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3-11 マイホームマイライフ 似合わない精神

俺は一室を指差し、アイナ、ウェンディ、シロを連れて勝手に部屋に入った。


「ウェンディ、清潔な布と包帯を貰ってきてくれ」

「ご主人様? 何をなさるおつもりですか?」

「いいから早く頼む」


残念ながらウェンディに事前に知られるわけにはいかないからな。

証拠隠滅をはかるにはこれしかないだろう。


「シロ」

「ん」


ひっそりとシロに話しかける。


「ここの皮膚削り取れるか?」

「出来る。けど、出来ない」

「出血はどうにか防ぐ。駄目か?」

「……。嫌」

「頼むよシロ。シロにしか頼めないし、今日ここでやらないと駄目なんだ」


暴行の証拠なんて無かった。

その証明を今日この冒険者ギルドで、皆が集まっている時にしなくてはならないのだ。


「無理。部位欠損になると回復ポーション(中)じゃ治せない。一気にやって一気に治すなんてできない」

「じゃあゆっくりやれば」

「ゆっくりと肉を剥ぐことになる。主が耐えられるとは思えない」

「回復ポーションをかけながらやれば大丈夫だな」

「……でもずっと痛い。回復ポーションじゃ治るけど痛い」

「それでも、な? 頼む」

「……。わかった」


ごめんな。

シロにそんな悲しそうな顔をさせる俺は最低だよな。

でも、これだけはシロにしか頼めないんだ。


「アイナ」

「主君、私は何をすればいいのだ?」

「アイナ火の魔法使えるよな? ならシロのナイフを高温に熱してもらえるか?」

「? わかった。それがすんだら私も泣きついていいだろうか?」

「はは。いいよ。好きにしてくれ」


そういって火の魔法を出し、シロのナイフを高温に熱していく。

しかし、痣の部分がわき腹でよかった。

ど真ん中とかだったら流石に躊躇してしまうし、わき腹ならまだ削り取りやすい。

人体をしかも自分の一部を削り取るなんて、回復ポーションとか魔法がある世界じゃないと考えられねえよな……。


「主君、ところで何をするつもりなんだ?」

「いやさ、証拠が消えないなら削り取ってしまおうかと。シロ悪いんだがその鞘貸してくれ。あとで新しいの作るから」

「別にいい」

「そうか、歯型ついたらごめんな」

「ん! 主痛かったらごめん」

「痛いのは仕方ない。鞘を噛んでるから思いっきりやってくれ」


そう言ってシロのナイフの鞘を咥えて、歯を食いしばる。

撒きつけられた布が、クッションの役割を果たし、噛み応えも悪くなかった。


「ん! いく」


ジュウウウウウウウウウウウ!!


「ッッッ!!!」

「主君!」

「シロ!? 何をしているのですか!!?」

「主、すぐ終わらせる!」

「今すぐやめなさい! シロ!」

「ッッッッッッ!!!!」


空いている手でウェンディを制止させ、持ってきた布を受け取る。

大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だ。

まだいける。まだ大丈夫。痛いけど辛くない。問題ない。

意識を切らすなよ俺、ここで意識を切らしたらまじで死んじまう。


少しずつ焼き取られていく皮膚の上から回復ポーションを立て続けにかけていく。

あふれ出す血はウェンディから受け取った布で拭き取り続けその上に回復ポーションをかけていくのだが、アイナが震える俺の手からポーションを取りあげて代わりにかけ続けてくれる。


皮膚が焦げ、血が溢れ、肉が削がれる感覚は失神しそうなほど痛い。

でも、かの有名な天才外科医の〇J先生は麻酔無しで自分の腹を掻っ捌いたんだ。

回復ポーションがあるだけ俺はついてるってわけだ。

あれはフィクションだとか聞く耳を持つ気はない。


それにただの切り傷なら回復ポーションで治るはずだ。

これで証拠は無くせる。

証拠の痣も手紙も無い以上これで強制労働よりも軽くはなるはずだろう。

というかなってもらわないと困る。


「ご主人様! シロを止めてください!」

「主、痛いよね。すぐ終わらせるから!」

「ああ、がんがれシロ」


痛いよ。めちゃくちゃ痛い。

多分こんな方法以外にも痣をすぐに治す方法なんていくらでもあるんだろうな。

望み薄でも、もう一度回復ポーションを呷れば治ったかもしれない。

焼けたナイフを軽く当てる程度でも良かったかもしれない。

だけど中途半端にやって駄目でしたでは、二度目をする勇気が俺にはない。


本来俺は、臆病で痛みに弱い男だ。

ヤーシスにもここまでやったんだからどうにかしろって言えるよな。

シロにも、無理をさせてしまっている。

ウェンディも、ごめんな。心配かけちまってるよな。

アイナも、ありがとな。アイナのおかげで大分痛みが和らいでるよ。

自分よりも、レンゲとソルテの事を心配してるんだよな。

でも、もう大丈夫だから。

ちゃんと、これで俺の大切も守れるから。


「終わり」

「ご主人様!」

「大丈夫だよ……」


そういって鞘から口を離し、地面に横たわると回復ポーション(中)を呷る。

傷口に直接かけても、飲んでも効くんだから便利だよな回復ポーション。


傷跡はアイナが清潔な布で血を拭き取りながらゆっくりと回復ポーションをかけていってくれたのでどうにかうまくいったようだ。

綺麗に、とは言わないがこれで痣は残っていない。

自己犠牲の精神なんて、俺には似合わないと思うがどうにも変なエンジンがかかったようにこんな事をしてしまった。

でもこんなのは今回限りと願いたい。

正直、二度とゴメンだ。


「主、ごめんなさい」

「泣くなシロ。大丈夫だから。ごめんな」


終始辛そうな顔で俺を傷つけていたシロ。

不本意だよな。ごめんな。でも、ありがとうな。


「んーん。主の命令だから」


本当に、ありがとう。

俺はいい子を貰ったよ。

身体を起こし、シロをぎゅっと抱きしめる。


ウェンディが無言で俺の傷に回復ポーションに漬けた包帯を巻きはじめた。

怒っているようだが、まあ当然か……。


「怒ってる? よな?」

「ご主人様がどうしてここまでしなければいけないのですか……」

「ごめん。これしか思いつかなかった」

「回復ポーション(大)を飲めば治ったかもしれません、もっと上のポーションを使えばよかったかもしれないじゃないですか……」

「あー……持ってないから思いつかなかったな」

「どうして、私を外に出したんですか?」

「ウェンディは止めるだろうなって」

「当たり前です! ご主人様が傷つくのを黙ってみていられるわけありません!」

「まあ、でもシロは責めないでくれよ?」

「嫌です! シロもシロです。どうしてご主人様を傷つけるような真似をしたのですか!」

「……」

「シロは俺の頼みを聞いてくれただけなんだ。な?」

「それでも! それでも止めるべきでした!」


ああ、もうおかんむりだよ。


「ウェンディ落ち着いてくれって」

「落ち着けるわけ、んんッ!」


文字通り口で口を塞ぐ。

今は冷静さを失っているからな。

一先ずこれで落ち着いてくれ。

ゆっくりと口を離すと、ウェンディはすっと押し黙った。


「頼むよ。俺はさ、隼人みたいに魔王とか、魔物は倒せないけど、せめて自分の身の回りの好きな奴らくらいは助けてやりたいんだ。そのためにシロに俺が無理矢理頼んだだけなんだ」

「ん……。でも反省してる。今日はお肉食べない……」


シロなりに最上級の反省なんだろう。

あんなに美味しそうなお肉を沢山買ったのに我慢するなんて偉い偉い。

でも今日はいいんだぞ。

好きなだけお食べなさい。


「もう、もうもうもう! こんなことで誤魔化されませんからね!」

「やっぱり駄目か? もっとする?」

「もっとです。もっといっぱいしてくれないと許しません!」

「じゃあ、いっぱいしよっか」


再度ウェンディに口付けを。

それから何度も何度もウェンディに軽いキスを続けていく。

それはウェンディが満足するまで続けられた。


「……主君、私も泣きつくから抱きしめてほしいのだが……」

「ん、完全にタイミングを逃した」

「シロ殿……。私いつも仲間はずれにされるんだが、嫌われているんだろうか?」

「それはない。主はおっぱいが好き。アイナはウェンディの次におっぱいが大きい」

「おっぱ、胸か……私も押し付けるべきだろうか」

「シロは巨乳が嫌い。だけど余りに不憫だから助言してあげる。主はおっぱいが潰れるほど押し付けられると顔がゆるみまくる。だからオススメ」

「シロ殿からの助言、感謝する。今度試してみようと思う」

「ん。遠慮したら負ける。積極性が大事」

「はぁ、はぁ、ご主人様。もう無理しちゃだめですからね。いやですからね?」

「ああ、わかってる。心配させてゴメンな?」

「もういいです。いっぱい、してもらいましたから」


最後にぎゅーっと抱きしめて触れるだけのキスをしてウェンディはぽーっとしたままふらふらとしゃがみこんだ。


「……現時点では大敗を喫しているわけか」

「ん、シロもウェンディを追いかけてる。アイナも、がんばれ」

「了解した。今回はともかく、次回からは積極的に頑張ろうと思う。次からは胸当てを外して会いに来た方がいいか……」

「何の話だ?」


胸当てがどうとか、積極的がどうとか言ってたが。


「ああ、そうだ。泣きつくか?」


先ほどアイナと約束したことを思い出し、両腕を広げてみる。

なんちゃって。


「いや、今日はもうそういう空気でもないし、っな!」


シロがアイナの後頭部を思いっきりジャンプしてスパアアアンと叩いたように見えたが気のせいだろうか。


「それがだめ。チャンスは全てものにする。その上で自分でチャンスも作る」

「そ、そうか。わかった! 主君!」

「お、おう」


シロとアイナが何を話しているのかわからないが、アイナがわざわざ鎧を外してから俺に向かって両手を広げて歩いてくる。

だがその顔はどう見ても泣きつくソレとは違い、鼻息荒く気合を入れているように思える。


「主君行くぞ!」

「あ、ああ」

「ところで、もう ポーション作り は終えられたのでしょうか?」


アイナが抱きついてくる直前、後ろからヤーシスに声をかけられ振り向いてしまった。

その際にアイナとすれ違い、派手に転ばせてしまう……。


「アイナ、大丈夫か!!?」

「……主君今のはあんまりじゃなかろうか……せっかく勇気を出したのに」

「ああ、今なら泣き面だな。よしよし……」

「ううー主君ー……」

「あーはいはい。ごめんな。今のは俺が悪かったよ……」

「えっと。いかがされたのでしょうか……」


まあなんだ。

不幸な事故というか、タイミングが悪いというか。

うん。アイナさん抱きしめる力強いっす。

胸のふくらみよりも、腕の痛みの方が強いのお願い緩めて……。


「ああヤーシス。これで文句ないよな?」


せっかく巻いてもらった包帯を外して、元あった痣をみせる。

すると、少し傷は残るもののほとんど綺麗さっぱり痣の痕は無くなっていたのだ。

うっし、包帯も回復ポーションにつけて置いてよかった。

しまった。血を拭った布をしまい忘れたので、一瞬ヤーシスがそっちに目を向けたのがわかった。

そして大きなため息を一つ。


「……あまり無理はなさらないでください」

「二人にも言われたよ……。出来れば俺もこれっきりにしたい」

「今回も貴方に落ち度はないんですから、こういう時割り切れないと早死にしますよ……」

「それは勘弁だけど、でももしだけど、二人が同じような事になったら俺は迷わず同じことをするぞ」


シロとウェンディが死刑や強制労働になるとすれば、だ。

もしそうなるのなら俺は世界を敵に回しても構わない。

彼女達は俺が命をかけて守ると決めているからな。

まあ今回は殊勝な態度のソルテと、レンゲのふともものためだ。

なーんて。


「はぁ、それではそのお腹を皆様にも見せていただきましょうか。証人は多いほうがいいですからね」

「はいはい。んじゃ行きますか」

「あと、その布は隠しておいたほうがよろしいですよ。一体何をしたのか勘ぐられます」

「ああ、魔法空間にでもしまっとくよ」


ソルテにみせて言う事を聞かせるのに使えそうかもな。

生意気いいやがったらこれを見せて意気消沈させてやる。

とりあえず悩まない!

書くだけ書く!

困ったらー……修正すればよし!!

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