4-3 裏オークション 隼人と再会
ちょっと過去の話の貨幣価値について再考したいと思います、貨幣が出てきたあたりを都度修正いたします。
あと、4-1でもご説明しましたが、4章のタイトルを変更しました。
隼人がソファーに座り、俺は今の体勢のまま牛革の作業椅子とオリゴールによりサンドイッチ状態のまま話を始めた。
「あの、色々聞きたいことが沢山あるんですけど」
まあそうだろうな。
駆け出しの錬金術師から今の状況までどんな経緯があったかなんて想像もつかないだろう。
「長くなるけどいいか?」
「はい。構いません」
「ボクも聞いてみたいなあ。こんな短期間に一体何があってこの家を手に入れたのかとかね」
「そういえば、ここ元々お前ん家だもんな……」
「そうだよ。日当たりも良くてサイズもちょうどいい家を建てたのにいきなり領主邸に引越しになったんだよ! だからボクはここに無条件で来る権利があると思うんだ!」
「もう俺の家だから諦めな。遊びに来る分には歓迎するからさ」
「ほほう。じゃあ一緒に仕事を忘れて日向ぼっこしよう!」
「あーいいけど、シロと喧嘩して勝てたらな」
まず間違いなく日向ぼっこではシロが俺の膝の上に乗るからな。
場所を奪おうものなら領主とて容赦なく排除するだろう。
「さて、まずは……。そうだなーあの三人からだな」
「三人と言うと
「先に言っておくと悪い事はなんもしてないからな……」
「ええ勿論。信じてますよ」
「ありがとさん。んじゃまず俺が回復ポーションを冒険者ギルドに売りに行ったところからなんだが」
思いだしても悲惨な出来事だ。
初めて作ったポーションだったんだよな……。
今となっては恨んじゃいないけど、ただ少しだけ悲しい。
「……なるほど。その件は後で僕からも冒険者ギルドに話を聞く必要がありそうですね」
「いや、今更だからやめておいてやれ。受付の嬢ちゃんも結婚したってきいたばかりだしな」
「そうですか? でも、なるほど。そういう事情でまずアイナさんとソルテさんが普段の生活を続けながらも奴隷となったのですね?」
「そそ。まあおかげで材料集めには困らなかったよ」
「それだけなのかなー? 可愛い女の子を二人も奴隷にしたんだよ? そりゃやることはやったんじゃないのー?」
「やってないって……。正直あの時はまだちゃんと理解も追いついてなかったからな。今がむしろ開き直ってると言ってもいい」
「えっと、ではウェンディさんはどうしてイツキさんの奴隷に?」
「んー。ウェンディは、あとシロもだな。その二人は普通にヤーシスから買い取ったんだ」
「奴隷をですか? その、抵抗はなかったんですか?」
「あー、元の世界の倫理観的にって事か?」
まあ隼人がいわんとしていることはわかるけどな。
「はい。僕は正直な話初めて奴隷制度を知ったときは嫌悪感が少なからずあったので……」
「んー。奴隷って言っても俺達の知る奴隷とは明らかに待遇が違うしな。権利の保障された従業員って感じ?」
俺達の奴隷のイメージってピラミッド作りの奴隷が一般的なんだよな。
あくまでイメージだけど、鞭打たれながら働かされているような奴。
だから嫌悪感が生まれるのはわかるが、この世界の奴隷は根本が違う。
支配者と下僕というより、一種の契約だと思うのだ。
「ああ、その話はボクも知ってるよ。あの腐れダーダリルの事件でしょ? いやあ。あれは聞いてすっきりしたもんだ」
「腐れって……、ああそういえばあいつに嵌められたんだったか」
「人生最大の汚点だね。消し去りたい過去だよ」
まあ毒が治った以上、確実にヤーシスやダーウィンにからかわれるだろうしな。
おぉ、くわばらくわばら。
「えっと、ダーダリルと言うとダーウィンの息子のダーダリルでしょうか?」
「そうそう。あいつがウェンディを無理矢理に買おうとしてたから、横から攫っていったんだぜこの色男は」
「攫うって言うか、ヤーシス発案の勝負だけどな。8000万ノールで買い取ったんだよ」
「8000万!? え、だってそんな大金あったんですか?」
「いや、稼いだんだよ。ついでにその時襲われそうになったところをシロに助けられてそのままシロも買い取った」
「えっと……。どうやって……?」
「んー。あ、そういえばあの時一度隼人に連絡してたな」
「ああ! あの時ですね。なんだか様子がおかしかったので心配していたんですよ……」
「様子おかしかったか?」
「ええ、皆も言ってましたよ。突然やる気になってなんだかおかしいって、皆イツキさんのことをやる気のないマイペースな方だと思ってましたから」
「酷いな……。否定はしないけど」
「ぼ、僕はそう言ってませんからね? ちゃんとイツキさんはやるときはやる方だと思ってましたから」
「わかってるよ。隼人はいい奴だな本当に」
こいつは陰口とか叩かないタイプだと思う。
いじめとかに、やめなよ! ってちゃんといえるタイプだろう。
内も外もイケメンだなあ。
「それでだ。あの後アクセサリーを作り続けてレインリヒに4000万ノールで買い取ってもらったんだ。あ、翡翠も使っちまったぞ」
「それはいいんですけど……。なるほど。え、じゃあもう錬金のレベルは7か8なのですか?」
「今は9だな」
「早ッ! いくらなんでも早すぎませんか?」
「んー流れ人ってレベル上がりやすいんだろ?」
「そうですけど、それにしたってまだ2ヶ月くらいじゃないですか。早すぎますよ」
「やっぱ早いのか……」
成長能力なんて持ってないんだけどなあ……。
「そういえば戻ってきたらアクセサリー作るって約束したな」
「あ、そうでしたね。材料はありますのでお願いしてもいいですか?」
「ボクの分もついでに作ってくれてもいいんだよ? 友愛の証にね」
「はいはい。一個増えたところで大した労力でもないからいいよ」
「やた! 言ってみるものだね。できたら肩こりや頭痛が取れるアイテムをお願いするよ」
「そんなアクセサリーがあるなら自分の為に作るわ。まあそれならアクセサリーよりあっちだな」
「あっち?」
「んー隼人は見ればすぐわかると思うぞ。俺はそれで残りの4000万ノールをヤーシスに買い取ってもらったんだ」
「えっと、元の世界の物なのでしょうか?」
「そそ。まあ見てからのお楽しみだな。隼人にも一個プレゼントするから感想よろしく」
「あ、はい。なんだろう。少し不安な気が……。そういえばレンゲさんとは領主様にお会いする前に出会いまして、故郷に用事があると言っていたのですがどうしてイツキさんの奴隷に?」
「あー……それな。うん勘違いというか、悪意のない、ソルテの性格上生まれた誤解からな……」
正直な話、レンゲにいたってはただただ可哀想だと思う。
確かに暴力的な行為、今となっては疑いになるがあったとしてもそもそもは勘違いなのだ。
それが奴隷になるという末路だもんな……。
しかも犯罪奴隷。
これこそ、俺らの想像通りの奴隷だもん。
何をしてもよく、反抗心すら持たせない。
そんな状態にしてるわけだからな……。
「なるほど。良かった。イツキさんが悪の道に目覚めてハーレム王になる! とか言い出したんじゃなくて本当に良かった……」
「おい、信じてたろ?」
「し、信じてましたけど、途中でレティがもし悪堕ちしてたらなんて話をするもんですから心配してただけなんですよ」
「そういえば誰か怪我したって聞いたけど大丈夫なのか?」
「あ、はい。クリスがちょっと、その、片眼を失ってしまいまして……」
「おいおい……。大丈夫なのか?」
「回復ポーション(大)じゃ部位欠損もある程度なら治るはずなのですが、眼は重要な器官だからか効果が無く慌てて帰ってきたんです」
「それじゃあ隼人も霊薬が必要じゃないか!」
「はい。本人は片目だから大丈夫と言っているのですが、僕達としては大事な仲間の目ですからね。裏のオークションに参加して入手する予定です。幸い資金には余裕がありますから」
「オークションか……」
「えっと、気になるなら一緒に行きますか?」
「いいのか?」
気にならないといえば嘘になるな。
安全が守られているならば行ってみたい。
「はい。行われるのは王都ですけど、馬車の移動でよろしければ」
「王都か。んんー俄然興味がわいてきたな」
「ではご一緒に」
「いいないいなー! ボクもソーマに仕事を押し付けて行ってしまいたいが、たぶん怒られるよね……」
「間違いなく怒られるだろうな」
「ソーマ怒ると怖いんだよ。レインリヒ級に怖いんだ」
ソーマさん紳士的な初老人かと思いきや、とんだ化け物の仲間だったようだ。
俺は怒らせないぞ。
ついてはこのお子様をきちんと領主邸まで送り届けよう。
しかし馬車か……。
こういうとき元の世界の乗り物を想像はするのだが、荒れた路面を考えるに簡易な二輪では危ないか。
それに魔物が出たら終わりだしな。
となると四輪だが、っは! 全く構造が浮かばねえよ。
エンジンはなんとなくわかるけど、エンジンが動いたらなんで動力になるんだ?
どうつなげりゃいいんだ?
って事で乗り物は作れないな。
「何時行くんだ?」
「まだダンジョンから帰ってきたばかりなので、数日は休もうかなと。王国まではゆっくり行っても2日あればつきますから、二、三日後でしょうか」
「わかった。馬車はそっちで一台、こっちで一台でいいか?」
「はい。奴隷の皆様もお連れになられるのでしょうか?」
「まあどうせなら皆でいきたいしな。それに俺が行くならシロとウェンディはついてくると思う」
「なるほど。慕われているのですね」
「そうだな。そうだといいなー」
慕われてますなんていえないよね。
まあでも嫌われてはいないだろう。
少なくともウェンディとシロには好かれていると思うのは、うぬぼれじゃないはずだ。
「隼人のほうはどうなんだ? あの四人と一緒に旅に出てるんなら浮いた話の一つでもあるんじゃないか?」
「あはは、えっとボクはその……そういった耐性がなくてですね……」
「隼人は奥手っぽいもんね」
「あははは……」
「耐性が無いって、恋とか愛とかにか?」
「えっと、その……はい」
耐性が無い……?
いやいや、いやまさか……。
そんな馬鹿な。
あのメンバーで長旅してきたんだろ?
お前さんイケメンだろ?
冗談きついって。
……これは後でレティ嬢ちゃんに秘密裏に聞き出さなきゃいけねえな。
たとえ女の子にする質問じゃなかったとしても、重大なことなのだ。