4-15 裏オークション 王都二日目・朝
一応仮ですが、多分このままだと思います。
今日は調子が悪いのか、全然進まなかった……。
昨日は長旅の後に濃い人達と出会ったため疲れが溜まっていたのかお風呂から上がるとすぐに眠ってしまった。
夕飯時に帰ってきた隼人にテレサ達と出会ってオークションの話を聞いた事を話すと、
『なんていうか、濃い人たちですよね』
と、隼人は既に一度会ったことがあり、俺と同じ事を思ったらしい。
まあでも市民には人気が高く、あんな言葉遣いでも慕われているのは事実だそうだ。
現に社会貢献度も高く、炊き出しや討伐任務などはすすんで行っているとのこと。
やはり内面はいい子なんだなあ。
あの感じが無理をしているのだと思うと可愛いと思う。
その後は風呂をもらって皆より先に部屋に帰るとすぐに寝てしまった。
おきた時に掛け布団がかかっていたのは多分アイナがかけてくれたんだろう。
それにしてもよく眠れた……。
これで今日はバッチリ王都散策が出来るというものだ。
今日の予定は、王都は広いのでぶらっと歩き回るだけであるのだが、街の人たちが寝静まった頃の夜中から明け方まで裏オークションが行われる事となっている。
なので先にゆっくり見て回りたい店をリストアップし、後日訪れるということに決定したのである。
オークション中お留守番の三人には帰ってきたら俺たちは寝ていると思うのでその間は自由にしてもらう予定だ。
「って事で早く行きたいのですが、何ゆえ俺は正座させられているのでしょうか……」
「主君、大事な話があるのだ」
「えっと、アイナ?」
目の前には同じく正座をして座っていらっしゃるアイナさん。
「主君、昨日は眠るのが早かったのだな」
「そうだね。疲れてたしいつの間にかすぐ寝ちゃった。あ、布団かけてくれたのはアイナだよな。ありがとう」
「ああ、風呂から帰ってきたら主君が寝ていたのでな風邪をひいてはいけないと思って……って違う! そんな話ではないのだ!」
「え? 俺何かしましたでしょうか……」
全く記憶が無い。
まさかまた、俺の知らない寝てる時の俺が同室であるアイナに何かしたのだろうか。
寝ている以上何も覚えていないので、できれば許していただきたいのですが……。
「逆だ! お風呂から帰ってきて主君と二人きりの部屋、ああ、久々に主君と二人きりだなと期待をもって部屋に入ったのに主君は寝ていたんだぞ。最近主君ともスキンシップを取れていないし、せっかく、せっかく同じ部屋になったというのに!」
「えええ……」
「この前だってそうだ。私だけ主君に膝枕できなかったし、お風呂から上がったら主君の疲れを労って膝枕をしたかったんだ。それなのに寝てしまっているし……」
「ご、ごめんなさい? でいいのか?」
「主君は……その、私が嫌いなのだろうか?」
「そんな訳無いだろう」
まったく。
なんでそうなるんだ。
確かに最近アイナとはスキンシップが薄い。
でもそれにはちゃんとした理由があるのだ。
アイナは巻き込まれて俺の奴隷になっている。
いわば事故みたいなものだ。
正直そろそろ解放の時期であったのに申し訳なさがある。
ソルテとレンゲもそうだが、できるなら三人は早く解放したいと思っているのだ。
材料収集は当然助かるしありがたいが、この三人は多くの人に慕われている冒険者である。
そんな冒険者を俺が材料収集の為だけに使っていてもいいものかと考えていた。
それ故に、ちょっとソッチ目的では一歩引いてしまう事があるのだ。
レンゲとのお風呂に関しては、流れと太ももが悪い。
でもそうだよな。
今は仲間であり、奴隷である以上、俺が一歩引くのもおかしいか。
ただアイナは純真そうだから下手な事をしようと思うと心が引けるんだよな……。
思いのまま俺の欲をぶつけると大変な事になり、それにソルテが怒るという未来が容易に浮かぶ。
「そ、そうか。嫌われてはいないのだな?」
「嫌う理由が無い。だから、今日は帰ってきたら膝枕をしてもらってもいいか?」
「ああ! 勿論だ!」
「ただし、生の膝枕で頼む」
「生……?」
「そう。素足だ。鎧は当然として下に服を着る事は許さん!」
「それは、レンゲの履いている裾の短めの服などは履いてもいいのだろうか?」
「それは許可する。短めのスカートも可だ!」
「わかった。頑張ってみる」
欲望も、多少ならいいよね!
今日も絶好調だからね!
仕方ないね!
これで帰ってきてからの楽しみが出来た!
今日もいい日になりそうだ!
アイナも納得したし、俺も楽しみだし、さあ皆で王都散策に行くとしますか!
「で……どうしたのあの二人は?」
玄関の先で武器を取り出して向かい合っているシロとソルテ。
「どうやら二人が喧嘩をし始めたらしいですよ」
「あ、隼人おはよう」
「おはようございます。今日は王都散策でしたね。朝ごはんはどうしますか?」
「軽いものがあるなら貰おうかな」
「ではサンドイッチがありますので、今持ってこさせます。僕は今日もちょっと顔を出さなきゃいけないところがあるので案内できなくて申し訳ないです」
「さすが伯爵。大忙しだな」
「外に行く時などは自由にさせていただいてるので、帰ってきたらやる事が多いんです……」
大変そうだな。
俺には絶対に務まらないと思うわ。
「隼人はオークションが終わったらどうするんだ?」
「暫く王都に滞在しますよ。ちょっと出ないといけない催し物がありまして」
「本当に大変そうだな……」
「他の貴族のように領地を持っているわけではありませんし、比べるのも変ですが楽な方ですよ」
「俺らは……どうするかな。あんまり長い間お邪魔しても悪いし」
「気にしなくても構いませんよ? クリスもアイスの出来を見てもらいたいって言ってますし、エミリーもウェンディさんとお話がしたいみたいですから。その……僕もゆっくりイツキさんとお話ししたいですし」
「そうか? ならもう少しだけお邪魔しようかな。帰りもあの虫の道を通るのかと思うとまだ気力が……な」
「あはは……。本当に虫が苦手なんですね」
「いやまあ、元々苦手なのに初っ端からあんな目に遭えばな……」
今は空間魔法を利用すれば倒せるかもしれないが、できることなら遭遇したくない。
こればっかりは強いとか弱いとかではなく、絶対的に苦手なことなのだ。
「それで、あの二人は何で喧嘩してるんだ?」
「えっと、シロさんが、三人が相手でも負けない。ソルテさんが、一人でもあんたくらい倒せると問答しているうちに……といった具合ですね」
「あー……俺にはわからん領域だな。俺から見ればどっちも強いし」
ただ見ていると押しているのはやはりシロか。
ソルテの攻撃も速いのだが、ひらりひらりと回避して逆にシロの攻撃はソルテが慌てて受け止めていて、シロには余裕があるようにも見える。
「犬。おなかを向けて降伏することをオススメする」
「誰が! あんたこそ尻尾をまいて逃げなさいよ!」
あー……止めた方がいいんだよなあ。
「はいお兄さん。サンドイッチを持ってきたのです!」
「おーミィおはよう。ありがとな」
「おはようございますご主人様。これは私が作ったので是非食べてください!」
「ああ、おはようウェンディ。ありがとな。うん、凄く美味しいよ」
ウェンディのサンドイッチを一口かじり、玄関先の階段に腰を下ろしてサンドイッチを食べ始めながら二人を眺める。
「んーシロはやっぱり強いです。ミィも勝てるかわからないです」
「そうなの?」
「そうなのです。今も手を抜いている訳じゃないですが余裕なのです」
やっぱりそうか。
なんかシロからはのらりくらり感が漂っているのだ。
「あ、主」
「よそ見してんじゃないわよ!」
「んー……。やっぱり三人じゃないと相手にならない」
「っな、いきなり動きが! ッ!」
「勝負ありなのです。やっぱりシロは強いのです。手合わせ願いたいです」
「いやいや、これから買い物に行くから勘弁してくれ」
一瞬シロがこっちを見た後、今までよりも速く動きソルテを蹴りで吹き飛ばした。
っていうか速すぎて全然目が追いつかなかったけど、どうやって槍の間合いを保つソルテの懐に潜り込んだのかわからなかった。
とうのシロは吹き飛ばしたソルテを無視して俺のほうに走ってくると「とう」という掛け声とともに俺の膝の上に飛び乗った。
「主美味しそう。あーん」
「はいよ。あーん。ソルテは無事だろうな?」
「ん、怪我一つ負わせてない。シロは優秀」
「手加減とか、むかつくわね……。痛てて……。でもこんなに力量に差があるなんてね……。はあ、自信無くすわ……」
「ソルテも十分強いだろ? いつも助かってるよ」
「負けた後に言われてもね……。はぁ……」
「落ち込むなって。ほら、サンドイッチ食べるか?」
「ん……。ちょうだい」
「あーんは?」
「……あーん」
小さく声を出して口を開けるソルテ。
なんだか最近素直になってきていい傾向だなあと昔を思い出しては感慨深く思ってしまう。
「そうはさせない」
「ああ!」
「シロ……」
横から、もとい下から俺が差し出したサンドイッチをぱくりと咥えて噛み千切ったシロ。
そのままモグモグと食べ進め飲み込むとドヤ顔でソルテを見る。
「敗者が主からあーんを受けるなど言語道断」
「いいでしょ別に!」
「シロの食べかけを食べるといい」
「屈辱的過ぎるでしょ! だいたいあんたが三人でも相手にならないって言うから喧嘩になったんじゃない!」
「事実。シロは三人より強いから仕方ない」
「ムッキー! 絶対に負かすから!」
「いつでもいい。シロの準備運動にちょうどいい」
「あったまきた……。ボッコボコにしてあげるわ!」
「はいストーップ。それまでな。シロも喧嘩を売るな。ソルテも買うな。ったく、どんだけ闘争本能が強いんだよ」
でもシロがこれだけ強いとなると、俺との生活は苦痛なのではないだろうか。
正直戦闘は避けたいと思っているし、危ない事をシロにもウェンディにもしてほしくないと思っている。
だからシロはなかなか本気で戦えないのではなかろうか。
「それなら、もし良かったら今度行なわれる『王都一武術大会』に出てみませんか?」
「王都一武術大会?」
「はい。先ほど言った催し物ですよ。僕も出ますし、王都の腕自慢たちが大会に出て誰が一番強いか決めるんです」
「ほーう。でも出来れば俺は二人に戦ってほしくないんだけどな。せっかく仲間なんだしさ」
「大丈夫です。この大会には個人の部と三人一チームの部がありますから、その結果で決めるというのはどうでしょうか?」
「んー……シロはどうだ?」
「んーどっちでもいい。あまり興味ない」
あら。
戦闘がしたいと思ったのだがそうでもないのだろうか?
「戦いは生きるために必要なもの。見世物にするものじゃない」
「お、おう……」
まさかシロからそんな真面目な話を聞くとは思ってなかった。
「へえ、逃げるの? 自分より強いやつがいるかも知れないのに逃げちゃうんだ」
「挑発には乗らない。出たいなら好きにすればいい。三人で出て無様に負けるか、勝ち進んでシロの間違いだったかはわかる」
「そう。なら私達は出るわよ。隼人卿チーム戦でエントリーしておいてもらえるかしら」
「わかりました。
「こっちでも有名なのか?」
「ええ、有名な冒険者ですよ。三人とも美人ですし、冒険者ギルドとしても広告塔にはうってつけなのでしょう」
「見た目なんて強さに関係ないじゃない。迷惑な話よね」
「まあそういうなよ。皆が期待してるって事だろ?」
「そうね……。ねえ、あんたも応援してくれるわよね?」
「当然。なあ隼人観客席って今からでも取れるかな?」
「それでしたら僕の客人ということで席を取っておきますよ」
「なにからなにまで悪いな」
本当に隼人といると助かる事が多い。
俺、このまま隼人伯爵のとこの子になってしまおうかなって思えるくらい至れり尽くせりである。
「ふふん。勝ち進んで主様に褒めてもらうんだ」
「すぐに負けて慰めてもらうに変わる」
「出ないあんたは黙ってなさいよ」
「はぁ……蛮勇な犬はこれだからいけない。実は猪だったりする?」
「どういう意味よ!」
「頭が足りない」
「ワオオオオン! あんた覚えてなさいよ! 絶対に認めさせてあげるから!」
「それは楽しみ。逆にがっかりさせないでほしい」
はあ、出会った当初からとはいえシロの口の悪さはノリだすと止まらないな。
これはソルテが怒ったというのもわからなくもないが、それでもまだシロは子供なのだから大目に見てやってほしいと思うのは俺がシロバカだからじゃないと思いたい。
「主君、待たせて済まない」
「ご主人おはようっすー!」
さて、レンゲとアイナも揃ったし、そろそろ王都を見学しに行きますかね。
「いいアイナ、レンゲ! 私達は王都一武術大会に出るわよ!」
「いきなりなんだ……。突然どうしたのだ」
「いいから! 私達が強いってところを主様とシロに見せ付けるの! それで主様に褒めてもらうの! わかった?」
「わからないっす……。でもご主人に褒めてもらうのは悪くないっすね」
「そうだな。私達の戦っている姿を一度しっかり見てもらうにはいいかもしれない」
こうして三人が『王都一武術大会』に参戦する事が決まった。
どうやら俺がアインズヘイルに帰るのは終わった後になりそうだな、とこの時は軽く考えていた。