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5-2 (仮) 甘いお菓子 2

ふう。

セーフ。

さて、これから取り出したるはやはりこれも生クリームを使った俺達には馴染み深いお菓子である。


「ってことで、はい。どうぞ」


そういって取り出したのは一枚の大皿に乗った球状に近いお菓子。


その名も


「シュークリーム!」

「ただのシュークリームじゃない! クッキーシューだ!」


この世界のクッキーは俺が思っているクッキーの甘さの期待値よりも甘くない……。

ならばとその食感だけは活かそうと、ホイップクリームとカスタードのダブルクリームでクッキーシューを作ろうと思ったのだ。


カスタードはバニルの(さや)と、この世界の砂糖を更に分解、再構築して作った甘みを増した砂糖を使い、それと牛乳と産み立てで新鮮な卵の卵黄に小麦粉を使ってクリスが作ってくれたものだ。


ちなみに一番苦労したのはシューの部分ではなく、ホイップクリームやカスタードを絞る絞り機の袋の部分である。

なにせビニールが無いからな、金型だけなら簡単に作れたのだが押し出して絞るのには苦労した……。

最終的には固めに作ったクリームを入れた極太の注射器のようになったのである。

だが精製されたゴムなどないので、天然の樹液を固めたゴムもどきを使用することになったのだった。


「さあ食べよう!」

「ん、食べる!」

「はい! いただきますね!」

「私も、ずっと食べたかったんです!」


皆がすぐにクッキーシューにかぶりつくのを見て、早速俺も手にとって一口食べる。


「うはぁ……」


外側の皮がかりっふわっとしつつ、中からしっとりとしたカスタードとホイップクリームが口内に甘みを広げていく。

濃厚な甘みを持つカスタードのバニルの香りが甘さを際立たせ、カスタードだけでは重くなってしまいそうなところをホイップクリームがさっぱりと違った甘さを与えてくれる。


口の中であまり甘くは無いクッキーを中に詰まったクリームでカリカリと食べる食感もまたいい。

わざわざ普通のシューにせずに、クッキーシューにしてよかったと思わざるを得なかった。


「やばいなこれ」

「凄いですよ! とても素人が作った完成度じゃないですって!」

「スキル様様だな。自画自賛だがこれは売れる!」


売るならいくらだろう。

前の世界なら一個100円~だが、300円くらいするものもあるしな。

それに材料費を考えると100ノールでの販売はまず無理だ。

300ノールでも余裕で赤字だな。

そもそも普通の砂糖でさえ高級な嗜好品だからな。

でも庶民が買えるくらいの値段でとなると……ぎりぎりで一個1500ノールか……。


「え、販売するんですか!? 売るならいくらでも買いますよ!」

「まあ待て待て、隼人のはクリスがこれから作ってくれるから」

「はい! 館にある『道具箱(アイテムボックス)』に沢山生クリームとカスタードをいただきましたので、これからいつでも作れますよ!」


道具箱(アイテムボックス)


隼人の館の厨房に、異様な形の箱があったのだ。

いやまあ俺は良く見た覚えがある物だったんだが、まさかこの世界でお目にかかるとは思えなかった。

それはバイト時代に見た、業務用4枚扉の銀色の冷蔵庫。


クリスに聞くと、ダンジョンの最深部の宝箱に入っていた魔法の袋(大)に入っていたものだそうだ。

時間を停止させた状態で中身を保存できるらしい。

つまり見た目は冷蔵庫だが、冷やすわけではなく魔法空間と同じ様な性能のようだ。

ただし見た目どおりの収納数と持ち運びの不便さがあるようだ。

それでも腐りやすいものなどを長期的に保存できるのは料理人ならば喉から手が出るほど欲しいはずだ。


そんなわけで生クリームとカスタードはその道具箱にこれでもか! って程に詰め込んでおいたのだった。

それに、クリスならばこれから更にいかようにも昇華させてくれるだろう。


まったく、何が自分には何も返せないだ。

十分すぎるほどの才能と、そしてたゆまぬ努力を続けられる根性。

隼人に美味しいものを食べて欲しいという熱意が大前提であるのがまたいじらしい。

こんないい子に想われて隼人は幸せだな。


「あ、隼人様? またほっぺにクリームがついてますよ?」

「あれ? お恥ずかしいですね……」


そういってクリームが付いている頬とは逆の方の頬を触る隼人。

それにクスクスと笑い、先ほど同様に手を伸ばすクリス。


「主も付いてる」

「ん、どっちだ?」

「シロが取る」

「いや、いいよ……」


たまたま触れたほうにクリームが付いていたしな。

ぺろぺろは残念だが、二人きりの時にしてもらいたいな!

そして自分で人差し指で擦り取った。


「じゃあ、あーんする」

「ん? ああ、あーん」


ついたクリームを自分で食べようとしたのだが、シロがこちらを向いて目を瞑り、小さな口を精一杯あけて『あーん』としたので、シロの口元に持っていった。


「させませんっ!」

「え」


声が聞こえると同時に後ろから腕が伸びてきて、指にクリームが付いた方の手首を握られそのまま後ろへと引かれる。

振り返ると俺の手首を両手で押さえた、涙目のウェンディさん。


「うー……うー……」

「あー……」


えっと、ウェンディさん?

その、どうして手首を押さえながら涙目で何かを訴えようとしておられるのですか?


「ご主人さま、私とはお菓子を作ってくれないのですか?」


んー、いや、なんというか……。


「昨日作る前に呼びにいったぞ? なあクリス」

「あ、はい。……えっと、一応」

「嘘です。気がつかなかったですもん」


まあ、気がつかないよな……。

あの熱弁じゃ。


「いやまあ、レンゲと二人で熱く語り合っていたからさ、邪魔しちゃ悪いなあ……と」

「レンゲと……? ……あっ!」


そう。

本当は昨日ウェンディも誘いに行ったのである。

部屋を訪れ、中から声が聞こえただがノックをしても返事が無かったのだ。

だからそのまま少しだけ扉を開けて中を窺ったのだが、


『いいですかレンゲさん! 《ご主人様の為の100の事》レッスン12ですよ!』

『はいっす!』

『ではこれまでのおさらいです。まず大前提ですが貴方は……?』

『自分はご主人に酷い事をしたので、反省の意味を含めてすべてをご主人にささげるっす!』

『よろしい。ちゃんと覚えていたのですね。それで貴方の武器はなんですか?』

『ご主人が普段からすれ違うたびにいやらしい視線を向け、距離が近くなる時やすれ違いざまにまず必ず撫でられるこの太ももです!』

『っぐ……。そう、そのとおりです。ご主人様がどなたの太ももよりも貴方の太ももを御所望なのですから、決して拒否しないように!』

『はいっす! ご主人の身体能力じゃ確実に避ける事もできるっすけど教わったとおり避けてないっす!』

『素晴らしいです! その調子ですよ!』

『はいっす!』


……。

何をやっているんですかね?


『お、お兄さん……』

『クリス、すまないが聞かなかったことに、もとい見なかったことにしてくれ……』


そうか、避けられるのをあえて触らせてくれていたのか……。

どうりで最近よく触れるようになったと思ったんだよね。

俺のセクハラスキルが上がったのかと思ったのだが、ウェンディの仕業(おかげ)だったのか……。


そうか……。

よし。

いいぞウェンディ。

その調子だもっとやれ!

教育? 洗脳? どっちなのかもわからないが、俺にとっていい事なのは間違いない!

お菓子作りに時間を割いている場合ではないのだな! 了解した!

と、その後熱弁をふるうウェンディを残して二人で菓子作りを開始したのだった……。


ちなみにだが俺のセクハラをただのセクハラだと思ってもらっては困る。

至高のふとももの健康チェック、状態管理、マッサージを備えたセクハラであり、意味のある行動だという事を大前提に考えていただきたい!

それでもセクハラはセクハラだが。


「ううー……ご主人様の接近に気がつかなかったなんて」


まあ、アレだけ熱弁を振るっていれば気がつかないのもしょうがないと思う。

背景に炎が見えたし、レンゲは気がついていたのかもしれないが、余所見をすればウェンディに叱られそうな雰囲気だったしな。


「申し訳ございません……」

「まあ気にするな。俺の為にしてくれていたんだから謝る必要はないって。それよりそろそろ手を離してくれ……」


もう結構なところまで垂れてきてるから!

指っていうか根元付近まで垂れそうだ。


「わ、わ、も、申し訳ございません!」


はぷっ。


なんて擬音がなるような感じで、慌てていたのか突然俺の指を咥えるウェンディさん。

湿った感覚が人差し指を包み込み、何度見直しても指を咥えたウェンディさんである。

唇で一度擦り取るように引き抜いた後は、咥えただけでは届いていなかった根元の方を小さな舌を這わせてクリームを舐め取っていった。

丁寧に擦り取る為に小さな舌の更に小さな面積の舌先を押し付けるようにされると背筋がぞくぞくっと興奮を覚えた。


もはや何も付いていないのだろうと構わず、さらに指を咥えたまま舌を這わせ、口の中で舌がたっぷり指を舐めまわしていた。

当然指なのだが、どこかいやらしく、そして艶かしい。


「ん……ちゅぅ、っんく……。ちゅ、んっ……」


ウェンディが音を鳴らすたびに、視覚、聴覚、そして触覚を刺激される。

垂れたクリームを舐めるという決して綺麗ではない行為だ。

だが、ずば抜けてエロイのだからそんな事はどうでもいい。

そんな些細な事を考えている余裕など無いほどに、エロイ!

この光景を見て何も想わない男にはもはや何も言うまい。


「あー……その。ウェンディさん?」

「ん、っちゅ……。はいご主人様。取れましたよ」


声をかけると最後といわんばかりに付いた唾液を全て口内に納めるように口をすぼめて最後は搾り取るように指から口を離すと、笑顔で報告をしてきた……。

当然ながら一同唖然である。

クリスも、隼人についたクリームを取り忘れたままこちらに魅入っていた。

シロはというとガーンと口を開けたまま停止している。


だがそんな事は一切気にせずにウェンディは持っていたハンカチで指を拭きなおし、ニコリと微笑んだ。

ハンカチを持っていたならそれで拭えばよかったのではとか言ってはいけない。


「えっと、ありがとな」

「いえいえ。とても美味しかったです」


……それはクリームがだよな。


「あ、あああ、あんたねえ! こんなところでなにやらせてんのよ!」


声のしたほうを見ると顔が真っ赤になっているレティと、少しだけ頬を染めているエミリーがいた。


「いや見てたろ……。俺がやらせているように見えたのか?」

「そんなのどっちでもいいのよ! 場所をわきまえなさいよね!」


その通りだとは思う。

俺が元の世界の街でこんな光景を見たら真っ直ぐゲームセンターに行きパンチングマシーンに300円は投入するだろう。

それくらいの行為であったと俺自身に自覚はあるが、あの行為を途中で止める事など俺には……できないっ!


「あー……。えっと私にはあんなことはできないけど、取ってあげるわね」

「え、あ、エミリー?」

「ああああああ!」


エミリーはさり気なく隼人の頬についたクリームに手を伸ばし、呆けていた隼人が慌てる前に擦り取ってそれをぱくりと食べた。


「クリスごめんなさいね。横取りしちゃって」


ぺろっとまだ付いていたクリームを舐め取り、拭き取ろうとした体勢のまま停止していたクリスに一声かけるとはっと今気がついたかのようにビクンと反応をした。


「い、いえ。私はもう先ほど済ませましたので……」

「ええ!? ク、クリスが!? い、いつの間に……」


レティはクリスがそんなに積極的な行動をするとは思わなかったのか、衝撃を受けていた。

よろよろと二歩、三歩と下がった後顔を伏せる。


「……なさい」

「レティ? どうしたの?」

「もう一回つけなさい! 私が取るから! 私が直接舐め取るから!」

「ええ!? い、嫌だよ!」

「いいからするの!」


はっはっは。

隼人よ。先ほどのシロと同じパターンだな!

今度は俺がその光景を見てやろう!


「主……」

「どうしたシロ?」

「もう一回指につける!」

「いや、対抗意識を持たなくていいから……」

「くっ、エロスの権化には勝てないのか……」

「ふふふ。シロ? 世の中弱肉強食ですよ?」

「腹肉増殖? ぶっひぶひ」


シロは鼻に指を当てて少し上に引っ張りブタ鼻を演出してウェンディを煽っていた。


「だから……太ってません! 太ってませんよね!?」

「ああ、太ってないからそんなに怒るなよ……」

「だってシロが!」

「ぶっひぶひ」

「また言った! もう知りません! もう絶対にシロにはご飯を作ってあげませんから!」

「ぶっひぶひ」

「効かない!? いいんですか? いいんですね!?」


シロも引けないところまで来てしまっているのだろう。

普段ならご飯を引き合いに出せば謝るはずだが今日はどうやらお冠のようである。


「……ぶっひぶひ」

「もう許しません! 後で謝っても絶対に許しませんからね!」


はぁ……。

優雅な気分などとっくに何処かへ行ってしまったが、こんな感じで騒がしいのも悪くないよな。


「クリス、お茶のおかわりもらえるか?」

「レティさん落ち着いて――え? あ、はいわかりました……じゃなくて、そちらの喧嘩をお止めにならないのですか!?」


ま、時間が解決してくれるだろ。

どうせじゃれているだけだ。


あぁ、紅茶とクッキーシューが美味い。

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