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4-21 裏オークション 霊薬の材料

考えてたら遅くなりました……。

夜が明けきらぬうちにオークションは終わりを迎えた。

帰り際の換金所で商品を落札した人はお金を払い、商品を出品した人は手数料を除いた売り上げを貰う。

それを行うのが入り口近くのステンドグラスの下、つまりは大きな十字架の後ろ。

ここで何かしようものなら、女神様からの天罰があるような気がしてならなくなるというものだ。


『よかったでやがりますな』


と、俺にお金を渡したテレサが言うが、今回のオークションでは霊薬が相場の約二倍で売れたのだから一番いい思いをしているのは教会だと思う。


『隼人は残念でやがりましたね』


とテレサは言ったが、まあそこはまだ諦めるには早いというものだ。


「まあ、明日もしかしたらひょんなことから手に入るかもわからんしな」

「え……? イツキさん?」


そのために、俺は明日王都の錬金術師ギルドに向かうのである。

まだしっかりと明言しないのは、確実に作れる保証が無いからである。

下手に期待を持たせて作れませんでしたでは、逆に落胆が大きくなってしまうからな。

クリスにも隼人にも申し訳なさ過ぎる。


こうして、俺の初オークションは終わりを迎えた。

帰りの馬車では皆寄りかかりながら眠り、起きた頃には屋敷についていた。

大きなゆれもなく馬車を動かすフリードはさすがである。


「ただいまー……」

「あ、主君おかえり」

「おやすみー……」

「ああ、うむ。おやすみ……」


まさかアイナが起きてるとは……。

それと格好がまだ先ほどのままなのだが、もしかして帰ってきてからも膝枕をしてくれる予定だったのだろうか……?

だがもう既にベッドにバタンでキューである。

チラリとアイナのほうに頑張って視線を向けると、こちらをちらちらと様子見しているようだ。


「あー……枕が合わないなあ……」

「そ、そうか? なら、その……たまたま膝があるのだが……」


……人体において膝がたまたまあるものか。

たまたま膝が無い方が怖い。

まあいいや。今大切なのは眠りだ。

その素敵枕で寝かせてくれるというのなら是非にでも寝ようじゃないか。


「頼んだ……。ソルテ達と買い物に行くのならその時は起こしても降ろしても構わないからな」

「ああ、心遣い感謝する。そ、それでは……」


ゆっくりとベッドの上に来るアイナ。

なんだかその上がり方はドキドキするぞ。

でも今日はダメだ。

寝る。眠い。


「それじゃあ……おやすみ……」

「ああ、主君。ゆっくり休んでくれ」


今日は色々する気にならない。

ただ寝よう……。



朝起きると俺の素敵枕は姿を消していて、普通の布枕へと姿を変えていた。

枕もとの手紙を見るにどうやら三人で買い物に出かけたようである。

逆にここで残られると気を使われたようで申し訳なくなるので、ちゃんと出かけてくれてよかった。

書置きを読んでみる。


『変態 ソルテ 変態っす レンゲ しゅ、しゅくん。それではでかけてくるら アイナ』


……。

俺が何をしたって言うんだ……。

後アイナの字だけふにゃふにゃな上にくるらって。

きっと慌てて書いたんだな! うん。

格好もあのままだったし、あの二人が突撃してきて慌てて書いたに違いない!

よし。俺のせいじゃない!


時刻は……って、時計は無いんだったな。

腹の具合からみて昼過ぎくらいか?

隼人達はもう起きているのだろうか?

とりあえず食事を取る部屋に行ってみよう。


「イツキさん。おはようございます。朝食、というか昼食ですが食べますか?」

「ああ頂こうかな。寝起きだし軽めのものがあれば頼む」

「それではまたサンドイッチにしますか?」

「それくらいのが嬉しいところだ」

「では私がお作りしますね」


クリスが食事を中断して椅子を引き立ち上がる。


「食べているところを悪いな……。後でもいいんだぞ」

「いえいえ。お兄さんはお客様ですから」


そう言うと厨房へと向かっていった。


「……クリスには話したのか?」

「はい。昨日帰ってきてすぐにお話ししました」

「大丈夫だったか?」

「ええ、むしろいりません! って言われてしまいました……。でもやっぱり治してあげたいです。女の子ですし……」

「だな。ああ、それと、今日は俺王都の錬金ギルドに行くから。シロとウェンディが起きたら伝えておいてくれ」

「お二人は連れて行かないのですか?」

「勝手知ったるレインリヒのところならともかく、王都のギルドだしな。二人には今日は自由って伝えておいてくれればいいよ」


せっかくの王都なのである。

たまには二人も思いっきり羽をのばしても構わないだろう。


「お待たせしました。野菜とお肉とチーズですけどいいですか?」

「ああ、勿論。クリスの飯は美味いからな! 何でも美味しくいただけるよ」

「お世辞を言ってもお茶くらいしか出ませんよ」

「それで十分だ」


実際クリスのご飯は美味いのだ。

王都で外食をしたくなくなるほどである。

でもそうなると料理スキルのレベルと料理の美味さは関係があるのだろうか?


「なあ隼人、料理スキルってレベルが上がると何があるんだ?」

「えっと、まず料理スキルを持っていると、料理が美味しく作れます。あとは食材を落す魔物が高確率で食材を落すようになったり、DEXの上昇ですかね?」

「レベルが高くなると『料理が美味しくなる』はもっと美味しくならないのか?」

「んー……ある程度みたいです。残りは作った人のセンス次第じゃないでしょうか?」


そんなもんか。

そして俺の料理スキルは何故上がらない……。

残り経験値とか表記してないのだろうか……?


「うっし。ご馳走様!」

「あ、馬車の手配をしましょうか?」

「んー……王都の錬金術師ギルドってここから遠い?」

「いえ、歩いて10分くらいですね」

「ならいいや。歩いていくよ」

「わかりました。いってらっしゃい」

「行ってきます!」


館を出て俺は久々に一人で外に出かけた。

思えば一人で出かけることなど、随分無かったと思う。

せっかくだし色街に……と行きたいが、今回は残念ながらやらねばいけないことがあるからな。

さて、恩人への恩返しになるといいんだが。



錬金術師ギルドの前に着くとまず大きさに驚いた。


「おー……さすが王都、でかいなあ……」


看板はアインズヘイルのものと変わらないのだな。

ってことはこれがどの街でも錬金術師ギルドである証ってことか。


「おはようございます」


中に入って受付のお姉さんと挨拶を交わす。

アインズヘイルと違って数人の錬金術師が談笑をしているようだ。


「はい。おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「えっと錬金室のレンタルをしたいのですが」

「承りました。ギルドカードを拝見してもよろしいでしょうか?」

「はい」


丁寧な対応である。


「アインズヘイルのA級錬金術師様ですね。どうぞこちらへ。錬金室のご利用料金はかかりませんので」


そういえばリートさんにA級になると錬金室代はかからないといわれたが、他所の錬金術師ギルドでもかからないのか。

案内されるままに錬金室に入る。

作りはあまり変わらないらしい。

必要最低限の物が置かれているだけのようだ。


「それではごゆっくり」

「ああ、ありがとう」


さて、と……。

やりますかね。


錬金を始める前にまず下準備である。

今回作るのは霊薬なので、前回何故作れたのかわからないが同じ方法で試してみる。

すなわち、既知の魔法陣エクスペリエンスサークルである。


ということで取り出したのは前回スキルを発動した際に自動手記された魔法陣が書かれた紙。

そしてスキルを発動する前にしっかりと在庫の薬草類を確認しておく。

旅に出る前にアイナ達に頼んで取ってきてもらったばかりなので数が多い。

多分これで霊薬は作れると思うのだが、何がどれくらい必要なのかは知っておいた方がいいと思う。

という訳で内訳。


『薬体草      54

 薬体大草     23

 薬魔草      48

 薬魔大草     25

 毒体草      31

 毒体大草     18

 沈省草       8

 薬花ハーブ    15

 レッドオリブル   8

 ブルーリンプル   6

 イグドラシルの葉 15

 イグドラシルの茎  6

 イグドラシルの蕾  6

 イグドラシルの花  5

 イグドラシルの種  4』


といった具合だ。

沈省草は荒れた心を落ち着かせる効果を持ち、薬花ハーブは薬の効力をあげるいわばブースト。

レッドオリブルは赤いオリーブで、ブルーリンプルは青いりんごだ。

こちらは薬効があるわけでは無いが、お土産にと貰ったのである。


そしてイグドラシルシリーズ。

イグドラシル、と聞くと身構えるものだがこの植物は特定の場所に咲くわけではなく、アイナ達が材料を収集してくれる森の深部などで運が良ければ遭遇できる代物である。

下手をすれば森に入ってすぐのところにも咲いている可能性があるので、新人冒険者にとっては偶然当たる宝くじのようなものか。

ともかく、集めようと思って集められる物ではないが、運次第では誰でも手に入るものなのだ。


イグドラシルの葉はそのままでも当然使えるのだが、葉から生成すると回復ポーション(大)が作れるようになる。

薬体大草に薬花ハーブを混ぜても回復ポーション(大)を作れるのだが、効果はイグドラシルの葉の方が大きい。

その分値段も高く、一枚で4万ノールもする。


次に茎だ。

この茎の性能は面白いものだった。

中は空洞でストローのようにして使えるのだ。

これを使って飲むとただの水でも回復ポーション(小)と同程度の回復効果が得られる。

難点は回数制限があり、使い続けると枯れてボロボロになってしまうことだ。


次に蕾と花。

これらは単純に魔力を帯びていた。

磨り潰して使うと、やはり魔力回復ポーション(大)になる。


最後に種。

効果は単純な状態異常を治す事と、独特の苦味で幻惑や、幻影、催眠系などの効果を無効に出来ることだろう。


ただ、全ての箇所にいえる事だが加工をしないと保存がきかない。

花や蕾は勿論のことだが、葉や茎も数日で枯れてしまう為魔法の袋は必須である。

幸いにも俺には魔法空間があるので保存には困らなかったが、アイナ達には見つけ次第すぐに帰還してもらうように頼んでいた。


だが、一度これらを全て使って回復ポーションを作ってみたのだが、オリゴールにあげた『万能薬(劣)』にしかならなかった。

でも俺としては、やはり霊薬にはこいつが関わっているとしか考えられない。

だがきっとこれだけではないのだろうとも思う。


そもそもこの世界には何千人クラスで錬金術師がいて、その中の一握りがレベル9の錬金術師だったとしても数十~、過去を辿ればもっとレベル9の錬金術師がいたはずだ。

その中でこんな事に気がつかないなんてありえない……はずだ。

製法がわからないまま作れるだけ俺はずるいのだろうけど、それでもなんらかの手がかりは見つけているのだと思う。

だが、錬金術師達にとって情報はまさに宝に値し、自分だけで秘匿することが多いのが問題であると思う。


ともかく材料はあるので一度試して何が必要なのか確かめてみよう。

もしかして作れないかもしれないが、その時はその時だ。


前回使用した魔法陣に魔力を注ぎ、俺は以前作った霊薬を思い浮かべる。


既知の魔法陣エクスペリエンスサークル


魔法陣に魔力を注ぐと、前回よりも多くの魔力が吸い取られている感じがした。

理由はわからないし、ステータスを確認しないとわからないが、感覚ではそんな感じ。

そして頭の中に瞬間的に作り方が流れていくのも前回と同じである。


最後に、ごとりと音を立てて魔法陣の上に小さな一つの瓶が出来上がる。


『霊薬 ありとあらゆる状態異常、部位欠損を直す世界最高の薬。

    同時に体力、魔力を回復する』


ひとまずこれで隼人には少し恩が返せるかな。

霊薬はしっかりと魔法空間にしまい、あとは材料の消費をチェックだ!


魔力回復ポーションを飲みながら材料をチェックする。


『薬体草      54

 薬体大草     23→18

 薬魔草      48

 薬魔大草     25→20

 毒体草      31

 毒体大草     18

 沈省草       8

 薬花ハーブ    15→10

 レッドオリブル   8

 ブルーリンプル   6

 イグドラシルの葉 15→10

 イグドラシルの茎  6→ 4

 イグドラシルの蕾  6→ 4

 イグドラシルの花  5→ 3

 イグドラシルの種  4→ 2』


となっている。

材料的には……予想していたよりもはるかに少ないな。

だがこれだけの量を手形勢(ハンディング)で磨り潰せばこの小瓶では収まらない量になるはずだ。

つまりどこかで濃縮、などの手法を用いるのだろう。

それが何処なのか、何をなのかは一瞬すぎてわからないが。

ん? というかこの消費量ならもう一つ作れるよな。

せっかくだし試してみるか。

一応、さっきみたいに大量に魔力を吸われて空になって気絶しても困るので魔力回復ポーション(大)で全快にまで回復しておく。


再度魔法陣を敷いて、霊薬を思い浮かべ魔力を注ぐ。

だがしかし、今回は魔力だけが吸われるだけ吸われているような感覚だ……。

いや、ちょっとまって。

何処まで吸うの?

何か何も溜まってない気がするんですけど。

底の無い瓶に延々水を注いでる気分なんですけど!


いやぁぁぁぁッ! 

ちょっと待ってってば!

ねえ! これあれだよね?

以前一度だけ間違えて錬金をかけてしまったときと同じだよね!?

MPが湯水のようになくなっていくのがわかるんだけど!

ああいいよわかったよ。

覚悟は決まった。どこからでもかかってこい!

でもせめて、気絶して崩れ落ちた際に頭を打ちませんように……。

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