ。

 そんなリンフィアの傍にいたアベルは空を見ながらつぶやく。


「SS級冒険者がサポートに入ってくれると、やることが少なくて助かるぜ」

「そうですね。彼が来てくれたのは幸運でした」


 ドラゴンゾンビやジャイアント・スケルトンといった強力な敵の相手を務めつつ、リーゼたちの周りにいるスケルトンも可能な限り削ってくれている。

 考えうる限り最高の援軍だった。

 しかし、なぜ笛を吹いたことでシルバーが来たのか。

 疑問がよぎるが、すぐに振り払う。

 それを考えるのは今ではない。

 リンフィアは槍の形状にした魔剣を振って、スケルトンを蹴散らす。


「前に出ます」

「お、おい!? お前を守るためにみんないるんだぞ!?」

「どうせ何もせずに街にはたどり着けません」

「ふっ……気に入ったぞ、冒険者。名前を聞いておこう」

「リンフィアといいます」

「私はリーゼロッテだ。知っているか?」

「存じています。皇族最強の元帥にしてレオナルト殿下とアルノルト殿下の姉上である、第一皇女殿下ですね」

「アルも知っているのか?」


 レオの姉と呼ばれることは慣れていたが、アルの姉と呼ばれることは少なかった。

 それだけアルが話題に上らない皇子であるということだ。逆の意味では話題に事欠かない皇子ではあるが。

 しかし、そんなアルの話題に対してリンフィアは好意的な笑みを浮かべた。


「はい。一番最初に私に手を差し伸べてくださったのはアルノルト殿下でした」

「アルが? 意外だな」

「私も意外でした。ですが、あの方は世間で言われているような方ではなかった。レオナルト殿下もアルノルト殿下も他者のために動ける方です。こんな私にも力を貸してくださっています」

「レオはともかく、アルは買いかぶりだな。そうは思わないか? レオ」


 あろうことかリーゼは迫るジャイアント・スケルトンに対処していたレオに話を振った。

 さすがにレオも大して話を聞いていなかったのか、大きな声で問い返す。


「え? なんですか!?」

「姉の話くらい聞いておけ」

「大事な話をするなら時と場所を選んでください! 僕はあのモンスターを止めてからいきます! 先に行っていてください! ちゃんとリンフィアを頼みますよ!」

「ああ、任せておけ。お前も気をつけろ」

「ええ、姉上も」


 そんなをやりとりをしたあと、レオは一団から少し離れて騎士たちと共にジャイアント・スケルトンに対処しに行く。

 空では複数のドラゴンゾンビをシルバーが相手している。

 いよいよ街が近いのだ。


「よいのですか? レオナルト殿下を行かせて」

「私の弟だ。心配はいらん。それで何の話だったか?」

「アルノルト殿下を私が買いかぶっているというお話です」

「そうだったな。レオは善意だけでお前を助けることもあるだろう。だが、アルは違う。本当に何もない人間は助けない」

「そうでしょうか?」

「そうだ。あれが人を助けるときは助ける価値があるときだ。多くの者から見れば気まぐれに見えるかもしれないが、アルにはちゃんと基準がある。助けるだけの能力を持っているか、助けるだけの大義を持っているか、助けるだけの信念を持っているか。アルはそういうところを見る。だから胸を張れ。アルが助けたならば、お前はアルに認められたということだ」


 そう言ってリーゼは前方にいるスケルトンたちを斬り飛ばしていく。

 そのままその空間に馬を割り込ませ、さらにスケルトンを切り伏せる。


「アルがお前の手を引き挙げ、レオがお前と共に歩んだ。ここからは私がお前の道を切り開こう。だが、私はともかく私の弟たちの助力を無駄にすることは許さん。必ず妹を助け出せ。絶対にあきらめるな」

「はい!」


 リーゼの言葉に答え、リンフィアは進む。

 その後ほどなくして、リンフィアたちはバッサウの街に入ることに成功したのだった。




■■■




「今だ! 足を攻撃しろ!」


 レオは騎士たちを率いて、ジャイアント・スケルトンの相手をしていた。

 巨大なジャイアントスケルトンの足を騎士たちが一斉に攻撃し、ジャイアント・スケルトンはたまらず転倒する。その隙を逃さず、騎士たちは止めを刺す。


「もう一体来ます!」

「突撃体勢! 姉上たちに近づけさせるな!」


 レオはその場にいた騎士をまとめあげ、ジャイアント・スケルトンを討伐しにかかる。

 だが、突如レオの後ろで何かの気配がした。

 咄嗟にレオは馬から飛び降りて、その気配から逃れる。


「ぐっ……」


 地面に転がりながら落ちると横腹が異様に熱かった。

 そっと手を当てるとべっとりと血がついた。


「勘のいい皇子だ」

「バラムか……」


 不可視になる能力を持つ悪魔、バラムがそこにはいた。

 持っている剣には赤い血がついている。

 レオの血だ。咄嗟に逃げていなければ死んでいたかもしれない。

 そんなことを思いながらレオは立ち上がる。

 傷は出血こそひどいが、浅い。戦うには問題のない傷だ。


「殿下! 今まいります!」

「半数はジャイアント・スケルトンを止めにいくんだ! 残りの半数は周囲の敵を頼む……バラムの相手は僕がする」

「しかし、お怪我を!」

「バラムの狙いは僕だ。不可視になれるバラムが狙ってくるなら、相手をするしかない」


 そう言ってレオは剣を構えた。

 逃げたなら背後から奇襲しようと思っていたバラムは舌打ちをする。

 悪魔といえど戦闘に向いているタイプとそうでないタイプがいる。バラムはさほど戦闘が得意なタイプではないうえに、人間への憑依も不完全だった。

 フルカスは憑依したのが死んだばかりの人間だったが、バラムはまだ生きている人間だった。そのため、悪魔としての力を存分に発揮できる状態ではないのだ。

 そんなバラムにとって逃げてくれたほうが好都合だったのだが、レオはそれを見透かしたように戦うことを挑んできた。


「小賢しい皇子だ」

「お褒めの言葉と受け取っておこう」


 じりじりと二人の間で緊張が高まる。

 そんな中、空からシルバーが降りてきた。


「助太刀しよう」


 バラムは強力な援軍が来たことに顔をしかめる。

 フルカスの攻撃を受け止められる者が相手では、バラムに勝ち目はない。

 しかし、この仮面の男がここにいるということはフルカスに対抗できる者もいないということだ。

 敵の士気をくじくために皇子を狙ったが、それ以上の効果があったとバラムはほくそ笑む。

 だが。


「不要だ。リンフィアを追ってくれ」

「不要には見えないが?」

「彼女には君が必要だ。行ってくれ」


 レオは前に出て、シルバーにそう告げる。

 しかし、シルバーは引き下がらない。


「はいそうですかと言うわけにはいかない。君に死なれると俺も困るのでな」


 シルバーはレオの横腹の傷を治癒魔法で治す。

 だが、レオは礼を言わないどころか、シルバーを睨む。


「ふざけたことを言うな……! 僕の命よりも子供の命を心配しろ! そのためにここへ来たんじゃないのか!?」

「こいつを片付けたら後を追う。心配するな」

「僕に構うな……。今すぐ行くんだ」

「しかし……」

「しかしじゃない! 僕を認めているというなら行け!」


 レオは強い目をシルバーに向ける。

 そのレオの目はシルバー、いやアルが今まで見てきたレオの目からは一線を画する強さを放っていた。


「僕は僕が理想とする皇帝を目指す……その一歩が子供たちの救助だ。騎士も冒険者も多く動員し、僕は我を通した。ここまでして子供たちを救えないなんて……僕は認めない! 僕らは必ず子供たちを救い出し、この異変を解決する!! 行け! シルバー! SS級冒険者であるというなら僕にその力を見せてみろ!!!!」


 それは怒号といってもいいほどだった。

 レオのそんな姿を見たのはアルにとって初めてだった。

 だからアルはそっと地面を蹴って空に浮いた。


「ならば見せてやろう。見届けるまでは死ぬなよ。レオナルト皇子」

「安心してくれ……僕は皇帝になる男だ。ここじゃ死なない」

「そうか……」


 そう言うとアルは街のほうへ転移する。

 そしてレオの強い目はバラムに向く。


「来い……バラム。帝国皇子の名の下に、帝国に災禍を巻き起こすお前を処断する!」

「やれるものならやってみろ!」


 そう言ってバラムとレオの戦いが始まった。

 剣と剣がぶつかり合う。いつものレオならば冷静に相手の状況を見極めながら戦ったかもしれない。

 だが、今のレオはいつもとは違った。


「はぁぁぁぁ!!」

「くっ」


 怒涛の連撃を受け、片腕のバラムは防戦一方で下がる。

 そしてレオの一撃がバラムの剣を叩き折った。


「うぉぉぉぉぉ!!」

「ちっ!!」


 レオは手首を返してバラムの残った腕を狙う。

 その瞬間、バラムは不可視となってその場から逃げた。


「消えたか……」


 レオは周囲の音と気配に集中する。

 この程度で退くくらいなら初めから襲撃してはこない。

 必ず自分を狙ってくる。

 その確信がレオにはあった。

 そしてそれは当たった。


「はっ!」

「ぐっ……」


 いきなり背後に現れたバラムがレオの背中を浅く斬る。

 その手には短剣が握られていた。

 レオは振り返って剣を振るが、その頃にはバラムの姿はなかった。

 思わず柄にもなく舌打ちをしたレオは、周囲を見渡す。

 だが、バラムを見つけることはできず、今度は横から現れたバラムによって左足を刺される。


「うぐっ……」

「無様だな、皇子」

「このっ!」


 レオはバラムに剣を振るうが、バラムは悠々と距離を置いてまた不可視となる。

 頭に血が上っていることを自覚し、レオは深く息を吐く。

 次はどこからくるのか。どう反撃するべきなのか。

 それを考えているとき、レオの頭にアルの顔がよぎる。

 騙し合いはアルの領分だ。どうすれば相手の意表を突けるか。


「兄さんなら……」


 レオは少し考え、剣を鞘にしまった。そして目を閉じて気配にだけ集中する。

 相手の武器は短剣。致命傷を与えるには急所を狙うしかない。そして可能性が一番高い攻撃は突き。まだまだ余裕のあるバラムは無理はしないだろう。

 ならば狙う場所は心臓。心臓への突きだとあたりをつけたレオは、背後に気配を感じた瞬間。

 体を右にずらした。

 しかし、左肩に熱が走る。そして鋭い痛み。

 見れば短剣が左肩に深く刺さっていた。


「反撃を諦め、避けに徹すれば避けられると思ったか?」

「いや……僕は何も諦めちゃいないよ……」


 そう言ってレオは歯を食いしばり、体をずらして右手でバラムの首を掴む。

 そしてへし折れろと言わんばかりに力を籠めると呟いた。


≪その炎は天より舞い降りた・善なる者たちを救うために・至上の聖炎よ・気高く燃え上がれ・魔なる者を打ち滅ぼさんがために――ホーリー・ブレイズ≫


 五節の現代魔法。

 アンデッド系モンスターに多大な効果がある聖魔法だ。広く普及している現代魔法の中でも高度で使用者の少ない魔法だが、レオは多くの魔法を満遍なく習得しており、この魔法もちゃんと習得していた。いつか自分が困らぬように。

 レオの右手に聖なる炎が生まれ、バラムだけを燃やす。レオの手は何の影響もうけない。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!!??」

「逃がさない……」


 逃げる素振りを見せるバラムは、レオの右腕を力いっぱいに握るが、レオはバラムを決して放さずにどんどん聖炎を強めていく。

 やがてバラムは抵抗をやめたが、レオはその身が完全に塵となるまで燃やし続けた。


「はぁはぁ……」


 塵となり、風と共にその塵が舞ったのを見て、レオは鞘から剣を抜いて高く掲げる。


「帝国第八皇子、レオナルト・レークス・アードラーが悪魔を討ち取った!!!!」


 その瞬間、その場にいた騎士たちが勝鬨をあげた。

 そしてレオは街の方を見る。


「頼んだよ、リンフィア……」


 その瞬間。黒い球体が強い光を発したのだった。



 

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