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第八十二話 霊樹の笛

はい、というわけで新元号が発表されましたねー。

令和ということで、なかなか慣れるまでに時間が掛かりそうですがみんなで慣れていきましょう('ω')ノ


四月になったということで感想欄をまた開きます。

できるだけ返信もしますが、荒れそうだなぁと思った感想やそれを書く人には対応していこうと思います。

感想欄は作者の管轄らしいので、ご了承ください<m(__)m>

感想欄荒れてるだけで読んでくれない人とかいるからね! 仕方ないね(/・ω・)/

ではでは。



 少し時は遡る。

 レオが放った別動隊がスケルトンの軍団に突入し、レオたちもバッサウに向けて突撃を開始した頃。

 ようやくリーゼたちはバッサウを遠目に捉えたところだった。


「見渡す限りモンスターですな」

「しかし、その中を進む者たちもいる」


 遠目ゆえにわからない。

 それでもリーゼには確信があった。あそこにレオがいると。

 馬を走らせながらリーゼは目を瞑る。

 かつて歯を食いしばって自分を止めた弟。自らが信じることに真っすぐな弟は、今も歯を食いしばり、正しいことを成そうとしているのだろう。

 ならば姉としてできることはひとつ。


「我々も突入するぞ!」

「はっ!」


 リーゼが加速すると千騎が追随する。

 彼らは冒険者でも騎士でもない。リーゼの下で長く戦い続けてきた精鋭の騎兵連隊だ。

 今更士気をあげる口上など不要。

 誰もがリーゼに命を捧げ、死んで来いと言われれば死んでくる軍人だ。


「連隊長! あれを使うぞ!」

「了解しました!」


 指示を受けた連隊長は右手をサッと上げる。

 それを合図として後方にいた百名が前に出てくる。

 彼らの手にはクロスボウが握られていた。しかし、それはただのクロスボウではなかった。

 クロスボウの下部には円形の筒が取り付けられており、その中央には小さな宝玉が埋め込まれていた。


「〝試製回転式魔導連弩〟の準備が整いました!」

「よろしい。私の前の障害物どもを駆逐せよ」

「了解いたしました! 狙いは正面のモンスター! よく狙う必要はない! 敵だらけだ! 撃てば当たるぞ! 構え! 放てぇぇ!!」


 連隊長の号令を受けて百名の兵士が連弩の引き金を引く。

 すると宝玉に込められている魔力によって、引き金を引き続けている間、絶えず矢が放たれだした。

 下部に取り付けられた円形の筒は回転しながら矢を補給し、連射を助けている。

 通常では考えられない連射速度で放たれた矢は次々とスケルトンに命中し、その体を粉砕していく。

 その攻撃で生まれた隙間を狙って、リーゼは突撃していく。


「よい兵器ですが、撃ち切ったあとが問題ですな」

「それは開発者の仕事だ。私たちにできるのは注文をつけることだけだ」


 宝玉の魔力を使い切った試製回転式魔導連弩は人の手では撃てない連弩となり、鈍器としか使えなくなる。

 新兵の練兵と共にこの武器の評価訓練をリーゼは後方で行っていたのだ。

 しかし、思いもかけないところで実戦テストができた。


「今回のことを報告して、筒を付け替えられるように要請しましょう。さすがに使い切りの武器では用途が限られます」

「そうだな。それと対モンスター戦用の兵器も注文するとしよう」

「名案ですな」


 そんな相談をしながらリーゼと連隊長はそれぞれ武器を握って道を切り開く。

 連弩は対人間を想定した武器のため、スケルトンへの効果はいま一つだった。貫通したところで核を破壊されるまでは痛みも感じずに動き続けるスケルトンとは相性が悪いのだ。


「ふっ……こういうのは久しぶりだ」


 少数の味方を率いて、敵に突撃する。

 かつては幾度も行った行為だが、今はほとんどしなくなった。するような相手もおらず、していい立場でもないからだ。

 しかし、リーゼはその状況に充足感を覚えていた。

 敵意を間近で感じながら、それでもと前に進む。一瞬の気の緩みも許されず、か細い勝利の道を辿る。

 そうだ、とリーゼは告げる。


「これが戦場だ……!」


 そう言ってリーゼは鮮烈な印象を受ける笑みを浮かべながら、敵の大軍を切り裂いていく。

 長くリーゼに仕えてきた連隊長には、かつて各地の戦場を荒らしまわり、列国から姫将軍と恐れられた頃のリーゼに今のリーゼは重なって見えた。

 皇太子が亡くなり、活力が失せ、ただ国境守備にだけ注力するリーゼではない。

 戦場でこそ輝くかつてのリーゼだ。


「どうした! 連隊長! 遅れているぞ?」

「はっ! ただいま!」


 連隊長はリーゼに声をかけられ、すぐにリーゼの後を追う。

 そしてリーゼたちはレオたちの姿を捉えたのだった。




■■■




「姉上……!?」


 驚いた様子を見せるレオを見て、リーゼは小さく笑う。

 アルを見て大人になったと思った。

 しかし、今のレオはそれ以上だった。

 一軍の先頭を率いて戦う姿はまさしく将軍であり、この人のためにと後ろの者に思わせるカリスマ性を放っていた。

 その姿は、リーゼが将として支えると誓った若き頃の皇太子に似ていた。


「あながち大言壮語でもないのだな……」


 俺たちは二人でなら長兄だって超えられる。

 アルはたしかにそう言った。今のレオを見れば、それが虚勢ではないことがうかがえる。

 真っすぐなレオを柔軟なアルが補佐すれば、あるいはと思わせるだけの雰囲気があった。

 だからだろう。リーゼは敵を前にしながら嬉し気に呟いた。


「背が伸びたか?」

「え、あ……はい、少しは」

「そうか。良いことだ。もっと大きくなれ」


 それまでは私が守ってやろう。

 そう言ってリーゼは左手を斬り飛ばされたバラムを見据える。

 レオとリーゼが喋っている間、バラムは幾度か攻撃をしようとした。しかし、その都度、リーゼの右腕が反応するため、結局攻撃することは叶わなかったのだ。


「悪魔というわりにはやけに人間的なのだな」


 リーゼは再生しない左手と傷口から流れる赤い血を見る。

 それなりにランクの高いモンスターなら再生してもおかしくない程度の傷だが、目の前の悪魔は再生しない。

 リーゼはそこから一つの答えを導き出す。


「人間を依り代にしているのか?」

「察しがいいな……? しかし、わかったところでどうなる?」

「まだまだ手遅れではないということだ」

「どうかな? 貴様らに増援が来たならばこちらも遊びはお終いだ」


 そう言ってバラムは残った右手を高く掲げる。

 するとその手の先が黒く光る。

 その光に釣られるようにしてバッサウの街から、三メートルはあろうかという巨大なスケルトンや、腐敗した体を持つドラゴンゾンビなどの高ランクのアンデッド系モンスターが出現してきた。


「さっさと逃げることだな」


 そう言ってバラムは透明になってその場から消え失せた。

 残されたリーゼとレオは決断を迫られていた。


「さすがに戦力差が大きすぎるな」

「しかし、ここで退けば次にここまでバッサウに近づける機会がいつになるかわかりません」

「……答えは決まっているという顔だな?」

「元々、退くつもりなんてありませんよ。悪魔が依り代を必要とするなら今、ここで叩く必要があります。ここで放置すれば人間社会に紛れ込まれます」

「倒せる保証は?」

「ありません。しかし、それは退いても同じことです。いくら大軍を率いてきても相手は今のように幾度もモンスターを出現させる。今はピンチでもあり、チャンスです」


 そうはっきりと告げたレオを見て、リーゼは再度笑う。

 そしてこちらに真っすぐ向かってきた巨大なスケルトンを真っ二つにする。


「では行くか。遅れるなよ?」

「もちろんです」

「突撃する! 目標はバッサウ!」

「続け!!」


 こうしてレオとリーゼは一緒になってバッサウに突撃を開始したのだった。




■■■




 レオたちが突撃を開始してしばらく。

 リンフィアとアベルたちは先頭集団に合流しつつあった。

 しかし、バッサウに近づけば近づくほど、敵の抵抗は強く激しくなっていく。


「くっ!?」


 アベルやリンフィアでも苦戦するモンスターが増え始め、進軍速度は明らかに衰え始めていた。

 このままでは。

 そうリンフィアの心に焦りが生まれ始めたとき。

 ドラゴンゾンビが放った火球がリンフィアの傍に着弾する。

 衝撃でリンフィアは吹き飛ばされ、先頭集団からはじき出されてしまった。


「ぐっ……」


 リンフィアは痛みをこらえ、剣を杖にしながら立ち上がる。

 見ればスケルトン軍団のど真ん中に吹き飛ばされていた。

 スケルトンたちは少しずつリンフィアの傍に近づいてくる。

 なんとか動こうとするが、体が思ったように動かない。

 そんな中、服のポケットから一本の笛が零れ落ちた。

 いつぞやのドワーフの老人がくれた、霊樹から作られた笛だ。

 誰かに頼ることは間違いではない。老人の言葉が蘇る。このような死地で吹き、味方を呼び寄せるなどできないという思いもあった。

 だが、それ以上に妹を見つけるまでは死ねないという思いが勝った。


「お借りします……!」


 リンフィアは笛を掴んで吹く。

 しかし音は出ない。

 何度吹いても音は出ない。

 あの老人が不良品を渡したのだろうか。

 ありえるとリンフィアは思い、ため息を吐いてそっと笛をポケットにしまう。

 だが、その笛の音はたしかに届いていた。

 遠く遠く帝国の中心。

 帝都まで。

 冷静に気持ちを切り替え、リンフィアはなんとか魔剣を構えて迫るスケルトンたちを迎え撃とうとしたその時。

 リンフィアの傍にいたスケルトンたちが一瞬で吹き飛ばされた。


「っ!? なにが……?」


 またドラゴンゾンビの火球かとリンフィアは身構えるが、その緊張は後ろから聞こえてきた声で解かれる。


「無事か? いつぞやの女冒険者」

「……どうしてあなたが……?」

「レイドクエストと聞いてな。ほかの奴らも連れてきた」


 その瞬間。

 リンフィアの後ろで開かれた巨大な転移門から帝都支部の冒険者たちが声をあげながらスケルトンの軍団に突っ込んだ。

 数百の冒険者が現れ、周辺にいたスケルトンを討伐していく。

 そんな冒険者たちの中心。

 最大の救援者が告げた。


「立てるならついてこい。稼ぎ時だ」

「はい……! シルバー……!」


 そう言ってリンフィアは仮面の冒険者の後を追ったのだった。


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