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4-4 裏オークション クリス

過去話で値段設定などを少し変更しています。

もし変更し忘れた点などありましたら、教えていただけると助かります。


07/11 16:12 ご指摘のあった点を修正しました。

あのあと、せっかくなので隼人と男二人で風呂に入ることにした。

同じ日本人同士わかっているので風呂でストレスを感じる事も無く、良いお湯でした……。


そしてやっぱり風呂上りは冷房の利いた錬金室でまったりだな。

どうせならコーヒー牛乳が飲みたいところだが、まあそんなものはないので果実水でいいか。


「わ、涼しいですね」

「少し涼んでから上に行こうぜ」

「いいないいなあ。ボクも一緒に入りたかったなあ」

「さすがにな。まあ上の奴らと一緒に入ってけばいいだろう」

「それじゃつまらないじゃないか! 若い男と混浴するから意味があるのに!」


またなーに言ってんですかねこの子は。

まあいい。

風邪を引かない程度に火照った身体を鎮めよう。

とりあえず、ソファーが空いてるんだからそっちに座れよオリゴール。

せっかく風呂に入ったのに暑苦しいんだよ……。


「はい。それにしても何故ここにエリオダルト卿の最新冷房魔具が? 彼は頼まれて作る方じゃないはずなのですが……」

「ダーウィンが置いていってくれただけだからよくわからん。エリオダルト卿ってことは錬金術師で貴族なのか?」

「ダーウィンが? まだ販売はされていないはずですし、エリオダルト卿と知己なのでしょうか。エリオダルト卿は爵位はボクと同じ伯爵ですが、王国屈指の錬金術師です。変人と謳われていて自分の興味ある物以外には無反応な、何かを作ってくれと頼んでも興が乗らないと王様からの命令も断ってしまう方でして……。ただ、腕は物凄くいいので重宝されているようです」

「へえ。まあ俺の知ってる錬金術師も変人だけどな。レインリヒとか……」


ウェンディに水の魔法で冷やしてもらっていた果実水を魔法空間から取り出すと隼人とオリゴールにも手渡す。


「あー言ってやろ言ってやろ」

「勘弁してつかーさい!」

「あはは……。まあ天才って言うのは変な人が多いって事じゃないですかね。王都では重宝されていますけど結構変人は多いですよ」

「貴族ならまあ王都に行っても会う機会はなさそうだからいいけどな」

「どうでしょう……」

「あーそだ。隼人、これやるよ。皆がいるところだと渡しづらいし」

「え? ブッフゥー!!」


隼人が口に含んだ果実水を噴出すなんて定番の反応を見せてくれたところでジャジャーン。

魔法空間から取り出したのはおなじみのバイブレータ。

オーソドックスにピンク色のうずらの卵を一回り大きくしたような奴にしておいた。


「こ、これって!」

「おう。これが俺が4000万ノールを稼いだ商品だ」

「何作ってるんですか!? これって、ピンク――」

「おっと隼人、これの名前はバイブレータだ。間違ってもロー〇ーなんていうんじゃないぞ」

「なんだいなんだい? それはなんなんだい? どう使うんだい?」

「ん? ああオリゴールにも一つあげるから今試してみるか?」

「ええ!?」

「ああいいとも。これがあのヤーシスが専売権を買ったという商品か。銘もうってあるんだね」

「一応元の世界の物だが、ここでは俺のオリジナルだからな」

「へええ。それで、どう使うんだい?」

「まずは魔力をいれてだな」

「ちょ、ちょっとまってください! ここで、今、ここで使うんですか?」

「ああ、隼人の知ってる使い方じゃないぞ。普通にこうやって肩の凝りに当ててだな」

「お、おおおおお、おお。おーなるほどねえええ。これは気持ちがいいね」

「へ? あ、ああ! マッサージ器具としてなんですね。びっくりした……」

「まあ欠点は自分で手が届かない所があることだな。それは改良してまごの手みたいにしようかと思ってるんだが」

「へえ。というか振動が凄いですね。振動球体だとここまで振動しないはずなんですが」

「まあそこは組み合わせだな。ヤーシスが国王様から販売許可も貰ってきてくれたから、大手を振って売れるしな」

「あ、あ、ああ、ああああー」

「うわあああ……。異世界でまさかこんな物を見ることになるなんて思いませんでした……」

「いいアイディアだろ? 自転車とか作れたかもしれないけど、ここじゃ乗るのは危険だしな」

「えっと、いただいてよろしいので?」

「おう。好きに! 使ってくれ」


用途は自由だ。

危険は無いから好きに使えよ?

好きにな。


「え……っと、あ、そういえば最近レティが肩が凝るって言ってましたし、レティにあげてもいいですか?」

「……まあいいんじゃないか? もう隼人にあげたものだしな」

「えっと、はい。それじゃあ」

「う、ああああ、あー」

「いい加減うるさいぞオリゴール」

「いやさ、この振動たまらないね。これは気に入ったよ」

「一応まだヤーシスが選別しても順番待ちらしいからな。あいつ、貴族相手にどれだけ儲けてんだろうな」

「おー。品薄なんだね。ありがとう。ボクはとっても良い友達を得たようだ。新作が出来たらボクが試してあげるからすぐに呼んでくれ」

「ああわかった。実際の使用者からの感想は嬉しいしな。すんごいの用意しとくよ」

「あは、あははは……」


実は既に試作機は出来てるんだけどな。

ただ、これはヤーシスに銀貨5枚で売ると材料費的に足がでるから同種としてみてほしくないんだが、まあ強力だし乞うご期待ってことで。


二階に上がり、リビングに行くと既に皆集まって談笑しているようだった。


「あら、久しぶりね。あんた少しの間で随分偉い事になったのね」

「ああ、久しぶりだなレティ嬢ちゃん」

「念願の猫耳少女を手に入れた気分はどう?」

「最高の一言だな。シロは可愛くて人懐こくて可愛い」

「お兄さん! ミィも猫耳生えてるのです!」

「おお、ミィも久しぶり!」


ミィが俺とハイタッチを交わして、頭をぐしぐしと撫でてやる。

ああ、ミィの猫耳もシロと違っていいなあ。


「む。主、シロの頭も撫でる」

「はいはい。ヤキモチか? 可愛いなあ」

「お兄さんミィのももっと撫でていいですよ!」

「おー。ぐしぐしー」

「ひあーー」


ああ、ダブル猫耳撫で撫でだよ。

至福ナ時間だな……。


「あんた、顔だらしなさすぎでしょ……」

「仕方ない。可愛いこいつらが悪い」


眼を細めて気持ちよさそうにしている猫耳二人が悪いんだー!


「久しぶり」

「お、エミリーだったか。お前さんも久しぶりだな」

「ウェンディ様を、悲しませたら許さない」

「ん? そんなつもりはない……が、様?」

「エミリー様、しぃーしぃー」

「内緒?」

「はい。いずれ私からお話ししますから。それにご主人様は私を幸せにすると約束してくださいました。なので大丈夫です」

「わかった。じゃあいい」

「お、おう。ウェンディ?」

「えっと……ちゃんと後でお話ししますから。あ、でも別にご主人様に害のあるお話ではありませんから」

「ん、わかった。ならいいよ。話せるときで」


ウェンディがそう言うなら問題ないのだろう。

それよりエミリーとウェンディって知り合いだったのかな?

俺が知らないウェンディも、いつか知りたいなあ。


「んで、お前さんがクリスか。話は聞いた。目は大丈夫か?」


ソファーにも座らず、片隅で膝を抱えていた少女。

眼は髪がかかっており容態は見えないが、大丈夫みたいだな。

顔を上げると、こちらを見上げていた。


「王都に行くとのことだが、俺らもご一緒させてもらうことになった。嫌かもしれないがよろしくな」

「あ、えっと、はい……」


おどおどとしていて視線を交わそうとしていない辺り、あまり話したくは無いんだろうな。

そういえば初めてあったときもこの子は馬車の端にいて会話してなかったな。


「ご主人様、王都に行かれるのですか?」

「ああ、隼人が参加するっていうオークションにちょっと興味が出てな。他の街に行くのは危険があるけど、隼人達がいるなら安心だろ」

「王都ぐらいならシロ一人でも大丈夫」

「まあより安全にってことで」

「ん。ならシロも行く」

「当然。ウェンディもな」

「かしこまりました。アイナさん達は明日帰ってくるらしいので護衛も含めて皆で行きましょうか」

「そだな。せっかくだし皆で出かけるか」


薬草類も手に入るし、もしオークションで手に入らなければ試してみるのも悪くない……よな。

偶然の産物ではあったが、作れた以上何が必要なのかは知っておきたい。

隼人にならあの話を話してしまってもいいかもしれないな。

あいつなら俺に不利益な事態は起こらないだろう。


「さて、それじゃあ飯の用意でもするか。ウェンディ手伝ってくれ」

「はい。お供いたします」

「出来上がったら呼ぶから、好きにくつろいでいてくれ」


そういってテラスで使っていた椅子を取り出して適当に座れるように配置して俺達は厨房に向かう事にした。


「あ、手伝います……」

「ん、おう。じゃあ頼むわ」


膝を抱えていたクリスが立ち上がり手伝いを申し出てくれた。

隼人のPTの食事担当なのかもしれない。

本来ならお客様だからゆっくりしていてほしいんだけどな。

手伝ってくれると自分から言っているのでまあいいか。


三人で厨房に行き、料理を作り始める。

と言っても俺は肉を焼くだけだが。

せっかく隼人が来たんだから是非牛タンは食べてほしい。


「……あの」

「ん?」

「何をすればいいでしょうか?」

「んー。普段から結構作るのか?」

「はい。料理は私が作ります。それくらいしかできませんから……」

「そうかそうか。じゃあこの材料で作れる物を好きに作ってくれないか?」

「えっと……はい」

「あっ、と眼怪我してるって聞いたけど、ナイフ大丈夫か?」

「はい。普段からしてますので問題ありません。……そう。問題ないんです。なのに……」

「ん?」

「私のせいで……。余計な時間を、大金を使う事なんてないんです。私はただの奴隷なのに……」


あー……。

あれか。自分のせいで、とか考えてるパターンか。

んー……。口を出してもいいのかな。


「ただの奴隷ですか……。私もご主人様のただの奴隷ですよ」

「ウェンディさん」

「ですが、ご主人様は私を奴隷のようには扱いません。大切に、それこそ家族のように扱ってくれます。貴方はどうですか? 大切にされていませんか?」

「されていると思います……。でも、私は何も返せません。だから」

「だから捨てられると?」

「……」

「先ほど料理をしていると言っていたじゃないですか」

「料理なんて誰でも出来ます……」

「そうか? 一食が美味い料理は作れるかもしれないけど、毎日美味い料理ってよっぽど肌に合わないと難しいと思うぞ」

「隼人様達は、貴方の料理を食べてなんとおっしゃっていましたか? 美味しいって言ってくださいませんでしたか?」

「言ってくれています……。毎日、美味しいって。それが凄く嬉しいんです」

「ふふ。大切な人が、自分の作った料理を美味しいって言ってくれるのは嬉しいですよね」

「……はい」

「奴隷だって幸せを望んでもいいんです。ご主人様は私を愛してくれます。私はご主人様を愛しております。奴隷だから、幸せを望んじゃいけないなんてことはないんです」

「だな。例えばウェンディがお前さんみたいに目を失ったとしたら、俺も間違いなくどれだけの手間や金がかかっても治すさ」

「ご主人様……」


当然な話だ。

たかだか金を積めば治る傷を金を惜しんで治さないなんて考えられるわけが無い。


「それは、お兄さんがウェンディさんを、その、愛してる……から」

「隼人を見くびるなよ。あいつは俺以上にずっといい男だ。あいつが自分の大切な人の為に金も手間も惜しむわけないだろ」

「でも……」

「いいんだよ。あいつが好きでやってんだから気にすんなって」

「でも、私は何も返せません……」

「じゃあ治ったら笑顔でありがとうって言ってやれよ。女の子の笑顔はいつだって男の活力だからな」

「笑顔……」

「正直あんたは辛気臭すぎる。ほれ、笑ってみろってニコーって」


ほっぺをつまんで無理矢理に笑うようにしてみる。


「あううう、いひゃいです」

「セクハラです。ご主人様」

「あっと、すまん。でもな、笑顔は大切だぜ。それがべっぴんさんなら尚更だ」

「べっぴ……。そんなんじゃありません!」

「いや、素材はいいよな。その目深な髪が邪魔なだけで。なあウェンディ」

「はい。とても可愛らしい女の子だと思います」

「んじゃ、眼が治ったら髪整えてやってくれ」

「はい、もっと可愛くしましょう」

「ついでに似合いそうな髪飾りでも作るか。回復祝いにプレゼントだな」

「では私はお洋服を作ってお渡ししますね」

「か、勝手に決めないでください」

「いや、勝手に決める」

「ええ!? だ、ダメです!」

「感情が表に出てきたぞ。やっぱそっちの方がいいな」

「あ……。えっと」


徹夜で仕事(デスマーチ)中の女同僚の生気を失った顔と似たような顔してたからな。

感情が無いわけじゃないんだ。

表に出すのが苦手、というか怖いんだろう。

以前の状態は知らないが、とても酷いものだったんだと思う。

だけどもう環境は変わったんだ。

ならばこれからは幸せを目指すべきである。


「さって、そろそろ腹ペコたちが待ってるからな。ちゃッちゃと作るぞ」

「はい。下準備は出来てますのですぐに取り掛かりましょう」

「おう。それじゃ俺は肉焼いてくるわ。そのほかは頼んだ」

「承りました。それじゃあクリスさん。一緒に何か作りましょうか」

「あ、はい。よろしくお願いします」


さーって。牛タンはシロも食べるからな。

今回で全部使い切ってしまうか。

となると、買い物を……っとちょうどいいか。王都で珍しい物があれば買うとしよう。

さって、今日はどれくらい焼こうかなっと。


「あの、ウェンディさん」

「はい。なんですか?」

「ウェンディさんの、その、ご主人様は変わった方ですね」

「うふふ。かっこいいでしょう」

「えっと、はい。ちょっとだけですけど」

「ご主人様は自分に素直で、ちょっとエッチですけど格好良くて優しいんです」

「ちょっとエッチ……。えっと、そのウェンディさんはご主人様が大好きなんですね」

「はい。大好きですよ」

「私も……隼人様が大好きです。ずっとお傍にいたいです」

「ふふ。同じ奴隷ですけど、お互い頑張りましょうね」

「はい。私も、お二人のようになれるように、その、少しずつ頑張ります」


なにやら二人が話しながら料理をしているのだが、残念な事に俺には聞こえていない。

でもお互い笑いあっているのを見ると安心して、俺はタン塩の焼き加減に拘るのであった。

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