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プロローグ 二人の始まり

皆さん、こんばんわ、こんにちわ、おはようございます。タンバです。

初めましての人は初めまして。そうじゃない人はお久しぶりです。

今回の作品は今までとは一味違う感じの作品となっています。主人公が暗躍する帝位争いをメインとなっていますので、敵も味方も騙す主人公となっています。あんまりこういう主人公は書いてこなかったので、書いていて楽しいです笑

では、駄文ですが最後までお付き合いいただけると幸いです。


 フォーゲル大陸中央部を支配するアードラシア帝国。

 黄金の鷲をシンボルにかかげ、大陸三強の一つに数えられる強国である。その帝都・ヴィルトは今日もおおいに栄えていた。

 そんな帝都にある冒険者ギルドに大物が姿を現した。


「すげー……本物だぞ……」

「おい、しかもあの角ってキング・ミノタウロスの角だろ……」

「まじかよ……AAA級のレアモンスターだぞ……一人で倒したのか……?」


 口々に囁かれるのは驚嘆の言葉ばかり。

 注目を集めるのはデカい角を引きずってきた黒尽くめの魔導師。黒髪だし、着ているのも長い黒のローブだ。だが、唯一顔には特徴的な銀の仮面をつけている。

 すでにその姿に慣れている受付嬢は驚きもせず、普通に対応する。


「お疲れ様です。シルバーさん。これが今回の報酬となります」


 SS級冒険者・シルバー。俺の仮の名を呼んで受付嬢はいつもどおり、笑顔で報酬を出してきた。

 その場にいた冒険者たちが見たことのない量の金貨がポンと差し出される。

 当然だ。キング・ミノタウロスは冒険者ギルドが個体指定したモンスター。賞金首として多額の懸賞金が掛けられていた。

 少し前までは帝国領にはいなかったが、A級冒険者が大規模パーティーを組んで挑んだものの討伐に失敗し、帝国領に流れてきた。

 だから〝俺〟が討伐したわけだ。


「ありがとう。いつもすまない」

「いえ、こちらこそ助かっています。大陸に五人しかいないSS級冒険者のシルバーさんが我が帝都支部にいるのは鼻が高いですから!」


 茶色の髪の受付嬢がそういって笑顔を浮かべる。

 それを見て俺は苦笑しつつ、いくつかの金貨を置いてギルドの入り口へ向かう。


「あの……? シルバーさん。これは?」

「この場の全員に奢りだ。酒でも飲んでくれ。ただ、また高難度の依頼の話が来たら俺に優先的に回してほしい」

「あ、はい! わかりました!」


 受付嬢は嬉しそうに金貨を握る。それ以上にギルド内にいる冒険者たちが幸せそうにバカ騒ぎを始めた。

 俺は高難度の依頼しか受けない冒険者だ。だからギルドも俺に高難度の依頼は優先的に回してくれる。だが、それをよく思わない冒険者だっている。こうやってガス抜きをするのは大切だ。

 俺も自由に動ける身分じゃないしな。

 そんなことを思いながら俺はさっさとギルドをあとにして、いきつけの宿屋に向かう。

 そこで銀の仮面と黒いローブを脱ぎ、服を上流階級のものへ変えた。ここらへんはかなり気を遣っている。


「曲がりなりにも皇子が冒険者やってるなんてバレたら一大事だからな」

「御自覚があるなら自重くださいませ。アルノルト皇子」


 音もなく現れて俺の名を呼ぶのは母の代から仕える執事のセバスチャン。金髪の老人でもう五十を越えるが、背筋はピンと伸び、執事服も見事に着こなしている。

 音もなく現れたことからもわかるとおり、執事以外の実力もまったく衰え知らずのとんでも爺さんだ。

 そしてこの執事が言ったとおり、俺の名はアルノルト・レークス・アードラー。この帝国の第七皇子だ。


「音もなく現れるなと何度も言ってるだろ? セバス」

「習慣ですのでご容赦ください」

「それと説教も聞きたくない。出涸らし皇子が何をしようと勝手だろ?」


 俺には双子の弟がいる。

 武勇に優れ、頭脳明晰。性格良好。なにをやらしてもすぐに一流に到達する天才。

 同じ顔なのに、品があるとか優美だとか、向こうはやたら称賛される一方、俺は覇気がないとか精悍さに欠けるとか言いたい放題言われてる。求婚者も後を絶たないというから我が弟ながら腹立たしい。

 一方、俺は無能無気力のダメダメ皇子。子供の頃から遊んでばかりで、その放蕩っぷりに俺の家庭教師を務めた多くの秀才たちが匙を投げた。評判はすぐに帝都全体、そして帝国全体に広がり、ついたあだ名が弟に良いところをすべて吸い取られた〝出涸らし皇子〟。今も城にいるあらゆる人間に蔑んだ目で見られ、陰口を叩かれ続けている。

 誰からも期待されず、皇族でありながら底辺。それが皇子としての俺だ。


「そのような小人の言うことをお気になさいますな。皆、あなたの本当の力を知らぬのです」

「気にしちゃいない。ただそういう扱いを受けてるんだ。皇子としての義務がどうとか言われる筋合いもないって話さ」


 自分からそういう風に振舞っているのに卑怯な言い分といえば卑怯な言い分だ。しかし、この言い分のおかげで俺は自由気ままに生きていける。

 しかし。


「言い分はわかりますが、そうも言ってはいられない状況になりました。すぐに城へお戻りください」

「……なにがあった?」

「ドミニク将軍がお亡くなりになりました」

「あの老将軍が?」


 帝都守備隊の名誉将軍だ。すでに引退した人物で、特別優れた戦歴はなかったが五十年以上も前線で戦い、生き残った人物だ。

 その功労により帝都守備隊の名誉将軍に任じられ、ご意見番のような立場にいた。

 高齢で心臓に病を抱えていたが、いきなり死ぬような病状ではなかったはずだ。

 暗殺の二文字が頭をよぎる。


「あの〝三人〟の誰かか……」

「詳細は不明です。しかし犯人が捜されることはないでしょう」


 歯に衣着せぬ物言いで敵を作りやすい人物だが、暗殺となれば要因は一つだ。

 最近、ドミニク将軍は帝位争いに首を突っ込んだ。常々、皇子や皇女に駄目だしをしていた人だったが、一人の皇子だけは気に入って肩入れし始めたのだ。

 そしてそれを危険視した者たち。つまり帝位争いで先頭を走る者たちに暗殺された。そんなところだろうな。

 所詮は名誉将軍。実質的な被害は帝国にはない。病死として処理されるだろう。

 ダメージがあるのは味方を失った皇子だけ。

 その皇子の名は第八皇子、レオナルト・レークス・アードラー。俺の双子の弟だ。


「レオは自然と味方を作るからな……別に帝位につくつもりで勢力を作ったわけじゃないだろうけど……」

「勢力と見なされたことが問題です。これでレオナルト皇子は帝位を狙う方々に〝敵〟と認識されました」


 セバスの言葉に俺はため息を吐く。

 帝位争いを繰り広げる帝位継承者の中で有力なのは三人。第二皇子、第二皇女、第三皇子だ。

 この三人は各自の勢力を有しており、この三人の誰かが帝位につく可能性は極めて高い。

 そしてほかの帝位継承者には二つの道がある。一つは味方につくか、せめて中立を保つこと。もう一つは敵対し、帝位を目指すこと。

 後者を選んで負けた場合は三人の性格上、よくて追放、悪くて死刑だ。その処罰は関係する者にも及ぶだろう。レオの場合は俺たちの生母や俺が関係者にあたる。

 そしてレオははからずも後者を選ぶ形となった。

 今更味方についたり、中立宣言は意味ないだろう。こうなっては仕方ない。


「レオを皇帝にするしかないか……」

「ご自身が皇帝になるという道はないのですか……?」

「俺が皇帝なんて柄かよ。面倒なことは全部弟に投げてきた男だぞ? 今回もそうさせてもらう」


 気ままに冒険者ライフといきたかったが、このままじゃ死刑まっしぐらだ。

 面倒極まりないが仕方ない。

 弟のために暗躍するとしよう。




■■■




 帝都の中央にある剣のような城、帝剣城に戻った俺はすぐにレオナルトの部屋に向かっていた。

 しかし、その途中で数人の大臣と貴族にばったり遭遇してしまった。


「これはこれはアルノルト皇子。今日もお元気そうですな」

「おかげさまでな」

「ええ、アルノルト皇子は毎日毎日お気楽そうで羨ましいですよ。それに引き換え、レオナルト皇子は毎日さまざな稽古に励んでいるとか」

「あいつは俺と違って出来がいいからな」

「まったくもってその通り! 三人の兄姉様方に続いて、帝位争いにも加わる予定だとか。アルノルト皇子も負けてはいられませんなぁ」

「これ、レオナルト皇子と比べるのはお可哀想であろう! アルノルト皇子とレオナルト皇子は双子といっても才能に差があるのだぞ!」

「おお! そうであったそうであった。これは失礼を」

「気にするな。全部事実だ」


 そう言って俺はそいつらの横を通り過ぎていく。

 恭しく頭を下げているが、全員が俺を馬鹿にしている。慇懃無礼な口調や言葉も俺が皇帝に告げ口をしないし、したところで聞いてもらえないと知っているからだ。

 皇族の中で俺だけは皇族としての扱いを受けていない。地方の貴族はともかく、帝都にいる貴族や大臣たちは心底、俺のことを舐め切っている。

 ま、そういう風に俺が振舞っているからなんだが。

 振舞いを変えないのはそれでいいと思っているからだ。誰も俺を気にしないからこそ、シルバーとして活動できるし、好きなことをやってられる。

 皇子の身分で好きなことをやるならばこういう風な立場に身を置くしかないってわけだ。

 そんなことを思いながら俺はレオの部屋にたどり着く。


「邪魔するぞー」

「兄さん……」


 ノックもせずに部屋に入ると椅子に座って項垂れたレオがいた。年は十八。当然、俺と同い年だが落ち着きの関係かレオのほうが年上に見られることが多い。

 容姿は完全に瓜二つだが、レオは髪をきちんと整えているのに対して、俺はぼさぼさ。着ている服もレオはきちんと着ているのに対して、俺は着崩している。背筋もレオは伸びているが、俺は猫背。わりと成長してから間違えられることはなくなった。

 そんな双子の弟、レオの顔は憔悴しきっている。

 自分と瓜二つの顔が沈んでいるのを見るとこっちまでテンションが下がるな。


「話は聞いた。あの爺さんが死んだらしいな」

「うん……」

「多分暗殺だろうって話だが?」

「……恐らくね」


 さすがに兄や姉が暗殺するはずがない、なんて青臭いことは言わないか。

 状況的に考えれば暗殺の可能性が一番高い。


「どうすんだよ?」

「……僕は身内で争うなんてしたくない」

「言うと思った」


 レオは帝位を狙う気なんてさらさらなかった。

 ただレオの人柄に惹かれた周りがその気になっただけだ。その筆頭がドミニクだった。

 レオ自身は今いったように帝位を身内で争うことに否定的だったわけだ。

 だが、才能に恵まれ、人格にも優れるレオは本人の意思とは関係なく第二皇子、第二皇女、第三皇子に次ぐ第四勢力となりつつあった。

 だから焚きつける者が暗殺された。

 しかし、だからといってレオが無事に済むわけじゃない。三人の誰が皇帝になっても待っているのは暗い未来だ。


「お前はもう敵として認識されてる。帝位争いに加わらないなら、待っているのは死だけだぞ。そしてそれは俺や母上も一緒だ」

「うん……わかってる……ごめん」

「謝るなよ。それより方針を示せ」

「……帝位争いに加わるしかない」


 苦渋の決断といった表情でレオは告げた。

 レオだけならたぶん命に関わるとしても引き下がっただろう。しかし、周りに害が及ぶ可能性がレオに帝位を目指させた。

 結局、そういう奴だからみんな手を貸したがるし、皇帝にと求める。

 俺からすれば皇帝になるには優しすぎる気もするが……そこは言っても仕方ないだろう。

 こうなった以上は絶対に皇帝になってもらうしかない。


「俺も微力だが協力する。お前はとにかく味方を集めて勢力を作れ。デカくなれば向こうも手を出せなくなる」

「うん……兄さんは?」

「俺は俺で味方を探す。ただあんまり期待するな。有力な大臣や貴族は基本的に上の三人の派閥に属しているからな」

「わかってる……ありがとう。兄さん。僕より兄さんのほうが皇帝に向いてると思うけどな……」

「馬鹿言え。皇帝になんてなったら遊んで暮らせないだろうが。俺は美人な妻を迎えて、遊んで暮らすっていう人生設計があるんだ。そのためにお前にはなんとしても皇帝になってもらうからな!」


 自分勝手なことを言いながら俺はレオの肩を叩く。

 その体は微かに震えていた。

 まぁ仕方ないだろうな。優秀なレオから見ても上の三人は化け物だ。

 能力的には誰が皇帝になっても帝国は安泰といえる。当然、その勢力も強大。

 だが、いくら強大でも無敵じゃない。三人が争っている状況だからこそレオにもチャンスがある。


「とりあえず味方を増やし、父上に認めてもらうところから始めるか」

「そうだね。最終的に後継者を決めるのは父上だしね」

「さて、我らが皇帝陛下にどうやって認めてもらおうかね」


 こうして俺たち双子の帝位取りが開始したのだった。

 

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