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5-5 (仮) 朝風呂と失態

09/01 16:32 本文修正しました。


09/06 22:07 とりあえず値段はこれで。

調整が済んだらまた変更します!

「あー……気持ちよすぎる……」


まだ日も昇り始めた時間から朝風呂を三人で満喫するなどなかなかの贅沢だろう。

隼人の家のお客さま用のお風呂は白を基調とした洋風の浴槽でうちの風呂よりは少し小さいが三人ではいるのには問題ないサイズだ。


「泡泡ー」


湯船から泡を持ち上げて無邪気に遊んでいるのはシロ。

今回は『泡がめッちゃたつ石鹸』を使って泡まみれの泡風呂にしてみた。

理由としては俺の家の風呂は檜なのでそういう真似ができないからである。

当然、隼人には先に許可を取ってあるので問題はない。


「主、見て見て」


そういうとシロは浴槽から立ち上がり大量の泡を持ち上げて体にどんどんまとわり付かせていく。

この泡は水っぽくないのでどんどん膨らむようにシロの身体を泡まみれにしていき、もはや身体など見れない状態にまでなっていった。


「羊人族。めぇぇえええ」


シロはもこもこの泡を毛皮に見立てて羊人族の真似をしているようだ。

だが、残念な事に俺は羊人族がわからない……。


「おー。可愛い可愛い」

「むう。おざなり……」


そういわれても知らないのだから仕方ないだろう。

でも可愛いのは事実だから、許してくれ。


「ご、ご主人様……」

「んん? ッぶふ!」


ウェンディに呼ばれて反対側を見ると、思わず噴き出してしまった。


「め、めぇええ……」


ウェンディも体に泡をつけて羊人族の真似をしているようなのだが、いかんせん泡の多くはシロに取られてしまっているので泡が足りない。

そのため、おへそは丸見えなのだが、大きな胸と大事な部分はギリギリ泡で隠れているといった状態である。


「これは……」

「ううう、はずかしいです……」

「いや、素晴らしい……」


なんと表現すればいいのだろうか。

羊が服を着ないまま擬人化したといえば伝わるだろうか。

是非、俺にその毛を刈らせていただきたい!


「むうう……おかしい、ここはシロの愛くるしさに主が思わずシロを抱きしめるところだったはず……こうなったら……」


シロは不満の声を上げると、おなかの部分の泡を落とした。

だが、残った泡は不自然なほどに膨らんだままなのでどうにも、お腹の毛だけを刈り取られた羊のように見えてしまい思わず笑ってしまった。


「何で笑う……。シロもこれで巨乳になったはず」

「ふふん。偽物は本物には敵わないのです」

「むうー! 二番煎じの癖に……」

「オリジナルですもん……シロとは違いましたもん!」

「恥ずかしがってたくせに……どうせ隠すならおなかを隠した方がいい」

「どういう意味ですかー!」

「ハイストップ……せめてお風呂場では仲良くしようぜ?」


せっかくの朝風呂なのだ。

まったりゆったりしたいものである。

二人は不満そうではあるが従ってくれて、その代わりに両サイドからしっかりと腕を取られてしまう。


「んうー……少し熱い……」

「少しお水で温度を下げますか?」

「だな。ウェンディ頼めるか?」

「はい。でも風邪を引かないように少しだけですよ」

「ん、ありがと」


まぁ、言い合いも本気じゃないからいいよな。

ウェンディが水の魔法でお湯を薄めると、上のほうに浮いていた泡も一緒に外に流れていく。

それを見てシロは少し残念そうな顔をしていたので、また泡を作ってあげる事にした。


「泡泡ー」


こうしてみていると、年相応、むしろもう少し幼いくらいだが子供にしかみえないんだよな……。

それがまさかあんなに凄く強いのだとは思えないよな。


「そういえばシロ」

「ん、理由ならまだ言わないよ」

「違う違う。そうじゃなくて、王都の武術大会本当に出なくていいのか?」

「んー……」


お、歯切れが悪いな。

隼人も参加すると言っていたし、やはり強い人と戦いたい気持ちはあるのかな?


「主の敵になる可能性のある人が見てる場で、自分の手の内を晒したくはない」

「ん? いやでもシロが強いんだぞ! って証明できれば、下手に手を出してくる奴もいないんじゃないか?」


それに俺は隼人の用意した席に座るわけだし、隼人の関係者だとわかればよっぽどでもない限り手を出される事もないだろう。

ただ何事にも例外はあるし、わからないと言ってしまえばそれまでだが。

だがまあ、全てに疑ってかかって何もできなくなるのもな……。


「シロ個人としてはどうなんだ?」

「んー……強い人とは戦ってみたい」

「なら出てもいいんだぞ?」

「んー……」


正直恨みを買うような行動をするつもりもないしな、それに大会が終われば俺はアインズヘイルに帰って、また気ままにまったり錬金生活をしていく予定だし。

よっぽどの事が無い限りは問題ないと思う。


「俺の事はいいから、シロが出たいと思ったら出てもいいんだからな?」

「ん……今日中に決めて隼人に言う」

「だな。締め切りとかもあるかもしれないし、早めにしておきな」

「ん」


シロは小さく返事をすると、考え事をするように両手でお湯を掬って水をこぼし、俺の手をぎゅっと握ってきた。

俺は、そんなシロの手を握り返してあげた。



お風呂から上がると既に日は昇っており結構な時間が経っていたことに気がついた。

温度が低かった上にあの後二人といちゃいちゃぐだぐだとしていて、近くに冷水も用意していたので長湯してしまったらしい。

食卓に行くと、隼人、レティ、クリスが揃って食事をしているところであった。


「あら、珍しく早いわね」

「たまたまだ。悪いが、朝からお風呂いただいたぞ」

「おはようございますイツキさん。朝風呂に入っていたのですね」

「ああ。悪いけど俺らも朝食をもらっていいか?」

「はい。わかりました。今ご用意いたしますね」


受け答えしてくれたのはクリス。

食卓に並ぶのはよくある朝食のメニュー。

だが、俺はここ数日感じていた事がある……。


「あ、ちょっといいか隼人」

「はい。なんですか?」

「あのさ、……この飯の材料かなり高価だよな……?」


そう、俺の家のご飯も大概高くて美味いものが多いのだが隼人の館で出るご飯はその一歩上のランクだった。

例えばだがこのベーコンうちではあまり手を出さない『キングピグル』である。

そしてこの目玉焼き『アイアンアルバトロス』という鉄のアホウドリの卵だ。

この卵、殻も鉄なので割るのに苦労するのだが相当美味い。

黄身はびっくりするほど盛り上がり、層がしっかりとわかれているほど新鮮で、焼いても蒸しても卵の濃い味が口の中に広がるのだ。

当然、これもかなり高い。

そんな高価な材料が食べ盛りな冒険者三名と、シロにより大量に消費されていっているのである。


「あー……えっと。気にしなくてもいいですよ?」

「そうそう。クリスの事もあるし、あんた達は客人なんだから気にするだけ損よ」

「そうもいかんだろ……。 とりあえず600万ノールくらいは食ってるよな……」

「えっと、イツキさんにはお世話になってますし、本当に気にしないでください」

「いや、でもな……」


というか、俺の方が現在進行形でお世話になってるんですけど。

滞在日数だって10日は越えているし、一日最低60万ノール分くらいは食べているはずだ。

そして夜は更に豪勢になるし、下手すると600万でも足りないかもしれない。

流石に何もしないのは心苦しいのだ!


「とりあえず、600万ノール! 足りなければ後で追加で払うよ」

「いやいやいや、本当に大丈夫ですから!」

「はぁ。お客様からお金を取ったなんて風評が広まったら隼人が困るんだから、甘んじて好意を受け取りなさいよ」


風評って……。

貴族ってそんなめんどくさいのか。


「いや、でもな……」

「あーもう。しつこいわね。そんなになにかしたいなら何か作れば? あんた錬金術師でしょ?」


……なるほど。

直接的な金銭だとまずいなら何かを作って渡せばいいのか。

と言っても、俺に出来ることなんてアクセサリを作るくらいしかないんだけど。


「あ、それならイツキさん。僕、この前お話していたお風呂場に置く送風機が欲しいです!」


送風機……。

そういえばオリゴールと一緒の時にそんな話をしたっけか。

だが、あれは聖水が無いと浄化機能はつかないんだが、いいのかな?

となると、作れるとしたら扇風機か……。


「浄化機能は聖水が無いから出来ないが、それでもいいか?」

「はい! この世界って機械の代わりに魔法と魔石が主流なので、やはり手軽に涼を取れるものが欲しいのですよ!」

「なるほどな。じゃあそうさせてもらうか……。うっし、腕に縒りをかけて作らせて貰うよ!」

「はい! 楽しみにしていますね!」


となれば今日は扇風機作りだな。

どうにか武術大会が始まる前には完成できればいいんだが、とはいっても二日後なんだよな。

『バイブレータ』の時のように適当にガチャガチャやって出来たらいいんだが、サイズがまず違うしな。

それにどうせなら多種多様の機能を盛り込みたい。

まあ、まずは基本の構造からだけど。


「ん……」

「どうした、シロ?」

「……ご馳走様」

「え!? なんだ、どうしたシロ!! 調子悪いのか? お腹痛いのか?」

「ん、お腹いっぱい」


きゅるるる。っとこのギャグみたいなタイミングで可愛くおなかが鳴る。

つまり、普段どおりお腹は空いているってことだよな。

もしかして、会話を聞いて遠慮したのか!


「ああっごめん! 勘違いするよな。そういう意味じゃないんだ!」


シロが沢山食べている前で言う事じゃなかったな。

たまたま食事時に隼人に会えたからと思っただけなんだ……。


「遠慮しなくていいんだぞ! シロが沢山食べた方が俺も嬉しいしな!」

「でも……」


実際シロの食べっぷりは見ていて気持ちがいいのだ。

嬉しそうに、幸せそうに食べている姿が、俺は大好きだ。

そのためならば俺の労力など屁みたいなもんだ!


「いいんじゃないの? クリスも沢山食べてくれて嬉しいって言ってたしね」

「そうですそうです。もう朝ごはんもシロさん用に作ってしまいましたし、食べてください!」

「ん……」


ちらりと俺の方を見上げるシロ。

ああ、本当にごめんな。

そんな悲しそうな顔をさせてしまうつもりはなかったんだ。


「遠慮せず食べてくれ! シロは何も気にしなくていいんだ!」


頼む! 俺の心の平穏を保つ為にも!


「シロ。食べていいんですよ」

「ん……」


最後は母親のようなウェンディの笑顔に後押しされ、シロは一言だけ呟いて頷くとフォークに刺したままのベーコンをもぐもぐと食べ、飲みこんだ後ににこっと笑った。


「美味しい」


ああ、その一言だけで俺は救われるよ。

その笑顔が俺の心に癒しと平穏を与えてくれるのだ。

作ったのはクリスだけど。


「んー……んっ!」


シロは少し何かを考えた後にまた食事を再開する。

俺たちは先に食事を終えて、シロが幸せそうに食べる姿を眺めながらゆっくりと食後のお茶を楽しむのであった。

よし、気合いいれて頑張ろう!

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