1-6 異世界生活 製薬実験
受付になけなしの銅貨5枚を渡すと空いている錬金室に通される。
中は椅子と机、机に付属された蛇口、乳鉢や摺り棒の入った棚、伝声管、そして囲炉裏のような火を扱う場所があった。
乳鉢のはいった棚の下段には開閉式のダストシュートのようなものがあり、そこからアイテムを落とすと地下の受取所で後で纏めて受け取れるらしい。
ポーション類などは割れないようにごろごろとゆっくり転がり落ちるあたりよく出来ていると思う。
ただ俺の場合は空間魔法のレベル上げがてら魔法空間にしまうか、隼人に貰った魔法の袋にしまうので使う機会があるかはわからなかった。
ひとまず椅子に座るとバケツに入れた薬体草と鉄鉱石を机の上に置く。
棚から乳鉢と摺り棒、フラスコと試験管を取り出しておく。
「さて……何から作るか……」
とりあえず習ったばかりの回復ポーションでも練習してみるか。
それとも重いしでかいしで邪魔な鉄鉱石から手をつけるべきか。
「んー……体力の残ってるうちに手作業のほうからやるか」
乳鉢に薬体草を入れてごりごりとしてみる。
程なくしてすりつぶされた緑色の塊が生まれ、そこに水を注いで更にエキスを搾り出すようにゴリゴリする。
最後に試験管に注ぐとあら不思議、真緑色の液体があっという間に薄水色の液体へ。
「なんか……ファンタジーだよな」
なんで緑色の塊が突然薄水色に変わるのだろうか。
青〇がアクエ〇アスに変わるようなものだ。
これはまさにファンタジーだろう。
「えっと回復ポーション(劣)、ですよねー」
まあ当然の如くいきなり(小)が生まれるなんて事はない。
次に、言われたとおり今度はスキルを使って製薬をしてみることにする。
まず違いを説明すると、道具が要らない。必要なのは具体的なイメージとMPだとか。
一回でどれくらいMPを消費するものなのかとか検証が必要だな!
とりあえず薬体草を右手で握り、左手で試験管を握る。
次に製薬の工程を頭の中で行い、錬金と唱えると、
デデーン! 見事右手の薬体草がなくなり、左手の試験管に回復ポーションが……。
『回復ポーション(粗悪)』
粗悪!? 粗悪品ってこと!?
劣とか微以下もあるのか!
【-回復ポーション(粗悪)-
HPが回復したような気になれる。】
気になれる!? 回復してないじゃん! 粗悪っていうか悪だよ!
これは100ノールでも売れないだろう。
「なるほど。反復練習あるのみか……少なくとも手作業で(小)を作れるようにならないと(劣)の大量生産は無理そうだな」
MPのほうをギルドカードで確認すると消費MPは5。
これはしばらくは手作業が続きそうだ。
最低でも手作業で残り9個。
無名錬金術師のポーションが相場で売れない可能性も含めて12個は作っておきたいところだ。
『めんどくさい』と思い始める前に作業を始めてしまおう。
作業を続けていくと、(劣)の他にごく稀に(微)が混じり始めた。
鑑定スキルを使うと(小)、(微)、(劣)、(粗悪)の順に効果が悪くなっていくようだ。
それ以外にもまだあるんだろうが、現状目にしたのはこの四種類。
ただ(小)以上の効果を求めるにはどうすればいいのだろうか。
特別な液体を使うとか、作業工程に何かを混ぜるのだろうか。
なるほどレインリヒの言うとおりあとはオリジナルってことか。
とりあえず手作業で(小)を作れるようにならないといけないってことは確定だ。
働かずに生きるを目指していた俺が、いつの間にか製薬作業にハマリ始めている。
大丈夫だ。問題ない。
これはいずれ俺が楽をする為に必要な作業だ。
そうだ。そうに違いない。
そしてようやく出来上がったポーションが
ポーション(劣) 9個
ポーション(微) 3個
これでギリギリでも元はとれるだろう。
さて、ここからがお楽しみの試行錯誤の時間だ!
正直やることは変わらないのだが、気持ちの問題である。
失敗してもかまわない。実験実証は大切である!
とりあえず思いついたことをやってみよう。
まずは回復ポーション(劣)を2つ作る。
これをこのまま混ぜてみようかと思ったが、それでは量が増えるだけだろうと考えてスキルの錬金を使ってみることにした。
使うスキルは錬金の『合成』。
MPを加えて二つの回復ポーション(劣)を合成させるとどうなるか。
結果、
【-回復ポーション(劣+1)-
HPを微より劣る程度回復する。+1】
んー……。(微)が出来上がると思ったんだが、+がつくのか。
つまり同レベルの合成では+がつくだけなのかな?
まあでも普通は魔法の袋なんて持っているほうが珍しいんだろうから嵩張らないっていうのも需要があるんだろうか。
回復ポーション(小+1)なんてのももしかしたら2000ノール以上になるのかもしれない。
ただそうなると謎が残る。
劣が二つで1000ノールの材料費だが、回復ポーション(小)に回復量は届かない。
となると何らかの方法を用いれば、もっと効果の良いポーションがこの方法で作れそうな気がしてきた。
ともあれ、試行錯誤を繰り返していくうちに材料の薬体草がなくなってしまう。
そしてどうにか回復ポーション(小)を10本作り出すことが出来るようになった。
まず簡単な作り方は薬体草から作る時の液体を回復ポーション(劣)で作ること。
これは純粋に濃度が上がるからだろうと予想ができた。
そして次に、回復ポーション(微)と(劣)を合成するさいにMPを多めに込めるやり方だ。
(劣)を二つでやった場合は加えたMPの割合に応じて+値が増えるようだった。
ただし、限界はあるようで+2から先はどれだけMPを注いでも変わらなかった。
これは多分錬金スキルのレベルによるものだろう。
(小)以上の効果のポーションを作るには、別の材料かスキルレベルを上げなければ難しいのだと思われる。
結論!
(劣)や(微)のポーションも濃度を上げれば効果が上がる。
スキルの錬金の場合はMPを追加すると効果が上がる。
あとはレベルをあげてやってね☆ミ
ってところか。
最終的に
回復ポーション(劣) 10個
回復ポーション(劣+1) 4個
回復ポーション(劣+2) 2個
回復ポーション(微) 5個
回復ポーション(微+1) 3個
回復ポーション(微+2) 1個
回復ポーション(小) 10個
が完成した。
そして錬金レベルは2に上がったのだ。
正直集中している時は気がつかなかったが、めちゃくちゃ疲れた。
だがこれで支払った分は確実に取り戻せただろう。
その分薬体草がなくなってしまったが、遅いか早いかである。
それにまだまだ薬魔草もあれば鉄鉱石もあるのだ。
だが今日はこれで終わりだろう。MPも底を突きかけているしね。
次は鉄鉱石を『分解』するとしよう。
……せっかく『お小遣い』スキルを獲得したのに仕事してるって?
ま、まあ? 俺恩知らずじゃないし? 命を助けてもらった時だけ恩義を感じて、その後は薄れていくような薄情系男子じゃないし?
それに隼人良い奴だし。うん。お金持ちの貴族だし、何かって時に頼りにもなりそうだし?
ここで期待に応えるのは後々の生活に良い影響を与えるだろうし?
隼人は近々様子を見に来るって言ってたし、ならそれまでの間にレベルを上げといた方が心証もいいだろうしね。
うん。なんとなくなあなあで働き始めてしまう日本人の特性ってわけじゃないはずだ。
そう。これは仕事じゃない。趣味の範囲なんだ。そうだ。そうに違いない。
「今日は一個だけ、一個だけやろう」
そういって鉄鉱石の山を机に広げ、一個手に取ると「錬金」と唱えた。
なんだかんだやりこみ要素の多い錬金作業を楽しんでいるのだからまああまり気にしちゃいけないと思う。
すると目の前がふっと暗転し、鉄鉱石の山の中に倒れこんだのだった。