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第五話 帝都案内

連続投稿2



 帝都に戻った俺はすぐにレオの下へ向かった。

 レオは俺が動いていることは知っていても、シルバーと繋がっていることは知らない。だからそこらへんの疑問を解消する必要がある。


「兄さんがシルバーと繋がってたなんてね……顔が広いとは思ってたけど、そんな大物とも接触してたんだ」

「俺のほうから知り合いになったわけじゃない。向こうから接触してきたんだ。信用の証としてクライネルト公爵を味方に引き込む手伝いをするってな。だから俺とシルバーでお前がシルバーに頼んだっていう形を作った。事後承諾みたいになって悪かったな」


 レオの部屋で俺は公爵領での報告を行ったあと、シルバーのことを説明していた。

 あくまでシルバー主導という形にしないと俺が動きづらくなる。俺はシルバーに利用されているだけ。この話が漏れても多くの者はそういう判断を下すだろう。

 いずれシルバーとの繋がりはバレる。そのときにも備えておかなきゃいけない。


「いいよ。兄さんなりに考えがあったんでしょ?」

「ああ、お前に伝えなかったのはシルバーを完全には信用してなかったからだ。だが、あいつは宣言どおり動いてくれた。とりあえず信用はしていいと思う。ただ謎の多い男であることも確かだ。俺たちに協力する理由もまだ明かさないし、全幅の信頼をよせるのは待ったほうがいいだろうな」

「そっか……僕も会ってみたいな」

「伝えてはおくが、わざわざ俺に接触してきたところを見るとお前に直接会う気は今のところないみたいだぞ。俺も接触の仕方は知ってるが、応じるかどうかは向こう次第だしな。こっちの思い通りにはならず、自由に動くジョーカーみたいなもんだ。頼りすぎるのはやめておこう」

「了解だよ。でもおかげでクライネルト公爵領は救われたし、公爵も協力してくれることになったんだよね? 良い人なのは間違いないんじゃないかな」

「またそうやって良い方にだけ取る……」


 呆れたようにため息を吐く。

 最近、こういうため息が多い気がする。理由は言うまでもない。レオのほかにもう一人、似たようなタイプの人間が傍に増えたからだ。


「ところで公爵家から人が派遣されたって聞いたけど、誰が来たの? さすがに公爵自ら来るってことはないだろうし……」

「ああ、そうだな。セバス、呼んできてくれ」

「はっ」


 部屋の隅に控えていたセバスに声をかけると、少しして近くの部屋に控えていたフィーネがやってきた。


「お初にお目にかかります。レオナルト皇子殿下。クライネルト公爵の長女、フィーネ・フォン・クライネルトと申します。以後、お見知りおきを」


 優雅にスカートをつまんでフィーネは一礼する。

 それに対してレオは驚くこともなく完璧な作法で返礼した。


「第八皇子、レオナルト・レークス・アードラーです。蒼鴎姫ブラウ・メーヴェと直接話せる機会が来るとは思ってもいませんでした。遠目で見るよりもずっとお美しい方だったんですね。お会いできて光栄です」

「まぁ、お上手ですね。私もアルノルト様の弟君に会えて光栄です。アルノルト様が話していたとおり、お優しそうな方で安心しました」

「兄さんが僕のことを? それは気になりますね。その話を聞かせてもらえますか?」

「はい、喜んで。あ、紅茶を淹れますね」

「ありがとうございます」


 一分もかからず打ち解けやがった。我が弟ながら恐ろしい。人の内側にスルリと入ってしまうのはもはや才能だろうな。

 二人の共通の話題は少ない。当然、数少ない接点である俺の話で盛り上がる。

 俺はといえば居心地悪そうに顔をしかめるしかなかった。そんな俺に気を遣ったのか、レオが俺に話を振る。


「そういえば兄さん。フィーネさんにはどういう風に協力してもらうつもりなの?」

「基本的には交渉役になってもらう。あと、しばらくの間は帝都の屋敷から俺たちのところまで頻繁に通ってもらう。それだけでクライネルト公爵が俺たち側についたことを示すことになるからな。当面はそのくらいだ。あ、シルバーとの関係はもう話してある。そこは気を遣わなくていい。彼女は俺が騙したことを承知で協力してくれている」

「またそうやってご自分が悪くなるような物言いをされて……我が家がシルバー様を怒らせたことは事実ですし、アルノルト様がとりなしてくれたのも事実です。それでいいではありませんか」

「気が合いますね。僕もそう思います。必要以上に自分を卑下するのは兄さんの欠点だよ」

「はぁ……」


 なんだかレオが二人になった気分だ。

 まぁ味方を集めるには好人物が多いほうがいい。俺の気苦労は増えるだろうけど。


「これが俺流だ。気にするな。そんなことより、レオ。帝都で味方は集まったのか?」

「うーん、微妙だね。帝都の有力者たちはみんな三人の誰かに取り込まれてるからね」


 話題を逸らすためにレオの成果を訊いてみたが、予想通りだ。

 クライネルト公爵がレオについたと知れ渡ったとしても動くのは中立の勢力のみ。元々、ライバルである三人に取り込まれている者たちは動かせない。いまだに公爵が俺たちについたと知れ渡っていない状況じゃそんなもんだろうな。


「あの……帝都の事情には詳しくないので……そのライバルのお三方について教えてもらえますでしょうか?」

「話さなかったの?」

「道中、関係ない質問ばかりされて疲れてな……話す気力が湧かなかった」

「ごめんなさい……」

「いえ、兄さんを困らせるなんてさすがです。基本的に何でも受け流す人ですから」

「本当ですか!?」

「受け流せないくらい面倒ってことだけどな」

「あう……」


 落ち込むフィーネを尻目に俺はわかりやすいように部屋に置いてあった三つの宝石を机に並べる。


「これがライバルの三人だとする。一つ目は青色の宝石。第二皇子、エリク・レークス・アードラー、二十八歳。大臣の多くを掌握する皇子で知能派として知られてる。二つ目は赤色の宝石。第三皇子、ゴードン・レークス・アードラー、二十六歳。軍内の最大勢力で自分も戦場に出る武闘派だ。そして三つ目は緑色の宝石。第二皇女、ザンドラ・レークス・アードラー、二十二歳。魔法に優れ、帝国各地にいる魔導師たちから支持を集めている。この三人がそれぞれ勢力拡大させながら帝位を狙っている。ほかの皇族たちにも狙ってる奴はいるだろうが、この三人に比べたらいないも同然だ」

「文官、武官、そして魔導師。彼らには確固たる支持基盤がある。ここに貴族たちが利害を求めてそれぞれの勢力に取り入っているのが現状の帝位争いなんだ。始まったのは三年前……皇太子である長兄が戦場で亡くなってからだよ」

「それは聞き及んでいます……聡明な第一皇子殿下がご存命であれば、帝位争いなど起きなかったと父も話していました」

「まったくだ。あの人が生きてればこんな面倒なことにはならなかった」


 ただ、逆にいえばあの人が死んだからすべての皇族にチャンスが巡ってきた。

 そこに違和感を覚える。聡明で勇猛。人格にも優れ、レオをそのままグレードアップしたような長兄が戦場で戦死するだろうか。

 調査はされた。皇帝自らの捜査だ。それで謀略ではないことは証明されているが、俺には奥深い企みが隠されているような気がしてならない。

 とはいえ、死んだ人のことを引きずっても仕方ない。


「あの人はもういないし、三人の兄姉は敵対者に容赦ない。レオ、お前が長兄の代わりになって皇帝になるしか、俺たちに道はないんだ」

「わかってる。けど、僕にできるかな……」

「安心しろ。俺が保証してやる」


 そう言って俺はレオの背中を叩く。

 せき込むレオを見て、俺とフィーネは笑うのだった。




■■■




 フィーネが帝都に来て三日。

 皇帝への挨拶を終えたフィーネは欠かさず俺たちを訪ねてきていた。その姿は当然、多くの者に目撃され、帝都中に噂が広まった。

 クライネルト公爵がレオナルト皇子に肩入れするために、蒼鴎姫ブラウ・メーヴェを傍に送り込んだのだ、と。

 まぁそんな感じで尾ひれがつきながら噂は広まっていく。噂好きの帝都の住民はレオとフィーネの恋物語に発展させそうだが、それはそれで悪くない。とにかく広まればクライネルト公爵がレオに肩入れしたことが広まるからだ。

 そんな矢先。


「帝都を案内してくださいませんか?」


 フィーネがそう俺に頼んできた。

 俺に頼む理由はわかる。レオより俺のほうが圧倒的に帝都に詳しいからだ。

 しかし問題がある。


「君が帝都歩いたら目立って仕方ないだろうが……」

「変装します!」


 そう言ってフィーネは自信満々な表情で眼鏡を取り出して掛けた。

 本人は変装のつもりらしいが、まったくもって変装になってない。たしかにフィーネであると気づく人は減るかもしれないが、美人であることをまったく隠せていない。

 眼鏡をかけたことで知的な美人感が強くなった。こっちのほうが好みという人も少なくないだろう。それで変装した気になってるあたり、知的とは言い難いが。


「却下だ」

「な、なんでですか!?」


 なおも食い下がろうとするフィーネに俺は呆れてため息を吐く。どうやらこの少女は自分が美人で人目をおおいに惹くということに気づいていないらしい。

 蒼い鴎の髪飾りを贈られた時点で、あなたは国一番の美人ですと言われたようなもんなんだがなぁ。


「目立つようなことをしたくはない。もっと目立たないようにしてきたら考えてもいいぞ」


 どうせ無理だろうと心の中で呟きつつ、俺はフィーネの願いを退けた。

 この時期に俺と外出しているというのはあまりよろしくない。ようやくいい感じにフィーネとレオの話で盛り上がってきたんだ。そこに出涸らし皇子が絡むのはよろしくない。

 そんなことを思いつつ、午前中を過ごしていると昼時になってフィーネが自信満々な顔で部屋に入ってきた。


「帝都を案内してください!」

「目立つから嫌だ」

「変装します!」


 さきほどと同じようにフィーネは自信満々に一つの服を取り出した。

 フードつきの灰色のマントだ。完全に旅人用。

 それをフィーネは被るように着る。完全に顔まで隠れているためパッと見でフィーネだと気づく者はいないだろう。


「誰のアイディアだ?」

「セバスさんが教えてくださいました!」

「セバスの奴め……護衛も考えなきゃいけないからそれはまた今度にしよう」

「セバスさんが護衛はアルノルト様がいればいらないと言っていました!」

「……」


 あの執事は俺の邪魔しか考えてないのか?

 今日中にこちらへ靡きそうな中立貴族をまとめたかったんだが……。

 キラキラとした目で見つめられて俺はため息を吐いて、折れる。


「わかった。外に出て食事でも取ろう」

「はい!」

「あんまり長い時間は無理だぞ? 君だって色んな人から会談の申し込みが来ているだろ?」

「いえ、今のところそう言った申し込みは来ていませんが?」

「……父上のお気に入りだからな。そう簡単に手を出そうとする奴はいないか」


 皇帝は別にフィーネを妃にとか考えているわけじゃない。ただ美しいフィーネを娘のように気に入ってるだけだ。しかし、そちらのほうが厄介だ。下手に近づけば娘に近寄られた父のごとく皇帝が怒りだしかねない。

 またレオと関係があるというのもほかの貴族が腰を引かせている理由だろうな。フィーネに近づけば、必然的にレオに近づくことにもなる。まだそこまでの判断ができる貴族はいないみたいだな。


「まぁいい。じゃあ行こうか。ただし、俺が帰るといったら帰るからな?」

「はい! よろしくお願いします!」


 弾ける笑顔を見せて嬉しそうにフィーネは答えたのだった。




■■■




 帝都の街はいつもにぎわっている。

 そんな街をフィーネは楽しそうに見て回っていた。


「アルノルト様。あちらはなんですか?」

「あれは鑑定屋だ。あそこの証明書があると高く売れる。それとアルでいい」

「よいのですか? 愛称では?」

「万が一にも気づかれても困るし、アルでいい」

「……今後もそうお呼びしても?」


 こちらを窺うような眼差しをフィーネは向けてくる。

 アルと俺を呼ぶ人間は少ない。しかし、本人が呼びたいなら止める理由もないか。


「好きにしてくれ」

「はい! アル様!」


 何が嬉しいのやら。

 些細な事でも喜ぶフィーネに感心しつつ、俺はフィーネに帝都を案内していく。

 途中、行きつけの料理屋で食事をし、帝都の主要施設をとりあえず一通り見ていく。

 長い時間は無理だといいつつも帝都を案内しているとそれなりに時間を食ってしまった。

 そろそろ帰らなきゃと思った矢先、フィーネが小物を売ってる店を見つける。


「はぁ……あんまり長居するなよ?」

「はい!」


 中を見たいと視線で訴えてきたため、仕方なく許可を出す。

 本人なりに遠慮があるのかフィーネは我儘を言わない。しかし目は口ほどに物を言うという言葉どおり、目での訴えが半端じゃない。

 これで何度目やら。

 さすがに疲れた俺は店に入らず、店の外で柱に背中を預けた。

 しかし、客人が俺を休ませてはくれなかった。


「おやおや? そこにいるのはもしかして出涸らし皇子じゃないか?」


 嫌味ったらしく耳障りな声を聞いて、俺は眉を顰める。

 正直、出会いたくない奴に出会ったな。

 ぞろぞろと取り巻きを連れて現れたのは茶色の髪をおかっぱにした青年だった。

 ひょろ長で服と髪型のセンスがとにかく悪い。しかし、自分ではかっこいいと思っているらしく自信満々だ。

 名前はギード・フォン・ホルツヴァート。貴族の中では二番目に古い歴史を持つホルツヴァート公爵の息子にして不本意ながら俺の幼馴染だ。

 ホルツヴァート公爵は帝都の近くに領土を保有している。そのため、帝都に居を構えており、こいつもよく城に来ていた。同い年だったため、周りの大人たちは俺やレオをこいつとくっつけた。授業や稽古もよく一緒に受けた仲だ。

 ただし、こいつが良い顔をしたのはレオのみ。俺のことはイジメまくっていた。周りの取り巻きもその頃からのいじめっ子仲間だ。仕返しもせず、告げ口もしない。しかも周りの大人からも見放されている。恰好の的に見えたんだろう。

 自分より位の上の皇子をイジメることで優越感を満たされていたのかもしれない。

 成長した今もこうして見かける度に絡んでくる。


「ギードか……珍しいな。こんなところで」

「馬車で走っていたらとても皇子とは思えない貧相でみすぼらしい顔を見つけてね。帝国貴族として声をかけねばと思ったのだよ」

「そりゃあどうも」

「なんだ? その態度は?」


 ギードは手に持っていたステッキで俺の足の甲をグリグリと押す。

 そして苛立った表情で告げた。


「公衆の目があるから殴れないと思ってるのか? お前を殴ったところで話題にもなりはしないんだぞ? お前の顔なんて誰も気にしたりしない」

「どうだろうな。最近はレオが有名だし、俺の顔も割れているかもしれないぞ」


 帝都の民でもすべての皇族の顔を覚えているわけじゃない。俺の悪名は広まっていても、黒髪黒目くらいしか把握していないはずだ。式典とかで民の前に姿を現すが、遠目だからしっかりとした容姿はわからない。

 しかし、最近はレオが有名になってきた。同じ顔の俺が殴られたりしたら大事になることは間違いない。


「お前はレオナルトじゃない。見ればわかる。猫背でいつも服を着崩しているし、目線は常に下だ。自信のなさの表れだな。誰がお前を皇族と思う? 立ち振る舞いからしてお前は皇族とは程遠いんだよ!」


 そう言ってステッキでギードは思いっきり俺の脛を叩いた。鋭い痛みに顔をしかめるが、倒れこむようなことはしない。

 こんなところで目立つわけにはいかないんだ。今はまだ誰かが貴族に絡まれているとしか思われてないが、注目を集めて俺の顔が皇族に似ているとわかれば騒ぎになる。そうなったらどういう結果であれ面倒だ。

 さて、どうするか。


「何事ですか?」


 思わず舌打ちしそうになった。

 まさかここで出てくるとは。

 事態をややこしくしないでほしい。

 フィーネはギードがステッキで再度俺の足を殴ったのを見て、怒りを露わにした。


「無礼者!!」

「ん? なんだ? お前の従者か?」

「重ねて無礼な方ですね」


 そういってフィーネはフードを取った。

 一瞬、ギードはその美貌に見惚れたが、その人物が誰かを察して驚いた様子を見せた。


「あ、あなたは……ふぃ、フィーネ嬢!?」

「ええ、私はフィーネ・フォン・クライネルトです。あなたは?」

「ぼ、僕はギード・フォン・ホルツヴァート。ホルツヴァート公爵の長男です」

「由緒正しきホルツヴァート公爵のご子息? 残念です。もっと礼儀を弁えた方かと思っていました」


 失望した表情を浮かべたフィーネにギードは慌てた様子で弁解し始める。

 その様子は非常にみっともないものだった。体面にこだわるギードからすれば不本意だろうな。こんな大勢の前で批判されるなんて、たぶんギードのプライドが許さない。


「ち、違うんです! こいつは」

「アルノルト・レークス・アードラー皇子。出涸らし皇子と呼ばれている皇子になら何をしてもよいと? 皇族への尊重や忠誠はないのですか?」

「い、いえ、そういうわけでは……」


 俺はフィーネを睨む。

 ここでフィーネがギードの面子を潰すのはまずい。フィーネは蒼鴎姫ブラウ・メーヴェ。帝都で圧倒的な人気を誇るうえに、皇帝のお気に入りだ。そんなフィーネなら俺を助けるのは簡単だろうが、ギードの面子を潰すようなやり方ではいけない。

 こんなしょうもないことで敵を作る必要はない。好きにやらせておけばギードも満足するだろうし、向こうが一方的に俺を殴れば向こうの評判が落ちるだけなんだ。

 やめろという意味で睨み続けるが、フィーネは意に介さない。

 そしてフィーネはとんでもないことを言いだした。


「そもそも……私がアルノルト皇子と出かけるとお思いですか?」

「え……?」


 フィーネが俺をまっすぐ見つめてくる。

 フィーネの意図を察して、俺はため息を吐く。

 こうなったらもうしかたない。フィーネの考えに乗るしかない。


「困りますよ、フィーネさん。あなたが噂になるのが嫌だというから、兄さんのふりをしていたんですから……」

「申し訳ありません。レオ様」

「え、あ、れ、レオナルト……?」

「ええ、そうですよ。ギードさん」


 髪と服装を整え、背筋を伸ばす。口調もレオの真似をして、表情も柔和なものへ変えた。

 その変貌っぷりにギードは目を見開くが、すぐに自分がしたことを思いだしたようだ。顔が一気に青くなる。


「れ、レオナルト……違うんだ。これはその……」

「平気ですよ。ギードさん。あなたが兄さんにああいうことをしているのは承知してますし、兄さんが何も言わない以上、僕が何かする気はありません。ただ今日はお引き取りを。フィーネさんに帝都を案内している最中ですので」

「あ、ああ……そ、そうするよ……」


 ギードは居心地悪そうにして帰っていく。

 俺ならともかくレオに何かしたとなれば、フィーネの言ったとおり皇族への尊重や忠誠を失ったとみなされかねない。なにせレオは帝位争いの四番手。次期皇帝になるかもしれない皇子だ。俺とはわけが違う。

 ギードとしてもこれ以上、事態をややこしくするのはまずいとわかっているんだろう。そそくさと帰る姿は小物そのものだ。

 しかし。


「やってくれたな?」

「すみません……」

「はぁ……とりあえず行くぞ」


 とにかくこの場を離れないといけない。注目を集めすぎた。

 早足で移動して、城の近くまで行く。そこで俺は立ち止まって、フィーネを見る。

 フィーネは泣きそうな顔で俺を見ていた。


「……勝手をしたな?」

「申し訳ありませんでした……」

「あのまま放っておけばあいつの評判が下がるだけだった。しかし、今回のことであいつは少なからず君やレオに敵意を持っただろう。しかも、レオが俺のふりをしているかもしれないという情報のせいで俺も動きづらくなる」

「……」


 このまま泣き出しそうな勢いでフィーネの瞳に涙が溜まっていく。

 それを見て、俺は視線を逸らした。

 ここでフィーネに何かいっても何も変わらない。起きてしまったことを責めても仕方ない。


「これに懲りたら次からはあまり勝手をするな。君の身に危険が及ぶこともある。安易なことはしないでくれ」

「はい……」


 泣き出しそうな顔は変わらない。

 俯くフィーネを見てどうするべきか迷い、結局はどうすることもできずに言葉だけを投げかけた。


「ただ……俺を想っての行動なのはわかってる。ありがとう」

「……アル様……」

「すまなかったな、せっかく楽しんでいたのに後味の悪い形にしてしまって」

「い、いえ! アル様のせいではありません! 私が軽率でした! 次はちゃんと気を付けます! な、なので……また案内していただけますか?」

「ああ、次は俺も変装することにするよ」


 そういうとフィーネはパッと表情を明るくして輝くような笑みを浮かべた。

 そんな笑みを見れただけでも、わざわざ帝都を案内した甲斐があったなと思いつつ、俺はフィーネをつれて城へと戻った。

 

さて、ここまでお読みくださりありがとうございます。

とりあえず第一章は終わり、次が第二章です。

面白い、もっと読みたいと思った方! ブックマークをしてくださると嬉しいです!

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