新しい、ともだち
教室に入ると、窓際の一角に異常に生徒――いや、女子生徒たちが密集している。何事かとよく見れば、彼女たちはギディオンの席をまるで包囲でもするかのように、集まっていた。
「一番だなんて、スゴイわぁ」
「学院にいらっしゃるなんて、公爵様は反対なさらなかったの?」
「でも、いらしてくださって嬉しぃ〜」
皆、妙に体をクネクネさせて、猫なで声でギディオンにせっせと話しかけている。教室の大きな窓から燦々と太陽光が入り、教室の中のその場所を、更に目立たせている。
私とシンシアが並んで教室に入ると、ギディオンはハッとこちらに顔を向け、目が合うなりにっこりと笑ってくれた。
思わず目を逸らし、シンシアに話しかける。
「私たちの席はどこかしら?」
席は二列ずつになっていて、半分くらいの生徒たちは既に着席していた。
「黒板に座席表が書かれているわ。――ってあら……これって…」
二人で黒板の前で、数秒の間、無言で座席表を見上げる。席は窓際先頭から、成績順だと併記されていた。
(ってことは……)
ゆっくりと振り向くと、いまだギディオンは女子たちに包囲されている。私の席はどうやらあの二つ後ろらしい。
シンシアと黒板の前で立ち尽くしていると、マックが視界を横切る。彼の机にはギディオンに話しかけている女子生徒のお尻が二つ、乗っかっていた。
マックは真っ直ぐに自席へ向かうと、彼女たちの輪の中に突っ込んでいった。
「公爵家の坊ちゃん。ハーレム作るんなら、よそでやってくれ」
女子生徒たちは一斉に不満げにマックを睨んだが、渋々ながらもギディオンの席から離れていく。その隙に私も椅子を引き、着席する。机や床板から、古めかしい独特の木の香りがする。
包囲が解けて視界が開けると、ギディオンは上半身を捻って私の方を向いた。私に微笑みかけながら、左手をヒラヒラと振る。
「久しぶり、リーセル……だったよね?」
ええ、本当に久しぶり。
前回の人生で最後に会ったのは、私が被告席にいた王都の裁判所だったかしら。あの時あなたはたしか、私に死刑判決が下された直後に「当然の判決さ」と聖女に言っていたっけ。
「はい、お久しぶりでございます、ランカスター様」
あえて他人行儀に振る舞う。
「――こんな所でまた会えるとは、思ってもいなかったよ」
「そうですね。私もです」
本当にそう。どうしてあなたは魔術学院になんてきたわけ?
「バラル州は本当に綺麗で、よく覚えているよ。また君に会いたいと思っていたよ」
私は全然、そうは思いませんでした。
「あれ? リーセル達は知り合いなの?」
マックが目を瞬いて私とギディオンを交互に見ている。前を向いたり後ろを振り返ったり、首が忙しそうだ。
「去年、祖父の領地に来たことがあるの」
そう教えるなり鞄の中から配布されたプリントやら資料を出して、机に置いて整理を始める。これ以上、ギディオンと話したくなかった。
一生懸命プリントを読むフリを続けていると、ギディオンは黒板の方に向き直った。心の中でため息をついてから顔を上げると、マックが椅子ごと私の方に体を向け、ニッと笑った。
雲ひとつない、真っ青な空みたいな瞳が、キランと輝いている。
彼は小声で尋ねてきた。
「もしかしてあいつのこと、嫌い?」
あいつとは、ギディオンのことだろう。答えに窮していると、マックはイタズラっぽく目をぐるりと回した。
「あんたとは、気が合いそうだ。仲良くしよーぜ。シェルン会に入会決定だな!」
「し、シェルン会……?」
困惑して聞き返すと、彼は楽しげに私の肩をバンバンと叩いた。