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5-14 (仮) 王都一武術大会 - シロへの労い -

「つまり、元気が無いように見えたのはアイリスが俺の膝に座っていたからって事か?」

「そう……」

「嫉妬したと」

「そう……」

「それで、感情がよくわからなくなったと」

「そう……」


今俺は、シロに対して説教中である。

といっても、しっかりと聞き取りをした上でだ。

なぜかと言うと、アイリスを膝から降ろそうとした際に実力行使をしようと思ったことについてである。


あのあと、アイリスはシュパリエ様とともに王様の下へ帰っていき俺と隼人はすっかり疲弊したまま帰路についた。

隼人の屋敷に着くとクリスとウェンディとともにシロを労う為に料理を作り、シロが大好きなお肉を沢山焼いて予選突破を労った。

その後、お風呂でシロの疲れと汚れを洗い流した後に、俺の部屋に皆が集まったのでしっかりと話す事にしたのである。


「もうそれくらいでいいんじゃない? 主様だって、シロが勝った瞬間見てなかったんでしょ?」

「うぐ……ま、まあ」


それを言われると弱い。

まあシロからは見ているように言われたわけでは無いが、シロがせっかく活躍したのに見逃してしまったのだ……。

それにシロも本気でアイリスを襲おうと思ったわけではないだろう。

もしそうならとっくにアイリスの護衛である忍が動いているはずだし、シロに限って勝手に危害を加える事はないと信じている。


「明日は私たちの試合なんだから、見ていないとかやめてよ?」

「そうっす! ちゃんと見てて欲しいっすよ!」

「わかってるって……。でも明日二人を膝の上に乗せたままだぞ……?」


そう。明日はもうそういう風に座ると決まっているのだ。

何故か今日の内に約束をとりつけられてしまっていた。

だが、今日はシロも頑張ったしアイリスとも仲良しになったようなので空気を読んで従う事にしたのだ。


「主君はモテモテだな」

「アイナ……幼女にモテても嬉しくないぞ」

「その割には嬉しそうだぞ?」

「まあ隼人よりも楽な関係で権力者と知り合いになれたわけだからな」

「ふふ、そういうことにしておくか」


そういうことも何も、幼女に懐かれて喜ぶほど俺はロリコンじゃないだけだ。

いや人に好かれる事自体は嬉しいことだと思うのだけども。

俺、この世界に来てから美人を含む色々な人と知り合いになりすぎじゃないか?

もしかして流れ人特典なのだろうか?

まあ大体は隼人のおかげでもあるんだけどな。


「さあ、明日も早いし今日はもう寝るか」

「逃げたわ」

「逃げたっす」

「逃げました」

「逃げたな」


逃げてません!


「はい! 主!」

「はい、シロ!」


シロが手を真っ直ぐ上げるので、指を刺して発言を許す。


「シロは今日頑張ったのでご褒美に一緒に寝たいです!」


んー……まあ、いいか。

今日見てあげられなかったお詫びも兼ねて一緒に寝るくらいは何も問題ないよな。


「じゃあそうするか」

「ん!」

「うー……羨ましいっす……」

「大丈夫さレンゲ。明日頑張れば私たちもきっと」

「そうね。頑張りましょう」


3人が何か言っているが、流石に3人と寝るならばアインズヘイルに帰ってからにしたい。

ここのベッドが悪いということはないが、4人で寝るならばやはり自宅の広いベッドの方がなにかと都合がいいのだ。

それにしても、ウェンディは何も言わないな。

そう思ってウェンディを見ていると目と目とが合いにこりと笑顔を向けられた。


「今日のシロは頑張りましたから」


こちらの意図を読んだのか、先んじて俺の考えていた疑問に答えてくれるウェンディ。


「いいのか? 協力してたんだろ?」

「今回はシロが頑張った結果ですから。それに、アインズヘイルに戻ったらたっぷり可愛がってもらいますので」


『可愛がってもらう』の部分が何の事を言っているのか当然わかるし、勿論こちらとしても願ったり叶ったりなので喜んで引き受けよう。

という訳で今日はシロと二人で寝ることとなりました。


部屋にシロと二人きりになると水差しからコップに水を注ぎ一杯飲んで喉を潤してから二人でベッドに入る。


「それじゃ、灯り消すぞ」

「ん」


魔道ランプを消し、真っ暗な部屋には月明かり以外の光がなくなる。

シロは当初は横に寝ていたのだが、すぐに俺の腹と胸の辺りに乗ってしまう。


「シロ、暑い、重い……」

「シロは温かい、そしてシロは軽いはず……」


しょうがないので一度起きて遠いところに扇風機を設置する。

タイマーなどはないが、注ぐ魔力量で大体どれくらい持つかはわかるから、一時間ほどそよ風が届くようにした。

重さについては実際軽い方なので我慢する事にする。


「主、早く戻る」

「はいはい」


シロにせかされてベッドに戻ると、すぐに上に乗られた。


「……主、シロ今日頑張った」


少しの沈黙の後、シロがぽつりと話し始める。


「そうだな。最後見てなくてゴメンな……」

「ううん。シロも隠してたからいいの。でも、次からはちゃんと見てて欲しい」

「でも、あんまり危ない事はしないでくれよ……。少しでも危険があると思ったら棄権してもいいんだからな?」

「シャレ?」

「違う。心配なんだよ」

「ん……わかった。じゃあ、頭撫でて?」

「頭だけでいいのか?」

「んー……じゃあぎゅっとして欲しい」

「わかった」

「ん、シロの特権」


俺は片手でシロを落ちないように支えながら抱きしめ、頭を軽く撫でてあげる。

シロは落ち込んで垂れていた時とは違う形で、撫でやすいように耳を畳み嬉しそうに目を閉じる。

そして、すぅーすぅーと小さな寝息を立てて俺の胸板を枕にして寝てしまった。

俺も今日は色々と疲れたので、そっと目を閉じて眠る事にする。

ただ、抱きしめていたほうの腕の服をシロに握り締められてしまっているので身動きが取れなくなっていた。



翌朝、目が覚めるとシロはまだ俺の上に乗ったままだった。

身動きが取れなくなった原因である、腕は胸に抱くように変わっていた。

空いたほうの手で目を擦り、まだ寝ぼけている思考を徐々に覚醒させていく。

太陽は燦燦と輝き始めているので、結構な時間が経っていそうだ。


「シロ、そろそろ起きろー」

「あと少し……」

「朝ごはん食べる暇なくなるぞー」

「あと少しで主がシロを……抱くから」

「どんな夢見てんだ!? 起きろー!」

「……むう。いいところで起こされた……」

「はぁ、ったく。一晩中腕を取られてたから体がギシギシだよ……」

「あん、あん、主、突いちゃダメ」

「わき腹をってちゃんとつけような……」


くすぐったかったのかわき腹を指で突くと抱きついていた腕を放してくれた。

凝り固まった肩を抑えながらまわすとゴキリっと音が鳴る。

これは、朝から申し訳ないが一度風呂に入って解したほうがいいかもしれないな……。


「主、何処行くの?」

「風呂だよ。肩凝ったから暖めて解そうと思ってな」

「ん、じゃあシロもはいる。髪ぼさぼさ」

「んだな。じゃあ一緒に入るか」

「ん!」


シロを引き連れて風呂場に行く。

ウェンディを呼んでいないので水道から水を出す事になるのだが、遅い。

ということで緊急用に魔法空間に溜めておいた水を放出することにした。

こうして、食材や錬金の材料とは別に大量の水を保存しておけるのも番号分けされている魔法空間の便利なところである。


あっという間にバスタブに水がたまり、火の魔石を鉄籠に入れて水中に沈めると徐々に水が温まってくる。

沸騰させるわけではないので、魔力の量を増やせば少しの時間で適正温度になった。

そして、シロと一緒に朝から贅沢にもゆっくりとお風呂に浸かる事にしたのだった。



「あら、遅かったわねって、お風呂入ってたの?」

「まあな、体が痛くて……隼人、朝からお風呂戴いたぞ」

「構いませんけど、あまり時間に余裕がないですよ?」

「まじか。朝食はあっちで取るか……」


リビングに行くと隼人達やソルテが食後のお茶を飲んでいるところ、もとい俺らを待っていたのだろう。

クリスはというと今日のお弁当を作ってくれているらしい。

今日の俺の状態も考えて片手で食べやすいものを中心にとのことでありがたい限りである。


「体が痛いって、シロに変な事をしてたんじゃないでしょうね」

「主がギシギシでシロはあんあんされた」

「誤解をわざと招くように言うんじゃありません!」

「でも、事実」


明らかにわざとだ!

俺の体がギシギシで、シロのわき腹を突いたからあんあん言ってただけだろう!

ソルテも信じて若干引いてるんじゃねえ!


「……どうでもいいけど、私たちの試合中に寝不足で寝てたとか言わないでよね」

「睡眠時間自体は長かったし、朝風呂でさっぱりしてるから大丈夫だよ!」

「それならいいけどね。私たちの活躍を目に焼き付けなさいよ?」

「そうっすよー! 今日は体調も気合も十分っす!」

「昨日一日たっぷり休んだからな。今日は最善を尽くそう」


三人はやる気も気力も十分なようだ。

目に見えて燃えているのがわかる。

もちろん俺もしっかりと応援するさ。

まともに応援が出来るならばな!


三人との話を切り上げ俺はソファーに座っていた隼人の横に座り背もたれに肘と腕を乗せて更に頭を乗せて話しかける。


「なあ、隼人……」

「なんです?」

「お前さんももしかして今日来るのか、あの……」

「はい……。アイリス様が来られるならばシュパリエ様も来ると……」

「……お互い、頑張ろうな」

「むしろイツキさんがアイリス様をお止めになられれば僕も落ち着いて観戦が出来るのですが……」

「無理だとわかって言ってるよな?」

「だめもとって大切ですよね……」


顔を上げて隼人を見ると、昨日の疲れがまだ残っているようだ。

気を使わなきゃいけない存在って、大変だよね。

この後クリスのお弁当が出来上がるまでテンションは低く、終始俺と隼人はため息をついていた。

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