5-3 (仮) マネージャー
仮の部分が決まらず……とりあえずこのままで……。
はぁ……。
お茶とお菓子美味。
シロは結局白熱して今は膝から降りてウェンディをからかっているし。
まあ疲れたら戻ってくるだろう。
「随分楽しそうね」
皆でぎゃーぎゃーと騒いでいる所に、休憩なのか汗をかいたままの4人が加わる。
「お疲れ様。はい、タオル」
「ありがとう主様。主様は一人でお茶を楽しんでるのね……」
「まあな。ソルテ、朝飯抜いてたろ。サンドイッチもあるから食べとけ」
「あ、ありがとう」
「それとレンゲ、お腹出してみろ。さっきアイナの剣が当たってたよな」
「っすけど……」
「アイナは多めに水分補給な。さっき一度ふらっとしてたろ。塩分と糖分でエネルギー摂取しておいた方がいいと思うぞ」
「ああ、ありがとう……」
「ミィは……うん。大丈夫そうだな!」
「はいなのです! 朝ごはんもちゃんと食べたのです!」
「偉い偉い。朝をしっかり食べる事が大切だからな! でも水分補給はしときな」
「はいなのです!」
うんうん。
ミィはやはり素直でいい子だな。
体重が心配だからと朝ごはんを抜く女性は、ミィを見習うべきである。
「主様、ちゃんと見てるのね……」
「当たり前だろ? それを目的としてここにいるんだから。ほら、レンゲちょっとこっち来い」
俺は椅子から立ち上がり、魔法空間からタオルと回復ポーションを取り出す。
そして、タオルに回復ポーションを沁みさせていきレンゲの赤くなった部分の状態を見る。
「そ、そうだったのか……」
「てっきり、いちゃついてて見てないのかと思ったっす……」
いや、それは流石に本末転倒だろう。
元々様子を見る為に今日は外でお茶会をすることにしたのだ。
レンゲのお腹の赤くなったところに、タオルを当てていくとクネっと腰が避けるように動いた。
「あはは、ご主人くすぐったいっす」
「動くなって、ほら、痕が残ったら困るだろう」
「あははは。でも、くすぐったいっす」
「いやだから動くなっての……えい」
「どさくさに紛れてお尻を掴まれたっす!」
「どさくさ? 違うねわざとだ!」
「何でも開き直ればいいってもんじゃないっすよ!」
目の前でくすぐったがってくねくねと動く腰を見れば誰でも手をまわすよね。
まわしたら掴むよね。
俺、悪くない証明完了。
「しゅ、主君、実は私も……」
「私も……ちょっとだけだけど……」
「ん、ああわかった。ちょっと待っててな」
そういえばソルテも少しだけ切られていたな。
アイナは覚えている限りでは大丈夫だと思ったのだが、レンゲの打撃ならば鎧の上から通るのかもしれないし見ておくか。
「はい、レンゲ終わり。まだ暫く当てときなよ」
「はいっす! ありがとうっす!」
レンゲは基本的に軽装だしな、肌も露出しているし怪我をする事も多いのだろう。
次は、ソルテか。
ああ、確かに頬を少し切っているようだな。
じゃあこれだ。
「ソルテ、ちょっと沁みるけど」
「ん、大丈ッぶ! 痛い痛い!」
「いやだから沁みるって言ったろ」
今回はポーションに粘度を加えた軟膏タイプの回復薬だ。
飲んでも塗っても使えるならば、塗る用は粘度が有った方がいいと思い製作してみたのだ。
見たことはあったが作っていなかったのでどうせならといった具合である。
「ほら、女の子なんだから顔に傷が残るのはいやだろう」
「そ、そうだけど冒険者だから傷くらいは仕方ないわよ」
「それでもせっかく綺麗な顔なんだから、大事にしておけよ……」
近くで見るとソルテの顔が整っているのが良くわかる。
幼さはあるもののかなり美人なのだから、顔に傷なんてつけたら勿体無いだろう。
持って生まれた才能の一つなのだから、できる事はしておくべきだと思う。
「はい、終わり……って大丈夫か?」
「き、綺麗って……」
「なんだ照れてるのか? よし。ソルテ綺麗だよ。可愛いよ」
「ぽひゅう」
こんなおざなりな褒め言葉で顔が真っ赤になり、頭からぼふっと蒸気が出るようなまるで漫画のような状態になるとは……。
これは面白い、追加攻撃だ。
「ソルテマジ可愛い。切れ長の目とか、小さな唇も可愛いよ。犬耳もお気に入りだし、毛並みも綺麗。小さな胸を気にしているみたいだけど、ソルテの胸なら問題ないよ。むしろ可愛い。凄く可愛い」
矢継ぎ早に詰め込めるだけ褒め言葉を詰め込み、その上で頭を撫で、腰に手を回す。
そうすると頭から発生している蒸気がどんどん増し、顔も見た事が無いほどに紅くなっていった。
「はふう!」
「危ないっす!」
その声と共にソルテは後ろに倒れ、レンゲが慌てて支えていた。
ソルテはだらしなく口が開き、顔を真っ赤にしたまま目を回していた。
「ちょっとご主人! ソルテは耐性0なんすからダメっすよ!」
「知ってた」
「たちが悪いっす! あ、でも自分にも今度して欲しいっす」
素直でよろしいこった。
だがまあしてくれというのであればしようじゃないか!
ベッドの上で寝る間際までずっと言い続けてくれる!
くはは! 我がマイライフは順風満帆である!
「あ、あの主君?」
「ああ、アイナの事も忘れたわけじゃないよ」
勿論当然覚えている。
というかアイナは鎧の部分が多いから、脱ぐのに時間がかかると思っていたから後にしたのだが、まだ脱いでいなかったか。
「それで、どこを怪我してるんだ?」
「ああ、鎧の内側なんだが……」
アイナが肩口から鎧を外し、腰から上の鎧を外していく。
すると、汗のにおいとは別の女性らしい香りをさらに濃くしたような匂いがふわっと俺を襲う。
媚薬かと思うような甘美な香りに、一時思考が停止するも何とか持ち直す。
「その、汗臭いかもしれないから……」
「気にするな。むしろ、ありがとうございます!」
「え、え?」
はぁ……。
インナーに顔を押し付けたい。
二人きりならばまず押し付けている。
だが今は! 血涙を抑えて! 手当てに勤しむとしよう!
アイナがインナーをぺらりとめくると、下腹部の辺りに擦り傷のようなものが見える。
どうやらレンゲの打撃で、というわけではなく擦れたようだ。
これも軟膏タイプの方がいいと思い、少量を指で取ると傷口にそって塗り広げていく。
「沁みるぞー」
「ん、っく……あぁ……」
アイナは痛みに耐えているだけのはずなのだが、何故だろういけない事をしている気持ちになってしまうのは。
紅くなった部分に指を這わせるたびに、小さな声で「ん」と聞こえるのだ。
先ほどのカホリで一撃を受けている身としては、なかなか堪えるものがある……。
主に性的な意味で。
「よ、よし。終わりだ」
なんとか鋼の精神で耐えて椅子に深くもたれかかかる。
「ああ、ありがとう主君」
さらばチラリと見えるおへそ。
素晴らしかったぞ……。
アイナはインナーを下ろすと、また鎧を付け直していった。
どうやらこの後もまだ鍛錬をするらしい。
流石、気合が入っているな。
「あの、ありがとう」
ソルテもう復活したのか。
あ、でもまだ顔が紅いな。
まあ俺に出来ることといえばこれくらいしかないしな。
稽古に付き合おうと思ったら足を引っ張るか、『
せっかく頑張っているのだから、マネージャーみたいな事くらいはすべきだろう。
「それで、どうしてこうなってるの?」
こう、とは今もなお騒いでいるほかの方々の事だろう。
隼人はまだレティにクリームを付けられそうになっているし、クリスやエミリーはそれを止める為にレティを抑えている。
そして、シロとウェンディはまだ言い合いをしている状況であった。
4人が俺の用意したスポドリ風ドリンクを飲みながら、今の状況について聞いてきたので、掻い摘んで話してあげる。
「お菓子! ご主人の新作のお菓子っすか?」
「皆の分もあるから、後でな」
「それにしても、主君の奴隷となってから甘味を摂取する機会が多くなったな……。嬉しいのだが、少し心配だ……」
アイナは鎧の上からお腹を撫でる。
察するに太るんじゃないかといったところだろう。
「アイナ達はこうして汗をながしているし、大丈夫だと思うぞ」
さっきアイナのくびれたお腹は見たばかりだしな。
まったくどころか、何処のモデルだよってくらい美しかった。
それにその点で言えばシロの方が心配である。
一日の摂取カロリーだけで言えば軽く1万キロカロリーを超えている。
だが俺はシロがあまり動いているところを見ていないので、大丈夫なのかと心配になる。
いつも俺とのんびりして、ご飯を人一倍食べ、太らないのかなと……。
膝に座られる時に感じる重みはいつも軽いのだ。
「ご主人様!? 『アイナ達は』って、どういうことですか!? やっぱり私は……」
「主、ナイス援護」
「いやそんなつもりで言ったんじゃないぞ?」
何度も言っているがウェンディは決して太ってなどいない。
それはお風呂に一緒に入るなどで何度も確認しているのだ。
「というか、お前達もいい加減仲直りしてくれ……」
「だって、だってシロがぁ……」
「ほら。いつも通り抱きしめ心地のいいウェンディだよ」
もはや半泣きのようなウェンディをぎゅっと抱きしめる。
やはり全然太ってなどいないのだ。
「ううう……」
「主、ウェンディだけずるいシロも! シロも!」
「ちゃんとウェンディに謝ったらな」
「言い過ぎた! ごめんなさい」
「うう……」
「ウェンディ?」
「うー……」
あら、まだ怒り心頭か。
よしよし。
「ほら、許してやってくれ。ちょっとヤキモチを妬いただけだろうさ」
「ううー……ご主人様がそういうなら、でももう少しだけこのままで」
「はいよ。シロ、我慢できるよな?」
「ん、我慢して待ってる」
ここで流石に嫌だとは言わないよな。
まあこっちはこれでどうにか凌いだから、隼人も頑張ってくれ。
「あー……それじゃあ私たちも戻るわね」
「そうだな……。鍛錬に集中しようか……」
「っすね。がんばるっす」
「ミ、ミィはちょっと混ざってくるのです!」
「はいはい。頑張ってね」
「はいなのです! っとう!」
ミィが隼人の方の騒ぎに乱入し、更にごちゃごちゃになるのだが、見ている分には楽しいな。
「3人になっちゃったわね……。そうだ。シロちょっと付き合ってよ」
「ダメ。シロは今忙しい」
「えっと……歯を食いしばって耐えているようにしか見えないんだけど」
「その通り」
「んー。まあいいわ。それじゃあ暇になったら付き合ってね」
「……わかった」
そんなやり取りを残し、三人はまた少し離れたところで鍛錬を再開した。
そしてウェンディを抱きしめながら、隼人の困っている顔を見て俺の昼下がりは終わりを迎えたのだった。
「ううー……我慢我慢……シロは出来る子……」
……頑張れ、シロ。
あとでちゃんとぎゅっとするから。