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1-5 異世界生活 別れと錬金

錬金術師ギルドでギルドカードを作ってもらってから隼人は急ぎの用事があるとかで急いで馬車を走らせていった。


『あ、そうだ! イツキさん! よかったらこれ使ってください!』


そう言って手渡されたのは小さな袋。

中をのぞいてみるが何も入ってないように見える。


『魔法の袋です。サイズは小さい奴なんですが、保存機能もありますので便利だと思いますよ』

『え……』


いや、あの、俺魔法の袋は手に入りづらいって聞いたからわざわざ高いポイントを使って空間魔法を取ったんですけど。


『あと中に錬金術に使えそうな鉱石や薬草なんかも入ってますんで、好きに使っちゃってください』

『えっと……なんでここまでしてくれるんだ?』


流石にここまで親切にされるとその裏が気になってくる。

小さいサイズとはいえ売れば大金になるであろう魔法の袋を今日会ったばっかりの人間に渡すものだろうか。


『もちろん打算はありますよ。イツキさんは働きたくないみたいですけど、早く錬金のレベルを上げてもらって頼みたいこともありますし、それに魔法の袋が余ってたっていうのもあるんです』

『いやいや、それにしてもだろう』

『……いえ。実は感謝してるんです。ですからそのお礼なんです。中身や袋はわずらわしかったら売ってしまってもかまいませんから』

『うーん……』


感謝されるようなことをした覚えはないんだが……。

貰える物は貰う主義だが、それでも、うーん……。


『いいからとっとと貰いなさいよ! っていうか急いでるんだから使わなかったら次会うときに返せばいいでしょ! 中身は錬金の練習にでも使いなさい! それが助けてあげた恩返しになるんだから』


レティ嬢ちゃんが御者台からイライラしたように声を上げる。


ああそうだ。急いでたんだったな。

ミィ嬢ちゃんもクリス嬢ちゃんもジトーっとこちらを睨んできているしどうやらこのやり取りに焦れているようだ。


『……ライバル出現なのです』『ですね』『はぁ!? なんでそんなことになるのよ!』『あの、あの方は男の方ですよね?』


何か別のことを言っている気がするが、きっと気のせいだ。


『ではイツキさん! また是非! っというか近いうちに一度様子を見に来ますね!』

『お、おう』


あれ? なんか顔少し紅潮してない? まさか違うよね? フラグとか立ててないよね?


『では! イツキさん!!」

『お、おー。とりあえず錬金の練習はしとくわ。お嬢ちゃん達も気をつけてな』


『『『『はい』』』なのです』『ふん。誰に言ってるのよ』


ツンデレさん。俺にはツンしなくていいんですからね。



そうして手に入ったのが今右腰に収まっている魔法の袋である。

わーい。手に入ってしまったー。

あー……空間魔法をとらなければもっと色々スキルをとれたのに、具体的には『腰痛いらず』『頭痛いらず』『腹痛いらず』なんかのいらずシリーズを揃えたかった。

ま、まあまだ空間魔法のレベルを上げれば転移が隠れている可能性もあるしね!

でもこっちの袋の方が楽だからスキルレベルが上がらないね!


「それで、早速なんだが基本的な錬金のやり方を教えてくれ婆さん」

「麗しのレインリヒと呼びな!」

「そこの麗しのレインリヒ。錬金のやり方を教えてください」

「素直だね……ノータイムで言い直すなんて」

「俺はできれば人の力で生きて行きたい。助言、大切。年寄りの知恵、大切。あと換金率が比較的に高い物から教えてくれ」


年寄りってのは生きている時間が長いんだ。

濃いか薄いかはわからないが、それでも錬金術師ギルドの長だっていうなら錬金に関しては間違いないだろう。


「随分残念な奴じゃないか……。あの坊主はこいつの何処が気に入ったんだろうね」

「俺もそう思う。残念なのは否定しない。でもこんな俺も、俺だから。大切にしていきたい」

「何ふざけたこと言ってるんだい! ほらさっさと坊主に貰った材料をだしな!」


言われるがままに袋に手を突っ込むとなにやら頭の中に文字が現れる。


『薬体草 

 薬魔草 

 毒体草 

 月光草 

 鉄鉱石

 赤銅石

 青鋼石

 銀鉱石

 魔鉱石

 翡翠 』


おー。これは便利だけど数は出てこないんだな。

あと知らない名前が多い。っていうか鉄鉱石と翡翠以外よくわかんねえや。


あれ、他の異世界ものだと一から鉱石の特性とかに詳しかったりするのって無理じゃね?

俺の理科は中学生までですよ? 中学生で習ってても今現在半分も覚えてませんて。

スイヘーリーベーくらいだよ。特性なんてわかるわけないじゃん!


今更になって俺なんで錬金なんてとったんだろう。

とか考えながら中身を丁寧に机に並べていく。

思った以上に数が多く、特に薬草っぽい葉っぱが大量に出てくる。

と思ったら石ころも大量に出てきた。


おおお? 多くない?

机の上にはあっという間に草と石ころの山が出来上がっている。

ってもなにがどれだかわかんないんだけど。


「とりあえず薬体草と鉄鉱石でいいね。他は邪魔だからさっさとしまっちまいな」

「流石だな麗しのレインリヒ。この全部一緒に見える石ころと葉っぱを一瞬で判別しちまうなんて」

「婆さんって言わなかったのはほめてやるよ。というかあんたも鑑定スキルあっただろうが」


おっと、そうだった俺鑑定スキルとってたんだった。

早速使ってみる。


『薬体草 HPポーションを作る為の薬草。出来はスキルレベルと腕前による』

『薬魔草 MPポーションを作る為の薬草。出来はスキルレベルと腕前による』

『毒体草 解毒ポーションを作る為の薬草。出来はスキルレベルと腕前による』

『月光草 月の光を多く浴びた草』

『鉄鉱石 錬金すると鉄が出来る』

『赤銅石 錬金すると赤銅が出来る』

『青鋼石 錬金すると鋼が出来る』

『銀鉱石 微量に銀を含んだ鉄鉱石。錬金しても銀だけ取り出すことは容易ではない』

『魔鉱石 錬金すると魔力を含んだ石を生み出す』

『翡翠  幸運を司る宝石、魔力を微量に秘めている。とても綺麗』


とても綺麗って誰の主観なんですかね?

それにしても便利だな鑑定。

錬金について書かれてるのは俺が錬金術師だからなのか、それともそれ以外に用途がないからなのだろうか。


「大したもんは入ってなかったね」

「そっか。いやあまり高いもんが入ってても手に負えなくなる未来しか見えないからこれでよかったか」

「ん? 残念なあんたが妙なこと言うね。あんただったら金目の物が入ってたほうがよかったんじゃないのかい?」

「いやいや。俺は分相応の男だよ。楽して働かずにいきたいけど、贅沢がしたいわけじゃない。むしろその環境こそが最高の贅沢だと思う」

「身の程を弁えても残念とは……若いんだからもっと冒険しなよ」


そういいながら麗しのレインリヒが乳鉢を取り出すとそこに薬体草を落としゴリゴリと削りだした。

薬体草がすりつぶされるとそこに液体を加えさらにゴリゴリとエキスを搾り出すように混ぜる。

すると液体が光り、薄い緑色の液体が完成した。

それを試験管につめると蓋をして完成らしい。


「どうだい。これが錬金の基礎『調薬』だよ」

「どうって……原始的だな。スキルがあるから一瞬で出来るのかと思った」

「当然できるよ。ただしMPを消費するのと調薬方法を理解していないと性能が落ちるか失敗するがね」


なるほど。そういえば錬金はアクティブスキルだったもんな。


「回数をこなせばスキルでも同じ効能を持った物ができるはずだよ」


そういって手渡されたのは『回復ポーション(小)』だった。


「麗しのレインリヒでも(小)なのか」

「……言いづらかったら婆さんでもいいよ。やりにくいねえ。それは自分で試してみたらわかるだろう」


次に取り出したのは鉄鉱石。

こちらは机の上に置くと手をかざした。


「錬金」


とレインリヒが唱えると鉄鉱石はあっという間に鉄の塊と石の残骸へと姿を変える。


「錬金の基本は『分解』『合成』『再構成』の3つだよ。後は応用だね」

「ほー……こっちはあっという間なんだな」

「そうだね。まあ分解に関しては精度は関係なく出来ると思うよ。ただレベルが低いと銀鉱石なんかはまだできないね。一先ず鉄鉱石を分解して鉄と石に分けるところから始めな」


ふーむ。

銀鉱石が分解できるようになれば銀を入手できるようになるのか。

銀ってそんなに高いイメージはないんだけど、この世界だとどうなんだろう。

まあでもこれは便利そうだ。練習しておいて損はないだろう。

俺は楽する為には苦労することを厭わない。はず。

ただし冒険、てめえはダメだ。


「これが初歩だけど『調薬』も『錬金』もここから自分なりに手を加えていくことをオススメするよ。『細工』を施せば自分でアクセサリーなんかも作れるしね」

「おー。なんかやりこみ要素が多いな」

「そうだね。私なんかこの年になってもまだまだ試行錯誤の毎日だよ」

「ちなみに婆さんのやり方を教え――」

「ダメだよ。知識は財産だからね。まあ私が死ぬ間際なら情報を開示してもいいけどね」


ッチ。くい気味に断られたか。

ギルドとはいえ情報はある程度から自分なりのやり方だけでやらせるのか。


「ともかく。あんたはまず教えた方法で『調薬』と『錬金』をこなしてレベルを上げな。レベルが上がれば青鋼石や銀鉱石も『分解』できるようになるだろう」

「りょーかい。とりあえずやってみますか」


手探りながらやりこみ要素が多いのはいいな。

いつか家を買ったら専用の工房を作って日がな一日没頭するのもいいかもしれない。

ディス〇イアをやりこんだ時のような高揚感が俺を包み込んだ。


「ああ、あと錬金をするなら受付で錬金室の予約を行いなよ。一般の家屋で行うことは許可されてないからね。ちなみに一回5000ノールだよ。出てくるまでは何時間いてもかまわないからね。それとすり鉢は貸し出しもしてるが、ポーションの瓶なんかは有料だからね。あんたはまだ新人だから後払いでもいいよ」


……有料かよ!!! しかも結構とるんですね。

一日にもらえるお小遣いの半分が消えるのか。これは、万全を期してから行ったほうがいいかもしれないな。


というか払ったら所持金0だ。

隼人に材料を貰っておいて良かった……。

これでなんとか、お金を稼ぐ事は出来る。


それとポーションの瓶代もそりゃかかるよな。

でも後払いにしてくれて、本当にありがとうございます!

お金が本当にないんです!


「ちなみにこの回復ポーションでいくらくらい?」

「(小)なら1000ノールだね。ちなみに(劣)とか(微)だと300~500ノールくらいだよ」


はー……多分いきなり(小)は無理だろうから最低でも10個以上作ってからの+利益か。

こりゃ、体力とMPを注ぎ込んで無理してでも長居しないといけないな。

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