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1-8 異世界生活 町と牛串と猫耳少女

説明文がいつの間にか多くなる病。

「おや、随分粘ったね。どうだい? 上手く行ったかい?」


扉を開けると受付に座っていたレインリヒに声をかけられた。


「まあまあ……なのかな?」

「どれ、見せてごらんよ」


そういわれて出来上がったポーション類を魔法空間から取り出して並べていく。


「ほう。頑張ったじゃないか。出来も悪くない」

「お、そうかな? なんか嬉しいね」

「(微)までができればいいほうだと思っていたが、うんうん。優秀な奴がギルドに入るのは嬉しいね」


なんだろう。妙に嬉しい。

でも本当に頑張ったとは思う。


『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、

 ほめてやらねば、人は動かじ』


山本五十六も言っていたがこれはアガる。

次も頑張ってみようという気になるもんだ。


「そうだ。ポーションとかって何処に売りに行けばいいんだ?」

「うちに売るか、冒険者ギルドに直接卸に行くかだね。(劣)でも需要はあるから問題なく売れるだろうよ」

「露店とかは開けないのか?」

「開けなくはないよ。ただその場合は商人ギルドに販売手形を有料で発行してもらうんだね。私のオススメは冒険者ギルドに行くことをすすめるよ」

「なるほど……」


(劣)とか(微)が多いので需要があるのは助かるな。


「あ、あとアクセサリーも作ってみたんだが見てくれるか?」

「ほう。随分手広くやったね」


魔法空間から取り出した捻れたネックレスを手渡す。


「ほう! 頑張ったじゃないか! これなら一万ノールで取引できるだろうよ」

「まじでか! 高いな!!」


ネックレスたけえ!

一万ノールって俺のお小遣いスキルと同じだぞ。

日本円にして一万円。MP効率は悪いものの錬金室に入って一つ作れば元を取るどころか利益に転じちゃうじゃないですか。

しかも材料費は鉄のインゴット一つで8個作れる。

3つは失敗したとしても1つでも作れれば大もうけだ。

やはりインゴットのまま売るのは安いしもったいないな。


「それにしても、ただの鉄でできたネックレスなのにそんなにするんだな」

「首からかけるだけで皮鎧と同じ効果があるならそのくらいするだろうさ」

「おー! そうなのか!」


なんだこの婆さん。人を乗せるのがうまいじゃないか。

となると、帰ったらもう一度錬金室に篭ってアクセサリーの大量生産をしたほうが儲かりそうだ。


「これも一緒に冒険者ギルドに持っていけば取引してくれるだろうさ」

「おーう! じゃあ早速……じゃねえまずは飯を食いに行ってくる」


ポーションは魔法空間よりも魔法の袋に入れたほうがいいか。

何もない空間からアイテムを取り出したらめんどくさいことになりそうだし。

アイテム袋は……まあ隼人から貰ったもとい借り物だしな。

何か言われたら隼人に借りたと正直に言おう。

隼人は冒険者ギルドだろうし。うん伝わるだろう。


「ああ行ってきな。その腹の虫を収めないと冷静に取引なんてできないだろうよ」

「んだな。どっかお勧めの店とかないかな?」

「あんたら『流れ人』の好みはわからないからね……。中央広場の噴水の周りに食べ物屋の屋台が並んでるからそこで好きに食べるのをオススメするよ」


屋台か! いいね。串焼きとか、ガッツリ食べたい気分だ。


「それよりあんた売る前でお金はあるのかい? ポーションの瓶代なんかはお金が入った後でもかまわないけどさ」

「大丈夫! 一万ノールならすぐに手に入るからさ! じゃあ行ってくる!」


そういって振り向きざまに『お小遣い』を発動させる。

すると空中から一枚の銀貨が落ちてきてそれをキャッチして魔法の袋の中に収めた。

レインリヒに見られたかもしれないが、別に見られて困るようなものではないしレインリヒならば問題ないだろう。


「……流れ人ってのは相変わらずわけがわからないスキルを持ってるんだね……。まあ変わり者だからこそ期待してるよ」


レインリヒはそういうと物憂げに俺の背中を見送るのだった。



錬金術師ギルドを出ると中央広場を目指して歩き出す。

正確には方向なんてわからないけど、美味しそうな匂いがするほうに歩き出した。

香ばしい肉の香りが余計に腹を刺激して口からは唾液が溢れそうになる。

自然と足早に歩き出し、人ごみを避けながら目的地を目指すと割りと近くにあったのかすぐに到着する。


中央広場と言うだけあって人ごみは多く、だが歩けないほどではない。

そしてまず目を引くのが大きな噴水とその前にある女神の彫像だろう。

どことなく見覚えのある女神像なのだが、もしかして俺にスキルをくれた女神様だろうか。

だが本物はもう少し可愛らしいイメージだった。


しかし今はそんなことよりも屋台だ! ここから見えるだけでも数十にも及ぶ屋台が立ち並び、どの店も声を上げて客寄せをしている。


『さあさあ寄ってらっしゃい寄ってらっしゃい。今日は港町メラルドからの新鮮な海魚の塩焼きだよ! 絶品の一品がなんと700ノールだよ!』

『お客さん見て行ってー! かの有名なヘレン牧場の牛を焼いた牛串が一本なんと800ノールだ!」

『さあ、お客さん肉や魚もいいもんだが主食がなくちゃいけないね! フェイルズ平原で取れた小麦を使ったふっかふかの白パンだ! これが肉にも合うし魚にもあうんだからたまらない! お一つ1000ノールだが、その分ボリュームも満点だよ!』


熱気を帯びているのはこの街が商業都市だからだろうか。

各自各々の商品をどこから持ってきたのか説明し、どの店よりも魅力的にみせるよう営業努力を行っている。


「あー……どれも美味そう。今なら全部食べられそうだ」


『さあこれはこの近辺に生息する大芋虫の肉だ! 他所の地方の特産だけが旨い訳じゃない! アインズヘイル近辺の芋虫は絶品だよー! 少し値は張るがその分食べる価値はある! キャタピラス焼きは3000ノールだ!』


前言撤回、全部は無理だ。

というかこの世界はあの巨大な芋虫を食べるのか!?

しかも高い!

あの旨そうな牛串の4倍近くもするの!?

あの芋虫って一応魔物じゃなかったっけ。

この世界だと魔物も食べるのか……。

しかも意外と食べている人が多い……。

うぷ……。あまり見ないほうがよさそうだ。

何も食べてないので胃液がこみ上げてきそう。


とにかく虫は避けてと、何かわからないものよりは牛を食すことにしよう。

牛串を2本購入し、おつりで白パンを一つ購入した。

魚のほうも気になったのだが、今はがっつりお肉を食べたい気分なのだ。


占めて2600ノール。日本だとお昼ごはんにしては贅沢だが今日ぐらいはいいだろう。

噴水の近くに空いたベンチを見つけたのでそこに腰掛けるとまずは牛串を一口。

店主の話ではヘレン牧場なるところの牛らしく、脂も乗って絶品と謳っていたがまさにその通りである。

旨い……。たれではなく塩で軽く焼いただけの肉がこうも旨いものなのか。

噛むと溢れる肉汁。噛めば噛むほど旨味が滲み出してきてあっという間に口の中に溶けていった。


そして白パン一斤を縦に裂いて一口。

ふわふわでほんのり甘い白パンはまさになんにでも合う味だろう。

当然この牛串にも合う。

こちらもあっという間に食べきってしまう。

これは……牛串を挟んで食べたい。サンドイッチみたいに挟んで両方がっつりとかぶりつきたい。

その欲求に抗えないままに新しく白パンを縦に裂き、牛串を乗せて串を抜くと挟みこんで一口。


あー……たまらん。

白パンのふわふわの柔らかさ。そして牛串から溢れる脂を吸い込んで更に美味しく、凄く美味しく進化している。

ふわふわの白パンをかみ締めた後に牛串との食感の違いも感じられる一品だ。

邪道かもしれないが旨いならいいじゃないかと思う。


さてもう一口と口を開けると正面に小さな猫耳の少女が口を大きく開けていた。

きょとんとしてその猫耳少女を見ると、こちらの視線に気づいたのか慌てて口を閉じるも目線はこの牛串サンドに向けられている。

牛串サンドを見た後、その少女を見るとお腹を押さえたままジーーっと視線は固定されている。


「えっと……食べたいのか?」


そう聞くと猫耳少女はコクコクと頷くも首についているわっかが気になるようだった。

まあ別にいいかと牛串サンドを差し出すと、しまった食べかけだったという事に気がついたものの、少女は関係ないというように小さな口を精一杯大きく広げて齧り付いた。

あまりに頬張るように噛り付いたので噛みにくいのだろうか、もごもごとしながらも瞳は幸せそうであり若干涙を浮かべているように見える。

それにしても、ああ、猫耳、尻尾もかわええ。


「ああ、こんなところにいた!」


人ごみのほうから歩いてくる商人風の男が猫耳少女を見つけて慌てて近寄ってくる。

はあはあと息を切らす商人だが、悪そうには見えない。

それどころか人の良さそうな顔が特徴的な男だった。


「はぁ……探しましたよ。はぐれないでくださいと言ったではないですか。おや?」


もぐもぐと何かを食べている猫耳少女を見ると、食べかけの白パンを持っている俺に目を向ける。


「あー……ダメじゃないですか。奴隷に勝手にご飯を与えるのはマナー違反ですよ」

「奴隷?」

「ええ、首輪が見えるでしょう? これは奴隷の印なんです。ご存知ありませんか?」

「ああ、すまん。知らなかった」

「なるほど……変わった服装を見るにどこぞの貴族様でしょうか? それならばこの奴隷をお買いになられませんか?」


変わった服……? そういえば今の俺はスーツにYシャツだった。背広は着ていないがネクタイをつけているので外回りの営業のような格好である。

周りを見回すと同じような格好をしている人は当然一人もいないので確かに変わった格好なのかもしれない。


「いや、そういうわけじゃないんだが……今はお金もないし、って、うん?」


クイクイっと袖を引かれて見ると、猫耳少女がまた牛串サンドを見た後に懇願するように目で訴えてきた。

商人風の男に視線を確認すると「どうぞ」と言うように手の平を向けて差し出してくる。

許可が出たので牛串サンドを目の前に差し出すとまた大きく口を広げてパクリとかぶりついた。

もう牛串サンドはただの白パンの端っこまで小さくなってしまったが、少女が美味しそうに食べるのでまあいいかと諦めがついた。


「随分なつかれていますし、ここは一つご購入ということで……」

「いや待て。今は本当に金がないんだって」

「今はということはお金さえあればご購入いただけるんでしょうか?」

「待て待てって。値段も知らないし、奴隷なんてどうすればいいのかわからん。そもそもこんな往来で取引するものなのか?」


周囲を見回すと遠巻きに見られているのがわかる。


「……それもそうですね。ではもし興味がおありでしたらヤーシス奴隷商館までお越しください」


奴隷商館なんてのがあるのか。というか奴隷がこの世界では普通にいるんだな……。

そういえば確かに屋台で下働きをしている犬耳の男の子なんかも首輪を巻いていたような気がした。


「わかった。もし余裕ができたら顔を出してみようと思う」

「ええ、その時は是非。貴方とは長い付き合いになりそうだと私の商人としての勘が申しておりますので、その際はサービスさせていただきます」


クイクイっと更にシャツを引かれ顔を向けると、またジーッと顔を見つめられる。

最後の一口が欲しいのかと目の前に差し出すと顔をぷるぷると横に振るった。


「来て、ね。絶対だよ」

「え。ああ、おう」


まさかの言葉に驚いてると猫耳少女は差し出した牛串サンドをぱくりと食べきり、奴隷商人と共に去っていった。

去り際にこちらを向いて手を振られる。その手に返すように手をあげると二人は雑踏の中に消えていった。


残されたのは冷めてしまった牛串と残り半分の白パンだけで、冷めても美味しかったのでまた買おうと思った。

前回短かったので連投っと。

毎日投稿を心がけてますが、ネタが尽きないようハーレムのフラグセット完了!


でも、結末は決まってます。

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