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4-24 裏オークション 無事に解決とショックな出来事

フリードにエミリーとウェンディを呼びにいってもらっている間に、クリスはお茶の準備をしに厨房へと向かっていき今は隼人と二人きりで部屋にいる。


「はぁー……それにしても霊薬の効果は凄まじいな」

「そうですね。僕がダンジョン制覇して手に入れた霊薬は国王様に献上してしまいましたし、僕も初めて効果を目にしましたよ」


なるほどな。

どうりで隼人が霊薬を持っていなかったわけだ。

S級ってことは一度はダンジョン踏破をしているのだろうし、もしかしたら仲間や誰かを助ける為に使ったのかと考えていたのだが、そういうことだったか。


「そういえばさ隼人」

「なんですか?」

「隼人って色々なところにもう行ってるんだよな?」

「ええ、一応ですが王国内は勿論ですが、帝国領にも何度か足を運んでますね」

「帝国? こういう異世界だと戦時中とか多いけどそれはどうなんだ?」

「いえ、帝国とは和平協定を結んでいますし、今のところは魔族や、魔王の対処にどこも忙しいですから戦争をする余裕はないかと思います」

「はあ、そうか良かった。危険が一つ減るだけで大分安心できるな」

「そうですね。僕も帝国にも知り合いはいますし、戦争は避けたいところです……」

「そうか。戦争になったら隼人は駆りだされそうだよな」


ラシアユ王国の英雄なのか、帝国やその他の国からも認められている英雄なのかは知らないが、少なくとも王国の貴族である以上徴兵を受ける可能性は高いだろう。


「そうですね……。僕が行く事で力の無い方々を守れるのならば、僕は僕の信念のために敵を討ちますよ」


こういったときの隼人の顔は、子供っぽさがなくなり覚悟の決まっている顔になる。

大人としては子供にこんな顔をしてほしくないんだけどな。

だが、隼人の真剣で誠実な瞳は決して決意を揺るがす事は無いだろう。

ならば俺は隼人や隼人の周りの被害を少なくする為に行動するだけだ。

直接的な戦争には参加するつもりは無いが、個人的に隼人を支援はしたいと思う。


「まあでも今は平和ならいいじゃないか。そういえば帝国に行くには通行証とか必要なのか?」

「元の世界で言うパスポートみたいな物が必要ですね。領主に発行願いを出せば調査された後に発行していただけます。目的はなんなのか、滞在日数などもお伝えするのは海外に行く時と一緒ですね。行く予定があるんですか?」

「まあ王国を一通り見た後にでもな。帝国にはビールみたいなのもあるんだろう?」

「ラガーですね。取り寄せましょうか?」

「ああ、できるなら頼むかもしれない」


まあでもアインズヘイルにいる間はダーウィンの義娘であるメイラに頼んだ方が隼人には迷惑がかからないか。

確かメイラは輸出入に関わる仕事をしていたはずだし、頼めばきいてくれるだろう。

ああ、牛タンで冷たいビールをキュッと飲みたい。

あとはアンドウマメでも摘みながらテラスでゆっくり飲むのもいいなあ。

あれ、外国のビールは冷やさないんだっけ?

まあでも魔法空間でアイスみたいに樽ごと冷やせばいいのか。


「そういえばビールで思い出したけど、この世界って米は無いのか?」

「ありますよ。帝国のずっと西の方にあるアマツクニという国にですけど……」

「遠いのか?」

「そうですね……ここからだと早くても一ヶ月、いえ、天候によっては二ヶ月はかかるかもしれませんね……」


二ヶ月か……。

流石に遠いな。

んー……いずれだな……。


「あ、でも本当にたまにですが王都やアインズヘイルに商人が持ち込む場合もありますよ。ただ輸送費がかなりかかりますのでお値段は相当ですが……」

「あー……まあでも米食べたいよな……」

「あと、この世界醤油はないみたいなんですよ……」

「嘘だろ!? え、大豆は?」

「見たことが無いですね……」


まじかー……。

醤油無いのか……。

という事は味噌もないのだろう……。

うわあ……事実が判明すると余計にショックだ……。


はあ、冷奴とか納豆とかまた食べたかったなあ……。

味噌汁も飲みたいなあ……。

これに米と焼き魚で完璧な朝食セットだな。

個人的にはとろろご飯に納豆にオクラを加えて、ねばとぅるっといきたい。

だがそんな妄想は露と消えるのだな。


ああ、懐かしの和食……。

さらば無難で豪華な朝食セット……。


「あ、でもまだ全部調べたわけじゃないですから! 諦めるにはまだ早いですよ!」

「そ、そうだよな! まだまだ調べていない田舎の村でひっそりと栽培している可能性もあるよな!」

「そうですよ! 勿論発見しましたらイツキさんにもお教えしますので!」

「ありがとう隼人……。心の友よ!」

「そんな劇場版ではいい奴みたいな関係より日常でも良好な関係がいいです……」


そりゃそうだ。

俺だってガキ大将になるつもりはないぞ!


「いやでも俺も何かの拍子で手に入れたら教えるからな!」

「はい! よろしくお願いしますね!」


ぐっとお互い固い握手を交わす。


「失礼します。月光草ですがお持ちのようでしたのでエミリー様、ウェンディ様をお連れ致しました」

「来たか。ちょうどいいタイミングだな」

「そうですね。それでは入ってください」


フリードが外から扉を開けるとエミリーとウェンディが入室する。


「……せっかくウェンディ様とお話ししてたのに」

「まあまあ。またいつでも出来ますから」

「あはは……。ごめんね」

「悪いな」

「別にいいけどね。それで、月光草をどうするの?」

「悪いけどちょっと使わせてほしいんだがいいか?」

「いいけど……。何に使うの?」


そういってエミリーは魔法の袋から月光草を取り出した。

この月光草は特に輝きが強く、今まで見た中でも一番明るい光を放っていた。


「見てからのお楽しみ……というか、実験だな」

「実験?」

「あの、失礼します」


話を続けようとしたところでクリスがトレイに茶器を載せて部屋に入る。


「クリス……目、治ったの?」

「はい! 隼人様とお兄さんのおかげで無事に治りました!」

「……どういうこと?」

「まあそのための実験だよ。あー……そういえば一般家屋での錬金は禁止だっけ……」


錬金をするならば一般の家屋じゃ禁止だったな。

魔法空間内で錬金をする分には他人にはわからないが、『既知の魔法陣エクスペリエンスサークル』は紙と魔法陣を必要とするし魔法空間内でできるのだろうか……?

んー……できれば今まで通りのやり方でやりたいんだがどうするかな。

大人数で錬金術師ギルドに行くのは流石に注目を浴びるだろうし情報漏洩の恐れもあるし避けたいところだ。


「それではここは僕の家の錬金室です。そうですよねフリード」

「はい。ここは錬金室です。何も問題ありません」


うおう。

いたのかフリード。

てっきり部屋の外にいるのだと思っていた。

いつの間に入ってきたんだ?

というか、そんな簡単に決めていいのか?

まあでも家主がそういっているうえに関係者しかいないんだしいいか。


「それじゃあ始めるか」

「はい」


羊皮紙と筆をまず用意し、『既知の魔法陣』を発動する。

頭の中で霊薬を想像すると、前回同様自動書記で魔法陣が描かれた。


「おー。これが既知の魔法陣の効果なのですか?」

「まあ魔法陣はショートカットするためだな。手形成(ハンディング)なんかで作ったアクセサリーとかも魔力と材料で作れるみたいだぞ」


贋作(マルチコピー)』との違いは劣化するかしないかだろう。

オリジナルを作るならば手形成。

ただ消費MPが激しく、日に何度も作るのは正直な話しんどいところだ。

大量生産ならば、能力は劣化しても贋作スキルの方が効率はいい。

既知の魔法陣は少量の複製には向いていると思う。


魔力回復ポーションをがぶ飲みすれば作り続けられるだろうが、魔力回復ポーションには中毒作用もあるらしい。

俺は前に30本の魔力回復ポーション(中)を飲み干したのだが、そのときは『運が良かったね』とレインリヒに言われました。

もし運が悪かったら、常に中毒状態になるらしい。

中毒状態になると、魔力が回復しにくくなり、回復ポーションなんかの効果も薄くなるそうだ。

さらには常時頭痛などの痛みが走り、50%の確率でスキルが失敗する。

当然失敗してもMPは消耗するので、回復しにくい状況では手痛い損失だ。


ちなみにだが狂化状態であればいくら飲んでも中毒にはならないようだ。

理屈はわからないが、そういうものだそうだ。

以前俺が飲まされたあの薬の時は40本も飲ませたらしいしな……。


まあでも、万能薬で治るらしいので無理をすれば無理矢理作る事(デスマーチ)も出来なくは無い。

だが、そこまで苦労と痛みを重ねてまで大量に使いたいとは思わない。

そもそも男は痛みに弱いものなのだ。

特に俺は弱いと自負している。

怖いのも痛いのもごめんだ。


「それじゃ、早速やってみるよ」


材料は確認済みだ。

あとは月光草が最後の材料である事を願うばかりである。


「あー……失敗したら倒れるから、そのときは頼んだ」

「え? はい! しっかりと支えます!」


横に座ったウェンディが、両手を握り締め頑張るポーズをとる。

どうよ隼人。

うちのウェンディさんは見た目だけでなく所作まで可愛いだろう?


「それじゃ頼むな」

「はい!」


ウェンディの返事を聞いて安心して魔法陣に魔力を注ぐ。

今回は何かにしっかりと魔力が注がれている感触で、それに消費されるMPも前回よりも少ないくらいだ。

頭の中にまた細かい作り方が一瞬にして流れこむと魔法陣の上には三度目となる小さな小瓶が出現した。


「……ふう」

「ご主人様、成功ですか?」

「ああ、大成功だな! エミリーもありがとうな」

「本当に作れるのですね……」

「なに、これ。もしかして」

「ああ、霊薬だよ」

「なんで霊薬が作れるの? そんな記述どこにもないわよ!?」


普段から落ち着いているエミリーが動揺を隠せないでいた。

まあ普通ならばダンジョン踏破の際にしか手に入らないという認識なのだろうし、作れるのがわかれば当然か。


「エルフの森にさえ書き記された資料なんてないのよ? どうして貴方が作れるの?」

「さあ? 俺にもわからないんだよな」

「はぐらかさないで! 正直に答えなさい!」


といわれてもこまるのだが……。


「エミリー。落ちついてください。そもそも錬金術師の知識は財産ですよ?」

「そうだけど、だって何一つわからないんだもの! 知恵者と呼ばれるエルフなら知りたいと思うのは当然でしょ?」

「それはわかります。でもお兄さんの立場も考えてください」

「クリス……」

「そうですね。イツキさんは波風を立てたくない方ですから、あまり騒ぎ立てては迷惑です」

「まあこの場では構わないけどな。なんだったらレシピは教えようか?」

「……いいわよ。悪かったわ」


落ち着きを取り戻したのか、エミリーはすとんと椅子に座った。

本来ならば知りたいだろうが、隼人とクリスに諌められた手前聞きたいとはいえないのだろう。


「まあ月光草はエミリーから借りた奴だしな。霊薬は渡すからそれで勘弁してくれ」

「……いいの?」

「ああ、使うなり調べるなり好きに使ってくれ。いいよな隼人」

「イツキさんが構わないならいいですけど……。いいんですか?」

「まあ、隼人達にはこれからダンジョンに行くなら月光草を取ってきてほしいし、先行投資みたいなもんだよ。元々エミリーの月光草のおかげで作れた上に確信が持てた訳だしな」


正直3億ノールは高い。

だが、まあこれで材料はわかったのだ。

あとは隼人達が無理せず無事に取ってきてくれるのを祈るばかりである。


「あっ、当然ながらウェンディもエミリーも誰にも言うなよ?」

「言わない。……というか言ったら大変な事になる」

「……はい。ご主人様に危険が及ぶのでしたら誰にも言いません」

「まあクリスのことで突っ込まれるとは思うが、そうなったらフリードに人払いを頼んでから二人に話してくれ」

「ええ、わかってるわ。それにしても霊薬か……」

「調べて何かわかったら教えてくれよ」

「知識は錬金術師の財産なんでしょう?」

「俺は錬金術師だが、エミリーは違うだろ?」

「……ずるいわね。錬金術師って」

「流れ人ってならわかるが……あー。いや、確かに錬金術師はずるいな」


アクセサリーは高値で売れて、薬も需要が追いつかないほどであり、戦闘面で怖い人たちもいる。

何でも出来るな錬金術師。

流石にこれはずるいと思う。


「まあ、レシピについては口外しないのであれば後で話すからさ。だから頼むよ」

「そう? じゃあお言葉に甘えるわ」

「おう。遠慮しなくていいぞ」


先ほどは隼人達が諌めた為聞けなかったであろう事を引き合いに情報を手に入れる。

霊薬については詳しい情報がないうえに、多分あっても国家機密だろう。

国が関わって研究しているはずなので、その情報を手に入れるには一苦労どころか情報に見合わない苦労を強いられる場合もあるだろうしな。

そんなんだったらエミリーを信用したほうがずっといい。


さて、クリスも治ったし霊薬の作り方もわかった。

あと俺に残された今やるべき事は一つである。


「確かここは錬金室なんだよな?」

「はい、そうですけど……」

「それじゃあ約束どおりクリスのアクセサリーを作るか」

「そうですね。それでは私も用意していた布と裁縫道具をこちらに持ってきますね」

「本気だったんですか!? 大丈夫です間に合ってます! 私なんかが、そんな大層なものいただけません」

「隼人、言ってやれ」

「はい。クリス。そんな事言ってはいけません。クリスは可愛い女の子です。ですから、私なんかなんていわないでください」

「隼人様……」


ふう……。

隼人って天然ジゴロだよな。

だがきっと自分では気づかないのだろうな。

そしてきっとこれから彼女達は苦労するだろう。

道行く先で隼人に惚れる女性がきっと後を絶たない。

今でさえ多いのであろうけども最近は言葉にして伝えるようになったので、更に増えること間違いなしである。


「さて、それじゃあこっちは始めるか」

「そうですね。では、今道具を取ってまいりますので」

「よろしければ私が取りに行きましょう。それとこの屋敷にある布類もお持ちいたしますよ」

「そうですか? それならばお願いしてもよろしいでしょうか?」

「かしこまりました。それでは少々お待ちを」


そういうとフリードが部屋を出て行く。

きっと驚くべき速さで戻ってくることだろう。


「あ、そうだ。前髪はどうするんだ?」

「隼人様……切ったほうがよろしいですか?」

「どちらでも構いませんよ? クリスの魅力はそんなことじゃ衰えませんから」


おーおー。ご馳走様だな。

それじゃあやはり髪留めにするか。

前髪を留められるようにすれば切る必要も無いしな。

ん? 袖がくいくいっと引っ張られる。


「ここは私のも作るべきだと思う」

「お、おう。確かにそうだな。よしエミリーのも作ろう」

「可愛いのでお願い。まさかクリスに一歩先にいかれるなんて……! 油断してたわ。とんだダークホースね」


クリス、恐ろしい子っ、と言わんばかりである。

まあでも髪留めくらいならばすぐに出来るし、二つくらいなら問題ないな。

さあて、エミリーのデザインはどうしようか。

やはりエルフだし、森の木をイメージした物がいいだろうか。

……エミリーならば『隼人命』とかかれた髪留めでも許してくれるんじゃないか?

どうせなら冗談で作ってしまおうか。

嫌なら別の物を渡せばいいだけだしな。


この後、お茶をしながら錬金作業をすることとなり完成した三つの髪留めを前にクリスとエミリーが一つの髪留めの取り合いをすることとなった。

だが、流石にその髪留めは隼人が回収し事なきを得たのだが……。


「イツキさん? 流石にこれは恥ずかしいです……」

「いや、誰も読めないしいいかな?って……」

「傍にいる子に自分命なんて書かれた髪留めを他の転生者に見られたらどうするんですか!」


そりゃそうだ。

というか、説明をしたら取り合いになるなんて思わないだろう。

ただのネタだぞネタ!


「ご主人様? 私にはご主人様命と書かれた髪留めはいただけないのですか?」

「あー……。隼人、すまんかった」

「いえ……わかっていただければいいんです……」


前言撤回だ。

これは流石に羞恥心が限界突破である。

他の転生者に見られればイタイ奴と見られること間違い無しだろう……。


こうして無難に二人に合ったデザインの髪留めを渡し、この日はお開きとなった。

後日、レティやソルテに霊薬について突っ込まれるのだが、それはそれはとても面倒な出来事でしたとさ……。

これにて4章を終わります。


さて、区切りもいいですし4章の章題や、他の設定なんかを出来る範囲ではありますが見直さねばならないかなと。

それとキャラクターもかなり増えましたしここらでキャラ説明なども作ろうかと思います。

なので本編は少々お休みするかもしれません。


なるべく早く5章に入りたいですが、修正なんかで悩んで困ってどうしようもない時は閑話を投稿するかもしれません。

まあ……閑話はせっかくですし投稿する予定ですけどね。

今回は誰にスポットライトをあてようか……。

修正した部分はキャラ設定の一番下か、活動報告にてご報告させていただきます。

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