4-17 裏オークション 王都二日目・夕方
さて、やってまいりました王都の道具屋。
アインズヘイルとは何が違うのかといわれれば店の広さと客の数だろうか。
ここ王都の道具屋はアインズヘイルとは違って店内にはお客さんが結構いる。
違いはなんだ?
店員か?
こっちの店員は可愛い女の子だからか?
それとも店の清潔感か?
あっちは乱雑というか、ただ積み重ねただけのような並べ方だったしな。
んー。
店に入ってすぐのところには魔道具が陳列されているな。
そっちはまあ、後でいいや。
ぱっとみて珍しい物があるわけでもなさそうだし、汎用的なものばかりだ。
やはり奥に行くと客の姿は無く、そこには錬金用かも怪しい用途不明の材料ばかり置いてある。
魔力誘導板はともかく、振動球体などは本来なら何に使う為に置いてあるのだろうか。
他の人が加工した物も見てみたいな。
そんな中、俺はとある材料に目がとまった。
『回転球体』
……。
おおう。
これはかなり便利だろう!
これで扇風機が作れるじゃないですか!
風呂場に扇風機が置ける!
暑い日に『あー』ってできる!
それ以外にも使えそうだし、これは買いだな!
値段は……魔力誘導板や振動球体と同じ一万ノールか。
今店頭にあるのは7個。
全部買い占めてもいいのだろうか。
他は……
「こんにちはー! 何かお探しですか?」
おお!?
他に何か無いかと顔を回したら目の前にさっきまでカウンターにいた女性店員がこちらに接近していた。
カウンターには代わりに強面の店員が接客をしているようである。
他の客がこちらをみているあたり、やはり彼女目当ての客が多いようだ。
「ああ、えっとこの回転球体が欲しいんだけど」
「こちらですか? 他には何かあります?」
「いや、とりあえずこれをここにあるだけ買ってもいいかな?」
「あるだけですね! 在庫もまだありますがいかがしますか?」
「在庫はどれくらいあるの? 全部買ってもいいの?」
「はい勿論! こんな売れ残、じゃなかった買っていただけるだけでありがたいです!」
売れ残り……。
確かに魔力誘導板といい振動球体といい、これもだが普通の一般人は加工前では買わないだろうな。
錬金術師が実験の為に購入するとか、その他の利用方法があるだろうし購入する業者はいるのだろうけど、この店のような個人の道具屋ではなく生産元に話が行くか。
さらには個人で実験用に錬金術師が買いに来るとしても変わり者が多いと聞くし、研究をするにも薬学、アクセサリ、魔道具など多種に及ぶだろうから安定して売れるというわけではないだろうしな。
店から出ると視線を感じて後ろを振り向く。
すると、ウェンディとシロが俺をジト目で見ていた。
「あー……また無駄遣いしてごめんな?」
「いえ、ご主人様が必要だというなら必要なのだと思います。でも20個も必要だったのですか?」
「いや、試作とか失敗した時とかあったほうがいいかなって……」
「そうですか。可愛らしい店員さんでしたしね!」
「ん、主、店員に目が眩んだ?」
「え、ああそういうことか。違う違う。作りたい物の材料になりそうだから買っただけだって」
ヤキモチだろうか?
確かに可愛らしい店員ではあったけど、店員が近づいてくる前に買うことは決めていたしな。
それに、五人を見ればまあ、失礼だが目移りするほどじゃないと思ってしまう。
「それで次は何処にいくっすか?」
「そうだな、鉱石とか宝石の原石が売っている場所に行きたいな」
「旅先だからと使いすぎではないですか? 明日はオークションもあるのですよ」
「あー……まあ、オークションは何か買いたい物があるわけでもないしな」
めぼしい物があれば別だが、今のところどうしても欲しいというものがあるわけでもないし。
「それに、一応俺もオークションに出品しているから多少は余裕が……」
「主様ってお金の使い方荒いのね」
「そっすね。豪快で自分は良いと思うっすけど!」
「そうも言っていられないだろう。ただでさえ奴隷を5人も抱えているのだぞ?」
いやまあ、今は安定して稼げてますし多少はね。
それにこれはいわば先行投資だし、鉱石や宝石だってアクセサリーの材料だ。
だから無駄遣いじゃないと思う。
プレゼントするにしたってアクセサリー屋で買うよりもうんと安く済むし、さらには能力だってつくのだから得だと思う。
つまり、俺は浪費家じゃない!
まあ食材とか引き合いに出されたら終わりだけどね。
だって美味しい物食べたいじゃん……。
食に妥協したらダメだと思う。
三大欲求は偉大なんだ!
「ま、まだうん。大丈夫余裕があるし、仕事の経費みたいなもんだし……」
「そういってご飯が一品減らないといいですね」
「うぐッ」
「ご飯いっぱい食べたい」
「カハッ!」
シロのその目はいけない。
ああ、うん。
わかったよ。
これからは自重する。
それかその分働くから……。
世間の大黒柱様はこんな気分なのだろうか。
誰かの為に働く。
それはなんて尊い事なのだろう。
まあ後は普通にウィンドウショッピングで終わりでした。
時間も時間だし歩いて帰りがてらお菓子を買ったり、シロがまたお腹がすいたと言うので屋台で軽食を買ったりした程度だね。
その屋台でソルテがシロに張り合い、せっかくの夕食を頑張って食べるなどというのだから呆れたものであった。
そして本日の俺のメインイベントの時間だ!
残念ながらお風呂は済ませてある!
今日も泡が良い仕事をしてくれました!
「その、主君、入ってもいいだろうか?」
「ああもちろん!」
テンションがあがる!
なにせ俺は服屋でアイナが何を買ったのか知っているからな!
ゆっくりと開かれる扉!
そして部屋に入るアイナ!
こちらの部屋は灯りを消して真っ暗なのだが、月明かりが差し込んでおり徐々に美しいおみ足が露になる!
はい! きました!
アイナさんのショートパンツでございます!
普段隠れている分たまらない魅力がございますね!
月明かりに映える肌、そして紅い髪とのコントラストがたまらないな!
「その、レンゲの真似をしてみたのだが、どうだろうか?」
「いいね。上もなんだ」
「あ、ああ。上はその、レンゲに借りたのだが少し小さくて……」
レンゲナイス!
良くやった! 後で何かあげよう!
いやあパッツンパッツンですね!
下からきっと素敵を見上げられるんじゃないだろうか!
「しゅ、主君あまりじっとみないでくれ……」
「見ます。穴が開くまで見ます!」
見ないわけが無い!
純真そうだから心が引ける?
多少の欲望?
何それ誰が言ったの?
今は目の前にあるご馳走ですよ!
「えっと、それじゃあ粗膝? ですが……」
アイナがベッドの上の枕をどかして横向きに正座する。
くはッ!
我、これより天上へと参る!
固有名詞を避けて瞬間早脱ぎ両手あわせダイブをしたいところだが、ここは大人しく素直にベッドから移動して頭を乗せよう。
「んっ……」
「ちょっとまって、ベストポジションを……。ここだな」
少しまさぐってしまったのは事故である。事故である。
頭の向きは言わずもがな上向きなので、アイナと目が合ってしまった。
すると、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに笑うアイナ。
その笑顔がまた可愛いの。
はにかんだような、幸せと恥ずかしさを足して2で割ったらこんな感じだろうか?
「なんだか照れるな……。その、どうだろうか?」
「あー……極楽だ……」
「極楽?」
「天上に上るような気分って事ね」
「そ、そうか。恥ずかしいけどやってよかった……。オークションに行く時間になったら起こすからゆっくり寝ていてもいいぞ」
「んー……絶景がなあ……」
頭の後ろはアイナの生の膝の感触、そして視線の先は夢の花園。
いい匂いするし!
この状況で寝ろと?
ハッハッハッハ!
無理な相談だ!
下から見上げる双丘なんて滅多に見れるものじゃないからな!
ああ、でも今凄く気持ちいいんだ……。
歩き回って疲れた体にお風呂の疲労回復効果、そして膝枕の精神的な癒し、これほどの極楽の中眠るのはさぞ気持ちいいことだろう。
そして、静寂が訪れる。
どちらかが話しかける事も無く、今この時この瞬間を嚙み締めるようにゆっくりとした時間の流れを感じた。
このまま夢の世界へ誘われるかのような感覚である。
「なあ主君」
そんな静寂を破ったのはアイナであった。
「んー……?」
「少しだけ昔の話をしてもいいだろうか」
「いいよ……」
「私は、いや私たち三人はだな。生まれは違うが、小さい頃から一緒だったんだ」
「そうなのか……」
「ああ。師匠、まあ私達の武術の師匠だな。師匠に育てられたんだが、その師匠が厳しくてな……」
「ん……」
「でも、あるとき突然夜に悲しくなって泣き出してしまったとき師匠が膝枕をしてくれたんだ」
「へえ……」
「そのときも、こんな風に月明かりの綺麗な夜だった。それで師匠が子守唄を歌って頭を撫でてくれたのが嬉しくてな……。今ふと思い出してしまった」
「その歌覚えてるの……?」
「いや、途中までしか覚えていないんだ。なにせ小さかったからな」
「じゃあ、途中まででいいから聞かせてくれ……」
「構わないが……、そのあまり歌は得意ではないんだが……」
「いいよ。アイナが覚えてるように歌ってくれれば……」
アイナは少し緊張したように、胸に片手を置き、もう片方の手で俺の髪を撫で歌いだした。
得意ではない?
冗談ではない。
もしここがカラオケならば次に歌うのだけは絶対にゴメンなレベルである。
澄んだ声、綺麗な音色、親が子を思い優しく抱きしめるような優しい歌。
自然と頬が笑顔を作るようなそんな歌。
そして俺はそんな優しい歌の中ゆっくりと幸せな気持ちで夢の世界に落ちていった。
主人公が寝て話が終わる率の高さは気にしないでください。
書いていて前もこう終わったなと思えども仕方なかった……。