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3-17 マイホームマイライフ 呼び出し

『錬金のスキルレベルが 9 になりました』


【錬金 Lv9 既知の魔法陣エクスペリエンスサークル

        一度作った事がある物を魔法陣を介して瞬時に作成する事ができる。

        材料は自動で消費されるため、足りない場合は作成する事ができない。

        知識として作り方は知っていても、作成することは出来ない。

        一度手形成、合成、再構築などで作る必要がある。】


レンゲに膝枕されながらある程度の量のアクセサリーを作り終わった時、俺の錬金スキルがついにレベル9へと上がった。


『既知の魔法陣』これでようやく異世界チートらしいスキルになっただろうか。

現行の錬金レベルの最高レベル。ついにレインリヒと同じレベルまでたどり着いた。

後は伝説のレベル10が残っているが、レインリヒでもなれていないのであれば俺もなれるとは思えなかった。


早速一つ、試しに作ってみる。

何を作ろうかと思いレンゲを見た瞬間、勝手に手が動き始めた。

魔法陣は自動手記のように勝手に机の上の羊皮紙へ書き込まれていき、完成後に魔力を注ぐと陣が光った。

頭の中に瞬間的に作り方が流れて確認する暇もないが、とても覚えられる量ではなかった。


そしてごとり、と小さな一瓶の魔法薬が魔法陣の上に現れた。

どうやら魔法陣は魔力が切れると効力を失うらしい。

だが魔法陣自体はそのまま残っていた。


できた物を『鑑定』で確認すると驚きと同時に魔法空間を確認した。

すると、素材別に分けた内の1スペースに保存していたつい最近アイナとソルテに集めてもらった大量の素材が殆どなくなっていた。

レンゲは俺の行動を不思議がっていたのだが、多分何を作ったのか言えば驚くと思う。


というか、どうして俺はこれを作れたのだろうか。

作った覚えもなければ作り方も知らない、そして見たことすらないのだ。

俺がこれを作れると知られれば、面倒どころではなさそうな品である。

これは、黙っているか。最悪転生する際に一つだけ貰った事にしておこう。


「何ができたんすか?」

「んんー。秘密かなあ」


レンゲも見たことがないのだろうか。

まあでもこの効力からすればあまり出回っていないのかもしれない。

後で軽く調べてみよう。


「えーいいじゃないっすかー。教えてくださいよー」


しつこく聞いてくるレンゲだがそこに運良く? シロとウェンディが乱入し、その隙に魔法空間へとその魔法薬と魔法陣を収めたのだった。


その後、ウェンディやシロに怒られた後、俺達は早めの昼食を取って食休みをし始めた。

勿論場所はテラスである。

先ほどウェンディと協力し、パラソルと大きめの椅子をもう一つ作ったのでソレも並べる。

俺はひっそりと一人用の椅子に腰をかけて本を開き、パラソルで日光を遮って一人活字の世界を堪能していた。

この本はレインリヒに餞別だと言われて渡された錬金術の事が多く書かれた本である。

これからもお世話になる錬金のことなので結構楽しく読めているのだ。


「あーるーじー」


その声とともに俺の前からヒップアタックをかましてくるのは当然シロ。

俺は現在すぽっと椅子にはまるように座っている為回避は不可能だった。


「ぐふあ」

「んー……主の上で寝る」

「寝るなら広い方使えよ……」


せっかく空けたのに。

というか一人でまったりしたかったからこっちに座ったのに。


「三人は窮屈。だから私は主と一緒」


あー2:2:2になるようにしたのね。

でもねシロ。この椅子は一人用なのよ。

あと重力の関係で苦しい……。お昼食べたばかりだから余計だ。


「あああ! シロ! あなたまた!」

「遅いのが悪い」

「なによ。あら、快適そうね」

「主君を下に敷くなんて……羨ましい」

「なんすかー? おお、楽しそうっすね!」


洗い物や片づけを終えてぞろぞろとやってきたな。

案の定ウェンディとシロが言い争いを


「じゃあ代わる」

「え、いいのですか?」

「いいのかシロ?」

「今日はいい」

「で、では! 早速失礼致します」

「いいなあ。私も立候補すれば代わってもらえるだろうか」

「私はいいわ。暑苦しそうだし。アイナ、レンゲあの広い方に行きましょ」

「そっすね。一回くらいは座ってみたいっすけど、今日はあっちで日向ぼっこっす」


珍しい。

シロが易々とウェンディに譲るなんて。


「……そこはシロ専用。理由はすぐにわかる」


ん?

ウェンディが後ろを向いて俺の上に尻を……って! ちょっと待った!


「ふぐううあ」

「ご主人様!? あれ、立ち上がれません!」


お、〇い!

重力か! 

腹が、腹が圧迫される!

感触を堪能する暇もない!

っていうかこれ布大丈夫か!!


「ほら。シロ専用」

「シ、シロ! あなた謀りましたね!」

「謀ってない。ウェンディのお尻が大きくて重いのが悪い」

「キィー!! シロ、そこになおりなさい! 今日という今日はお仕置きします!」

「あ、暴れないでくれうぐ、食った物が……」

「ああぁ! ご主人様、申し訳ございません! すぐ立ち上がりますので、お尻が、はまって、んんー!」


一生懸命に腕を伸ばして地面に手をつこうと頑張っているが全く届いていない。

……後で手すりを付けなければいけないな。

ウェンディが腰を浮かせようと頑張っているので、腹に圧迫感はなくなっているのだがその分、ある一点にピンポイントヒップグラビティである。


「ん、んんー! 届きません! ご主人様大丈夫ですか? 大丈夫ですよね? 重くはないですよね?」

「ああ、うん。大丈夫だから。ウェンディが重いわけじゃないから……」

「ご主人様、ちょっとお膝をお借りいたします」


そういうとウェンディは俺の立てた膝を握り勢いよく立ち上がった。

その際にピンポイントがアウトブレイクなわけだが、これでどうにか助かった……。


「ん。やっぱりシロの場所」

「ご主人様。シロはその椅子にお一人で座るようです。ですので私達は二人であちらに移りましょう?」

「ぬう。それはずるい。そうなったらシロもそっちに行く」

「いえいえ。シロはお一人で! こちらの椅子をお使いになってもかまいませんよ?」

「やー!」

「いや、できれば穏便に決めてくれませんかね……」


いや、できれば二人仲良くあっちの椅子でまったりしていてほしいんだが……。


「人に好かれるってのも大変なんすね」

「あれは特殊でしょ。っていうかウェンディってもっとお淑やかなんだと思ってたけど、結構思い切りがいいわよね」

「ああ、私もそう思った。やはりあの積極性が主君に好かれる秘訣なのだろうか」

「「「……」」」


いやそこ!

蚊帳の外から好き勝手言わないでもらえませんかね?

三人で物凄く日向ぼっこを満喫してるよね!

俺もゆっくりしたいんですけど……。


リーン リーン リーン


「お、誰か来たみたいだな。俺が出るよ」

「ご主人様! ご来客でしたら私が!」

「シロも行く」

「いいから。二人はこれからどういう風にするのかお互い納得いくよう決めておくように」


流石にこれ以上は看過できないからな。

もしこれからもこんな事が続くのなら暫く二人はテラス禁止である。

俺は大人しく日向ぼっこがしたいのだ。


「あ、あと悪いんだが三人はいつでも構わないが材料収集を頼む。前回が鉱石系だったから、今回はポーションに使う材料を中心に頼みたい」

「わかったわ。食休みが終わったらすぐ行ってくるわね」

「薬草系ならダンジョンに行く途中の森でいいな。レンゲもいるし、深層でいい材料を入手してこよう」

「んんー! 久しぶりに身体を動かせるっすね!」


三人は了解とばかりに手を上げて各々返事をしていた。

深層と聞いて大丈夫なのかと心配したが、三人の様子を見るに問題はなさそうであった。



玄関をあけて門の前に行くと一台の馬車、そして従者風の男が一人待機していた。

見覚えはない。

紳士風の年は俺より倍以上だろうか。

モノクルを付けたTHE執事と言った感じの初老人。


「初めまして。私、領主様の執事でソーマと申します。貴方様はこちらにお住みの錬金術師様でございましょうか?」

「ああ、俺がここの家主だ」

「それでは手短に、領主様が貴方様をお待ちです。ご同行願えますでしょうか?」

「……」


領主が俺になんのようだ……って、十中八九レンゲの件だろうな。

昨日ヤーシスが説明をしたとは言っていたが、何か思うところがあったのだろうか。

なんにせよ領主から直接の呼び出しとはただ事ではないよな。


「ご安心くださいませ。危害を加えるつもりもありませんし、ひっ捕らえよというご命令もありません。今日中には必ずお帰りになられますので」

「そうか。じゃあ今護衛を」

「申し訳ございませんが領主様は体調が悪く、余り長時間行動ができないのです。時間が惜しいためお一人でお願いいたします。帰りも私どもが責任を持ってお送り致しますので」

「……わかった。それじゃあこのまま行こう」

「ご理解いただけて大変恐縮でございます」


執事が馬車の扉を開き中に入る。

すると既に一名中にいるようであった。

子供? だよな?


「こんにちはお兄ちゃん!」

「こんにちは……。えっと君は?」

「こちらは領主様のお孫様であらせられます、オリゴール様でございます。本日錬金術師様のもとにどうしてもついていくと仰せられまして、申し訳ございませんが領主様のお屋敷に着くまでお相手をお願いできませんでしょうか」

「それはいいけど、えっとエルフ?」

「いえ、オリゴール様はハーフリングでございます」


ハーフリングってなんだっけ……。

確か身長が低くて、エルフのように耳は尖ってる……しかわからないや。


「ほらほらお兄ちゃん。早く座ってよ! お話ししよう!」

「ああ、それで? 何を話すんだ?」

「お兄ちゃんはあの家に住んでるんだよね?」

「ああ。ダーウィンから貰ってな」

「そっか。どう? 住み心地は。あんまり広くないけど住みやすい?」

「ああ、というか俺には十分すぎるくらい広いけどな」


領主の孫だから知っているのだろうか。


「地下室は何か手を加えたの?」

「お風呂と錬金室を作ってもらったよ。おかげで毎日充実している」

「おー! お風呂かあ! いいなあ。今度ボクも入らせてよ!」

「あー……いいぞ。檜風呂は最高だからな」

「ふふ楽しみだなあ。錬金室って、お兄ちゃんは錬金術師なの?」

「まあな。一応錬金術師ギルドに加入させてもらってるよ」

「そっかあ。じゃあ今度遊びに行ってもいいかな?」

「ああ、いつでもいいぞ。俺が暇ならな」

「じゃあ約束ね!」


この子、どっちだ?

幼い上に髪が長いのに、一人称がボクって男の子か? 女の子か?

子供とはいえこれは間違えたら傷つけてしまうだろう。


「それで、お兄ちゃんは一人で暮らしてるの?」

「いや、俺を含めて6人だよ」

「へえ家族?」

「いや、従属奴隷が2人と犯罪奴隷が3人だな」

「……犯罪奴隷? 悪い事をした人と一緒に住んでるの?」


ああ、しまったな。

素直に答えすぎた。

別に犯罪はつけなくてもよかったな。


「そうと言えばそうだし、そうじゃないと言えばそうじゃないって何か複雑な感じかな?」

「そうなんだ。怖くないの?」

「全然。皆良い子だよ」

「そっかあ。じゃあお兄ちゃんはしゅちにくりんな毎日なんだね」

「酒池肉林って、よく知ってるな。まあそうあったらいいんだけど、俺はまったり過ごせればそれでいいからなあ」

「欲があるのかないのかわからないねえ。若いんだから欲深なくらいが丁度いいと思うよ?」

「欲深ではあると思うぞ。出来れば働きたくないし、一生何もせず好きに生きていたいからな。快適に、何不自由なく特に問題も起こさず巻き込まれず面白おかしく生きて行きたいって欲深だろ?」

「そう言われるとそうかもね。それじゃあお兄ちゃんはどうして奴隷を手に入れたの? 一人なら簡単にそんな生活も送れたんじゃないの?」

「まあ一人じゃ寂しいしな。それに皆可愛いし、大人になるとわかるが男ってのは可愛い子と一緒にいるだけで幸せなんだぜ?」

「わかんないやー。ボク女だし」


ああ、女だったんだ……。


「皆ってことは全員女性なんだね。エッロエロだあ」

「っぐ……。それは、流れというか、致し方ない部分もあるんだが……」

「へえ、ッゲホ。ゴホ。ああ、ゲホッ! ごめんなさい」

「いいよ。大丈夫か?」

「うん。風邪かなあ。せきがたまに出るんだ」

「薬は飲んでるのか?」

「んーお薬はあんまり好きじゃないんだ。ボク達ハーフリングは自然を生きる者だからね」

「そうか。無理にとは言わないが、本当に辛かったらこれ飲んでみてくれ。薬草も水もある意味自然から採れる物だろ?」


手渡したのは最近作った『万能薬(劣)』。

回復ポーション(中)を濃縮して合成してを繰り返していたらいつの間にか『万能薬(劣)』となっていたのだ。


『万能薬(劣) あらゆる傷、病を治す薬。

        劣である以上ある程度に限定される。

        呪いを解くことは出来ない』


「いいの? 高いんでしょ?」

「たまたまできた物だから値段は気にしなくていいさ。それよりも子供が咳き込んでる方が気になる」

「そっか……。ありがとう。使うかどうかはわからないけど、気持ちとして受け取っておくね!」

「それでいいよ。本当に辛くなった時は好き嫌いせず飲んだ方がいいと思うけど」

「うん。ありがとう。お兄ちゃんは優しい人なんだねえ」

「ところで、領主様って怖い人か?」

「え? んーどうだろう。怖い時は怖いし、優しい時は優しいし。でも最近は体調が悪いからあまり表には出れないんだ」

「領主様もハーフリングなのか?」

「ううん。お爺様は普通の人族だよ」

「じゃあ薬で治るんじゃないのか?」

「んー。治るには治るよ。でも、普通の薬だと病の進行を抑えるだけで、霊薬クラスのお薬じゃないと効果がないんだよね」

「……霊薬か」


『霊薬 部位欠損、病、呪いなどありとあらゆる負の状態を取り除く秘薬

    ただし、寿命や天命には抗えない』


価値は不明。

生産方法も不明で、世界全体を見ても絶対数は20個もない。

所持しているのは王族や一部の貴族と、先ほどの本で書いてあったな。


価値不明って、そりゃ部位欠損からなにから治るなら金持ちは何が何でも手に入れるということもあるか。

しかし、これ一つで殺伐とした展開が起きそうな逸品だな。

そりゃ街の領主でも手に入れるのは難しいか……。


「隼人にクエストを頼んでいるんだけどね……。少し難航しているようなんだ。確かお兄ちゃんも隼人と親交があるんだったよね?」

「ああ。隼人は俺の命の恩人でな。危うく虫に食われるところを助けてもらったんだ」

「へえ。虫っていうとキャタピラスかな? あれはPTなら冒険者レベル3は必要だし、ソロなら冒険者レベル5は必要なこの街周辺じゃあ強い方の魔物だからね。命があってよかったね」

「全くだ。虫はこの世からいなくなればいい……」


あ、やばい。

トラウマが蘇りそうだ。

あの口を開けてネバーッと垂れた唾液とか、オウエエエエエエ……。


「お兄ちゃん大丈夫? 顔色悪いよ?」

「すまん。ちょっと、思い出して気分が悪くなった……」

「わ、ごめんね? えっと、そうだ。お兄ちゃんは錬金術で何を作るの?」

「ああ……っと、アクセサリーとか薬が多いな。薬は冒険者ギルドに卸してる」

「へええ。じゃあボクもお爺様に頼んでお兄ちゃんに何か作ってもらおうかな?」

「正式な依頼ならきっちり受けるぞ。ちなみに何がいい?」

「んー。髪飾りかなあ? ティアラとかもいいかも」

「ははは。そういうところは女の子なんだな」

「あーヒドイ。ボクだって女の子なんだから、綺麗な装飾品は好きに決まってるじゃん」


なんとか軌道修正をしてくれて助かった。

それから俺達は領主の家につくまでたわいもない話をずっと続けていた。

07/04 15:46 ご指摘のありました『魔方陣』を『魔法陣』に修正いたしました。


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