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5-8 (仮) 王都一武術大会予選 -出発前-

大きめの、お弁当箱に。

サンドイッチサンドイッチぎっしり詰めて。

チキンのあぶりとマッシュポテト入れて。

ベーコンで、巻いたアスパラガス、トマトも巻いてっと。


「ふふんふーん」

「お、お兄さんノリノリですね」

「ん? まあ興が乗ったからな。それにしても、せっかく今回も誘ったのにウェンディはまた来なかったな……」


今日は朝早くに起きて、予選を観戦する際のお弁当作りをしようとクリスに持ちかけられたのだ。

今回はちゃんとウェンディを呼んで、返事をされたから悲しまれる事はないはずである。

ちなみに、こんな感じ。


『ウェンディ、今日のお弁当作るぞー!』

『ご主人様!? あ、え、あ……』

『ウェンディしぃーしぃー!』

『えっと、ごめんなさい。今ちょっと手が離せなくて……』

『ん、何か忙しいのか? 手伝おうか?』

『い、いえ! 大丈夫です!』

『虫! 虫が出たの!』

『ん? シロもいるのか』

『そう! だからやっつけるから、主は危ない!』

『あいよ。くれぐれも素手で殺すなよ……』

『ん! また、後で! あとお弁当はお肉多めがいい!』


って感じだった。

どうやらシロとウェンディで何かをしているようだな。

まあ、それならばと俺は腕によりをかけてお弁当を作る事にしたのだった。


「おはようございまっぶふうぅっ!!」

「……隼人? 人を見るなりいきなり噴出すのは失礼じゃないか?」

「いやだって! なんでまたそのフリフリのエプロン着てるんですか!」

「だから! フリードに聞いたらこれしかないんだって言われたんだよ!」

「フリード? 本当なのですか?」

「はい。虫食いの痕がありまして、お客様は虫が大の苦手とお聞きしましたのでこちらをご用意させていただきました。ぶふ!」


惜しい! もう少し耐えればそれっぽかったのに。

何で顔を背けて笑いをこらえているのかな?

んんん?


「クリスはよく笑わないでいられますね……」

「えっと、慣れてくるとだんだん可愛く見えてきました」


クリスがそういうと隼人がまじまじと見てくるので、俺はポージングをしてみる。

拳を両手で握り、顎の近くまで持ってきて小首を傾げてウィンクをしてみる。


どうよ?

最高にぷりてぃーだろう?


「あ……僕、朝ごはんいりません……」

「隼人様、(わたくし)少々気分が優れませんので本日はお休みを戴いてもよろしいでしょうか……」

「あっはっは。遠慮すんなよ。ビフテキ作ってやるから」

「朝からヘビーすぎます!」

「フリードにはデザートを作ってやるよ。バケツプリンでいいか?」

「甘いものは苦手なのですが……」

「特別にホイップクリームや甘ーい果実もつけてプリン・ア・ラ・モードがいいと」

「……承りました。バケツプリンなるものを頂きましょう」


よしきた!

厚さ3cmのビフテキをしっかりミディアムレアで焼いてやる。

バケツプリン用のバケツは錬金で作るとするか。

当然お残しは、許しませんよ?


「バケツプリン……。魅惑の響きがします」

「やめとけ。せっかく美味しいプリンが嫌いになるぞ」


ああいうのは適量だからこそいいのだ。

単に多すぎるデザートは飽きるだけである。


さて、宣言どおりステーキを焼く事にしよう。

多分シロが見れば食べたいと言うだろうから二枚だな。


「あ、本当に焼くんですね」

「有言実行! 男なら肉を食え!」

「それでは私もお肉の方を……」

「ん? 肉『も』食う?」

「……いえ、やめておきます」


それがいいと思うの。

バケツは、浴槽より少し小さいくらいにするからね。

大丈夫。魔法空間があればきっと簡単に作れるからさ!

エンリョセズニタベテヨ。


「ふりふりのエプロンをつけた男性が鼻歌交じりで料理を作る……。シュールです」

「クリス、真面目な突っ込みが一番効くからやめて……」


グサって来るから!

せっかく開き直ってるのに、素に戻ってグサって心を刺すから!


「はぁ……。それで、隼人達は何しに来たんだ? ツマミ食い?」

「いえいえ。今日は朝食を食べ終わったら馬車に乗ってすぐに出発しますので、ご連絡をと思いまして」

「あいよ。準備は万端だぜ。お重を8つも作っちまった」


しかも魔法空間に保存しておくので腐る心配も無く暖かいままにいただけるのである。

どうせなら汁物も作ってしまおうか。

こうなるともはやお弁当というレベルではないな……。

流石空間魔法。チート級に便利なスキルである。


「あれ、ウェンディさんはいらっしゃらないんですね」

「ああ、シロとなにかやってるみたいだ」

「……なるほど。あ、これ美味しそうですね。ちょっと食べていいですか?」

「なんだ、やっぱり摘み食いじゃないか」

「このアスパラベーコンが悪いんです。おおお……予想を裏切らない味ですね」

「クリスが作ったんだぞ。日本人好みの料理も仕込んでるから、今後出てくる料理を楽しみにするといいさ」

「うふふ、隼人様の故郷の料理をいっぱい習いました! でも、『おしょうゆ』や『おみそ』がないと作れないものも多いのですよね……」

「まあ、乾物で出汁をとって塩で味付けすれば出来るものも多いし、色々食べさせてやりなよ」

「はい! 隼人様にいつか『毎日ミソシルが飲みたい』って言われるように頑張ります!」

「おう! がんばれよ!」

「ちょっとイツキさん、何を教えているのですか……」

「日本人の常套句だ。クリスに対して愛情がMAXになったら言ってもらえる魔法の呪文だと教えてある」


定番も定番、ド定番だからな。

クリスは料理が上手いし、さぞ美味い味噌汁を作るだろう。

一番の問題は味噌がないことだが……。

まあ、最悪お吸い物でも大丈夫だろう。

作り方は教えてあるしな。


「ま、まあクリスの作るお味噌汁なら毎日飲みたいと思いますけど……」

「隼人様ぁ!」


パァァアアアっと背景が輝くように笑顔になるクリス。

最近クリスと隼人の絡みしか見ていないが、しっかりと他のメンバーのケアもしているのだろうか。

まあ俺が料理や隼人とお茶をするので必然的にクリスといることが多いせいかも知れないけど。


「なあフリード、この光景どう思う?」

「大変仲睦まじくてよろしいかと。皆様帰ってきてから本当に幸せそうでございます」

「んだな。仲よき事は美しきかなだな」

「良い言葉ですね。覚えておきます」


真面目だねえ。

それにしてもどうやらちゃんと皆平等に愛しているようだ。

俺の杞憂で良かったよ。


さて、俺はビフテキでも作るかな。

4cmの肉厚な奴をプレゼントしてやろう。

……別に、この場にウェンディがいなくて寂しいからって訳じゃない。

ちくしょう、いちゃいちゃしやがってとか思ってない。

あくまでも、厚意である。


とりあえずブラックモームの美味しいところを用意して鉄板を熱しておこう。


さて、後は汁物だがどうするかな。

オオモロコシでコーンスープでも作るか。

このオオモロコシ、ようはとうもろこしなのだが一粒がでかい。

しかも花びらのように実がなり、一つの茎から4粒しか取れないのだ。

だが味はそのままとうもろこしの上位互換である。

粒粒感の無いコーンスープはどうかとも思うが、味がよければまあいいだろう。


オオモロコシを潰してこして、牛乳も少しいれないとな。

あとはバターと塩と胡椒、それと出汁系か。

んー……固形コンソメはないんだよな……。

まあここは朝食で食べる予定の肉と野菜のスープを少し貰うか。


「おお……なんというか、料理しているイツキさん格好いいですね。エプロンさえ見なければ……」

「そこは放っておけよ……。いちゃいちゃは終わったのか?」

「まあ、その……はい……」


今更照れられてもな。

もうすでに目の前で行なわれていた、初々しいやり取りは見終わった後だし。


「もう少しいちゃついててもいいんだけどな。それにしても料理スキルのレベル上がらないんだよなあ……」

「今レベルいくつなんですか?」

「まだ1だよ」

「ええええ!? それ、ちょっとおかしくないですか?」

「な。なんでだろうな……」


元の世界の料理を作ったらダメとか?

いや、料理は料理だしそれはないよな。

んー……わからん。

まあでもステータス補正が上がる程度だって話だし、今は満足行く料理が作れているからいいか。

よし、気にしない方向で。


それよりもまずコーンスープを味見してみるか。

小さなお皿におたまで取って少し啜る。

んー……やっぱりオオモロコシは普通のとうもろこしより甘いんだよな……。


「クリス、味見てくれるか?」

「あ、はい! わ、オオモロコシのスープですか?」

「僕も味見していいですか?」

「いいぞー。何か足りなかったら言ってくれ」


隼人とクリス、ついでにフリードにも小皿に注いで味を見てもらうことにする。

俺としてはもう少し塩気というか、甘みを抑えたいんだが……。


「甘くて美味しいです!」

「そうですね。とっても美味しいです」

「私としてはもう少し塩気があってもよろしいかと思います」


ふむ。

どうするかな……。

フリードは元々甘いのが苦手だしな……。

んー……。


「お弁当には肉が多いし、塩気はそっちで取れるしこのままいくか」


俺は寸胴をもう一つ用意して、オオモロコシを潰してこして同じものを作っていく。


「おや、もう一つお作りになられるのですか?」

「ああ、俺達今日は外に出かけるし、館の人達用に作っておこうかなって」


普段はクリスが館で働く人たちの分も作っているらしいのだが、今回は皆で予選の見学だしな。


「気を使わなくても結構ですよ? 私たちは適当に食べますので……」

「いや、お世話になってるしこれくらいはな……」


どうせならお菓子を振舞いたいが、今はあまり時間も無いしな……。

今日はフリードのためだけにバケツプリンを作らねばならないしな!

だが、帰るまでに一度は振舞おうと思う。


「ありがとうございます。従業員にはお客様のお手製ですので感謝して食べるよう言っておきます」

「いや、普通に食べてくれ……」


そんな大層なもんでもないしな。

むしろ普段から作っているクリスが作った方が絶対に美味しいと思うぞ。


さて、そろそろ皆食堂に集まってくる頃だな。


「クリス、後はいいから朝飯の用意をし始めてくれ」

「はい。隼人様、手伝っていただけますか?」

「勿論。お皿を並べればいいですか?」

「はい! お願いしますね!」


さて、俺はバケツプリンでも作り始めますかね。


「あの、どちらへ……?」

「錬金室にバケツプリン用の容器を作りにいこうかなと」

「……こちらのボウルではダメなのですか?」

「小さい小さい。もっと、3倍? いや5倍は大きなのを作らないと」


せっかくなのでどこまで大きいのが作れるか試してみたい。

失敗したら材料が勿体無いので、あくまでも現実的にできそうなサイズではあるがどうせならば浴槽くらいの大きさのプリンを作りたいところだ。

幸いな事に冷やすのは魔法空間内で出来るし、長時間冷やせば固まるだろう。


「お願いします! こちらのボウルで作ってはいただけないでしょうか!」

「えー……これ?」


手渡されたのは中くらいのボウル。

掃除用のバケツのサイズの方が縦に長いし大きいんですけど……。


「わかったよ。これで作るよ」

「はぁ、ありがとうございます」

「でも錬金室には行ってくるね」

「何故でございますか!?」

「別で作る為だよ。フリード用じゃなくて、ただ単に大きなプリンを作りたい」

「な、なるほど。それではいってらっしゃいませ……」


さてさて、出かける前に完成は無理だろうから、夜にでも出してあげようかな。

あれだけ体が大きければ、きっと錬金で底を深く改良したこのボウルのプリンも食べられるよね?

とりあえず錬金室までボウルの加工と、容器を作りに行きますかね。

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