4-23 裏オークション 霊薬の最後の材料
4-22のシロの部分を大きく変更しました。
あー……。
食べ過ぎたー……。
夕食は当然のようにクリスが作ったご飯で、屋台で満腹になった後に夕食でも満腹になるまで食べてしまった。
これは……そろそろ運動もしないと太りそうだな。
んー……鍛錬でもしてみるか?
自分で自分を守れるようになるのはいい事だろうし……。
幸いな事に教えてくれる人は潤沢だしな。
だが今は腹が苦しい……。
シロも流石に満腹なのか、横になって休むと言って部屋に戻っていった。
食べてすぐだから横になるなよ、とは言ったが多分横になっているだろう。
ちなみにウェンディはと言うと、なにやら話があるようでエミリーに連れて行かれてしまっている。
ということで俺は今、一人でソファーにもたれかかっている状態である。
「あの、大丈夫ですか?」
声がしたほうを見ると、クリスが水差しを持って心配そうにこちらを見つめていた。
「クリスか。丁度良かった。この通り動けないので隼人を連れてきてほしいんだが……」
「わかりました。あの、消化にいいお薬もご用意しましょうか?」
「ああ、うん。お願いします」
気遣いの出来る良い子だよ本当に。
そういえば目が治ったらアクセサリーをあげるって話をしてたな。
どんなアクセサリーがいいだろうか。
漢字で『隼人命』とか書いたピンは怒られるかな。
まあ普通にクリスっぽいアクセサリーがいいか。
んーやっぱり料理が印象深いよなー。
「お待たせしました!」
「おお隼人。クリスも薬ありがとうな」
「いえ、それでは私はこれで」
「ああちょっと待った。はいこれ」
魔法空間をごそごそと探って霊薬を取り出すと、隼人に手渡した。
「え、あれ? これって……」
「おう。霊薬な」
「霊や……霊薬ですか!? どうしたんですか!?」
「んー……ここからは内緒話ってことで」
はぐらかしてもいいが、これから先霊薬を作るには隼人の協力が必要になる可能性が高いからな。
あって損どころか安心できるものだし作っておいて損はないはずだ。
「フリード!」
「っは。ここに」
突然フリードさんが現れる。
この人本当に神出鬼没だな。
「今からこの部屋に誰も入れないでください。聞き耳を立てさせる事も許しません」
「それはレティ様達でもでしょうか」
「はい。フリードも誰にも話す事はないようにお願いします」
「かしこまりました」
「あの、私はどうしましょう……」
「んー効果も見たいし一緒にいてもらっていいか」
クリスの傷が治ればどうせ後でばれるだろうし、ただまだ確信が持てていない状況で噂が広まるのはよろしくない。
従業員からの心配もあるが、まあフリードがきちんと守秘義務を徹底させてくれそうだけどな。
この館の従業員皆真面目だしな。
きちんと選別しているのだろう。
「それじゃあ早速、って言いたいが出所不明じゃ怖いよな」
「えっと、どうやって手に入れたんですか? 領主様の時もそうでしたけど、女神様からいただいていたのですか?」
「それだったらオークションの前に渡してるよ。錬金のレベルが9になった時に『
「『
「そうなんだけどな……。まあ出来ちまった分にはいいかなって」
こればかりは俺にもわからないことだ。
何故作れたのか。
特殊な条件でもあったのだろうか。
「それで、作ったと……」
「そそ。鑑定しても霊薬だし、問題は無いと思うがクリスが気味悪いと思わないなら使ってやってくれ」
「私は大丈夫ですが……。お兄さん、霊薬はとても高価なものなのですよ? 売れば大金が手に入ります」
「知ってるけど、俺なんかが出品したら怪しいだけだろ? いざとなれば隼人を介して出品してもらうけど今回は恩を返すチャンスだからな。遠慮なく使ってくれ」
「そんな、恩だなんて……。あれは当然の事をしたまでです。ですから代金はしっかりお支払いします!」
「いらないって。恩返しだって言ってんだろ」
恩人から金を受け取って恩を返す。
そんな事は恩返しではない。
これからスローライフを目指すにあたり大金が必要だとしても、人として当然の事である。
「わかりました……。ありがとうございます」
「いいよ。こっちこそありがとうな」
隼人には感謝したってしきれないんだ。
この世界で、一番初めに隼人に会えてよかったと思っている。
それに、こいつ好青年だから好きだしな!
「では早速使ってみてもよろしいですか?」
「ああ、ぜひとも頼む。俺も霊薬がどんな感じで効果が現れるのか見たかったんだ」
そういうと、隼人はクリスに霊薬を手渡した。
クリスは一度俺のほうを向いたので、ニカッと笑い返してやる。
そして隼人の方を確認し、隼人が無言で頷くと霊薬を一気に呷る。
すると、クリスの目の辺りが淡い光に包まれ、すーっと目の辺りに吸い込まれていくような光景が目の前で起こった。
あの淡い光……つまりはあれがそうなのだろう。
「あ……。見えます。隼人様。両の目で隼人様のお顔が見えます」
「はい。クリス……。良かったですね」
「はいっ!……はい!」
涙を流して喜ぶクリス。
強がってはいたがやはり女の子なので顔に傷が残ることをよしとはできないだろう。
それに隼人も少し目がうるっとしてるようだ。
二人はぎゅっと抱き合い、部屋にはクリスの泣き声だけが響く。
隼人はポンポンと頭を軽く叩いて宥め、もう片方の手でしっかりと抱きしめていた。
本題に入りたいところだが、ここは一つ大人しくこの美しい光景を眺めているとしよう。
二人が満足するまで、俺も何とも言えぬ満足感に満たされたまま時間が経過していった。
「お、お恥ずかしいところをお見せしました……」
「いやいや。お二人さんの熱く美しい愛を見せていただいたからこちらとしても満足だ」
「愛だなんて……。あの、ありがとうございました!」
「お礼は隼人にな。隼人の日頃の行いが生んだ結果だからな」
あくまでも隼人だから渡したのである。
これが隼人でなかったらどうだったかは定かではない。
「僕からもお礼を言わせてくださいよ」
「いやだから」
「ありがとうございます。イツキさん。このご恩は必ずお返しします」
「いや恩返しなんだから恩はないだろう……」
恩を受け、恩返しをし、更に恩返し返し宣言をされた。
俺は命を救われているわけだからまだ足りないような気もしているんだが……。
「いえ、必ずお返ししますので」
頑なだな。
昔のアイナを思いだす。
まあでも、この後次第では協力してもらう事も多いだろうし俺としては当然構わないのだが、なんだかなあ……。
「まあ……わかった。何かあれば頼む」
「はい!」
「私も、はい!」
どっちも真面目で似た者同士かっての。
いいんだよ。サンキュー! 助かった! くらいの感じで。
照れくさい。
「さて、効果も見れたし早速だが隼人、いくつか聞きたい事がある」
「なんですか?」
「お前さん、月光草は持ってるか?」
「えっと……。すみませんイツキさんに渡したので全てです……」
「そうか……」
じゃあ実験は出来ないか。
だがまあそれしか考えられないんだよな。
「ちなみに月光草って、何処で手に入れた?」
「えっと、確か……」
「私を救ってくれたダンジョンの最下層、宝箱の部屋に生えていました」
「そうでしたね。でも、他のダンジョンの最下層でも見つけましたね。何に使うかわからなかったので少しだけしか採集してないのですけど……」
「ちょっと待った。月光草って月の光で成長するんだろ? ダンジョンの最下層に月の光が届くのか?」
「さあ……。ただ宝箱には上から光が当たっていて、その周りに生えていたのでもしかしたら月の光だったんですかね?」
「光の元は確認できませんでした」
どういう構造なんだ……?
「ちなみにダンジョンの最下層から地上に戻る時はどうするんだ? 今度は上に上っていくのか?」
「いえ、レストルームにもたまにあるのですが、地上に転移できる魔法陣がありますね」
って事はその宝箱の部屋は最下層ではなく地上付近に飛ばされた後の部屋とかか?
多分ボスかなんかを倒してダンジョンの宝箱の部屋にたどり着くんだろう。
その時にも魔法陣に乗るとか、倒したら強制転移されたりするのだろうか?
地表に近いならば月の光もまあわからなくは無い。
ただ、そうなると外からその宝箱の部屋も確認できるのではないだろうか。
それにしてもダンジョンの最下層か……。
俺じゃあ無理だな。
となると、やはり隼人に頼むしかないか。
S級に上がるにはダンジョン踏破と、お偉いさんの同意が必要らしいので彼女達も踏破はしたことがないのだろう。
「もしかして……」
「ああ、多分だが月光草が霊薬の材料だ」
「なるほど……」
「まあでもあくまでも可能性としては高いって程度だけどな。他の材料も目処は立ってるし、後一つを知りたかったんだが……」
一つでもあれば実験を行なって確信が持てるんだが……。
「隼人様。エミリー様ならお一つ持っているかもしれませんよ?」
「ああ、もしかしたら持ってるかもしれないですね。光っている月光草に興味を示していたから持ち帰っている可能性もあるかもしれません」
「確かエミリーはウェンディと一緒にいるんだったか」
「ええ、フリードに頼んで聞いてもし持っていたら貰えるようにお願いしてみましょうか?」
「んー……だな。口止めも必要だが、確信が欲しい」
それにいずれはばれる話だ。
隼人の周りと俺の周りくらいならば問題はないか……。
ただし、しっかりと守秘義務は守ってもらおう。