5-9 (仮) 王都一武術大会予選 -移動中の持論-
朝食を食べ終わり隼人の用意した馬車に乗って闘技場を目指す道中。
馬車に向かって慌てて走ってきたのは、朝食を食べた後もまたすぐに部屋に篭ってしまったウェンディとシロであった。
「それで、なにしてたんだ?」
「虫退治……」
「どれだけ沸いたんだよ……」
「ウェンディがお菓子を食べこぼすから……」
「シロ!? そんな裏切りは流石に怒りますよ!?」
「嘘。シロが窓を開けっ放しにしたら入ってきた」
「あー……内緒なのか?」
「違うけど……違くない……」
シロがしょぼんとしてしまう。
ウェンディもどこかあわあわとしているのだが、まあでも秘密をわざわざ問いただすのも悪いな。
「いいよ。女の子は少しくらい秘密がある方が魅力的って言うしな」
「ん……後でちゃんと言う」
「それでいいよ。ごめんな。意地悪言って」
頭を撫でると、シロは目を細めて手に頭を擦りつける様に押し付けてくる。
それにさっきから後ろ手にしている袋が多分秘密のそれなのだろう。
何をたくらんでるのか知らないが、ウェンディも協力しているのだし問題はないな。
あの中に大量の虫がいるとかでないならだが……。
「主、それよりもお弁当沢山?」
「おーう沢山作ったぞー」
「ん、シロ今日は沢山食べるから嬉しい」
「そうかそうか。んー……となると足りるかな……」
八段のお重とはいえ少し物足りないかもしれないな……。
「臨時で屋台も出ているみたいですし、足りなかったら買いに行きますか?」
「そうだな。足りなかったらそうしようか」
屋台ってなんかテンション上がるんだよな。
美味しい、美味しくないに限らず祭りやイベントの時にしか見受けなかったからだろうか。
それにこっちの世界の屋台はそれぞれが個性的に工夫を凝らしているし、知らない魔物の肉を食べることもできて面白いしな。
……ちょっと出してみたいとか思ってみたりもしている。
まあ、これは機会があればだな。
「んんー! それにしてもいい天気ね!」
「だな。へえ、ソルテの今日の格好は可愛いな。この前買ったやつか?」
「な……いきなり褒めないでよ……」
白地のミニスカートか……うん。
ふとももが映えてていいね!
更に対面だから少し動くたびに気になってしまうのは、男の子として当然だと思う。
「ご主人! 自分のはどうっすか!?」
「んーどれどれ……」
レンゲの格好は普段どおり……だが、これどうなってるんだ?
肩にかかっているわけでもないのに何故ずり落ちない……。
ぷるんってならないのか?
そして白色のショートパンツ……。
「レンゲも素晴らしいね!」
「おー褒められたっすー!」
「っく……。私も買ったばかりの服を着て来れば良かったか……いやだが、あれで外に出るのは少し恥ずかしいし……」
「確かに、あの姿を外でするのはな……、いやでもその服もアイナに似合ってて綺麗だぞ」
「そ、そうか。ふふ、なんだろう。改めて言われると恥ずかしいけど嬉しいな」
ショートパンツというギャップ姿もたまらなく素敵であるが、今着ている服も似合っていると思う。
生地が薄いのか体のラインがはっきりわかり、それに胸元は大きく開いていてアイナの見事なスタイルが際立つ服装である。
最近勘違いされているのかと思うのだが、俺は別にふとももだけが大好きな人間じゃない。
太ももも大好きなだけで、おっぱいやお尻だって大好きである。
そこだけは間違えないでいただきたい。
「せっかくのご主人様とのお出かけですのに、服まで気をまわせませんでした……」
「お出かけっていっても試合観戦だけどな。それに普段どおりの格好も清楚で似合ってるよ。ウェンディはやっぱり大人っぽい服装が似合うね」
「うふふ。ありがとうございます」
少しだけ、俺に寄りかかる力が強くなったウェンディ。
それに対抗するようにシロがドーンっと膝の上に乗った。
「主、椅子が広くなった。もっと端によるべき」
「そうですね。どうぞこちらへ」
「いや、危ないからシロちゃんと座れって」
「ちゃんと座ってる。主に」
「そうじゃなくて……」
「アイナ、チャンスっす。主の横に座るチャンスっすよ!」
「っは! そ、そうか。これが、チャンスなのか!」
「そうっす! あー! 自分がシロの前だったら自分が行けたんすけどね!」
いや、アイナも移動中の馬車で立つんじゃない。
吊革なんか無いんですよ!
急に止まったら危ないじゃないですか……。
「悪くおもわないでくれ。これも運という奴だ」
そういいながら素早く席を動くアイナ。
これでシロが座席に座る事は無くなっただろう……。
「いいっすいいっす。だから早く! こう、主の腕を取って押し付ける感じで!」
「こ、こうだろうか……」
アイナさんは俺の腕をとり、間に自分の腕を滑り込ませるときゅっと弱々しく俺の腕を抱く。
それに対抗してかウェンディは先ほどよりも強く、押し付けるようにぎゅっと抱きしめ始め、それを見ていたアイナが痛くならない程度に力を強めた。
「おおお……。なんか、無駄に凄い光景っすね」
「そう……? なんか美女を侍らせてる悪徳貴族にしか見えないんだけど……」
「じゃあ私たちは扇を持って扇ぐか、フルーツの盛り合わせでも持ってるっすか?」
「嫌よそんな端役……」
「っすね。どうせなら自分は膝枕係をするっす」
「……その場合私はなにをするのよ?」
「おっぱい……はダメっすね……。えっと……踊る……?」
美女に囲まれながら膝枕されて踊り子服を着たソルテの踊りを見れるの?
え、なにその極楽。
「ふむ……。裸リンボーか……」
「……アイナ! 代わりなさい! アイナが私たちのおっぱい要員でしょ!」
「どういう意味だ! 私の価値はおっぱいしかないとでも言うのか!?」
「違うけど! 違うけど今はそれしか手がないの!」
「ご主人様が楽しそうにしています。きっとHなことですね」
「ん、主の頭の中では既にソルテが裸で踊ってる」
「いやああああ! アイナ! 代わってお願いだから!!」
「そもそもおっぱい要員とはなにをするのだ!」
「知らないわよ!」
「んー……主が『おっぱい』と言ったらぺろんっと見せるんすかね?」
なにそれ凄い。
その要員凄く良いと思います。
賛成! 賛成賛成!!
賛成多数により、今日からおっぱい要員はおっぱいぺろん要員となります!
「ん、主おっぱいが見たいの? ならシロが――」
「……シロ。どうしても、耐えられないから言わせて貰おう……。今までは我慢してきた上にあくまでも俺基準だが、揺れないおっぱいは……おっぱいじゃないんだ……」
「ふぅあっ!!? じゃあシロのこれは……」
「それは……『ちっぱい』だ……」
「そんな馬鹿な……主ならおっぱいは、大きくても小さくても構わないはず……」
「ああ、別に俺はどっちも好きだ。大きなおっぱい。小さなちっぱい。どちらも好きだ。だが、『おっぱい』は『大きなぱい』でないといけない……。小さなぱいは……『ちっぱい』なんだ……」
大きなぱいだからこそ、おっぱいであり小さなぱいだからこそ、ちっぱいである。
これはあくまで俺の持論だ。
だが、だからこそ今まで全統一でおっぱいと呼ぶという苦行に耐えられなかったのである……。
「ソルテのは……」
「ちっぱいだ」
「レンゲ……」
「ぱいだ」
「アイナはおっぱい?」
「おっぱいだ」
「ウェンディは当然」
「おっぱいだ!」
「驚愕の事実……」
すまないシロ。
だが、どうしても譲れない。
実はおっぱいは……誰に対しても等しく平等ではないんだ。
大きくても小さくてもいい。
それは勿論変わらない。
だが、極端に巨乳嫌いではない限り、大きいにこした事はないのだ……。
なぜなら、あの感覚だけは他のなにものにも代えようがないのだから……。
「好き勝手言ってんじゃないわよオオオ!!」
「ちょっと待って欲しいっす!『ぱい』ってなんすか!? なんか突然無個性突きつけられたみたいで嫌なんっすけど!」
「ふむ。私のはおっぱいなのだな……」
「私のは当然おっぱいです。ご主人様のおっぱいです」
「シロのは、主のちっぱい……ん。多種多様で良しとする」
そう。皆違って皆いい。
それに女性の価値はおっぱいだけでは決まらないのだ。
だから元気を出すんだソルテ。
普通サイズが一番って話もあるぞレンゲ。
「お客様。そろそろ停止いたしますので……」
「あ、はい。えっと変な話をして申し訳ない」
「いえいえ。……私のはおっぱいだとわかって何故か少し嬉しくなりましたから」
そういえば御者さん女性でしたね。
気を使ってくれていたのがびしびし伝わってきてます!
途端に恥ずかしくなってきましたよ!
なにを堂々と女性だけの空間でおっぱいの話をしてるんですかね俺は!
「ぱいだけは……なんか嫌っすぅぅ……」
「いいじゃない。ちっぱいより……」
「ソルテ、元気出す。主は小さくても気にしない」
「はぁ……。そうだろうけど、名前からしてなんなのこの敗北感」
「それはわかる。今はちっぱい連合で頑張ろう」
「今だけは組んであげるわ……」
「あら、それでしたらアイナさん。私たちはおっぱい協定を結びますか」
「そうだな。シロとソルテが相手ならばその方が良さそうだ」
「うわあああああん! 自分だけ独りっす!」
「うふふ、面白い方々ですね」
「あはははは……」
あー……。
あの、えっと、すんませんっした!
……おかしい。
予定では今回の話で闘技場に到着し、開催まで行くはずだった。
なのにまるで進んでない!