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4-16 裏オークション 王都二日目・昼

『ちょっと待っててください! 多分これがあれば大丈夫だと思いますので!』


二人の喧嘩も収まり、ではようやく出発というところで俺たちは隼人に慌てて呼び止められた。

フリードが持ってきた小さな箱の中に入っていたのは紋章のようなバッジ?であった。


『これは一応僕の紋章なんですが、つけておけば乱暴な扱いなんかは受けないと思います』


というのでせっかくだし貰って胸元に付けてみる。

付けたあと隼人は若干恥ずかしがっていたのだが、こちらとしては余計な心配事が減るのならば大変ありがたかった。


「ありがとな。ほんと、何から何まで助かるよ」

「いえいえ。本当は僕も案内したかったのですけど、色々連れて行きたいお店とかもあったんですけどね……」

「まあそれは後日ってことで。俺達も少なくとも王都一武術大会が終わるまではいるしさ」

「はい! 楽しみにしてますね!」

「おう。俺も楽しみにしてるから、今はお仕事頑張ってな」


しかし、懐かれてる? 慕われてる?

英雄ともあろう隼人がこうも俺に懐くもんかね?

あれか?

元同じ世界の日本人同士、懐郷的な気持ちになるのだろうか?


こうして俺は胸に隼人の紋章を光らせて街に向かう事になった。

そのおかげか行く店行く店の外観を見ているだけで店の店主が外に出てきて挨拶をしてくる。

外から見ていただけなのだが、申し訳なくなって店の中に入り何かしらを買うという行為を繰り返していた。

やはり空間魔法は取っておいて良かった。

手荷物を持ちながらまだまだ店を回るなどごめんだからな。

そして今もとあるお店で店主自ら商品の説明をしてくれているところである。


「どうですか旦那様! 当店の服は王都でも最新のものばかり取り扱っております! 勿論当店でもオーダーメイドをしておりますし、そちらの紋章、ハヤト様にも贔屓にしていただいておりますので安心してご注文を承れますよ!」

「お、おう」


正直裏地がどうの、袖がどうの言われても俺には何のことかわからない。

横にいたウェンディが真剣なまなざしで品定めをしていたので全部任せきりである。

他の皆はというとやはり女の子、シロを除いてだが店の服を見ては身体に合わせてみてるようだ。

どうやら女の子的にはこの店は当たりらしい。

ウェンディも次から次へと服を品定めしている。

男性物の服だが……。

たまには自分の物を選んでもいいと思うのだけど。

それにしてもオーダーメイドか……。

頼んでみるか?

でも元の世界の物を頼んでも、どうしても陳腐な出来になりそうな気がするんだよな。

ん? あれ、これは……。


「さすがお客様お目が高いですね! こちらはハヤト様がオーダーメイドで頼まれた服でございます」

「これは……ナ、いや、隼人の名誉のために黙っておこう」

「お客様もご存知なのですか!? 私には一体何のための服なのかはわかりませんでした!」

「ああ、うん。知ってはいるが黙っていようと思う。あんたも勝手に隼人がオーダーメイドしたとは言わない方がいい。俺も黙っておくから。わかったな?」

「は、はい。私、まずい事を言ったのでしょうか?」

「いや、お互い何も聞いてないし話してない。だろう?」

「左様でした! それではこちらの服はいかがですか? 夜寝るさいにぴったりですし、なによりも……脱がしやすくここを引っ張るとあら不思議、全てバラバラに脱げてしまいます。欠点は繋ぎ合わせるのが複雑で、行為の後に服が着づらい点でしょうか」

「ああ、めんどくさそうだが一着買わせてもらおう」

「ありがとうございます。えっと、せっかくですしこちらはサービスということで」

「いいのか? 俺はアインズヘイル住みだから頻繁にこの店に来れたりしないぞ?」

「いえいえ、お客様にはどうやら今回だけでも大量に買っていただけそうですしね」


店主の声に後ろを振り向くと、そこには大量の服の品定めが終わったウェンディと、その選考に通った大量の服が山になっていた。

そしてアイナ、ソルテ、レンゲもそれぞれ数着持って待機していた。


「さあご主人様! お着替えの時間ですよ!」

「気合はいりすぎだろ……。ウェンディ、たまには自分の服を選んでもいいんだぞ?」

「何をおっしゃるんですか! 私の楽しみを奪わないでください! 私の服はご主人様が私に着せたい服を選んでくだされば何でも着ますから!」


それはそれでどうなのだろう。

でもウェンディに着せたい服か……。

まっさきにビキニとパレオ、そして麦藁帽子が浮かんだ俺は正しいと思う。

ああ、日焼け止めをウェンディの美しい背中に塗りたい。

あの真っ白い肌を紫外線から守りたい……。


水をはじく素材ってありそうだよな。

帰ったら隼人に聞いてみよう。

きっと、あるはずだ。

なければおかしい。

そんな異世界は俺が認めない。


こうしてウェンディの着せ替え人形となって一時間くらい。

俺は数着の服を購入し、ついでにアイナ、ソルテ、レンゲの欲しがっていた服も全部購入する事にした。

シロとウェンディは必要ないとのことで、別の店で何か買ってあげよう。


満面の笑みの店主を背中に、ご満悦そうな4人とともに表に出ると、ご満悦じゃないシロのお腹がなる。


「そろそろ飯にするか」

「そうですね。少し早いですが今の時間なら空いていると思いますよ」

「適当な店でいいよな。すぐ近くのそこでいいか」

「ちょっと、そこ結構な高級店よ?」

「んーまあ大丈夫だろ」


オークションに備えてお金はある程度潤沢にあるしな。

オークションでも何が欲しいって訳じゃないし、シロのおなかは限界そうだしな。


「じゃなくて、こういう店って奴隷はお断りの場合もあるの。あんたは忘れてそうだけど私達は皆あんたの奴隷なんだからね」

「あー……。じゃあ普通に屋台にするか?」

「そうね。それが」

「お客様! 当店は個室もございますから何一つ問題ありませんよ!」


突然店の中から出てきたコック帽をかぶったがたいのいいおじさん。

どうやら店の中で俺たちの話を聞いていたらしい。

というか隼人の紋章効果凄すぎだろう。

何処に行っても優遇措置だ。

まるでおれ自身がVIPになっているように思えてくるが、皆背後に隼人の幻を見ている事に気がつかないわけは無かった。

まあ、何処の店がどーだとか別に言わないんですけどね。


そしてこの高級そうな店で食事をとることにしたのだが、本来はやはり奴隷と共に食事を取るのはご遠慮願っているらしい。

ただし、個室が空いている場合などは例外らしく今回はその例外ということらしかった。


当然高級な店ということもあり、食事は美味かったのだが……。


「主のご飯の方が美味しい」

「ですね。食材も普段から使っているものばかりですし、ご主人様がお作りになられた方が美味しいです」


そんなわけは無い。

こちとらまだ料理のスキルレベルが1なんだぞ。

多分この料理を作った人はレベルが1よりは確実に上だろうし、味付けなんかも絶妙だ。

その証拠にソルテもレンゲも終始笑顔で食べる為にほっぺを押さえて目を瞑りしっかりと味わっているのだ。


「ええっと、お食事代なのですが92万ノールです……」

「ああ、ちょっとまってな」


結構いったな。

シロが文句を言いながらおかわりを普段どおり頼みまくってたしこれくらいはかかるか……。

オークション用にお金貯めておいてよかった。

まあ、一品一万ノールは余裕で超えてたし仕方ないか。

俺としては十分美味しかったし。

ただ昨日食べたクリスの作った夕飯の方がうまかったのは事実だ。


んー。

王都での飯はちょっと微妙だな。

周りにハイスペックが多すぎて微妙だと思ってしまう。

これなら屋台の雰囲気を楽しんだ方がましかもしれない。

まあこれもいい経験ができたということで、次からの参考にしよう。


「さて、腹ごしらえもすんだし道具屋をみたいんだがいいか?」

「錬金術用の?」

「そうそう。何か面白い材料無いかなって」

「んー……ここからは結構遠いっすね。ならせっかくだし大噴水をみていかないっすか?」

「大噴水?」

「そうっす! 王都の噴水はめちゃくちゃでかいっすからね! 一つの観光ポイントになってるっすよ!」


へえ。

やはり恋人の集合地点として利用されたりするのだろうか。

噴水の前で待ち合わせか……。

ちょっと憧れるな。


「じゃあせっかくだしそうするか」

「じゃあ行くっすよー!」


こうして俺たちは通りにある店を回りつつ道具屋を目指して一度中央にある噴水に向かう事にした。

途中、串焼きの店でシロが追加で串焼きを食べた以外は買い物らしい買い物はしなかったが、一体シロの小さな体の何処にあれだけの量が入るのだろうか。


中央の大噴水。

やはりカップルが多いな。

ベンチに座って寄り添いあい皆それぞれ自分達の世界に浸っているようだ。

元の世界にいたときならば『爆発しろ』と言っていたかもしれないが、今は別である。

以前の宣言どおりウェンディには腕を組ませているし、さらには他に4人もの美人さん(綺麗三人+可愛い一人)がいるのだ。

今ではきっと独身の通りすがりに『爆発しろ』と思われている事だろう。


それにしても……。


「なんだか噴水の銅像の一人がウェンディに似てないか?」

「そ、そうですか? そんなに綺麗じゃないと思いますけど……」


いや、6人の像の内一番大きな胸を持つ銅像は確実にウェンディに似ている。


「あの像は大妖精の像だな。今は姿を眩ましているというがどこかでひっそりと生きているらしい」

「大妖精?」

「ああ、右から光の大妖精、闇の大妖精、風の大妖精、土の大妖精、水の大妖精で火の大妖精だ」


となるとウェンディに似ているのは水の大妖精か。

ははは、まさか、なあ?


「……主、ウェンディは後で自分で話すって言った。だからそれまで待つ」

「そうだな。ウェンディが話せるときでいいぞ」

「はい……。ありがとうございますご主人様」


別にウェンディが大妖精だとしても何も問題が無い。

そのせいで世界が滅びるといわれても手放す気もないしな。

ウェンディがいない世界ならば滅びてしまえと本気で思う。

俺の大切な人を犠牲にして、その上に成り立つ世界ならば俺が壊す。

実際はできるかどうかは知らないが、それくらいの気概はあるつもりだ。


「それじゃそろそろ行くか。周りの一人身の目が怖くなってきた」


後ろの方から呪詛も聞こえてきたしな。

気持ちはわかるがやめてくれ。

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