5-7 (仮) 王都一武術大会前日
4人の鍛錬をぼーっとしたまま見続けていると、クリスとウェンディが昼食を作り終えて呼びに来てくれた。
結局あの後もシロが苦戦する様子もなく回避しつづけて、攻め続けていた三人の方の息が上がるほどであった。
そんな彼女達にお昼だと声をかけると、疲れと空腹からか大人しく休憩することとなったのだ。
そして、目の前には山のように盛られたおかずがあるわあるわ何品目作ったんだ?
当然、シロは目を輝かせ早々と小皿に山盛りで取り分けて貰っていた。
「そういえば、明日はどうするんだ?」
「明日は個人戦の予選だから私たちはお休みよ。流石に前日くらいは身体を休めないとね」
ソルテも負けじと大盛りに盛るが、シロが二枚目の皿に手を伸ばしたのを見て、ゆっくりと箸を置き張り合うのを諦めたようだ。
それが無難だと思う。
「予選か……どうせなら見てみたいが」
「あ、席なら全日とってありますので安心してください。といっても、貴族用の貴賓席になるんですが」
「いいのか? 俺貴族どころか、平民かも怪しい『流れ人』だぞ」
「僕の友人ですし、問題ありませんよ。それに広いですから、皆さんで座れると思います」
流石貴族。
こういうイベントでは優遇されるものなのだな。
隼人のところもクリスは戦闘向きではないし、一緒に観戦組と行こうじゃないか。
「そういえば隼人のところは誰が出るんだ?」
「僕とミィだけですね。レティは魔術師ですし、エミリーはまた特殊なので」
「へえ、ミィもでるんだな」
「はいなのです! ミィもやれるところまで頑張るのです!」
「こう見えてミィは前回3位ですから。本選に出場が決まっているんですよ」
ミィを見ると腰に手を当ててえっへんと自慢している。
確かに3位は凄いもんだ。
となると、隼人が優勝か?
「へえ、凄いもんだな。というか、予選が行なわれるくらい参加者が多いのか?」
「ええ、最近このイベントから騎士にスカウトされることも多いので、騎士志望の方も多く参加されるようになったらしいですよ」
「騎士……? って、そんなに厚遇なのか?」
「ええ、王国騎士に正式に採用されれば寮に住まわせてもらえる上にそこで出される食事はタダ。それに家族手当も与えられますし税金も控除されます。怪我で戦えなくなった場合も保障がありますし国民が選ぶなりたい職業ランキングでも上位なんですよ」
高待遇だなあ……。
まるで公務員のようだ。
「へえ、冒険者の方が自由で人気があるのかと思った」
「元の世界と同じですよ。国に雇われる仕事って安定じゃないですか」
「なるほどな。保障されてるって、素晴らしいよな……」
なんだかんだ薄給だなんだといわれるが、それでも安定しているというのは大きいよな。
それと、定時帰宅……。
残業はあるのかもしれないが、デスマーチはないんだろう……?
羨ましい事この上ない!
「となると、予選参加者って結構多いよな? 予選ってどうするんだ?」
「10人ずつステージでバトルロイヤルですよ。とにかく最後まで立っていればいいというシンプルな奴です」
「ほーう、これまた豪快な……、でもそれじゃあ運だけで本選に出場する奴もいるんじゃないか?」
「ええ勿論。でも結局運よく本選に出場できても、運で上がった方は一回戦負けしますよ」
「なるほどねえ……」
「それと国営ギャンブルも行なわれますので、予選から誰が本選に勝ち上がるかを賭けるのですがこれが結構盛り上がります。なにせ賭けた選手が本選で勝てば勝つほど倍率が上がりますからね。下手すると予選をメインにしている方もいるくらいです」
ほーう。
ギャンブルか……。
悪銭身につかず、とは言うがちょっと面白そうだ。
元の世界では、パチンコやスロットは友人に誘われて触ったくらいだがこっちの世界の国営ギャンブルには興味があるな。
「ん、いや待て予選に出る選手が初めから強いとわかってたりしたら大損じゃないか?」
「そういった名うての選手は初めから賭けられないようになってますね。賭けられても本選からです。それにバトルロイヤルですから、必ずしも強い方が勝つわけではないですからね」
「なんか、バトルロイヤル形式に問題があるんじゃないかって思えてくるな……」
「まあ、予選にも盛り上がりは必要ですし、なにより人数を一気にさばけるのがいいみたいですね……。見てる側も迫力があって楽しいと思うようです」
「そんなものか。騎士に登用するのなら個人的な強さを見たいものだと思うんだがな」
「まあ本当に騎士になりたいのであれば正規の手続きを踏んで受ければ個人技は見てもらえますしね」
ああ、そりゃそうだよな。
まさか騎士になるのに武術大会に出るしかないわけないもんな。
「主君ちなみにだが、私たちが出る3対3の方は本選しかないようだ」
「そうなのか?」
「こっちの方が出場組数が少ないのよ。だから、こっちは本選だけってわけ」
「へえ、じゃあ明日は一緒に皆で観戦にでもいくか?」
「そうっすね! どれくらい強い人たちがいるのか見ておきたいっす!」
「とはいっても予選だぞ?」
「ミィは予選から出場して勝ち進んで本選で3位に入ったのです! だから予選にも強い人はいるのですよ!」
「そうですね。予選から勝ち進む人もいますし、今まで出場してなかった冒険者の方も出てきますから見ごたえはあると思いますよ」
まあ、強い奴が突然出てくる事もあるよな。
本選を楽しむ為にも、どうせやることもないのだし見に行くのもいいか。
ミィのように隼人と旅をして強くなってきたって感じの子もいるんだろう。
でも、去年か……。
今年からはミィは予選に出ないんだもんな……。
「はぁー……去年から参加できていればミィに有り金全部かけて俺はスローライフを歩めたわけか……」
「ご、ごめんなさいなのです!」
「いや、ミィが悪いわけじゃない。タイミングの問題だ」
「あはは……一応上限も設けられていますけどね。それと、今年は僕も去年の雪辱を果たす為に頑張りますから、僕に賭けてくれても構いませんよ?」
「自信ありげだな。って雪辱……? 隼人去年優勝してないのか!?」
「ええ、去年は王国の第一騎士団の騎士団長に負けてしまいました……」
「違うのです! 去年は聖剣を使わなかったからなのです!」
「いえ、純粋な剣技で勝たなければ意味が無いのです」
真面目だなあ。
でも確かにあの聖剣ならば、勝ちに余計なちゃちゃを入れられそうだもんな。
「そういえば装備の類ってルール上の縛りはあるのか?」
「一応競技用の武器での戦闘になってます。アクセサリーは能力が上がる物は一つだけ許可されていますね」
「それだと聖剣って使えなくないか?」
「一応スキルなので、問題はないらしいです。だけど使うと観客席に張られた結界ごと切りそうで……」
あー……。
そういえば初めて出会ったときに見せて貰ったが、あの威力じゃな……。
「なので今回も使う予定はありませんね。純粋な剣技のみで優勝したいです!」
「そうか、応援してるから頑張れよ!」
「はい! 頑張ります!」
「ちょっと! 私たちの応援は!?」
「勿論するって。確かチーム戦と個人戦って日取りが違うんだろ?」
「そうですね。個人戦予選が一日目、チーム戦が二日目、個人戦本選が三日目です」
「なら全日参加だな。アイナ達の試合もしっかり見るから頑張れよ!」
「ああ、勿論だ。主君に仕える者として恥じないよう戦ってくる」
「全戦全勝っす!」
「当然でしょ! だから、しっかり見ててよね!」
気合入っているようだが、全員無事に戻って来てくれればそれでいいんだがな……。
だが、紅い戦線の三人はやる気十分なようだ。
食べっぷりを見てもわかる……というか食べすぎじゃないか?
今日はまだ鍛錬をするのだろうに、そんなに食べて動けるのだろうか。
「シロ、この後も付き合ってよね! 今日中に絶対に一撃入れてみせるから!」
「ん、別にいいけど。当たらない」
「言わせておけばっす! 絶対に一本とってみせるっすよ!」
「私たちもやられてばかりじゃいられないからな」
「ミィも混じるのです! シロに後で一騎打ちを申し込むのです!」
「ん、三人がへばったらね」
「はいなのです! それじゃあへばるまで待つのです」
「へばらないわよ! 絶対に負かす! 絶対にだからね!」
「ん、がんばれ」
「他人事っす! 悔しいっす!」
「ああ、だがそれだけの力はあるからな……。私たちもその高みを目指して頑張ろうじゃないか」
……うん、やる気十分だ。
俺は午後からどうするかな……。
鍛錬を見ながらお茶をしてもいいのだが、邪魔になると悪いしとりあえず明日観戦しながら食べるお菓子でも作るとするか。
今回はしっかりとウェンディも誘って作ることにしよう。
また、悲しまれても嫌だしなあ。