閑話 2 オリゴールの日常 1
息抜きで書いた閑話です。
えー……キャラクター設定?って難しいですね……。
本編考えるより大変な気がします……。
見た目とか、何も考えていなかった上に登場キャラ数が多い。(自業自得ですが)
主要キャラだけでもいいかなあ……。
領主の館の一番奥のボクの執務室でボクは書面と向き合っていた。
山のように積まれた書類はまだまだボクの一日が始まったばかりだという事を示している。
毎朝毎朝この執務室に来ると山のような書類を見る羽目になるので、朝起きるたびに憂鬱になるよ。
「ねえウォーカス。ボク遊びに行きたくなってきたよ」
「ええ勿論良うございますよ」
「ほんとに!? じゃあ」
「その書類が全て片付きましたら、いくらでも遊んでいただいて構いません」
「ううう……病み上がりのボクを労わる気持ちは無いのかい?」
「オリゴール様、もう霊薬をお飲みになってから7日は経っていますよ」
「いやいや。まだ7日だからねソーマ」
「領主様のお仕事を代わって差し上げたいとは思いますが、流石に判子を押す仕事くらいはしていただかないと困りますので……」
ウォーカスもソーマも普段はボクのわがままを聞いてくれるのに、仕事となるとどうにも融通が利かないなあ。
あーあ。せっかく面白そうな男の子と知り合いになったっていうのに、あれ以来全然会いにいけてないや。
前はお祭りの日だったっけ。
全く。ボクが助かったからってわざわざお祭りにする必要は無いのになあ。
「ん、この経費おかしくない?」
「調べてみます」
「よろしくー」
はぁ、今日も目を通してぺったんぺったんぺったんぺったん。
こんな事ばかりしているから僕の胸はぺったんたんなんじゃないかな?
なーんて関係ないか。
はぁ、ぺったんぺった、あ、これもおかしい。
「ねえ、ボクが病気になったからって、経費の計上がおかしくなってないかな? ボクを相手に不正とか、いい度胸している業者がいるみたいだね。さっきのと同じところだよねここ」
出資してくれている商店にも早く完成をさせないと文句を言われるし、お金は有限なんだから少しでも無駄に出来ないっていうのに、本当にいい度胸をしているよ。
わざわざ時間を取らせるなんて本当に煩わしいね。
「かしこまりました領主様。私が直接調べてまいります」
「ん、よろしくねウォーカス」
さて、これで不正を行なった業者はいなくなるね。
でも確か石材の発注を担ってたところだよなあ……。
それなりに安くはしてくれていたけど、お金にがめついイメージだったし切ってもいいか。
でも代わりかあ……。
「ソーマ、石材の卸しについてメイラに相談してきて。予算は前のところと一緒で」
「もう切ってしまってよろしいので?」
「十中八九不正だからね。ウォーカスの監査を入れなくてもわかるけど、調べないで切るとあとでうるさいでしょ?」
「かしこまりました。それでは行ってまいります」
「うん。いってらっしゃい」
「……くれぐれも抜け出しませんように」
「わーかってるってー! むふふ」
このボクが抜け出さないわけ無いじゃないか!
どうせ少し遊びに行っても今日中に終わるんだし、今日を元気に過ごす為に若いエキスを啜るくらいなら許されると思うんだ!
「……ちなみにですが、
「はぁ!? なんだって!?」
ちょっとまって! 聞いてないぞ!
「隼人卿と一緒に王都に向かったじゃありませんか……」
「そうだった……。ボク報酬も渡してたじゃん!」
何で忘れてたボク!
だって最近忙しすぎて時間の感覚がおかしいんだもん!
あーあー……。
なんだよう。
新しい玩具を手に入れたのに、親に取り上げられた子供のような心境だよ。
「あー……。つまんないの。ダーウィンでもからかいにいこうかな……」
「いや仕事をしましょうよ」
「えー……もうほら、そんな空気でもないじゃないか……」
「どんな空気であれお仕事をしてからお遊びください」
「ソーマ、ボクは子供じゃないんだよ? そんな言い方は子供を叱る親みたいだ」
「子供じゃないならお仕事をしてくださいよ……」
「ああ言えばこう言うなあ」
「その言葉そっくりそのまま返させていただきます……」
あーあ……ソーマも出て行っちゃった。
んー……。
よし。
ぺったんは置いていつものやり方でいこう。
ソーマとウォーカスが居る時はできないんだよね。散らかるから。
風の魔法である『
そしてスキルである『遠見』、『速読』を発動し、すべての書類に目を通した。
そして重要案件の書類と、問題のある可能性のある物だけを『微風操作』で端に纏めて、残った書類は逆側の壁にまとめていく。
これを何度も繰り返し、問題のなかった書類に『微風操作』を発動しながらぺったんを再開する。
当然場所は床であるので、寝転がりながら仕事が出来るのがこの方法の利点である。
『微風操作』によって一枚押してはどかしてぺったん。
はぁーぺったんぺったんぺったんぺったん。
ふふん。これで四分の三が終わったね。
ただ書類は散らばったままなんだけどね。
微風操作でとりあえず一まとめにしておき、残った問題のありそうな書類を手にとって椅子に座ってしっかりと読むとする。
『速読』は目が疲れるし、ある程度すっ飛ばして読むのでしっかりと見ないといけないものには向いていないんだよね。
んー……進展状況か。
うん。予定通りみたいだね。
ただ資材の消費が思った以上に激しいな。
監督役に話を聞く必要がありそうだ。
次はー……ああ、犯罪奴隷関連か。
ヤーシスの捺印もあるし、問題ないね。
はいぺったん。
んー……大体終わったかな。8割くらいは終わりだよね。
8割って殆ど終わってるから、終わりだね!
よし! 遊びに……あー……そっか。
お兄ちゃんはいないんだったね。
じゃあどうしよう。
今の時間ならメイラちゃんは事務所だろうし、ダーウィンのところにでも行こうかな。
よし。そうと決まったら即行動だ。
即断即決ダダッダーン!
窓を開き縁に足をかけて外に飛び出す。
なぜなら廊下から足音が聞こえてきていたからだ。
多分、ソーマだろう。
という事はメイラちゃんの事務所にお邪魔するのもありだね!
「……オリゴール様ただい、オリゴール様!?」
開け放った窓を見上げると、ソーマの声が聞こえる。
というかもうメイラちゃんの所に行ってきたのか。
どれだけ早いんだよもう、有能なんだからあ。
有能なら後は任せても大丈夫だよね。
「ごめーんソーマ。片付けといて」
「ちょっとお待ちを! まだ仕事は山積みで、こら! 走っていくな!」
仕事が終わったとはいえ、執務室は書類が散乱している状況だからね。
几帳面なソーマにとっては怒り心頭だろうね。
「またやったなクソガキが! おいこら戻ってこい! お尻が真っ赤になるまで叩いてやるからなあアアアアア!」
「やーだよ。ボクのお尻を触りたいだなんてソーマも年を考えなよ」
おお、怖。
いいじゃないか仕事は終えたんだし。
怒ってばかりいると血管が切れてしまうぜ?
「はっはっはー! 自由とはなんて素晴らしいのだろうね!」
「知るかぁあああ! 仕事しろぉおおおお!」
おお、初老とは思えない耳のよさだね。
まだまだソーマには頑張ってもらわないとだから健康なのはいいことだね!
でもボクは行く!
『
僕の魔法は低レベルだからねえ。全部微風なんだけど、追い風って素晴らしいよね!
あっという間に館から離れることができたよ。
ここまでくればもう大丈夫だろう。
さて、とりあえず何処から行こうかな。
多分ダーウィンの家だとすぐにばれるな。
となると、裏を掻く必要があるね。
という事でやってきました!
大きな門構えの大きなお家。
「こんにちはー!」
「あら、領主様じゃありませんか。先ほどソーマ様がおいでになられましたけど何か問題がありましたでしょうか?」
「ううん。遊びに来たんだ!」
ということでやってまいりましたメイラちゃんの事務所兼お家。
「……はぁ、領主様? 今私達は仕事中なのですけど」
周りを見ればメイラが雇っている従業員が世話しなく動きまわっている。
当のメイラはと言うと、書類を片手に優雅にお茶を飲んでいるだけなのだけど。
「知ってるよ。じゃあボクも仕事で特別視察って事で!」
「あのですね……。私これから商談がありますの。お相手はできませんわよ?」
「あ、じゃあボクも一緒に商談のお話聞くー!」
「……一応理由を聞いてもよろしいですの?」
「君達ダーウィン一家は悪い噂ばかり聞くからね。ちゃんと商談をしているかこの目で見る必要があるんだよ」
「……本音は?」
「ボクも個人的に買い付けようかなって」
いやだって、メイラちゃんもダーマ君も真面目に仕事してるからさ、監査なんてする必要もないんだもん。
本当にダーウィンの養子なのかなってくらい何も無いから困ってるんだよね。
もっとディープなところも何もしていないし、本当にダーウィンの手腕のみを学びに来ている感じで弱みが握れないんだもん。
「はぁ……。今回は重要な取引相手ですから、下手な事は言わないでくださいね……」
「はーい。黙ってるけど、口は出ると思うよ」
「極力! で構いませんから……」
なにやら早めに諦めたようだね。
流石メイラ。かしこい子だね。
「それで、今日はどこの商人と話しをするの?」
「今日はアマツクニの豪商との商談ですの。わざわざ遠いアマツクニからお越しいただいたのですから失礼の無いようにお願いしますね」
「アマツクニかー……。あそこのご飯ってぱっとしない素朴なものが多いんだよね」
「ええですが丁寧に作られたお野菜は土から違うのか旨味がまるでこちらと違いますわ。それに……」
「何故か『流れ人』はあそこの国のものを好むんだよね」
「そ、ソウナンデスノー? シリマセンデシタワ」
驚くくらいに片言だね。
んんー。
なるほどねえ。
「そういえば今お兄ちゃんは王都に行っているんだったね」
「お兄ちゃん? えっとダーマ兄様ならアインズヘイルでお仕事中ですけど」
「ああ、違う違う。僕を治してくれたお兄ちゃんだよ」
「え、兄……? 領主様の方が年上じゃありませんの?」
「はっはっは。兄妹に年の差なんて関係ないのさ。ボクの精神的お兄ちゃんだから問題ない」
「領主様……ご自分の年齢を考えなさいませ……」
「私オリゴール。11ちゃい」
「見えますけど! それはハーフリングだからでしょう!」
「今思ったけど11歳の見た目で体の内部は大人とかやばくない? 犯罪臭がするんだけど」
「知りませんわよ! はぁ……なんだかあの方をお相手している気分ですわ」
「そりゃ兄妹だからね。似もするよ」
「血のつながりも育ちも違いますわ!」
あははは。
メイラちゃんは楽しいなあ。
きっとお兄ちゃんもメイラちゃんで楽しんだ事だろう。
おっと、男が女で楽しむだなんて、なんて卑猥な表現なんだ。
後でお兄ちゃんはおしおきだね。
「それにしても、君がねえ……」
「……なんですの?」
「いや、まさか君が彼に懸想をするなんてと思ってね」
「別に好きとかではありませんわよ」
「そうなの? じゃあなんで?」
「有能そうですから。早いうちから唾をつけておいたほうがいいと思いましたの」
まあそれはわかる。
わかるけど得心がいかないなあ。
「んー……」
「……何か言いたいんですの?」
「彼が有能だというのは認めよう。だけど彼の有能な部分と、君が求める男性像が合致しないんだよなあ」
確か前聞いた理想の男性は、バリバリ仕事が出来る男だったはずだ。
彼はどう考えたってそんな働き者ではない。
今はなんだかんだ言いつつ働いてはいるが、元々の彼は怠け者気質だと思う。
「……好みなんて変わるものですわ」
「あれ? 好きとかではないんじゃないの?」
「だから好きではありませんわ!」
「でも、本気で好きじゃないのにあの布陣に太刀打ちできるの……?」
「それは……」
お兄ちゃんは大きな胸が好きそうだから、一番の問題はアイナとウェンディなんだよね……。
あの5人がいる以上外から落しにかかるなら、本気で行かないと難攻不落なんだよねえ。
まあだからこそ面白いんだけどね!
「メイラ様。アマツクニの豪商がお着きになりました」
「わかりました。すぐに行きますので一番上等な応接室にお通ししてください」
「ああ、なるほどね。ポイント稼ぎか」
アマツクニの商品を買って、彼にプレゼントすれば懐郷心が煽られて感謝される事は間違いないだろう。
ただ問題は何に懐かしさを覚えるかだね。
それがボクらにはわからないから、お互いのセンスと勘で勝負といこうか!
「言い方が悪いですわ! 普通に、普通の商談ですのよ!」
「うんうん。じゃあボクも彼にプレゼントを注文させてもらおうかな」
「勝手になさいませ!」
メイラは資料を持って応接室へと向かっていき、僕はそれについていく。
「あ、ここで働く諸君! ソーマが来たら僕はいないといっておいてくれよ!」
きょとんとしながらも領主であるボクのお願いに頷かざるをえない従業員諸君。
権力を行使したわけではないさ、個人としてのお願いを勝手に領主だからと頷いた彼らが悪い。
「やっぱり逃げ出してきているのですね」
「自由な風は捕らえられないものなんだよ」
「だったら領主なんてやめればいいですのに……」
「他に最適な人材がいないからやっているだけだよ。ダーウィンとかやればいいのに」
「お養父様はあなたが逃げ出すような面倒な仕事はいたしませんわ」
「だろうねえ。月の稼ぎも今の仕事の方がいいもんねえ」
今の主だった仕事は出資と金貸しだっけ。
でも銀行は今はレインリヒと合同だったね。
それでも金貸しの需要は多いから問題ないんだろうね。
知り合いに奴隷商人もいるから取立てで困る事も無いし、いやいい商売だよ本当に。