1-7 異世界生活 錬金スキル
意識を失ってから数刻、目が覚めるたびに急速に体内が冷え込むような感覚を覚えたあと何度も意識を失った。
意識を取り戻すたびに若干変わっていく机の上の状態を見る限り、錬金が行われているように思える。
暗転→机の上に鉄と石が増える→暗転→机の上に鉄と石が増えるを繰り返しているのが何度目かの暗転でわかった。
つまり、一つだけと思った分解を机の上にある分すべてに誤ってかけてしまいMPが0になって気絶し、回復したら続きを行っているのだろう。
何故こんなことが起こっているのかはわからない。
普通ならMPが切れた時点で作業を終えるのではないだろうか。
それともこれは仕様なのだろうか。
だとしたらとんだクソスキルだろう。
もし倉庫とかに鉄鉱石が保管してあり、そこに錬金をしかけたと考えるだけで数日では足りないくらい作業が繰り返されてしまうだろう。
ようやく目が覚めると目の前には残骸、もとい鉄と石がごちゃごちゃに散乱している光景が目に入る。
『錬金のスキルレベルが 3 になりました』
でしょうね……机に広げていたはずの鉄鉱石は全て鉄と石に分けられているのだから、1つ2つはレベルが上がるだろうとは思っていた。
一先ず石の塊は邪魔なので空間魔法の魔法空間に放り込んでおくとして、鉄をどうするか。
レインリヒに聞いた話では鉄と石を分けた後は鉄に『細工』をするか、インゴットにして鍛冶ギルドに売るかだそうだ。
インゴットの場合は鉄鉱石5個分の鉄でインゴットが一つ。鍛冶ギルドに売る場合は一つ2000ノール。
15個の鉄鉱石を分解してインゴットを3つ作れるのだが、それだけでMPの7割を削ってしまいそうだ。
細工する場合はアクセサリーなんかを作るのがいいらしい。
細工に必要なのはセンスとスキルレベル。
スキルレベルが低いうちは複雑な加工も、レベルの高い素材の細工もできないらしい。
そしてアクセサリーには補助的な能力をつけることも出来るので、小銭稼ぎどころか能力次第では結構なお金になることもあるとの事。
一先ず鉄を加工しやすいようにインゴットへと変えると、一つを残して空間魔法の魔法空間へと収める。
インゴット丸々一つでは量が多いので『再構築』によって体積はそのままに8等分にする。
小さな塊を手に取り、頭の中で作りたいものを想像する。
構造は簡単に、細い鉄を束ねて捻ったようなシンプルなネックレスを想像し、錬金スキルを発動すると一度ドロリと鉄の塊が解けて、新に形を作っていく。
どうやらこれは『再構築』の応用となっているようである。
すると、想像したとおりのシンプルなネックレスが出来上がったが、止め具の部分の想像がイマイチだったようでそこだけグジャグジャとした変な感じになっていた。
すかさずその部分だけ直そうと試みるが、全体が光ってまたドロリと解けてしまう。
どうやら修正する場合は1からとなるようである。
何度目かの試行錯誤の結果無事に出来上がった。
『捻れた鉄のネックレス 防御力+2』
おー。この効果がどの程度の物かはわからないが、初めて作ったにしては良い出来ではないだろうか。
これは楽しい。
材料を持って想像するだけで作りたいものが作れるなんて、製薬に比べてなんて便利なのだろうか。
だが案の定消費MPが激しい。
あっという間に枯渇寸前にまでなってしまっている。
まあ初めてにしては上出来であろう。
それにこの価値がわからなければ作る意欲もわかないので今回はこれまでとして市場調査と次の錬金作業の時用の材料収集もしておきたい。
あとは作ったポーションの販売もしないとな。
そして最重要なことが一つ。
「腹減った……」
気がつけばもう窓から日がさし始めていた。
ほぼ丸一日、飲まず食わずで作業に没頭してしまったのである。
お腹から腹の虫が数秒おきにうめき声を上げており、せっかくの異世界生活だと言うのに何も満喫していないことに気がつく。
なのでとりあえず作ったこれらを売って屋台でもあれば適当にこの世界の料理を味わってみようと椅子から立ち上がった。
……芋虫に追いかけられた異世界らしさはノーカウントとさせていただきます。