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3-4 マイホームマイライフ 一先ず一息

お風呂の説明を終えるとダーウィン一家の三人は帰っていった。


「じゃあ大切に使えよ。あと目録が出来たらメイラを呼んで渡しておいてくれ」

「いいですか!? 先ほどのお風呂の魔道具の件本当に頼みましたわよ!」

「また何かあれば後ほど、二人っきりでお話ししましょうね」


三人が三人置き土産といわんばかりに三様の言葉を残して去っていった。

だがダーマ、その願いは聞き入れられない。

お前と話す時はウェンディかシロと一緒じゃないと会わないからな。


「とりあえず一息だな」

「そうですね。まずはお掃除をと思ったのですが、隅々まで綺麗なのですよね」

「ダーマが気を使ってくれたのかもな。まあでも今日はゆっくり出来そうでいいじゃないか」

「主、テラスでお昼寝しよ」

「あー。じゃあ先に作っちまうか。構造は簡単だからすぐにできるだろうし」

「では私はお昼ご飯を作ってしまいますね」


いいねえ。ウェンディの手料理か。

はぁ、なんか新婚みたいだな。

したことはないのでわからないが、これが結婚の幸せなんだろうか。

実際は奥さんじゃなくて奴隷なんだけども。


「おっし、じゃあウェンディは食事、シロは道具屋で革以外で丈夫そうな布を買ってきてくれ」

「あい。屋台は?」

「今日はウェンディがご飯を作ってくれるから無しな。お腹空かせて待ってようぜ」

「あまり期待しないでくださいね」

「いやいや。超期待してるよ」

「もう。本当に大した腕じゃないんです」


あっはっは、女の子の手料理だぜ?

しかも超美人のウェンディの料理だ。

仮令炭化していようが、生焼けだろうが美味しくいただける自信があるぞ。


「それじゃあ二人とも行動開始な」

「はい」「ん」


シロ、そんな全速力で駆けて行かなくてもいいんだぞって、もう見えないや。


さて、早速あの快適な錬金室を利用してみるとしよう。

地下に降りるとやはり少しむわっとするが、錬金室に入るとすーっと涼しくなって気持ちがいい。

真夏日のような暑い日は部屋よりもここに長く滞在してしまいそうだ。


すわり心地のいい作業椅子に腰掛けると、それだけで一息ついてしまう。

あー。これはまずいな。

このまま寝てしまいそうだ。

だがシロが楽しみにしているし、俺も楽しみなので休みたい身体に鞭を打つように身体を起こす。


素材は鉄でいいか。

形は枠だけでいい。どうせなら大きめにした方がいいか。

フレームを錬金で作っていき、足を着けて固定化させる。

早……。

まあ寸法も測ってないし単純な作りだしな。

後はここに強めに布を巻き付ければ出来上がりだ。

プールサイドにある椅子みたいだが、まあこんなもんだろう。


あとはもう一個作ってみるか。

こちらは一人用だがフレームはほぼ一緒で、布をピンと張らずにだらんと下げて上下でつなぎ、すぽっと収まるようにするのだ。

確かこんな感じだったはず。

正式名称はわからないが、吊るさないハンモックのようにゆったりと座れるはずである。


折りたたみ式にする予定だったのだが、今思えば俺には魔法空間があるので元々収納スペースのことなど関係が無いことに気がついた。

それにせっかくのゆっくりできる時間なので無駄に凝って時間を浪費したくないのである。


「主、買ってきた」

「こらシロ。ちゃんとノックをしないといけませんよ」

「いいよー。入っておいで」

「ん」

「ご主人様、軽食ですが完成いたしましたのでお呼びに参りました」


シロは大量の布を抱えておりあまり前が見えなさそうなので、ウェンディが半分を抱えて部屋の中に入る。


「せっかくだからこれ使えばよかったのに」

「あ……。申し訳ありません気づきませんでした」


そういって指差すのは厨房と繋がっているというこの魔具。

せっかくなので使ってみたかったのだが、持ってきてしまったのなら仕方ない。


「今日は皆でここで食べちゃおっか。ソファーも机もあるしね」

「錬金の方はよろしいのでしょうか?」

「ん、もう終わってるよ」

「お早いですね……そちらにこの布を巻きつけて完成ですか?」

「そう。簡単だけど使えればいいかなって」

「主、おなかすいた」

「はいよ。悪いんだけどウェンディ持ってきてもらってもいいかな?」

「かしこまりました。シロ、飲み物も運びますので手伝ってください」

「ん」


二人が出て行ってから少しの時間で戻ってくる。

俺は仕事椅子に座ったままウェンディからサンドイッチを受け取ると、シロもウェンディからサンドイッチを受け取る。

一口頬張ってみると明らかに俺が作るより旨い。

薄く塗られたマスタードとは違う辛味がまた俺の食欲を刺激してまた一口と食べてしまう。


「お味はいかがでしょうか?」

「美味いよ! これは何個でも食べられそうだ」

「美味しい。シロも何個でも食べられる」


そりゃシロなら実際に何個でも食べちゃえるだろ……。


「主、あーん」

「またか? まだあるんだから自分で食べろよ」

「あーん」

「仕方ないな……」


食べかけだろうが関係なくシロは俺の手元のサンドイッチをばくりと大きくかぶりつき、自分の持っているサンドイッチにもかぶりついた。


「あ、あの……」

「どうした? ウェンディも食べなって」

「いえ、いただきますが、その。シロはどうしてご主人様の膝の上でお食事を取っているのですか?」

「……」


そういえばそうだ。

以前の錬金室と違って、ソファーもウェンディの隣が空いているしシロが俺の膝の上に座る理由はない。


「それにご主人様からあーんって。ずるいです」

「? ウェンディもすればいい」

「で、では交代ですね」

「それは駄目。ここはシロの場所。特等席」

「うー。ずるいです。交代制を要求します!」

「それは出来ない。その代わりウェンディには一番奴隷の権利を譲る」

「それは魅力的ですが、それはそれです! 私もご主人様にあーんってされたいんです」

「それはすればいい。だけどこの場所は譲らない」

「うーうー!」

「いやシロ、お前も降りろよ……」

「断る。たとえ主でもその命令だけは容認できない」


何がお前をそこまで固執させているんだ。

まあシロは軽いから膝の上に乗られても大して苦ではないんだが、ウェンディのうーうー言っている姿は何故か微笑ましくも、可哀想になるので退いてあげてほしい。

別に俺がウェンディを膝の上に乗せたいというわけではない。決して。


「ほらウェンディおいで」

「うー! ご主人様からももっと言ってください」

「いいからほら、あーん」

「あ、は、はい。あーん」


ウェンディは立ったままだが、これくらいならしてあげられる。

俺の差し出した新しいサンドイッチを小さくかぷりとかじり、頬を押さえて幸せそうに咀嚼をするウェンディ。

なんだろうな。いいのかな? こんなに幸せで。

そう思いながら俺もサンドイッチをかじり、その美味さに舌鼓を打つ。


「主、シロも」

「はいよ。あーん」

「あーん」


シロはあっという間に二つ、もとい三つを平らげてしまっている。


「ね、シロ。半分こしましょう? 片膝ずつにしましょう?」

「や。ウェンディはお尻が大きいから主の片膝に乗れない」

「うー! うー! 乗れますもん! そんなに大きくないですもん!」

「や!」

「うー!」


ウェンディ、頼むからそんな涙目で訴えかけないでくれ。

このシロの頑固さは俺でもどうにもできないんだ。

あと残念ながら片膝に乗せるのは俺も無理だと思うぞ。

出来なくはないだろうが、色々まずいと思う。


「じゃあじゃあ一番奴隷として命令します。その膝を明け渡しなさい!」

「ッや!」

「うー!」

「ははは……」


このやり取りがおかしくて思わず笑いが漏れてしまう。


「笑い事じゃないんです! ご主人様!」

「はははは」


必死なウェンディが余計に面白くて俺は終始笑っていた。

ウェンディが必死な理由が俺の膝っていうのもツボだったのかもしれない。


「はぁ、はぁ。あー面白かった。あとご馳走様でした」

「ご馳走様。美味しかった」

「結局座ることはできませんでしたし、味なんて殆どわかりませんでした……」


まだ恨みがましくシロを見つめるウェンディだが、シロはそんなこと何処吹く風といわんばかりに俺の上でごろごろと座りを変えている。


「そんじゃ布をつけたらテラスで皆でお昼寝といきますか」

「食べてすぐ横になると身体に悪いんですよ?」

「今日だけ今日だけ」

「もう。本当に今日だけですからね」


おなかも膨れたし、ぽかぽかの陽気で外の風を感じながらお昼寝なんて元の世界でもなかなかできることじゃない。

異世界最高。スローライフ万歳。


さっそく作り上げたフレームにシロが買ってきた布をきつく巻きつけていく。

シロが買ってきた布は、普通の布より強度が高く伸びにくい素材で水はけもいい布であったので加工せずそのまま使えるものだった。


(たゆ)まないようにシロにも手伝ってもらいながら一つ目が完成し、それを魔法空間で収納すると、もう一つの椅子に手をつける。


こちらは(たゆ)ませなければいけないので巻きつけるわけにはいかないのだが、幸いにもウェンディが裁縫スキルを持っていたので、ゆとりをもって縫い付けてもらった。

ふう。とりあえず完成だな。

今日はこれでゆっくりお昼寝といこう。


早速三人でテラスに出ると、魔法空間から二つの椅子を取り出して日向に並べる。

俺は広い方の椅子に腰をかけると全身を預けてリラックスした。

涼しい風が吹き、暖かな日差しとともになんともいえない夢見心地な気分である。


「失礼します」

「ウェンディずるい」

「ずるくありません。早い者勝ちです」


ウェンディとシロが争うように俺の隣を奪い合い始めた。


「こら暴れるな。簡単なつくりだから壊れるぞ。それにシロ、今回は譲ってやれ」

「やー! 主と寝るの!」

「私もです! シロばっかりずるいです」

「じゃあ俺がそっちで寝るから、二人は」

「それじゃ意味無いんです!」「やあー」


さいですか……。

せっかく作ったのにな。


「わかった。じゃあ片方ずつ両サイドで大人しくしててくれ」

「別にシロは上でもいい」

「それは暑いからだめ。今日はゆっくりしたいんだよ」

「うーわかった」

「私も、ご主人様とお昼寝ができるなら構いません」

「じゃあ寝ようぜ? こんな気持ちのいい日に昼寝しないなんて考えられん」


ふわあっと欠伸を一つ。

目はもうとっくにお休みモードである。


「ん……」

「狭い……」


広めに作ったとはいえどう詰めても三人用ではないので狭い。

だがぎゅうぎゅうと押し付けられる肉感は俺の鼓動を早めるが、それも含めて極楽である。


「主、腕」

「はいはい。これでいいか?」


腕を伸ばすとシロは頭を乗せてベストポジションを探してもぞもぞと動く。


「あの、ご主人様?」

「分かってるって」


両腕を伸ばしながら寝るって寝にくいんだけどな。

ウェンディだけ駄目って言うわけにもいかないだろう。


「真似っこ」

「い、いいじゃないですか」


それにしてもウェンディってこんなにぐいぐい来るタイプだったか?

どちらかと言えばしずしずと一歩後ろを歩くような大和撫子のような女性だったと思うのだが。

それにシロも我が強くなったというか、ここまでわがままだっただろうか。

まあでも俺が言った、してほしいことを素直に言うのは嬉しい限りだ。

その分俺もお願いしやすいしね。


そんなことを考えていると隣からすーすーと静かな吐息が聞こえる。

早速シロは寝てしまったようだ。


「んじゃ俺も寝るかな……ふわああ」

「おやすみなさいませ。ご主人様」

「ウェンディもおやすみ」


俺この世界に来てから誰かと一緒に健全に寝ることが多くなった気がする。

ただ少し暑い。

起きたらこれをもっと広く使えるように作り直そうかな。

でもそうなると布がへたりやすいんだよなあ。

あーでもない、こーでもないと考えながらいつの間にか俺の意識は落ちていった。

ご報告忘れてましたがPV数が11万、ブックマークが300を超えました!

最終的に10万に届いたらいいなあと思っていたのですが、皆様のおかげで大分早く目標を達成することができました!

これからも地味に頑張っていきますので、よろしくお願いします!

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