4-18 裏オークション オークション開催
過去のアクセサリーの値段を見るに、落札価格が安すぎるとご指摘をいただきまして、アクセサリの初期値段、4-20での落札値段を倍に致しました。
多分これで大丈夫……だと思います。
心地よい眠りのさなか、俺は身体を揺すられて目を覚ました。
「しゅ、主君……そろそろ……いいだろうか……?」
アイナは指を咥えて何かに耐えているように見えた。
魔導ランプの明かりにてらてらと光る唇が色っぽい。
顔は紅潮しているのでなおのこと扇情的に見える。
「ん。ああ……気持ちよく眠れた……」
膝枕をされると夢見がいい。
ふかっふかの抱き枕を抱いているような、ふわっふわのわたあめを手にしているような感触がリアルに感じられるほどに気持ちよく眠れているのだ。
しかも顔は冷たかったり温かかったり、人の温もりのような不快じゃない感覚なのである。
そして起きると決まって今のアイナのように、妙にエロイ顔で起こしてくれるのである。
はまらないわけが無い!
下手な風俗なんかよりずっといい!
この世界に来て風俗なんて行った事無いけどな!
行く暇はあっても、行く隙がないんだ!
アインズヘイルにも王都にも一応あるんだぞ!
でも、買い物に一人で出かけることはないし明け方に一人で散歩に出てもお店はやってないし!
挙句の果てにはいつの間にかシロがいるのだ!
まだ小さいシロに店に入るところなど見られたらどうなるか……。
まあでも俺には膝枕があるから。
うん。大丈夫。余裕。
「主君、そろそろ着替えて玄関に向かわないとだぞ」
「んんー! ……この膝が俺から離れるのをいやがってる」
「ば、馬鹿なことをいうな! それとくすぐったいからすりすりしないでくれ……」
「真面目だなあ……よっと」
勢いをつけてベッドから起き上がると、月の明かりはほぼ真上。
差し込んでいた光は減り、魔導ランプの光以外は真っ暗に近くなっていた。
少し窓を開けてこもった部屋に涼やかな夜風を入れる。
「さて、着替えるとするか」
「ああ、着替えはさっきウェンディが……って! 何してるんだ!」
「何って……着替えを」
「何で全部脱いでいるんだ! さっきお風呂に入った際に替えたんだろう!」
「ああ、そうか。すまん忘れてた」
わざとだがな!
男なら、マッパで夜風。
その反応を期待していた。
よし、気力十分!
これで全力でオークションに参戦できるな!
「いいから早く服を着ろ!」
「いやさ、それ」
「ん? どうした着替え……まだ着替えてないじゃないか!」
「いやだから、その今握ってるのおれのパンツだから」
握られていては着替えられないよ。
さあ、その顔を隠した時も握っていた俺のパンツを返すんだ!
「ひ、ひああああ!」
ぺいっと投げ捨てられた俺のパンツ。
アイナは恥ずかしさのあまり枕を上にしてうずくまってしまった。
当然、お尻が上に上がるのだが……。
今アイナはショートパンツなのだ。
すべっすべの太もも、ふくらはぎが小さな布地によって更に強調され大きめのお尻が美しくそびえているのである。
これには俺も臨戦態勢を余儀なくされてしまう。
惜しい。
俺は視線は一切逸らさず瞬きすらせずにこの光景を脳内に保管すると、臨戦態勢を隠すようにパンツを履きながら思った。
オークション明日にならないかな……。
アイナにおやすみを告げて玄関に向かうと、ウェンディ、シロ、隼人が揃っていた。
「あれ、隼人は付き添いいないのか?」
「ええ、皆少し用事があるそうです……」
ほう。あの隼人好き好き倶楽部の連中が一緒に来ないのか。
当人であるクリスも来ないのは変だな。
何かの思惑を感じざるをえないな。
会議か?
好き好き倶楽部会議でもしているのだろうか。
「主、遅い。アイナとなにしてた?」
「なにもしてません」
「ご主人様、先ほど部屋を訪れた際……いえ、何でもありません」
あの、だから俺は寝ている間に何してるの?
起きた時は毎回何もしてないんだけど、俺の意識が覚醒する前にどんな事をしているのか一回教えてください!
もしかしたら、『
俺の幸せメモリーが増えるかもしれないから!
「ははは……。えっと、そろそろ向かってもいいですか?」
「ちょっと待ったああああ! はあ、はあ、わたしも行くわよ!」
息を切らしながら現れたのはレティであった。
何故か右手をチョキにして現れたのだが、もしかしてさっきまでじゃんけんで誰が一緒に行くか決めていたということだろうか。
まさかな。
それならクリスを連れてきてやれよ……。
「あ、うん。えっと、大丈夫?」
「なにが、はあ、よ!」
「えっと、呼吸とか……」
「全然! 問題! ないから!」
「そ、そう。うん。じゃあ、行くけど、手繋ぐ?」
「はあ、はあ!? 手、手なんか普通繋がないでしょ!」
「でも辛そうだし」
「いいってば!」
はあ、相変わらず素直じゃない嬢ちゃんだ。
ここは一つおじさ、お兄さんが援護射撃をしてあげよう。
「ウェンディ、シロ、俺たちは手を繋いでいこうか」
「はい! ご主人様!」
「ん、ウェンディそれは腕を組む。手を繋ぐじゃない」
「ちゃんと繋いでますから。問題ありませんよね?」
「むう。じゃあシロは抱きつく」
「あ、ずるいです! じゃあわたしも……」
うん。
歩きづらい……。
いや、感触的には100点満点だけど、歩きづらい……。
ど、どうよ?
援護になった?
「ほら、あそこまでとは言わないから繋ごう?」
「う、うん。あそこまでじゃないならいいわよね……」
なったようだ。よかった。
「ほらシロご主人様が歩きづらそうです! 早く離れなさい」
「断固拒否する。離れるならウェンディが先」
なあ、
「ほら、もう少し寄ったら?」
「うん……ちょっとだけね」
ちょっとだけあっちを見習ってみるのはどうだろうか……。
密着度はこっちの方が高いのに、何故だろう凄く羨ましい。
嗚呼、あれが青春の眩しさか……。
「主、悲しいの?」
「ご主人様?」
いや、うん。
十分幸せで、これ以上望むなんておこがましいんだけどね。
ただ、ちょっと、ちょっとだけ、普通を、感じたい!
隼人の馬車に乗って教会に向かう間、俺と隼人は向かい合わせで座りつつ微妙な空気だった。
お互い視線を合わせたら苦笑いしかできない。
隼人はこっ恥ずかしさもあるのだろうが、俺はあっという間にデレたレティ嬢ちゃんに気を使って見ないようにしているだけだ。
いつの間にか腕を組んでましたしね。
まあ進展の早い事。
「おお、きやがりましたね」
「ようテレサ」
「隼人卿もお久しぶりでやがります」
「お久しぶりです。テレサ隊長」
「そういえば主さん、出品したあのアクセサリー一式の大体の評価額だけど1000万ノールスタートでやがりますね」
「ん、わかった。それでいいよ」
「一応説明しておきますが、売り上げの一割は教会に寄付する決まりでやがりますからね」
どれくらいの数が出品されているのか知らないが、結構な額だな。
まあ確かにそうでもしないと教会側も危ない橋を渡らないか。
裏でオークションを開いているなんて市民に知られたらどうなるかわからないし。
「それと隼人卿、霊薬は二本出品されているでやがります」
「二本ですか……」
「どうも公爵家が狙ってやがりそうですが、隼人卿なら大丈夫でしょう」
「館を買ったばかりなので、どうでしょうね……」
え?
隼人今お金ないの!?
俺にあんなに材料くれてる場合じゃないだろう!
そもそも霊薬の値段がわからないが、隼人でも迂闊に手を出せないくらい高いのかよ!
高いとは聞いていたが想定以上だな。
「さて、それじゃあこれをつけて奥にいくでやがります」
そういって手渡されたのは白いベネチアンマスクのような、仮面舞踏会で使いそうなマスクであった。
「建前の品ではありますが、中で起きた事を外に持ち出さない為の措置でやがります」
なるほど、買い争った挙句負けたほうが恨んで何かしないようにってことか。
「昔、霊薬を争ってオークションで落札合戦になりまして、結果は下級貴族が勝ち取ったんでやがりますが、それを恨んだ上級貴族が御取りつぶしになるまで下級貴族をイジメやがりましてね。それ以来公爵家だろうと王族だろうと重犯罪となることに決まったのでやがります」
「そいつはまた……」
可哀想に。
それにしてもその下級貴族はなにをそこまで欲しがっていたんだ。
「……その後、手に入れた霊薬で下級貴族の孫娘は元気になったそうよ」
「レティ?」
「その時の当主様は幸せだったのかしらね。最後はその上級貴族の公爵家に買われて死ぬまで拷問を続けられたって聞いたわ。それでその後は御取りつぶしも何もなかったかのように息子が死んだ当主に代わって当主を受け継いでお仕舞い。以降その下級貴族は公爵の顔色を窺いながら生きているみたいよ」
「おい、奴隷制度は無かったのか? 因縁とかがあったら買えないんじゃないのか?」
「それができたのは最近よ。それ以前の出来事だもの」
「……ひどい」
「ええ、酷すぎますね」
……。
この話、深く立ち入るにはまだレティとの距離が遠いな……。
多分だが、きっと……。
「さあ、そろそろ行きましょう!」
「そうですね。さあ皆さんマスクを付けていきましょう。後ろも詰まっていますし」
「ああ、そうだな。ほらシロ、ウェンディ、行くぞ」
「ん」
「はい」
シロとウェンディにマスクを手渡して隼人について教会の奥へと進んでいく。
そして地下に降りると長めのベンチが段々に並んでおり、一番下の中央にはステージがライトアップされていた。
「一席一席エリオダルト卿特製の防音カーテンで遮られています。友人同士で来た場合は下げて会話はできますが、大きな声を出すと周りに聞こえてしまいます」
「じゃあどうやって入札するんだ?」
「指です。商品ごとに単位が決まってますので、例えばスタートが500万ノールで単位が10万なら指一本で10万ノールアップ、最大で5本までですので50万ノール上乗せができます」
なるほどな。
じゃあ単位が1000万だったら最大で5000万ノールアップか……。
とんでもない額になりそうだ。
「そろそろはじまりそうですね」
隼人がそういって前を向くとステージ上にマスクをつけた人物が現れる。
「なんだか緊張するな」
「暗い……眠い……」
「寄りかかって寝ててもいいぞ」
「んー……頑張る」
「私も寄りかかってもいいですか? いいですよね?」
「あー……うん」
ウェンディさん、それは寄りかかるではなく押しつけるです。
最近更に遠慮も容赦もなくなってきたというか、レンゲの男嫌いと同様に初期とキャラが違いすぎるような……。
もっとおしとやかだった気がする。
いいんだけどね!
ま、まあ持ち前の武器を最大限利用するのは大変よろしいと思いますが、最近過剰気味といいますか、その……ありがとうございます!
過剰気味ではありますが、食傷気味にはなりっこありません!
ありがとうございますッ!
俺がウェンディの押し付けられた双丘から目をはなしてステージに目を向けると、ステージ上の人物が大げさに頭を下げて一礼し、すうううううっと息を吸い込んだ。
「レディイイイイッスエエエエエエンジェントルメエエエエエエエエエン! 大変長らくお待たせいたしました! これより、オークションを開催シマアアアアアアアッス!」
あ、マスクつけてるけどわかる。あれ副隊長だ。
マイクがないから大きな声を張り上げているんだな。
ご苦労様です。