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第四十話 入れ替わり

WIFI直りました~

あと一回休んだせいか肩が楽(笑)


12時更新分。24時更新予定。



 レオがその唐突な事態に出航することができたのは、基本的には偶然だった。

 モンスターが現れた瞬間、レオは船に積み込む物資の確認をしていた。といっても、アルらしく最後の確認を面倒そうにしていただけだが。

 しかし、モンスターが現れた瞬間、レオは異常事態を察してすぐに船の出航を命じた。

 それにより海でいくつかのモンスターを食い止めることに成功し、被害の拡大はどうにか防げた。

 だが、それはつまり複数のモンスターの標的になることも意味していた。


「くっ! 左にもモンスターがいるぞ!」

「放っておけ! 今は目の前のヤツに集中しろ!」


 船長の指示に全員が前を向く。

 そこには体長十メートル近い巨大な海蛇がいた。

 シーサーペント。その体つきと強さから偽竜とまでよばれることのあるモンスターだ。人間へどれほど危害を加えたか、そして出現場所によってランクが変わるモンスターで、より船を壊し、より深い海に出現する個体はAAからAAAランクまで上がる。

 海難事故の半分はこのシーサーペントの仕業と言われており、滅多に出現しない海竜を除けばもっとも船乗りに恐れられるモンスターだ。

 しかし、ここまで陸地に近いところに現れることはまずない。

 港に上陸しているモンスターは陸にも適応しているモンスターだ。しかし、シーサーペントは基本的には海棲モンスター。陸地で動けないわけじゃないが、海から離れれば生きてはいけない。

 それなのに陸地に近づくのは異常だった。


「船長! 無理して戦うな! 気を引き付けておけばいい!」

「殿下は無茶をおっしゃる! 怖いなら部屋に籠っていてください!」


 アルとして指示を出すレオだが、軽んじられているアルの指示には誰も耳を貸さない。

 出航できたのはこの船だけであり、この船が沈めば海側への対処ができなくなってしまう。シーサーペントが上陸しないまでも、港にある多くの船を壊せばそれだけでロンディネは打撃を受ける。だからこそ、陸地に上がったモンスターが討伐されるまでは気を引くことに集中するべきという、冷静な戦況分析からくる指示だったのだが、船長は無視してシーサーペントと戦い始めた。

 そのことにレオは顔をしかめる。


「兄さんはいつもどうやって人を動かしてるんだ……?」


 人は信頼してない者の指示は聞かない。戦闘中ならなおさらだ。

 考慮すらされないほど信頼のないアルノルトという存在に困惑しつつ、レオはとにかくこの場をなんとかしなければと思ったとき。

 レオから見て右側に一隻の船が見えた。

 それを見た瞬間、レオは笑みを浮かべて船長に強く指示を出した。


「船長! シーサーペントの左に回りこめ!」

「殿下、ですから無茶を言わないでください! そんな余裕は」

「いいからやれ! レオが来た! 合わせてシーサーペントを攻撃するぞ!」


 そう言いながらレオは頼もしそうに向かってくる船を見つめた。




■■■




「船長。左に回り込んでくれ」

「了解しました! 右舷砲門開け! あの化け物蛇にたっぷり最新鋭の魔導砲を喰らわせてやれ!」


 レオの動きを察してアルも船を左に動かす。

 そしてシーサーペントを間に置いて、すれ違うようにしてアルとレオは一斉に砲撃を開始した。

 そのタイミングには一瞬のズレもなかった。


「「撃て!」」


 アルとレオの号令で二つの船から一斉に弾が発射された。

 魔導砲というのは砲手が魔力を込めて、その魔力で弾を発射させる兵器だ。アルバトロ公国が導入している最新鋭の魔導砲はより少ない魔力で遠くまで威力ある弾を飛ばすことができる。


「いいぞ! さすがの威力だ! もっと撃ちまくれ!」


 船長が子供のようにはしゃぐ。

 そりゃあそうだろうなとアルは内心呟く。船乗りに恐れられるシーサーペントが何もできずにタコ殴りにされている。船乗りからすれば歓喜の瞬間だろう。

 砲撃が終わったあと、シーサーペントはそのまま海に倒れこむ。

 二つの船から歓声が上がるが、まだ終わりではなかった。


「ほかのモンスターが兄さんの船に向かってる。船長! 横につけてもらえるかな?」

「お安い御用です!」

「騎士たちは乗り込む準備だ! 白兵戦で取りついたモンスターを引き剥がす!」


 そう指示をしながらアルはマルクを探す。

 戦闘中にアルとレオが入れ替わったら、大変な思いをするのはレオだ。状況が理解できていないにも関わらず、やることが多い。

 だからアルはマルクを探した。マルクに一言言っておかないと面倒なことになるからだ。


「騎士マルク!」

「はっ! なんでしょうか?」

「兄さんを助けにいってくる。フォローを頼むよ」

「なるほど。了解いたしました。すべてお任せを」


 短い会話で意図を察したマルクは頭を下げた。

 こういう風にすべて喋らずとも理解してくれる人がいると助かるなぁ、とアルは感心したあとホッと息を吐いた。

 なにせアルは今から慣れない剣を構えて、レオのところまで行かなければいけない。余計な説明をしている余裕などどこにもなかった。

 レオが乗る船には小さなモンスターがいくつも取り付いている。

 アルたちの船よりもあっちのほうが脅威は少ないと判断したのだ。

 その船の横につけたアルたちは、騎士を中心とした戦力で隣の船に乗り込む。


「かかれ!!」


 アルは重い剣を振って号令をかける。それだけで腕がどうにかなりそうで、アルは顔をしかめた。

 まったく、よくこんな重い剣を振るえるな。

 そんなことを思いながらアルはまっすぐレオの下へ走る。

 できれば部屋にでも行って入れ替わろうと思っていたアルだが、そんな簡単にはいかなかった。


「ギャァァァァァ!!」


 海から先ほど倒れたはずのシーサーペントが大きな音と共に飛び出てきた。

 大量の海水がアルたちに降りかかる。

 誰もがシーサーペントに注目する。しかし、アルとレオだけはその限りではなかった。

 水で濡れた甲板を滑るように移動すると、アルはレオに向かって剣と鞘を投げた。

 それを苦もなくキャッチしたレオは、大きな口を開けて攻撃してきたシーサーペントに対してジャンプをしてきつい一撃を食らわせる。

 レオの一撃はシーサーペントの目を的確に捉え、シーサーペントは苦悶の声をあげて撤退していく。

 そんなレオはアルの近くに着地すると、アルと背中合わせになる。その瞬間、アルは伸ばしていた背筋を曲げて猫背となり、レオは曲げていた背筋をピンと伸ばす。水を被って髪型や服装が滅茶苦茶になった今、その程度しか二人には差はなかった。そしてそれだけで二人は完璧に入れ替わったのだった。


「遅いよ……!」

「悪い。厄介ごとに巻き込まれてな」

「もう十分厄介だと思うけど?」

「聞いて驚け。もっと厄介だ」

「わー、嬉しいなぁ……」


 二人で他愛無い会話をしていると、カエル型のモンスターがアルに向かってくる。

 アルは左回りで回転する。何も言わずにレオがそれに合わせて、向かってきたモンスターを一撃で切り伏せた。


「よくそんな重いもん振り回せるな? 俺はもう明日筋肉痛だぞ」

「大げさだなぁ。持ってきただけじゃないか」

「いやいや、ちゃんと振ったぞ」

「一回だけでしょ? これを機に剣術の稽古したら? そしたら僕も楽だったのに……」

「嫌だね。それにもう二度とお前とは入れ替わらない。絶対にごめんだ」

「何があったの? 僕のフリして変なことしてないよね?」

「してないぞ。立派にレオを演じてきた。だから疲れたんだ」

「それは同感だね。僕も兄さんを頑張って演じて疲れたよ」

「俺を演じるのに〝頑張って〟とかいう言葉が出てくる時点でお前は間違ってる」


 そんなことを言ってる間に騎士たちがモンスターを排除する。

 さて、あとはお任せするかとアルは一つ伸びをしてから、気だるげな様子を醸しながら告げる。


「レオ~あとは任せた。俺は港の防衛に回るから」

「はいはい。僕が全部片づければいいんだね?」

「よくわかってるじゃないか。陸地はエルナがどうにかするし、海は任せた」

「相変わらずだなぁ。まぁいいや。じゃあいつもどおりの役割分担でいこうか」


 そう言ってレオはアルが乗ってきた船に戻り、アルはレオが乗っていた船に居残る。

 こうして二人はようやく元の位置に戻ったのだった。


「殿下。防衛ラインはどこまで下げますか?」

「船長に任せる。俺は部屋で寝るから」

「は、はい?」

「好きにしてくれ。どうせレオが全部やってくれる」

「……まったく。レオナルト殿下がいない間は少しはまともだと思ったのに……」


 小さく呟く船長の声を聞きながら、アルはレオの頑張りに苦笑しつつ部屋に戻ってベッドの上に転げ込んだ。

 結局その後、アルの船は戦闘に巻き込まれることなく、アルは久々の惰眠を貪ることができたのだった。

というわけでようやく元に戻りましたね!

ここからようやく帝都とアルとレオ視点というややこしい状況が少しは改善されますw


ちなみにブックマークが二万いきましたー

1時25から26分くらいですかね。そこらへんで登録した方は栄えある二万人目ですヽ(^o^)丿

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