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第七十七話 体を張る理由

皆さん、おめでとうメッセージありがとうございます!


色々と提案していただいたんですが、準備もせずにやるのはちょっと難しくて二回更新になりましたね笑

唯一、お姉さまのお色気というのは可能性あったんですが、ザンドラのキャラではないのと、需要を見いだせなかったので断念しました(´・ω・`)

期待していた人はすみません<m(__)m>



 俺とリーゼ姉上は騎兵連隊を引き連れて、全力でかけていた。夜を徹して走ったが、いまだユルゲンには追い付かない。

 光の道は特殊な光る石を棒に固定して形作られていた。昼間では普通の石だが、夜間だとしっかりと光る。別に高価な石ではない。子供が山に登って取ってくるくらいだ。

 しかし、その数が尋常じゃない。

 未完成と聞いていたが、どこまで伸びているのやら。


「国家の協力もなしによくこんなことができましたね」

「ユルゲンは多くの商人と繋がりがあるからな。それとあいつはつい最近までエリクと協力関係にあった。その影響も大きいだろう」

「怖い人だなぁ」


 エリクすら利用してたか。

 帝位争いに関わらない公爵家はない。

 たしかにユルゲンはエリクと繋がっている商人と付き合いがあった。何故エリクなのかといえば、最有力の候補であるということ、そしてたぶんこれが一番の理由だが。


「ゴードンは今のところ私に敵意を向けていないが、気質的に皇帝になれば私と衝突する。ザンドラは言うまでもないだろう。だからユルゲンはエリクと接触していた。本人談だから間違いない」

「なんでも姉上優先なんですね」

「好きにしろと言った結果だ。私が頼んだわけじゃない」


 馬を走らせながら姉上はつぶやく。

 その顔はやや不満そうだ。心配されていたことが少々気に食わないんだろう。


「エリク兄上も狙いはわかったうえで付き合ってたんでしょうね。この道は国家にとっても非常に有益です」

「ユルゲンは周到だからな。そうなったら国に売りつけて儲けを出すはずだ」

「やりそうだなぁ」


 結局、姉上のためになればそれでいいってスタンスだが、取るべきものはしっかり取る。いくつかプランを考えて動いているんだろうな。

 やっぱり恐ろしい人だ。


「あの人が姉上に惚れていて助かりました」

「どういう意味だ?」

「姉上に惚れてなきゃ、情勢を見て帝位争いに介入してくる厄介すぎる公爵です。お金も持っているし、人脈もあちこちにある。敵に回っていたらと思うと頭痛がしてきます」

「まぁたしかにユルゲンは優秀だ。敵に回れば厄介だろうな」

「ザンドラ姉上に惚れてたら目も当てられない状況になってたかもしれませんね」

「ユルゲンを侮るな。あれでも私に惚れ続ける男だぞ? ザンドラごときに心奪われるわけないだろ」

「……」


 なぜか姉上はちょっと怒った様子で言ってきた。

 目を丸くして俺は少し後ろを走る連隊長に視線を移す。

 連隊長はクスリと笑って、一つ頷いた。

 これはあれか?


「姉上……」

「なんだ?」

「あー、やっぱりいいです。言っても無駄だと思うので」


 喉まで惚気ですか? という言葉が出かけたが飲み込む。

 言ったって否定されるだけだ。

 まぁ実際、そういう対象に見ていないとしても、だ。

 姉上がユルゲンを認めていることは確かだな。

 そんなことを思っていると前方で光が揺れていた。

 見れば村人らしき人たちが集まっていた。


「軍人様方! 食事を用意しておきました! 走りながら食べてください!」


 そう言って村人たちが連隊の面々に携帯食料を渡していく。

 俺と姉上はそこで立ち止まるが、連隊長は携帯食料を受け取った者からどんどん先を急がせている。


「すみません! 誰の指示ですか!?」

「ん? なんだい? 兄さん、聞いてないのかい?」


 初老の女性が俺に携帯食料と水を押し付けるように渡す。

 そして。


「公爵様だよ。後ろから軍人さんが来るから食事を用意しておいてくれってね。この道を作るときにわざわざスペースを作ってさ、あたしらに頼んできたのさ。走りながらでも食事を受け取れるように協力してほしいってね」

「なるほど」

「ほら! そこの別嬪さんもお食べ!」


 そう言って女性は姉上にも食料を押し付ける。

 姉上は素直にそれを受け取り、周りを見渡す。

 夜を徹して走っていた騎兵連隊は疲れていた。だが村の者から食料を貰い、言葉をかけてもらったせいか幾分かマシな顔になっている。

 ユルゲンの配慮だ。


「……ありがたくいただく。お代は?」

「気にしなくていいさ! 毎月公爵様が村にお金を置いていってくれるんだ。こんなにいらないって言っても聞きやしない。ただ、この道を通る人には良くしてくださいって言っていくだけさ。といっても、実際に通ったのはあんたたちが初めてさ。公爵様の後を追ってるんだろ? 会ったらよろしく言っておいてくれね」

「そうか……了解した。必ず伝える」


 そう言って姉上は馬を走らせる。

 俺もその後を追いつつ、携帯食料と共に渡された袋を開く。

 そこにはクッキーが入っていた。


「姉上は甘い物が好きですからね」

「うるさい。軍人は大なり小なり甘い物が好きだ。前線では食べられない物だからな。これで元気も出るだろう」

「姉上も元気が出ましたか?」

「馬鹿を言うな。私は初めから疲れていない」


 そう言って姉上は馬をどんどん先に進ませる。

 ユルゲンのことだ。馬の休憩スペースも用意しているんだろうな。

 なるほどなるほど。


「姉上に惚れるだけはある」


 そう言って俺も姉上の後を追うのだった。




■■■




 次の日の昼。

 そろそろ騎兵連隊の疲労もピークに達しようとしていた頃。

 光の道が途切れた。そして、その少し先に真新しいモンスターの死骸が見えた。


「まだ新しいですね」

「近いか」


 ユルゲンたちが近いということは、モンスターも多くなるということだ。

 あの道を作る上で近くのモンスターは討伐したはずだし、そもそも光る奇妙な物に警戒心の強いモンスターは近寄らない。それ以外にもいろいろと対策はしてあるはずだ。

 だが、それが途切れる。

 とはいえ、もう南部には足を踏み入れている。レオたちの正確な位置は定かじゃないが、現地に到着するのも時間の問題だ。

 そんなことを思っていると、先の方で戦闘音が聞こえてきた。


「ラインフェルト公爵たちですね」

「そうだな」


 冷めた一言。

 表情も変わってない。だが、馬を急かすように腹を蹴っている。

 なんだかんだ心配なんだな。


「公爵……! これ以上は無茶です!」

「負傷した者は下がれ!」


 最近、聞きなれてきた声が響く。

 見れば道から少し離れたところでユルゲンたちは大きな熊型のモンスターと対峙していた。

 ダブルヘッドベアー。A級モンスターだ。しかし特徴である二つの頭のうち、一つは潰されている。

 だが、そのせいかかなり狂暴になっているようだ。その周りには小さなモンスターが何体もいる。

 これまで多くのモンスターを討伐しながら走っていたユルゲンと騎士たちは、疲労から動きが鈍くそのモンスターの一団に苦戦していた。

 ダブルヘッドベアーの爪がユルゲンに襲い掛かる。

 間一髪、ハルバードで防いだが、ユルゲンは大きく吹き飛ばされた。


「ユルゲン!」


 思わずといった様子で姉上が名前を呼ぶ。

 そして駆け付けようとするが、ユルゲンは姉上の姿を認めるとすぐに立ち上がって叫んだ。


「手出しは無用! 先を急いでください!」

「無茶をするな! あとは部下に」

「余力があるなら南部の問題に使ってください! ここは我々にお任せを!」


 そうは言うが、ユルゲンの周りにいる騎士はそこまで多くはない。

 おそらくモンスターが俺たちの邪魔をしないように散っているんだろう。

 姉上はユルゲンの言葉を無視して部下に討伐を命じようとするが、ユルゲンは鬼の形相で姉上を睨んで制止した。


「侮らないでいただきたい! 僕も騎士たちも露払いくらい務められます!」

「もういい! もう十分だ!」

「構わずお先に! 何のために来たのです!? 南部で国家を揺るがす事態が起きているから来たのでしょう!? あなたを待つ人がいます! 早く行ってください!!」


 そう言ってユルゲンはダブルヘッドベアーに向かって突撃し、動きを封じる。

 それを見て、連隊長が部下を前進させた。


「連隊長!」

「お許しください。公爵の言うとおりです。我々は先を急ぐために来たのです」


 そう言って連隊長はお先に失礼しますと言って、自分も先を急ぐ。

 それでも姉上は動かない。


「ユルゲン……どうしてそこまでする? もう十分、援護はもらった。そこまでしなくていい……お前は戦うタイプではない……」


 それはずっと抱えてた疑問だったのだろう。

 それに対して、ユルゲンはダブルヘッドベアーと力比べをしながら答えた。


「単純です……! 恰好をつけたいからです……!」


 それは身も蓋もない答えだった。

 だが、ユルゲンらしいかもしれないな。

 ユルゲンはたしかに商人タイプだ。わざわざ前線に出てモンスターと戦う必要なんてない。馬鹿な行動かもしれない。

 だけど。


「愛した人の前でカッコよくいたい……! あなたの前では頼りになる男でいたい……! 男が体を張る理由がそれ以外にありますか……!?」

「なんだ、その答えは……」

「男はそういう生き物なのです! 馬鹿だと言われても構わない! 僕はあなたのために体を張りたい!!」


 そう言ってユルゲンは気迫の声を出してダブルヘッドベアーを押していく。

 今までとは違うユルゲンの力にダブルヘッドベアーが怯む。

 その隙を逃さず、ユルゲンはハルバードを華麗に振り回してもう一つの首を跳ね飛ばした。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「公爵がやったぞ! 続け!」

「はぁぁぁぁぁっ!!」

「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 ユルゲンがハルバードを大きな声と共に掲げると、疲れ果てた騎士たちも息を吹き返した。

 そっと姉上を窺う。まだ心配そうな顔をしている。

 よかった。バレてないらしい。

 余計かと思ったが、少しだけ力を貸した。

 疲労回復する結界を張ったのだ。しかしそれだけだ。

 強化の結界ではないのに、なぜユルゲンがダブルヘッドベアーを押し返したのかは謎だが。

 せいぜい平常時と同じぐらいの力だ。今なら愛の力という軽すぎる言葉でも信じてしまうかもしれない。


「大丈夫そうですよ?」

「……」

「はぁ……俺が残ります。俺が残ればもう無茶はできませんから安心して行ってください」

「いいのか?」

「俺も疲れましたし、よくよく考えると俺が行っても何もできませんからね。レオのこと、よろしくお願いします」

「そうか……わかった。レオのことは任せておけ。それとあまり自分を卑下するな。ちゃんと私たちの強行軍についてきたじゃないか……。お前は立派になった。心身共にな。だからユルゲンを頼むぞ?」

「お任せください。未来の義兄上ですからね」

「まだそうと決まってない」

「どうでしょうか? さっきのカッコよかったと思いますけどね」

「侮るな。ユルゲンならあれくらいやって当然だ」


 そう言って姉上は馬を走らせる。

 その姿が見えなくなった頃、ユルゲンたちもモンスターの討伐を終えた。しかし、俺が結界を解いたせいか全員が一斉に膝をつく。

 さて、安全な場所まで退避させるとするか。


「世話の焼ける人たちだ」


 そんなことを呟きながら俺はユルゲンたちのほうへ馬を進ませたのだった。


 




とりあえずここもひと段落。

だんだん終わりが見えてきたぞー

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