3-13 マイホームマイライフ 二人で買い物
家につくとすぐに大量のバイブレータの材料を持ってヤーシスの使いが待っていた。
一体何時の間に頼んで俺達よりも先にたどり着いたのだろうか。
その使いの彼女は材料を渡すと音もなく姿を消した。
OH JAPANESE NINJA!
とか言いそうになったがどうせ伝わらないので心に潜めておいた。
彼女はきっとパシリなんて普段はしないようなお仕事なんだろうな。
怖い怖い。
そのまま三人で錬金室に向かうと大量のバイブレータを作る。
そういえばウェンディの前で作るのは初めてだなとか思いながら早く終わらせてしまおうと集中して作り続けた。
途中なんとなく恥ずかしい気がしなくもないので、ウェンディにはお風呂の準備を頼む事にする。
そしてバイブレータを作り続けても全然1000万ノールには届かないので、残りは生活費分も含めてアクセサリーで済まさせてもらった。
「いやー本日は大変お疲れでしたね!」
「お前はホクホクそうな顔だな」
「いえいえ。これでも彼女の借金は1500万でしたから大損ですよ」
「それらを売ったら1500万以上儲かるもんな」
「ええ、それは当然。いやーあの時独占契約を結んでおいて本当に良かったです」
そう言うとヤーシスはアイテム類を魔法の袋に入れて帰っていった。
はぁ、超疲れた。
そういえば四人はまだ帰ってこないんだな。
まさかぶっ殺すーぜとかになってないだろうな。
「「「「ただいまー」」」」
ウェンディの準備が出来るまで、モイをスライスしていると四人が帰ってきたようだ。
「でっけえ家っすね……」
「主君、立派な家だな」
「あんた、じゃなかった主様ってばこんな家を貰ったの!?」
三人とも家の大きさに驚いているようである。
それにしても、どろどろだ……。
え、それ土だよね? 血じゃないよね?
何処で何してきたのさ。
「きちゃないからお風呂先に入っちゃいな……」
「お風呂があるの!!?」
「当然。最高だぞ」
「はえー……私凄いところに貰われたんすねえ」
「あ、汚れは落してから入れよ?」
「それくらいはわかっているさ」
さすがにどろどろのまま湯船につかるのは誰であろうと許さない。
「主は?」
「丁度仕込みをしてるから今は無理だ」
「じゃあシロは主と入る」
「いや、そんな泥だらけで厨房に入るなんて許さないからな」
「むう。じゃあ泥だけ落してまた後ではいる」
「それならよし」
「ちょっと待ちなさいよ! 主様こんな小さい子と一緒にお風呂に入ってるの!?」
っは。何を今更。
「? ここでは主と入るのが基本」
「基本っすか!? レベル高え基本っすね! でも望むところっす!」
いや、お前設定では男嫌いなんだから望むなよ。
いいの?
タオルをお風呂に入れるなんて許さないよ?
「それではお先にいただくとしようか」
アイナがそういうとシロ先導でお風呂に向かっていく。
あーあ。仕込みをしてさえいなければ俺も入るのに……。
あ、お湯……は、ウェンディが魔力を注いでくれるか。
あーじゃあ今日は俺一人で風呂か。
まあゆっくりできるのはいいよな。
そんな事を考えていると突然扉が開きヤーシスが現れ、俺達全員が振り返った。
「おっとすいません。おや、丁度良かった。レンゲ様はお借りさせていただきますね」
「ん? まだなにかあるのか?」
「ええ、一応小さな犯罪になったとはいえ領主様にご報告はしなければなりませんので」
「あーそっすよね。自分犯罪奴隷になったんすもんね」
「ええ。それではご同行よろしくお願いいたします」
「了解っす。主、ちょっくら行ってくるっす」
「すぐにお返しいたしますので」
「あいよ。じゃあ飯作って待ってるよ」
「行ってくるっす!」
「それでは、失礼致します」
そういえば領主のところに行かないといけないんだったな。
最後の騒動のせいで全く忘れてたわ。
うん。
これも冒険者達が悪いな。
「アイナ、お風呂」
「ああ、レンゲは待たなくていいのだろうか」
「いいと思う。二人は先に入ったほうがいい。臭い」
「臭、仕方ないでしょダンジョンから戻ったばかりなんだから!」
「はぁ、犯罪奴隷がシロに口答えするなんて」
「ぎぎぎぎ。すぅーはぁー……。申し訳ありませんでしたシロ様」
「気持ちが悪い。アイナも犬も普通でいい」
「犬じゃないって言ってんでしょうが!」
「いいから行く。臭いと主に嫌われる」
「あまり臭い臭いと連呼しないでくれ……」
「ぐぐ、わかったわよ行くわよ!」
ここも騒がしくなりそうだな……。
はたして俺はまったり暮らす事が出来るのだろうか。
日向ぼっこをするなら空間を固定して空中に浮いていればいいかもしれない。
うっかり寝てしまうと魔法が解除される恐れもあるので、低い位置で今度試してみよう。
後はシロとソルテ、ウェンディとレンゲが仲良くしてくれればいいんだけどな。
二人一組で組ませてみるか。
逆に仲が悪くならなきゃいいな。
っと、モイを塩水につけておかないと変色しちゃうな。
しかしこの人数だと作るのも一苦労だな……。
まあでもこれはただのおやつだし。
残りは普通にフライドポテトにすればいいか。
後はやっぱり赤ワイン煮は作りたいな。
トメトは買ってあるし、蜂蜜は確か保存食の中にあったな。
あとは微調整ってことで。
あーそうだ。圧力鍋……。
どうにか不可視の牢獄で鍋に圧力をかけられないかな。
あ、そうだあと小麦!
小麦と砂糖と塩はあるな。あーでもドライイーストがないか……。
んー……仕方ない今回はパンは諦めよう。
白パンがあるから多分重曹はあると思うんだけどな。
となると、トメトと肉とピギーマンとモイでピザなら作れそうだ。
チーズは……。よし。あるある。問題なさそうだな。
一つ気がついた事がある。
異世界で和食って作りづらい。
そもそも基本となる醤油がないもんな。
あとみりんも。
肉じゃがとか食べたいなあ……。
んー……やっぱ材料が足りないな。
オリブルの油も買い損ねたし。
少し買い足しに行くか?
「ご主人様? 三人はお風呂に入りましたがご主人様はいかがされますか?」
「お、丁度いいところに。悪いけど他の料理を作っておいてもらえるか? ちょっと買い物に行ってくるからさ」
「お一人でですか? 危険です! せめてシロをお連れください」
「いやでも今お風呂入ってるし」
「シロは泥を落すだけと言っていたのですぐ出てきますよ。多分びしょびしょのまま」
「主ー拭いてー」
とてとてびしゃびしゃと、シロが髪から水が滴り落ちるレベルを超えてだらだらと流れているのも気にせずに出てくる。
「おいシロ! さすがに少しくらい拭いてから来い! あーあー。床がびしょびしょじゃねえか」
「はぁ……床の方は私が拭いておきますので、ご主人様はシロを拭いてお早くお買い物を済ませてきてください」
「んーお出かけ? 主と? ウェンディは?」
「私はご主人様から夕食の準備を頼まれましたから、シロ。今度はきっちりお守りするのですよ」
「ん。油断しない」
「いや一日に二回も物騒な目に遭いたくないからね……」
さすがに二回もあるなら俺はこの街を出ようと思う。
俺が悪いのか、この街が悪いのかはっきりさせようじゃないか。
シロの身体を拭いて着替えさせ、先ほど買った材料を先に出してからもう一度北地区の商店街に向かう。
その途中野菜を売ってくれたマダムに話しかけられた。
マダムと聞くと太めの女性を想像するのは俺だけだろうか。
「あら、さっきの……大丈夫だったの?」
「ええ。問題ありませんよ。このとおり傷一つありません」
「そうだったの。よかったわねえ」
「あはは。お騒がせしました」
「あの子どうなったのかしら」
「自分に怪我とかはありませんでしたから、刑は軽いようですよ。今ヤーシスと一緒に領主様に沙汰をいただきにいっているようです」
「そう。そいつは良かった。あの子奴隷とはいえ元気で明るくて私達にも元気をくれるような子だったから心配してたのよ」
「あはは。ボクとしてもあの程度の事で大きく騒がれるのも困りますからね」
「貴方も減刑を求めてくれたのかしら?」
「当然ですよ」
「あら、ありがとうね。それじゃあ大した事ないって他にも心配してた人がいるから言ってもいいかしら?」
「ええ勿論。ただ、なんらかの罰はあるようなのでそれは理解していただきたいです」
「わかってるわよ。熊人の店主なんて心配でおろおろしてたんだから。後で顔を出して教えてあげとくれよ」
あーそうだな。
あの人も当事者の一人だもんな。
詳しく、って訳にはいかないからはしょって結末だけはきっちり教えてあげよう。
っとついでにマダムの店の野菜も買い足しておく。
シロは渋い顔をしていたが、そろそろ閉店で売れ残るのも困るからと全部を安く売ってくれたのだ。
それから熊人族のお店に向かうまでの間、何人もの人にあの事を問いただされる。
わかったのは詳細がほとんど知られていない事。
何か騒ぎがあった程度で、倒れている俺が目に入ったのを覚えていたのと、熊人族の店の売り子が連れて行かれたことくらいだった。
殺す、何て言葉を聞いていた人にはロースを見せて無理矢理誤魔化しておいた。
「このロース~」が「こ ロース」に聞こえたんじゃないかなとか。
たまたまロースを買っておいてよかったぜ!
きっと気づいていないはずだ!
だって突っ込まれなかったもの!
「主、あほっぽい」
「酷い! シロが半分殺すとか絶対殺すとか言ったからだろ!」
「むう。その前にレンゲが言った」
「レンゲはレンゲ。シロはシロ」
「その発言には主の主観的思惑が混じっている。故に異議を却下する」
「なんの裁判だよ……」
「野菜いらない裁判。勝訴すればお肉一生食べ放題」
「判決、シロ有罪」
「馬鹿な……。裏の権力の行使を感じる。再審議を要求する」
「あんたら何やってるんだ……」
シロとコントをしていたらいつの間にか熊人族のお店の前にまで来ていた。
「おっす。買い物に来たんだ」
「あ、ああ。なあ、その」
「レンゲなら大丈夫だよ」
「そ、そうか。いやずっと気になっててな……」
「来る時も感じたがえらい気に入られようだな」
「なんだ。他の奴らも心配してたのか。そりゃああいつここらの店の売り子もやってたからな」
「へえ。っていうかそうなると結構前から奴隷なのか?」
「いや、三日くらい前か? 一日のノルマがすぐ終わるから次の店次の店って売り子を一日に何度もやるんだよ」
「なるほどなあ。店主は貧乏くじを引いたんだな」
「ああ……。まあな。でも旦那が無事っていうなら安心したよ。俺はてっきり死んじまうのかと思ったからさ」
「まあある意味無事ではないんだけどな……」
一応男嫌いのあいつが、俺の奴隷になるというのは無事でいいのだろうか。
まあでももうキャラ崩壊しているし、今残ってるのは極上のふとももと、語尾の『っす』くらいだからな。
「なんだ? 強制労働か?」
「いや、俺の奴隷になる」
「なんだよ……なら大丈夫だな。そこの嬢ちゃんがそれだけ慕ってるなら安心だ」
店主は俺の腰に抱きついて上目遣いで未だに「再審議を要求する」と言って聞かないシロを見る。
慕ってるのかこれ?
「まあなんだ。出来ればあの子を連れて買い物にでも来てくれ。皆歓迎すると思うぞ」
「近いうちに来るよ。その方が安心されそうだしな」
「ああ頼む。さてと、お客様? 本日は何をお求めでしょうか?」
店主は胸をなでおろすと急に接客モードに変わった。
さて実は結構気になったものが多いんだよなこの店。
ヤーシスに多めに売ったから余りのお金で十分買えるし、ウェンディもいない。
となると気になるものは全部買ってしまおう!
こうして俺はオリブルの油を含めて様々な粉類や香辛料、調味料なんかを買いあさった。
更に先にも進みレンゲの話をしつつ買い物をしていく。
しめて55万ノール。
ほとんどは買い損ねたオリブルの油代だが残り5万ノールは何に使うかも定かではない興味本位の代物だ。
帰宅後、また無計画だとウェンディに怒られたのは言うまでもない。